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栗村修の“輪”生相談<25>16歳男性「自転車留学を考えています」

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16歳の男性です。ロードバイク歴2年です。

 まだ高校生になったばかりですが、進路について悩んでいます。もちろん将来は「日本人初のマイヨ・ジョーヌ」ですが、まずその前に自転車留学を考えています。ただ、どんな場所に行ったらいいのかなど、まったくわかりません(海外の地理にも詳しくないため)。なのでまず、どんな基準で留学先を探したらいいのか、またコミニュケーションを図るにはどんな言語を学べばいいのか教えて下さい。

 あと、僕は小学1年の頃からバレエをやっていて、ついこのあいだまで「クラシック3大バレエを主役で踊る」という夢を持っていました。ただ、それが叶わなかったため、自転車で見返してやろうと思い自転車留学を決意しました。しかし、自転車一筋で今までやってきたわけでもなく、レース経験も多くなければ、学校の部活もありません。なので、いま自分が海外に行っても何もできずに終わるだけだと思います。

 なので、留学するタイミングなども教えて下さい。

(17歳男性)

 「日本人初のマイヨ・ジョーヌ」という、ものすごく大きな目標に向かう熱意とあわせて、そのためには何が必要なのかを冷静に考えられる非常にロジカルな空気を感じます。質問者さんは17歳らしく、キラキラしていますね。

 僕が高校を中退してフランスに渡ったのは17歳のときでした。だから、質問者さんの気持ちはとってもよくわかります。海外に行くという行為には、メリットとデメリットがあります。まずはそのことを知ってください。

 僕がよく参考にするのが、サッカーと野球です。プロスポーツとして成立しており、本田圭佑や田中将大など世界的な選手も輩出しているためです。彼らについて考えてみましょう。

2001年の世界選手権ロードジュニアを走る別府史之。高校時代は国内ジュニアのタイトルを総なめにして、高校卒業後フランスに渡った(砂田弓弦撮影)2001年の世界選手権ロードジュニアを走る別府史之。高校時代は国内ジュニアのタイトルを総なめにして、高校卒業後フランスに渡った(砂田弓弦撮影)

 この2人に限ったことではありませんが、海外で活躍する選手たちに共通しているのは、幼少期から様々なフィルターをかいくぐって日本国内でプロになり、「完成品」となった状態で輸出されていった点です。即戦力です。ジュニア時代に外国に行って、そこから這い上がったわけじゃないんですね。

 もちろん例外はあります。マック鈴木や三浦知良のように、現地で育ち、大成した選手もいるのですが、数の上では少数派です。

 国内のサッカーや野球の世界には、日本人のフィジカルやメンタルに最適化された、育成・選抜のシステムが確立されています。才能のある選手がそこに入れば、自動的に世界に通用する「完成品」になるわけです。具体的には、リーグやトレーニング法ですね。

 ところが、海外にあるシステムは当然、日本人向けではありません。たとえば、言葉ひとつとっても障害になる。食事も日本とは違う。トレーニングやレース以前に、それらに順応する労力が必要になるんです。本田や田中が高校生のころに海外に渡ったとして、現在の彼らがあるでしょうか? あるかもしれません。けれど、今のようにはなれなかった可能性も大きいと思います。少なくとも、効率的じゃないのは間違いないでしょう。だから、日本人にとっては日本のシステムがベストだと思います。

2005年のアムステルゴールドレースを走る土井雪広。高校で日本一、大学でインカレロードを制した後、シマノでプロに転向してオランダに渡った(砂田弓弦撮影)2005年のアムステルゴールドレースを走る土井雪広。高校で日本一、大学でインカレロードを制した後、シマノでプロに転向してオランダに渡った(砂田弓弦撮影)

 しかし、残念ながら日本のロードレース界にはその“有効なシステム”というものが現状では存在していません。「日本人初のマイヨ・ジョーヌ」を目指すならば、できるだけ早く海外に行くべきであるのは間違いありません。

 けれど、やみくもに海外を目指すのが正解とは限らないでしょう。お金が必要ですし、言葉も覚えないといけない。スーパーで買い物をしたり、ジムで筋トレをしたりするのにも、お金や手続きのための語学力など、色々大変なんです。そして何よりもメンタルとフィジカルの準備ができていない状態で厳しいレースを走っても息の根を止められて終わるだけでしょう。そこをよく考える必要があります。

 もちろん、向こうに行かないと覚えられないことはたくさんあります。本場ですから。けれど、失うものもあるのです。ただ漠然と海外でレースに出場しているだけの状態になってしまっている選手はたくさんいます。その両面を知っておいてくださいね。

 それから、フランスにしてもイタリアにしても、そこに「自転車のすべて」があるわけじゃないんですよ。本場とはいえ、ひとつの国にすぎません。僕もフランスでジュニアとして走り、色々なものを学ぶことができましたが、毎日が刺激的だったのは最初の1、2年でしょうか。その後は何も考えなければ急速に成長が停滞していきます。

 できるだけ早く海外に行くべきなのは確かです。でも、ちょっと落ち着いてください。その前にやるべきことがあるかもしれません。

 まず、現地の言葉の勉強は絶対に欠かせませんよね。時間を見つけてコツコツとやってみてください。次に競技です。トレーニングを積んでも、同世代で日本一か、最低でもトップ争いに加われないならばマイヨ・ジョーヌを着られる可能性はありません。残酷ですが、海外に行っても思い出づくりで終わってしまうと思います。まずは日本一を目指してください。

 そのためには、とりあえず目の前のレースに集中することになりますよね。すると、自然と誰かの目には止まると思うんですよ。日本にも浅田監督など、優れた指導者はいますから。海外を目指すのは、それからでも遅くないのではないでしょうか。

2014ジロを走る新城幸也。新城は日本での競技経験がほぼないままフランスに渡っている(砂田弓弦撮影)2014ジロを走る新城幸也。新城は日本での競技経験がほぼないままフランスに渡っている(砂田弓弦撮影)

 あるいは質問者さんは、新城選手の経歴を意識しているのかもしれません。しかし、はじめからすべてを持っていた彼は例外です。別府選手も土井選手も、国内で戦い、日本一になってから海外に行っています。段階を踏んだのですね。そのコースはいかがでしょうか?

 海外に行くぞ! とモチベーションが上がっているところに水を差してしまったらスミマセン。質問者さんのような方の存在は心強い限りです。何度も言うように、海外に行くべきなのは間違いありません。でも、やみくもに行ってもしょうがないと思うんですよ。

 まずは日本一。

 ジュニアやU23の全日本選手権で、表彰台に立つ質問者さんにお会いできる日を楽しみにしています。がんばってくださいね。

(編集 佐藤喬・写真 砂田弓弦)

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 「宇都宮ブリッツェン」テクニカルアドバイザー、「J SPORTS」サイクルロードレースレース解説者、「ツアー・オブ・ジャパン」副イベントディレクター。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまでお寄せください。

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