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ツアー・オブ・ジャパン2014戦う選手達はどこまでも美しい 「マトリックス・パワータグ」インサイドレポート<後編>

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 5月18~25日に開催されたツアー・オブ・ジャパンに出場した国内チーム、マトリックス・パワータグ。そのインサイドレポート<後編>は、23日の第4ステージ(富士山ステージ)から最終日までの奮闘ぶりをお伝えします。レポートを寄稿してくれたのは、チームの所属選手であり、今大会ではマッサージャーとしてチームに帯同している管洋介さん。サイクルロードレースの迫力と美しさと人間ドラマを切り取った多数の写真とともにご覧ください。

◇         ◇

ベンジャミンの力走に感動

 前夜の雨は止んだものの富士山麓の朝は肌寒く、一時的に顔を出した富士山もすぐに雲に包まれた。5月23日、この日は富士山須走口を上る11.5kmの極端に短いコースに挑む。選手個々の登坂力が大きなタイム差となって現れる、TOJの重要ステージだ。

マークする選手を確認マークする選手を確認
雲が晴れると時折姿を見せてくれる富士山雲が晴れると時折姿を見せてくれる富士山
富士山ステージ 朝食はシリアル中心富士山ステージ 朝食はシリアル中心
レース前のひと時レース前のひと時
リラックスしてレースまでの時間を過ごすリラックスしてレースまでの時間を過ごす

 難関であった南信州ステージを17位、総合25位で終えたベンジャミン(・プラド)は、このレースの走りによっては総合10位以内にジャンプアップすることもできる。一方、総合上位を狙えないメンバーたちは、翌日に控える難関ステージの修善寺(伊豆ステージ)へ向け、このステージは足を温存する作戦だ。前夜のミーティングで安原昌弘監督から富士山への意気込みを聞かれたベンジャミンは、「このステージで自分が速く上る自信はある。でも大きくタイムを落す事も容易だ」と妙な言い回しで語り、これには監督も苦笑い。

 下見で把握した斜面の特徴と、例年のレース展開や傾向をベンジャミンに教え込み、ローラー台で30分ほどウォーミングアップをしてからスタートを迎えた。

静かにレースの支度に入るベンジャミン静かにレースの支度に入るベンジャミン
サングラスをかけるとレースへの気合いが入るサングラスをかけるとレースへの気合いが入る
アップの量も選手それぞれアップの量も選手それぞれ
音楽好きのアイランはヘッドフォンをいつも持ち歩く音楽好きのアイランはヘッドフォンをいつも持ち歩く
安原監督に期待されるベンジャミン安原監督に期待されるベンジャミン
軽いギアで足の神経を刺激する軽いギアで足の神経を刺激する
アップするモラアップするモラ
和田は音楽を聴いて集中和田は音楽を聴いて集中

 選手たちよりも先にゴール地点へ上った私は、選手たちのフィニッシュタイムをチェックするのが役目だ。ゴール付近に設置されたラジオのスピーカーから、イランのガーデル・ミズバニ・イラナグ選手(タブリーズペトロケミカル)が序盤から単独アタックをしているというアナウンスが流れた。すでに小グループと化したメーン集団の主要メンバーが伝えられるが、ベンジャミンの名前が挙がらない。少し不安な気持ちで聞いていると、メーン集団からはさらにミズバニ選手のチームメート、ミルサマ・ポルセイェディゴラコール選手が単独で先頭へ追いついたという実況が流れた。

イランのポルセイェディゴラコールが新記録で優勝イランのポルセイェディゴラコールが新記録で優勝

 コースレコードになるであろうミルサマ選手の猛烈な速さに、サイボーグのように上って来る姿を想像しながらカメラを構えてゴールを待った。すると、胸をはだけ今にも力を出し切って失速してしまうのではないかという表情で飛び込んで来た。想像とは違ったが、全力を出し切った直後の安堵感に包まれながら大きく手を広げる彼の姿には美しさも感じた。38分51秒、コースレコードを1分近く更新する驚異的なタイムだった。

8位でゴールするベンジャミン8位でゴールするベンジャミン

 それから約1分後、1人また1人と選手がゴールしてきた。いつベンジャミンが来るんだと心を震わせていると、41分35秒、なんと8番目にタブリーズの選手と競り合いながら上って来た! 彼の上りの速さはスペインでも定評があったが、現実にこうして実力を見られたことに感動した。

 さすがに力を出し切ったベンジャミンは、すぐさま園田メカニックに押されてチームカーへ戻った。その他のメンバーは48分台で上り、マトリックスとしては作戦通りの展開となった。

レースを終えた和田レースを終えた和田
40分間全力を出し尽くす選手たち40分間全力を出し尽くす選手たち
和田をマッサージする筆者和田をマッサージする筆者
一日が終わる夕食時は談笑がたえない一日が終わる夕食時は談笑がたえない
重要な修善寺ステージに向けベンジャミンに期待する安原監督(左)重要な修善寺ステージに向けベンジャミンに期待する安原監督(左)

アシストが次々に脱落するサバイバルレース

 24日の第5ステージ(修繕寺ステージ)は、南信州ステージに次ぐ厳しい山岳コースとなる日本サイクルスポーツセンター(静岡県伊豆市)が舞台。前日のミーティングでは、周回ごとに足を削られるため総合リーダーチームは逃げを容認し、メーン集団がレース中盤から人数を減らしつつ追いついていくだろうと展開を予想した。アイラン(・フェルナンデス)は山岳リーダージャージを再び着るチャンスがあるため、前半の逃げにうまく乗れるように走り、総合上位のベンジャミンは終盤に落ちていく上位勢を抜いて総合成績を上げるという作戦だ。

子どもたちと記念撮影子どもたちと記念撮影

 相変わらず、レース前にもかかわらずリラックスしているスペイン人選手たち。この雰囲気に和田(力)とダイキ(=安原大貴)も慣れているようで、今年のマトリックスのカラーになりつつある。他のチームがバタバタとしていても、全く気をとられない。むしろスタッフである我々の方が神経質になりがちだ。

 このステージは土曜日開催ということもあり、レース観戦に来るファンも多く、スタート前のブースはにぎわった。サインや写真撮影に応えることも、選手の喜びのひとつだ。前日と打って変わって晴天に恵まれた修善寺は、日中さらに暑さが増しそうな様子だ。消耗するコースのことを考えて、電解質とカロリーを入れた補給ボトルを常に選手に持たせることにした。

クリート角度のチェッククリート角度のチェック
スペイン好きのファンと一枚スペイン好きのファンと一枚
リラックスしてレースに臨むモラリラックスしてレースに臨むモラ
上りのキツい修善寺。シングルボトルで出走する上りのキツい修善寺。シングルボトルで出走する
ベンジャミン(左)とアイランはいつも隣同士だベンジャミン(左)とアイランはいつも隣同士だ
レース直前のダイキ(左)と和田レース直前のダイキ(左)と和田
修善寺ステージがスタート修善寺ステージがスタート

 スプリンターのモラには「このコースは序盤すごく苦しく感じるだろうけれど、次第にそれに慣れてくるから、前半はとにかく耐えろよ」と伝えて見送った。12周回のレースの1周目、なんと前ステージを獲ったミルサマ選手を含む10数人が19分の高速ラップを刻んでゴールラインを走り抜けて行く。アイランがこのグループにしっかり乗っているのに安心はしたものの、リーダーチームは静観するという予想をくつがえす展開となった。その30秒後、ベンジャミンと和田が入ったメーン集団40人が通過。その後ろはすでにパラパラと選手がこぼれ、モラとダイキは10人ほどの第3グループにいた。

 2周目には先頭が5人に絞られ、アイランもメーン集団に戻ってしまった。イラン勢の強烈なスピードはこのステージもレースを大きく動かした。メーン集団は、逃げに乗り遅れたヴィーニファンティーニ・NIPPOが引き始めていた。第3グループのモラは、もうキツそうだ。

1周目、先頭グループで走るアイラン1周目、先頭グループで走るアイラン
補給できる周回は決まっている補給できる周回は決まっている
ヴィーニファンティーニ・NIPPO・デローザがコントロールするメーン集団ヴィーニファンティーニ・NIPPO・デローザがコントロールするメーン集団

 4周目にはすでに差が2分、6周目には3分と開き、メーン集団は牽引で力を使ったアシストが次々に脱落するサバイバルレースの様相。「こんなレース展開は初めて見た」と関係者もつぶやいた。

追走の4人でスプリント合戦 ゴールで待つ手が震えた

 メーン集団が30人ほどに減ってもアイランとベンジャミン、和田が食らいついていた。私は選手の表情や補給の受け取り状況をチームカーに無線で伝えた。まだベンジャミンとアイランには余裕がありそうだ。逃げるイラン勢2人のペダリングはどこまでも力強く、1周目に見た時の力を全く失っていないような走りだった。すでにイラン勢以外には、ラファ・コンドールJLTのヒュー・カーシー選手(イギリス)しか追従できていない。

 ラスト2周、メーン集団も最終局面に向け大きくスピードアップを始めた。4分あった差は一気に3分に縮まる。ゴールラインを通過するメーン集団は一列棒状に伸び、すでに20人ほど。ベンジャミンとアイランが残り、ラスト1周のジャンが鳴った。ステージ優勝と総合優勝の行方に加えて、先頭グループの次に誰が入って来るかも、観客の注目の的となった。

最終周回にペースが上がるメーン集団最終周回にペースが上がるメーン集団
和田も最終周回へ和田も最終周回へ
ゴールを待つ報道陣ゴールを待つ報道陣
ミズバニがステージ優勝ミズバニがステージ優勝
ゴールを待つ観客たちゴールを待つ観客たち

 メーン集団から追走4人のアタックがかかったという実況が流れ、なんとそこにベンジャミンが乗ったとのこと。さらに単独でベンジャミンがアタックしているという。ゴールを待つ自分の手が、ここまで震えたのは久々のことだ。

 ミズバニ選手がステージ優勝を決めた2分後、200mほど先に、スプリントしながらゴールに向かってくる4人の姿が見えてきた。残念ながらベンジャミンはそのスプリントでは4番手になってしまったが、このレースを7位でゴールできるすごさに、言葉では言い表せないほど感動した。アイランは17位、最後に遅れてしまった和田も40位でゴール。アイランが山岳賞争いでトップに立つことはかなわなかったが、ベンジャミンが総合9位にジャンプアップした素晴らしい日となった。

修善寺を7位でゴールするベンジャミン修善寺を7位でゴールするベンジャミン
レースを振り返るベンジャミン(左)レースを振り返るベンジャミン(左)

一列棒状で優雅に走り抜ける集団 まるで映画のエピローグ

 いよいよ25日の最終ステージ(東京ステージ)へ足を運んだ。例年、このステージは大集団のゴールスプリントで締めくくられる。しかし前日に40人がリタイアへ追い込まれてしまったため、この日の出走は40人ほど。スプリント勝負で最もチームの期待が大きかったモラは走ることができないが、他のチームも多くのスプリンターを失ってこのステージをスタートした。

東京ステージの打ち合わせ東京ステージの打ち合わせ
トーストにトマトを塗るトーストにトマトを塗る

 チーム内でモラの次にスプリント力があるのはアイラン。3月の宇都宮クリテリウムで頼りがいのある牽引を見せた和田が残っているだけに、ゴールまでのレース展開を打ち合わせて、スタート地点の日比谷公園へ向った。TOJ初回大会から続く東京ステージには、選手を間近に見ようと多くの観客が足を運ぶ。人でごった返すなか出走サインを済ませ、どの選手もリラックスした表情を見せていた。

アマチュア時代もチームメイトだったアイランとベンジャミンアマチュア時代もチームメイトだったアイランとベンジャミン
最終ステージに向うアイラン最終ステージに向うアイラン
平坦の東京ステージは極太のディープリムを履く平坦の東京ステージは極太のディープリムを履く
出走登録する和田出走登録する和田
最終ステージのスタート前、スペイン人3人で記念撮影最終ステージのスタート前、スペイン人3人で記念撮影
ファンにサインを求められるファンにサインを求められる
最終ステージのスタート前は和やかな雰囲気だ最終ステージのスタート前は和やかな雰囲気だ

 スタートを見ないで大井埠頭の周回コースへ車で先回りした私は、この日は補給の仕事がないためレース観戦。一列棒状に伸びた集団は、6日間の旅の終焉をカウントダウンするかのように優雅に走り抜けていく。観客たちは、思い思いの選手たちの名を呼んで応援する。東京ステージは映画のエピローグを見ているかのような雰囲気だ。激しいステージを戦い抜いてきた選手たちが走る姿は、どこまでも美しい。日本で行われたステージレースに誇りを持てる、そんな光景だった。

揃って走るマトリックス・パワータグ揃って走るマトリックス・パワータグ
和田も前方へ上がる和田も前方へ上がる

 最後の40人のスプリントは横に大きく広がり、アイランのアシストを受けたベンジャミンが飛び出した。ステージ6位という成績を刻み、マトリックス・パワータグのTOJは終わった。

横に広がった集団スプリント。ベンジャミンがいい位置につけた横に広がった集団スプリント。ベンジャミンがいい位置につけた
レースを終え安堵の表情の和田レースを終え安堵の表情の和田
レースを振り返るアイランレースを振り返るアイラン

(文・写真 管洋介)

管洋介
管洋介(すが・ようすけ)

think deep DEBO 所属 プロカメラマン
10歳よりサイクリングを始め、日本の島々を回り、16歳で自転車競技を始めてからはスペインをはじめ、ヨーロッパ、アフリカ、アジアへ世界が広がった。夢はメキシコのプロレス記者になること。2014年はMATRIX POWER-TAG所属で競技活動を行う。
1980年2月26日生まれ A型

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