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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<63>キンタナやアールの活躍に見る“ヤング・ジロ”の明るい未来 ジロ・デ・イタリア2014を総括

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 一年のなかで最初に迎えるグランツールであるジロ・デ・イタリアが6月1日に閉幕し、大会終盤に圧倒的な強さを発揮したナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)が第97代のチャンピオンに輝きました。今年のジロでは、若手の台頭や、オーストラリア・コロンビア勢によるマリアローザ“占有”など、新たな傾向も浮き彫りに。大会を振り返り、そこから見えてくる選手の将来像や大会の未来図を展望します。

ナイロアレクサンデル・キンタナが初出場でジロ総合優勝を飾った(ジロ・デ・イタリア2014)ナイロアレクサンデル・キンタナが初出場でジロ総合優勝を飾った(ジロ・デ・イタリア2014)

トップ10のうち7人が20歳代 ヤングライダーの台頭

 今年のジロを語るうえで、真っ先に挙がる話題は若い選手の活躍だ。新人賞(25歳以下対象)のマリアビアンカ争いが、個人総合時間賞のマリアローザ争いへと直結したことは、大きなトピックと言えるだろう。

 もちろん、リザルトには残らずとも逃げやアシストでインパクトを残した若いライダーもいたのだが、ここではデータ化しやすい総合やステージでのリザルトをもとにピックアップしていく。

 参考までに、総合上位選手の現在の年齢を記しておく。総合上位陣の若年化が顕著であることを示すべく、上位20選手にまで視野を広げてみた。

ジロ・デ・イタリア2014 総合トップ20

1 ナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム) 24歳
2 リゴベルト・ウラン(コロンビア、オメガファルマ・クイックステップ) 27歳
3 ファビオ・アール(イタリア、アスタナ プロチーム) 23歳
4 ピエール・ローラン(フランス、チーム ヨーロッパカー) 27歳
5 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、アージェードゥーゼール ラモンディアル) 31歳
6 ラファウ・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ) 24歳
7 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ベルキン プロサイクリングチーム) 23歳
8 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) 37歳
9 ライダー・ヘシェダル(カナダ、ガーミン・シャープ) 33歳
10 ロベルト・キセルロウスキー(クロアチア、トレック ファクトリーレーシング) 27歳
11 アレクシー・ヴュイエルモーズ(フランス、アージェードゥーゼールラ モンディアル) 26歳
12 フランコ・ペッリツォッティ(イタリア、アンドローニジョカットリ・ベネズエラ) 36歳
13 アレクサンドル・ジェニエス(フランス、エフデジ ポワン エフエル) 26歳
14 マキシム・モンフォール(ベルギー、ロット・ベリソル) 31歳
15 イヴァン・バッソ(イタリア、キャノンデール) 36歳
16 ユベール・デュポン(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル) 33歳
17 マッテーオ・ラボッティーニ(イタリア、ネーリソットーリ) 26歳
18 マイケル・ロジャース(オーストラリア、ティンコフ・サクソ) 34歳
19 ダミアーゴ・クネゴ(イタリア、ランプレ・メリダ) 32歳
20 アンドレフェルナンドサントス・カルドソ(ポルトガル、ガーミン・シャープ) 29歳
※年齢は2014年6月3日現在

ファビオ・アールら25歳以下の若手選手が目立った(ジロ・デ・イタリア2014)ファビオ・アールら25歳以下の若手選手が目立った(ジロ・デ・イタリア2014)

 まず、総合トップ10のうち7選手が20歳代であることがポイントだ。さらには7選手のうち4選手が20歳代前半。昨年も当時の年齢で20歳代の選手がトップ10に6選手がランクインしているが、20歳代前半は2選手。多くの新人賞対象選手が総合争いをする構図は、ジロ以外のグランツールを含めてもなかなか見られないケースだ。

 さらに、第1ステージのチームタイムトライアルを除いた20ステージの優勝者を見ると、17ステージで20歳代の選手が優勝。昨年も20歳代の選手の勝利数は17に上っており、ここ数年のジロは若い選手の活躍が目立っている。

 30歳前後がキャリアのピークと言われるサイクルロードレースにあって、ジロは一流ライダーの階段を上る選手たちの第一関門的な色合いが出てきているのかもしれない。レースディレクターのマウロ・ヴェーニ氏も「若手がステップアップできる大会になると良い」と語っているように、今回のジロで活躍した選手が近い将来、ツール・ド・フランス総合優勝や、世界選手権優勝のマイヨ・アルカンシエル獲得といった快挙を成し遂げても、なんら不思議ではない。

 実際に、今回の総合で上位に入った選手のうち、来年はツールを視野に入れたいと公言している選手も出てきている。若手有望株の動向は、今後数年間にわたって目が離せなくなるはずだ。

勢力図に大きな変化

 今回のジロは、ヨーロッパ勢が1日もマリアローザに袖を通すことなく大会を終了した。これは3大ツールの歴史上で初めてのことだ。

(右2人目から)オーストラリアのカデル・エヴァンスとマイケル・マシューズ。2人合わせて10日間マリアローザを着用した(ジロ・デ・イタリア2014)(右2人目から)オーストラリアのカデル・エヴァンスとマイケル・マシューズ。2人合わせて10日間マリアローザを着用した(ジロ・デ・イタリア2014)

 今年、マリアローザに袖を通したのは5選手。スヴェイン・タフト(カナダ、オリカ・グリーンエッジ)、マイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)、エヴァンス、ウラン、キンタナ。このうちカナダ人のタフトは1日でチームメートのマシューズにマリアローザを譲っており、オーストラリア、コロンビアの近年の勢いがそのまま反映された形だ。

 もっとも、ヨーロッパ勢がマリアローザ獲得のために何もしていなかったわけではない。アールを筆頭としたイタリア人選手や、ローラン、マイカらがあらゆる状況でチャレンジを繰り返した。それでも牙城を崩せなかった結果なのである。

大会後半を盛り上げたナイロアレクサンデル・キンタナとリゴベルト・ウランのマリアローザ争い(ジロ・デ・イタリア2014)大会後半を盛り上げたキンタナとウランのマリアローザ争い(ジロ・デ・イタリア2014)

 レース展開の綾や、各チームのメンバー構成に左右される部分があることから、一概にオーストラリア勢とコロンビア勢がずば抜けた力を持っていると決めつけることはできない。だが、プロトンにおける新たな傾向としては興味深く見ることができる。

 ちなみにオーストラリアは、トラック競技を中心に、国家プロジェクトによるジュニアからの選手強化で知られる。キッズの年代からジュニア、さらにはプロまでもが一緒にトレーニングできる状況にあるのだという。本場ヨーロッパと同様の環境で自転車競技に取り組めるあたりに、同国の躍進の一端があると言えそうだ。またコロンビアも、地域単位でサイクリングクラブの活動が盛んである。

キンタナが見せたもう1つの“強さ”

 今大会、総合争いで最強の力を示したキンタナ。コロンビアの高地育ちゆえの心肺機能の高さや、それを生かした登坂力は圧巻だ。山岳、平地それぞれのアシストにも恵まれ、チーム力を最大限に生かしての勝利でもあった。

 第16ステージでは、ステルヴィオ峠の下りで先行した走りが物議を醸したが、それらを払拭するかのような終盤ステージの快走。山岳個人TTが行われた第19ステージや、モンテ・ゾンコランでの最終決戦となった第20ステージで見せた強さは、ライバルチームの選手や関係者を黙らせるのに十分だった。キンタナの走りに文句を付ける人は減り、選手たちの間でも「ジロの勝利にふさわしい選手」との声が高まっていった。

大会序盤に体調不良で苦しみ、第12ステージのTTでもタイムを失ったナイロアレクサンデル・キンタナ(ジロ・デ・イタリア2014)大会序盤に体調不良で苦しみ、第12ステージのTTでもタイムを失ったナイロアレクサンデル・キンタナ(ジロ・デ・イタリア2014)

 キンタナについて筆者が注目したのは、その修正能力の高さだ。大事故となった第6ステージの集団落車には、キンタナも巻き込まれた。大きな怪我こそなかったが、しばらくは痛みもあり本調子とは言えなかった。さらには、悪天候が続いたことで風邪をひき、中盤ステージまでは満身創痍の状態だった。

 第12ステージの個人タイムトライアルでは、ウランとのタイム差を2分41秒失ったが、大会終盤の山岳ステージに向けて状態を立て直した。第16ステージで総合1位に立ってからも、攻めの姿勢を崩さなかった。最後まで完調ではなかったというだけに、本来の調子であればどこまでの走りを見せられたのだろうか。

 今後の課題は、TTでの走りだろう。ジロでは山岳TTでステージ優勝を飾ったが、平地での長丁場のタイムトライアルとなると、もう少し改善が必要だ。山岳での貯金を生かすためにも、TTでのタイムロスは最小限に留めたい。

 いずれにせよ、年齢から見れば今後さらに力を伸ばしていくことは間違いない。どれだけの強さを身につけるのか、楽しみは尽きない。

ツールに向けたチーム動向

 ジロが終わり、シーズンは次なる戦いへと向かおうとしている。もちろん、ツール・ド・フランスだ。

 ツール前哨戦第1弾となるクリテリウム・ドゥ・ドーフィネは8日に開幕する。14日にスタートするツール・ド・スイスと合わせ、この数日の間に出場選手が確定することとなる。

 2つの重要なレースに向けて、早くも動きをアピールしたのがチーム スカイだ。“2大巨頭”、クリストファー・フルーム、ブラッドリー・ウィギンス(ともにイギリス)は、ツールに向けて別々のスケジュールを採用する。フルームはドーフィネ、ウィギンスはスイスに出場し、好感触を得ようと目論んでいる。ドーフィネにはリッチー・ポート(オーストラリア)も参戦し、シーズン前半の不調からの脱却を目指す。

パヴェを試走するマーク・カヴェンディッシュらオメガファルマ・クイックステップの選手たちパヴェを試走するマーク・カヴェンディッシュらオメガファルマ・クイックステップの選手たち

 なおスカイは、ツールに向けたロングリスト(候補選手)が13人に上ることを明らかにしている。ドーフィネ、スイスのほか、ルート・ドゥ・スッド(6月20~22日、フランス、UCI2.1)も選手選考の対象レースとする構えだ。今年のツールはイギリス・ヨークシャー地方での開幕となるだけに、序盤3ステージのホストチームとして万全を期する。

 また、6月2日にはスカイとオメガファルマ・クイックステップが、ツール第5ステージの舞台となる北フランスのパヴェを試走した。両チームは一部合同でパヴェの感触を確認。フルームやポートのほか、ポイント賞のマイヨヴェール奪還を目指すマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)、総合優勝候補の一角であるミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド)も念入りにチェックに臨んだ。

今週の爆走ライダー-ナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 若手の登竜門として名高いフランスのステージレース、ツール・ド・ラヴニール。2010年大会は、現在のプロトンのトップをゆく若い選手たちが、当時の“金の卵”として出場していた。

 このとき、大会終盤の山岳ステージで関係者を騒然とさせたのが、コロンビア勢の山岳での強さ。なかでも、ライバルを一瞬で蹴散らす走りを見せたキンタナに大きな注目が集まった。今年のツールでも登場するリゾル峠で行われた山岳個人TT(13.5km)では、2位以下に1分近い差をつける驚異の走りを見せた。

 当時関係者が口にした「すごいコロンビア人選手」は、4年が経った今、プロトンきってのグランツールライダーへと成長した。山岳ステージでの走りは、穴がほとんどないと見て良いかもしれない。

 時が経つごとに課題が1つずつ改善されていくところにも、彼の才能が見て取れる。以前は下りの走りがネックとされていたが、今年のジロではステルヴィオ峠の下りで悪天候のなか加速。後に騒動となってしまったが、本人いわく「アタックしたつもりはなかった。上りも下りも感覚に合わせて走った結果」とのことだ。

下りを改善し、さらに寒さのなかでも強さをみせたナイロアレクサンデル・キンタナ(ジロ・デ・イタリア2014)下りを改善し、さらに寒さのなかでも強さをみせたキンタナ(ジロ・デ・イタリア2014)

 ジロを制し、「2015年はツールを目指す」と早くも宣言。ジロ連覇にも色気を見せており、“ダブルツール”を狙う可能性も出てきている。それも可能かもしれないと思わせるだけの強さを彼は持ち得ている。

 チームの方針もあり、現状でのレース出場数は控えめ。その分、出場した時に力を爆発させる。コロンビアが生んだ大いなる力が一時代を築くときが、まもなくやってくるはずだ。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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