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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<64>進まぬ世代交代、チーム数の減少、戦力低下… “王国”スペイン自転車界が抱える問題

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 ジロ・デ・イタリアが終わり、ツール・ド・フランスに向けた動きが活発になってきました。現在開催中のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでは、クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)とアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)の一騎打ちが早くも見られ、ファンを興奮させています。そんな折、コンタドールらを擁する“王国”スペインに、戦力の低下やチーム数の減少といった気がかりな問題が湧き上がっています。

1979年以来最低の結果に終わったジロ・デ・イタリア

 前回の記事では、ジロで躍動した新しい力をピックアップしたが、その陰でスペイン勢が不発に終わっていたことに気付いた方もいたのではないだろうか。

落車に巻き込まれリタイアを余儀なくされたホアキン・ロドリゲス(ジロ・デ・イタリア2014)落車に巻き込まれリタイアを余儀なくされたホアキン・ロドリゲス(ジロ・デ・イタリア2014)

 今回のジロ総合トップ20にスペイン人選手はゼロ。これは1979年以来の“惨事”だという。3つのグランツールすべてを見渡しても、トップ20でのスペイン人不在は1998年以来。これまで数多くのオールラウンダーやクライマーを輩出してきたスペインにとって、深刻な事態といえるだろう。

 ちなみに、最上位はホセ・エラダ(モビスター チーム)の総合23位。トップのナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)からは59分1秒も遅れた。もっとも、エラダはキンタナの山岳アシストとして尽くしたうえでの順位だ。

 元々、ジロに臨んだスペイン勢のなかではホアキン・ロドリゲス(チーム カチューシャ)に大きな期待が寄せられていた。アルデンヌクラシックでの落車など不安要素はあったが、過去の実績などから総合優勝候補の最右翼に挙げる声も少なくなかった。しかし、第6ステージで起きた集団の大落車に巻き込まれてしまい、戦線離脱を余儀なくされた。

 さらには、ロドリゲスの右腕であるダニエル・モレノもこのときの落車が起因で不調に。これまで幾度となく勝負に絡んできた“最強のアシスト”は、最終的に総合41位に沈んでいる。

チーム数減少が追い打ち

 いま世界のロードレース・シーンは、若手有望株が次々に現れるコロンビア、ポーランドなど新しい勢力に席巻されている。一方、伝統ある自転車大国では、イタリアが脚質を問わず若手有力選手を輩出。数年前まで次世代の育成が不安視されていたフランスも、キッズ年代からの普及やカデクラス(15~16歳)の競技力強化に成功し、有望なスプリンターやクライマーが出てきている。

 そうしたなか、不安の波がスペインに打ち寄せている。これまで数選手が確実に上位にランクインしていたジロで、今年は35年ぶりの不振に終わったほか、“ホストレース”であるブエルタ・ア・エスパーニャでも、昨年はトップ20のうちスペイン人選手は7人にとどまった。2004年にはトップ20のうち15人がスペイン人選手だったというのに。

(左から)アレハンドロ・バルベルデ、アルベルト・コンタドール、ホアキン・ロドリゲスは今もスペイン自転車界をリードする存在(ブエルタ・ア・エスパーニャ2012)(左から)アレハンドロ・バルベルデ、アルベルト・コンタドール、ホアキン・ロドリゲスは今もスペイン自転車界をリードする存在(ブエルタ・ア・エスパーニャ2012)

 これまでスペイン勢を引っ張ってきた存在として名が挙がるのは、コンタドール、ロドリゲスのほかにサムエル・サンチェス(BMCレーシングチーム)、アレハンドロ・バルベルデ(モビスター チーム)だろう。彼らは20歳代前半から活躍し、長きにわたりトップを走り、いまだビッグネームとして注目を集めている。

 とはいえ、強さを誇ってきた彼らも、年齢ばかりは避けて通れない壁だ。サンチェス36歳、ロドリゲス35歳、バルベルデ34歳、コンタドール31歳。老獪さを身に付け、巧みな戦い方を見せてはいるが、これから先10年、15年…とキャリアを重ねられる年齢ではない。

2011年はジロ、ブエルタで1勝ずつ挙げたイゴール・アントン(ブエルタ・ア・エスパーニャ2011)2011年はジロ、ブエルタで1勝ずつ挙げたイゴール・アントン(ブエルタ・ア・エスパーニャ2011)

 4人に続く存在として、モレノやイゴール・アントン(モビスター チーム)の名が挙がるが、モレノ32歳、アントンも31歳とベテランの域に差し掛かっている。特にアントンに関しては、キャリアベストだったと自他ともに認め、あわやブエルタ総合優勝かと思わせた2010年以降、エースを務めるレースでは不本意な結果に終わっている。今年のジロのように、山岳アシストとしてはまだまだ強力であることは確かだが…。

 ロドリゲスら“ビッグ4”が、スペイン人ライダーにとっては大きすぎる存在なのかもしれない。世界選手権のように国を代表するメンバーが揃うレースでは、いまだ彼らがエースを務めるケースが多い。次世代が伸びていないと言われても仕方がない状況である。

 世代交代が進まない要因としては、国内UCIチームの減少が挙げられている。トップカテゴリーであるUCIワールドツアーチームは今シーズン、モビスター チームのみ。セカンドカテゴリーのUCIプロコンチネンタルチームまで含めても、カハルーラル・セグロスRGAが挙がるだけだ。

 レースシーンを盛り上げてきたバスクの雄、エウスカルテル・エウスカディは昨シーズンで解散。プロコンチネンタルチームでも、かつてはアンダルシア、コンテントポリス・アンポ、ジェオックス・TMC、シャコベオ・ガリシアといったチームがブエルタなどを中心に活躍したが、現在ではチーム数の減少とともに、選手の受け皿がなくなってしまっている。それにより、本来育成すべき若い選手たちが「現状ではトップレベルで戦えない」との理由で淘汰されてしまっている。

 チーム数の減少は、同国の経済情勢を反映している。前述のアンダルシアやシャコベオ・ガリシアのように、かつてのスペインチームには地域自治体がメーンスポンサーとなるケースも見られたが、現状ではそうもいかないようである。

トップライダーのスペイン選手権ボイコット問題

 世代の硬直化や戦力低下が不安視されるスペイン自転車界だが、もう1つ懸念材料がある。

 6月第4週は多くの国で国内選手権ウィークとなり、スペインも例外ではないが、一部選手たちによるボイコット問題が噴出しているのだ。

 ここ3年間、スペイン選手権出場に必要な渡航費や宿泊・食事の費用が、スペイン自転車連盟(RFEC)から選手へ支払われておらず、これらの改善を求めているのだという。

 すでにスペイン国外のUCIワールドツアーチームやプロコンチネンタルチームに所属する選手間で申し合わせがなされており、チーム カチューシャ、チーム スカイ、ティンコフ・サクソ、コフィディス ソリュシオンクレディに所属する選手たちの欠場が濃厚となっている。

2013年のナショナルチャンピオンは若手のヘスス・エラダ(リエージュ~バストーニュ~リエージュ2014)2013年のナショナルチャンピオンは若手のヘスス・エラダ(リエージュ~バストーニュ~リエージュ2014)

 こうした動きにモビスター チームが追随する可能性が出てきている。昨年も一部選手たちからモビスター チームへ欠場を求める働きかけがあったものの、最終的に出場を選択。タイムトライアル、ロードレースともにチームから優勝者を出している。また、この動きに対するRFECの具体的なアプローチは見られていない。

 もしモビスター チームが欠場するとなると、有力選手の顔触れが少ないレースになってしまう。また今回の国内選手権は、9月にカスティーリャ・イ・レオン州ポンフェラーダで開催される世界選手権のコースで行われるので、トップライダーたちにとっては貴重な予行演習の機会を失うことにもなってしまう。

スペイン自転車界の“次世代の星”は?

 ネガティブな要素を挙げてきたが、決して光が見えないというわけではない。今後数年のうちに台頭する可能性を秘めた選手が存在することも事実だ。そこで、今のうちから押さえておきたい若手・中堅ライダーをピックアップしておこう。

 有望株は同国自転車界を支えるモビスター チームに多く在籍している。ベニャト・インチャウスティ(28歳)は、グランツールでコンスタントに総合トップ10に名を連ねる選手。昨年のジロではステージ1勝のほか、マリアローザも1日着用した。今年のツールではバルベルデの山岳アシストを務める。

TTを得意とするホナタン・カストロビエホは山岳でも力をつけている(ツール・ド・フランス2013)TTを得意とするホナタン・カストロビエホは山岳でも力をつけている(ツール・ド・フランス2013)

 ホナタン・カストロビエホ(27歳)は、スペインが誇るTTスペシャリスト。最近は山岳での適性も見せており、ジロではキンタナの総合優勝に大きく貢献した。

 ホセ(29歳)とヘスス(24歳)のエラダ兄弟は、オールラウンダーの資質十分。ホセは今年のジロ総合23位のほか、昨年のブエルタでは総合12位。世界選手権の代表入りを果たし、アシストを務めた。昨年のスペインチャンピオンであるヘススは、今年のツール・ド・ロマンディ総合9位と健闘。TTでも非凡なセンスを見せる。

 ゴルカ(27歳)とイオン(25歳)のイサギレ兄弟は今シーズン、エウスカルテル・エウスカディから移籍。ゴルカはジロでキンタナのアシストを務めた。イオンは2012年のジロでステージ1勝。こちらもオールラウンダーとして大きな期待が集まる。

 スプリンターでは、ホセホアキン・ロハス(29歳)やフアンホセ・ロバト(25歳)が有力。ロハスは今シーズン、パリ~ニース総合4位。昨年のツールでもたびたびスプリントに絡むシーンが見られた。一方のロバトは、今年のミラノ~サンレモ4位と快走し、関係者を驚かせた。ともに登坂力が高く、中級山岳レベルでは難なく乗り切ってゴール勝負できるだけの強さがある。

 他チームでは、元エウスカルテル・エウスカディのミケル・ランダ(24歳)が将来性を買われてアスタナ プロチーム入りした。ジロではファビオ・アール(イタリア)の山岳アシストを務めたほか、その前哨戦であるジロ・デル・トレンティーノでステージ1勝。総合でも10位に入っており、今後はチームの総合エースを担う選手となることだろう。

今週の爆走ライダー-マッティ・ブレシェル(デンマーク、ティンコフ・サクソ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 いくつかあるツール前哨戦だが、8日に閉幕したツール・ド・ルクセンブルク(UCI2.HC)では上りスプリント、逃げと万能ぶりを発揮したブレシェルが総合優勝。故障に泣いた時期を乗り越え、再び輝きを取り戻しつつある。

ポディウムでトロフィーとカートを受け取り喜ぶマッティ・ブレシェル(ツール・ド・ルクセンブルク2014)ポディウムでトロフィーとカートを受け取り喜ぶマッティ・ブレシェル(ツール・ド・ルクセンブルク2014)

 かつてはファビアン・カンチェッラーラ(スイス)、フランクとアンディのシュレク兄弟(ルクセンブルク)らと、チーム サクソバンクのメンバーとして一時代を築いた。スプリントや石畳系クラシックで活躍。カンチェッラーラのアシストだけでなく、自らも勝利を重ねた。また、世界選手権にはめっぽう強く、計3つのメダルを獲得(銀2、銅1)。残すは金メダルだけである。

 プロトンきっての“男前”としても世界的に人気。16歳の頃、モデルとしてニューヨークへと渡った経験もあるほどだ。またギタリストとしてもプロ顔負けのテクニックを持つ。以前は勝利のポディウムでエアギターを披露するのがお決まりだった。

 移籍や深刻な膝の痛みなどから、ここ数年は力を発揮できずにいたが、地元チームへの復帰2シーズン目で復活をアピール。ツールのメンバー入りへ名乗りを上げた。出場がかなえば平地、そして第5ステージで登場するパヴェで、エースのコンタドールをアシストするのは確実だ。

 残すビッグレースは2つ。15日開幕のツール・ド・スイスと、29日のデンマーク選手権でその地位を揺るぎないものとすることだろう。4年ぶりのツール復帰は、もうすぐそこまで来ている。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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