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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<65>フランスメディアが報じたフルームの薬品使用問題 “スピード許可”はビッグネームゆえ?

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 サイクルロードレースシーンは、ヨーロッパ各地でツール・ド・フランスの前哨戦が着々と進行中。有力選手たちの動向が取りざたされ、各チームからは出場候補選手が次々に発表されています。そうしたなか、総合優勝候補の筆頭とされるクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)に、薬品使用に関する疑惑が持ち上がりました。フランスメディアが報じたその内容とは?

薬品使用の手続きに問題?

フルームの薬物使用について報じたフランス紙「ル・ジャーナル・デュ・ディマンジュ」のウェブ記事フルームの薬物使用について報じたフランス紙「ル・ジャーナル・デュ・ディマンジュ」のウェブ記事

 事の発端は6月15日、フランス紙ル・ジャーナル・デュ・ディマンジュが「フルームはUCIとともにドーピング行為を行った」とのセンセーショナルな見出しで報じたことだ。

 4月下旬のツール・ド・ロマンディに出場した際、フルーム側が本来は禁止薬物とされるコルチコステロイドプレドニゾンを治療目的に用いるとして、使用の除外措置認定(TUE)を求めた。その際、UCIが所定の手順を踏んでいなかったというのが記事の内容で、フルームとUCIを強く非難している。

 具体的には、UCIの医療監督を務めるミケーレ・ゾルゾーリ医師が、チーム スカイからのコルチコステロイドプレドニゾン使用許可申請時に、即座に許可したのではないか、とのことである。

 コルチコステロイドは「糖質コルチコイド」とも呼ばれ、抗炎症効果や免疫抑制効果があるとされる。15日まで行われていたクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでは、レース後のインタビューでフルームが咳き込むシーンがたびたび見られ、喘息であると報じられた。コルチコステロイドの経口使用は、喘息治療に用いられたとみていいだろう。

咳き込む場面が何度も見られたクリストファー・フルーム。第6ステージの落車以降は不振に陥った(クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2014)【Photo by TEAM SKY】咳き込む場面が何度も見られたクリストファー・フルーム。第6ステージの落車以降は不振に陥った(クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2014)【Photo by TEAM SKY】

 またTUEは、正式には「治療目的使用に係る除外措置申請」と呼ばれ、治療に使用しないと健康に重大な問題が起こりかねないケースや、他に代えられる合理的な治療法がないなどやむを得ない場合に、WADA(世界アンチドーピング機構)が定める禁止物質・禁止薬物の使用を例外的に認めるものだ。この申請を行わずに禁止薬物を使用した場合は、その理由が治療目的であったとしても、ドーピング防止規則違反と判断されることになる。TUE申請はアスリートに平等に与えられている権利であり、サイクルロードレースに限らず、すべてのスポーツ競技で用いられる手続きでもある。

 今回の仏紙の記事は、UCIがこのような申請を許可する際に本来、専門の医師を最大3人招集し、「治療目的使用の適用措置委員会」を設けなければならないとルールで定められていると指摘。しかしフルームのケースでは、委員会を設けることなくゾルゾーリ医師が許可していたというのだ。さらには、UCI会長のブライアン・クックソン氏の息子であるオリバー氏が、チーム スカイのスタッフであることも、この“スピード申請”を後押ししたのではないかと示唆している。

フルームとUCIは疑惑を否定

 当のフルームとUCIはすぐに疑惑を否定。ともにTUEに関するいきさつを説明している。

 フルームは、高地トレーニングキャンプを経て、リエージュ~バストーニュ~リエージュ(4月27日)に出場予定だったものの、キャンプ終了後に咳の症状が出始めたため、出場を取りやめることに。その2日後に開幕するロマンディには出場を希望し、体調の回復に努めたものの、やはり咳が止まらなかったため、TUEの申請に至ったとしている。そこで必要となったのが、経口コルチコステロイドだった。

 またUCIはプレスリリースで、「UCI規則とWADA(世界アンチドーピング機構)のガイドラインにのっとり、4月29日にフルームのTUEを明示化した。通常の手順にしたがい、期間限定でTUEを付与した」と発表。このプロセスは、WADAがすべて把握済みだとも述べた。そして、この件とオリバー・クックソン氏との関連性は一切ないと断言している。

核心部分を欠いた報道

 やや悪意のある見出しとともに、王者フルームに関する疑惑として注目を集めた報道だが、その後さまざまな議論がなされた結果、フルーム側に問題はなかったとの見方が支配的だ。

 まず、TUE申請を許可する最終権限はWADAにあり、今回のケースでも、関連する国際基準(ISTUE)にしたがって許可が行われていたことが改めて確認されているという。

 また、この問題を報じたル・ジャーナル・デュ・ディマンジュ紙は、「3名の専門医師を招集しなければならない“適用措置委員会”を設けていない」と主張しているものの、実際には、急を要する場合は3名を招集する必要がないとの解釈で運用されているという。フルームのケースもそれに当てはまると見ることができる。3名の召集は、あくまで理想であるということのようだ。

 今回の仏紙の報道は、「どこに問題があるのか」といった核心部分の指摘を欠いているというのが、もっぱらの評判だ。これでは、ただ単にフルームの足を引っ張りたいだけなのではないかと批判されても致し方あるまい。

 一方で、フルームのようなビッグネームだから“スピード許可”が下りたとの見方もある。このケースが、優勝争いに絡むことのないアシスト選手であったり、無名の若手ライダーだった場合、同様の処遇がなされたかどうかは分からない。

 思わぬ形で騒動となってしまったフルームだが、咳き込む姿は全世界で心配されたことも事実。まずは体調を万全にし、満を持してツールへと臨んでほしい。

※参考記事

THE INNER RING「Le Journal Du Dimanche Accuses UCI and Froome」
http://inrng.com/2014/06/jdd-uci-froome/
JADA「TUE(治療目的使用に係る除外措置)について」
http://www.realchampion.jp/process/tue

ロード・トゥ・ツール クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ結果

 ツール・ド・フランス前哨戦は、大注目のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネが15日に終了。フルームとアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)の対決は、序盤ステージから白熱した。

 10.4kmの個人タイムトライアルで争われた第1ステージはフルームが制したが、コンタドールは8秒差で2位に続き、早くも全面対決の様相に。超級山岳山頂ゴールとなった第2ステージ(158.5km)でもフルームが優勝。コンタドールは同タイムで2位となる。

 しばらく形勢に変動がなかった2人だが、第6ステージでフルームにアクシデントが発生。レース終盤の下りで落車し、左半身を強打してしまった。続く第7ステージでは、最後の超級山岳でコンタドールのアタックに対応できず、リーダージャージを明け渡してしまった。

強烈なアタックで強さを印象付けたアルベルト・コンタドール(クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2014)【Photo by TINKOFF-SAXO】強烈なアタックで強さを印象付けたアルベルト・コンタドール(クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2014)【Photo by TINKOFF-SAXO】

 結局フルームは、最終の第8ステージでも大ブレーキ。トップから5分5秒遅れてゴールし、総合でも12位に沈んだ。

 総合優勝争いは、コンタドールが優勢かと見られていたが、最終ステージで大逆転劇が起こった。アンドルー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・シャープ)、ユルヘン・ヴァンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)、アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ)といった総合上位陣が23名の逃げに乗って、終始レースをリード。一方、コンタドールはフルームを意識するあまり、メーン集団に待機してしまった。

 終盤にアタックして単独追走を試みたコンタドールだが、逃げ集団を捕まえることはできず、ステージ4位でゴールしたタランスキーに総合での逆転を許してしまった。最終的な総合タイム差は27秒。

大逆転で総合優勝を果たしたアンドルー・タランスキー(クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2014)【Photo by GARMIN-SHARP】大逆転で総合優勝を果たしたアンドルー・タランスキー(クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2014)【Photo by GARMIN-SHARP】

 涙の初優勝を遂げたタランスキーは、一躍ツールでも総合表彰台を狙える存在に。山岳はもちろん、TTも得意としており、昨年のツール総合10位からの大幅ジャンプアップに期待がかかる。

 コンタドールはドーフィネ初優勝ならず。しかし、ステージを追うごとに調子が上向いていた印象だ。フルームの不調があったとはいえ、終盤2ステージで見せたアタックはライバルの追随を許さず、かつての強さが戻りつつある。特に最終ステージで見せた単独追走は、「負けてなお強し」のインパクトを残したといえよう。山岳ステージでは単騎になるシーンが目立ったが、アシストの手薄さは織り込み済みの結果だ。「ツールではもっと良いメンバーが揃う」とのコメントを残している。

 最終ステージの好走で総合3位となったヴァンデンブロックも、膝の怪我からの復調をアピール。エーススプリンターのアンドレ・グライペル(ドイツ)を中心とする布陣でツールに乗り込むが、自ら状況を打開できるのが彼の強さ。こちらも初の総合表彰台を目指す。

 そのほか、ジロ・デ・イタリア総合7位のウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ベルキン プロサイクリングチーム)が再び快走。総合4位に食い込み、新人賞のマイヨヴェールを獲得した。ツールは回避するが、シーズン後半の目標に据えたブエルタ・ア・エスパーニャでは優勝候補の1人に名乗りを上げた。夏場の休養が1つカギになるだろう。

 また、フルーム、コンタドールに並ぶ存在であるヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)は総合6位。走りを見る限り、完調とは言えず、今後の調整が大きなポイントになりそうだ。

今週の爆走ライダー-今週の爆走ライダー-セルジオルイス・エナオ(コロンビア、チーム スカイ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 2月のツアー・オブ・オマーンを最後に、トップシーンから一度遠ざかった。血液値に異常を示し、そのままではドーピングが疑われるとして、チームが自主的にエナオのレース活動をストップさせたのだ。

 それからしばらくは、彼にとっては戦いの日々だったかもしれない。コロンビアに帰国し、故郷で3カ月間黙々とトレーニング。同時に、血液値の異常がコロンビア高地での生活が起因であることを証明するため、専門家とともにデータ抽出を続けてきた。

山岳に強いセルジオルイス・エナオ(ブエルタ・ア・エスパーニャ2012)山岳に強いセルジオルイス・エナオ(ブエルタ・ア・エスパーニャ2012)

 10週間のデータ抽出の甲斐あって、その血液値には問題がないことを証明した。チームはエナオのために、シェフィールド大学とコロンビアアンチ・ドーピング機構との協力体制を強化。何としてもエナオを戦線復帰させる強い意志を見せた。

 それもそのはず、今シーズンはツール・ド・フランスでフルームのアシストという、最大のミッションが与えられているのだ。最強のアシスト候補は、フルームが直々に指名したほどで、チームに欠かせない存在だ。

エースとしてレース復帰したセルジオルイス・エナオ(ツール・ド・スイス2014)【Photo by TEAM SKY】エースとしてレース復帰したセルジオルイス・エナオ(ツール・ド・スイス2014)【Photo by TEAM SKY】

 復帰レースのツール・ド・スイスでは、さっそく総合エースの役割を担い、積極的な走りを見せている。第3ステージでは上りスプリントに絡み、ステージ3位に食い込んだ。調子が良いだけに、総合優勝も視野に入っている。

 プロトンを席巻する強さがありながら、レース開催国のビザ発給の問題など、不本意な出来事が続くコロンビア勢。同様に、思わぬトラブルに見舞われた彼だが、ここへきて戦う準備が整った。戦線離脱中に蓄えた力を、急峻な山岳で爆発するときが迫ってきた。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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