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ツアー・オブ・ジャパン2014選手と共に戦うチームスタッフ 「マトリックス・パワータグ」インサイドレポート<前編>

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 5月18~25日の日程で開催中のツアー・オブ・ジャパンに出場している国内チーム、マトリックス・パワータグ。その所属選手であり、今大会ではマッサージャーとしてチームに帯同している管洋介さんが、出場チームの視点からインサイドレポートをCyclistに寄稿してくれました。<前編>は第3ステージ終了後の移動日(22日)まで。本職がフォトグラファーでもある管さんの豊富な撮り下ろし写真とともにお届けします。

◇         ◇

日本とスペインの若者がコミュニケーション

 今回のツアーオブジャパンに、私はマッサージャーとして帯同している。タイムトライアルで始まる第1ステージ(堺ステージ)は仕事の都合で参加できず、翌日の移動日にチームへ合流した。

選手の常食はやはりパスタ。メカニックも!選手の常食はやはりパスタ。メカニックも!

 5月19日、快晴の岐阜県美濃市。山のふもとのイタリアンレストランでチームメートと落ち合った。第1ステージの個人タイムトライアルを終えた時点で、セバスチャン・モラの24位が最高位。チームとしては思わしくない成績だが、短いタイムトライアルでの差は、翌日から始まる山を含むコースで十分に挽回可能だ。皆、余裕のある面持ちで、心地よいひとときを愉しんだ。

 3月から寮に入って選手生活を共にしている和田(力)とダイキ(安原大貴)、スペイン人のモラ、アイラン(・フェルナンデス)、ベンジャミン(・プラド)は、まだ難しい会話はできないが、お互いに雰囲気をつかんで交流できるようになってきた。スペイン人が、覚えたばかりの片言の日本語で話しかけ、若者らしいふざけ合いでコミュニケーションを図る。チームの雰囲気も少しずつまとまっていくのが嬉しい。お互いを理解し合って厳しいレースに臨むための信頼関係は、こうしたちょっとしたやりとりがきっかけに深まるものだ。

ダイキとアイランの腕相撲ダイキとアイランの腕相撲
マトリックスでは睨めっこも大事なコミュニケーションのひとつマトリックスでは睨めっこも大事なコミュニケーションのひとつ
バレンシア地方出身のベンジャミンはオレンジジュースにはこだわりがあるバレンシア地方出身のベンジャミンはオレンジジュースにはこだわりがある
パターゴルフを楽しむスペイン3人組パターゴルフを楽しむスペイン3人組
睨めっこで3戦3勝中の和田選手睨めっこで3戦3勝中の和田選手

 美濃ステージのコースを試走するため、選手達がチームウェアに着替えた。そこはやはり自転車選手、すぐにピリッとしたオーラに包まれる。レースを直前に控えた選手の自転車の調整は、極めてナイーブだ。練習で走り慣れたポジションであっても、試合前になると違和感を感じる事がある。直感と経験を生かしながら、ミリ単位でサドルやシューズのクリートを調整。翌日のステージの自分を想像しつつ、美濃のコースへ走りに出かけた。

ジャージを着ると歩く姿勢もすぐに引き締まるジャージを着ると歩く姿勢もすぐに引き締まる
自転車に乗る事が仕事の選手たちには常にメカニックが帯同する自転車に乗る事が仕事の選手たちには常にメカニックが帯同する
新しく使うシューズの形状を確認するモラと安原監督新しく使うシューズの形状を確認するモラと安原監督
注意すべきライバル選手のリストをテープに記して自転車に貼る注意すべきライバル選手のリストをテープに記して自転車に貼る
シマノレーシングチームは洗濯機も持参シマノレーシングチームは洗濯機も持参
1人40分ほどマッサージを行う1人40分ほどマッサージを行う

 試走が終わると、私の仕事が始まる。選手の脚の状態を聞きながら、ホホバオイルに安らぐ香料を足した自前のマッサージオイルで、入念に選手をマッサージする。選手によって筋肉や関節の硬さもそれぞれ。疲れやすい部位も、自転車のポジションやペダリングによって変わる。マッサージ中に話すテーマは、彼らの性格や状況に応じて合わせてあげる事が大切だ。

 選手のマッサージをしている最中、園田メカニックは翌日のレースに向けて選手の自転車を完璧に掃除し、駆動系を細かく調整していく。食事とマッサージを終え、選手が一息ついた後は、安原監督が翌日のステージへ向けたミーティングを行い、再びピリッとした気持ちに整えて解散した。

選手は食事の時間が常に待ち遠しい様子選手は食事の時間が常に待ち遠しい様子
はしの使い方を指導されるベンジャミンはしの使い方を指導されるベンジャミン
補給食作りもマッサージャーの役目補給食作りもマッサージャーの役目
各選手の要望に添って補給食を作る各選手の要望に添って補給食を作る
和田はレースの準備を整えて寝るタイプのようだ和田はレースの準備を整えて寝るタイプのようだ

コンディショニングは朝食から

 レースの日、選手のコンディショニングは朝食から始まる。胃の負担がレースを左右しないよう、スタートのおおよそ3時間前に朝食を取るのが鉄則とされている。朝9時のスタートに向け、6時頃から選手が朝食会場にやってくる。

 ハイカロリーな食事を強いられるため、選手によって朝食の取り方にかなり特徴がでる。和田は、腹持ちがよく血糖値の上昇が比較的ゆるやかな米を好んで食べる。甘いものが好きなスペイン人達は、ご飯にジャムや蜂蜜をかけて食べる。ダイキはシリアルやパンを好んで食べるようだ。

 彼らの好みを知り、あらかじめ朝食にプラスアルファーのメニューを用意しておくのも私の役目だ。朝食の時間に合わせて、数種類のシリアルやジャム、蜂蜜を準備する。

スタート前の大事な朝食はシリアルもエクストラで用意するスタート前の大事な朝食はシリアルもエクストラで用意する
白米にもハチミツをかけるアイラン白米にもハチミツをかけるアイラン
リクエストの補給食を選手ごとに袋分けして用意するリクエストの補給食を選手ごとに袋分けして用意する
レース中に配るボトル。中身は主にスポーツドリンクを薄めたものだが、時にコーラも飲むレース中に配るボトル。中身は主にスポーツドリンクを薄めたものだが、時にコーラも飲む
「がんばってくるよ」と微笑むモラ「がんばってくるよ」と微笑むモラ
パレード走行を終えスタートする選手たちパレード走行を終えスタートする選手たち

 食後に1時間ほど休んでから会場入りし、いよいよ美濃ステージが始まった。私は補給所へ移動し、補給の周回を再確認後、前半に使う主にアイソトニック系のボトルを用意した。

 1周目の補給所付近を宇都宮ブリッツェンの阿部選手が独走で入ってくる。その15秒後、大集団からアイランが単独で飛び出してきた。身を低くして突進してくる様は、先行に追いつく気迫にあふれている。先頭の山岳ポイント通過を伝える無線から、アイランが阿部選手に追いついて逃げグループを形成したとの情報が流れてきた。

 メーン集団から奪った15秒の差は、次のアナウンスで40秒、2周目に入ると1分へと広がっていた。大集団の後ろに隊列するマトリックスのチームカーからは、「逃げが決まりそうだ! 次の周回から山岳賞を狙っていけとアイランに伝えろ」とメカニックの園田さんから伝達を受ける。阿倍選手と共に補給所へ差し掛かったアイランにその事を伝えると、口元をキリッと引き締めて頷いた。

逃げたアイランが山岳賞を獲得

 山岳賞ポイント通過の知らせを、不安と期待を交錯させながら待っていると、阿部選手が取ったという補給スタッフ達の声が聞こえた。しかし次の瞬間、公式アナウンスとしてアイランがポイントを獲得したと放送された。ギリギリで競り合ったであろうアイランの姿が頭をよぎる。いよいよ本格的なレースが始まった。

選手の大集団の後ろにはチームカーの隊列がひしめく選手の大集団の後ろにはチームカーの隊列がひしめく
補給地点の道路脇には大量の飲食物やスペアホイールなどが積まれる補給地点の道路脇には大量の飲食物やスペアホイールなどが積まれる
選手のアクシデントも頻繁に起きる選手のアクシデントも頻繁に起きる

 1分だった差は、次の山岳賞ポイントの周回では3分へ。再び阿部選手との一騎打ちとなり、アイランが獲得する。3回ある山岳賞ポイントのうち2回を獲得したこの競り合いで、アイランのこの日の山岳賞は決定した。

 そしてレース後半に向けて、追走のメーン集団が急速にペースを上げ始めた。「捕まるなら、いい位置で捕まってくれ」と祈っていると、先行する2人の走りも再び力強さを増してきた。なんと3回目の山岳賞ポイントもアイランが獲得。そのまま猛追する集団にのまれたが、土壇場で発揮した底力に感服した。

第2ステージの山岳賞を獲得したアイラン第2ステージの山岳賞を獲得したアイラン

 アイランは最終周回で、パンクしたベンジャミンを助けるためメーン集団から少し遅れてしまったが、スプリンターのモラが単独で集団をかき分けて7位でゴール。マトリックスとしては、山岳賞ジャージ獲得と一桁の成績に満足の行く結果となった。

 レース後、すぐに次のステージが行われる長野県飯田市へ移動し、シャワーを浴びた選手から順にマッサージを始める。当然、この日奮闘したアイランには、格別長く手をふるった。

 翌日はツアーオブジャパン最大の難コースである南信州ステージ。ここ数年の展開の傾向を、安原監督が選手達に細かく説明した。アイランは1つでも山岳ポイントを1位通過すれば、山岳賞ジャージを維持できるほか、メーングループに残れば総合20位前後にジャンプアップできる。その事に着目させ、選手の意識をまとめるとともにモチベーションを高めた。アイランには、前半に逃げて最初の山岳ポイントを獲り、人数を減らしつつ追いついてくる集団を待つという作戦を提案した。

雨、寒さ、そしてハイスピードによる消耗戦

 5月21日、未明から降り出した雨はやむ事なく、肌寒い朝を迎えた。雨のレースに向かう選手達は、様々なリスクを予想し、いつもより表情が硬い。冷える身体の消耗も考慮し、普段よりさらに多くのカロリーを朝食から摂取していく。

 脚には雨用のオイルを塗り、レインジャケットやシューズカバーで少しでも雨と冷えへの対策を施す。スタート地点のJR飯田駅は、例年スタート会場となっている場所だけに、地元の応援がとても力強い。街の賑わいに圧倒されてか、一時的に雨脚が緩んだ中で選手達はスタートを切る事ができた。

山岳レッドジャージを着るアイランが雨模様の空を心配する山岳レッドジャージを着るアイランが雨模様の空を心配する
スタート前のマッサージスタート前のマッサージ
4月末に来日したベンジャミン。肌寒いステージにアームウォーマーを着用4月末に来日したベンジャミン。肌寒いステージにアームウォーマーを着用
アイランが着用する山岳賞のレッドジャージは、防寒のためほとんど隠れてしまったアイランが着用する山岳賞のレッドジャージは、防寒のためほとんど隠れてしまった
スタート前に微笑むベンジャミンと和田スタート前に微笑むベンジャミンと和田
第3ステージ直前の(左から)ベンジャミン、和田、ダイキ第3ステージ直前の(左から)ベンジャミン、和田、ダイキ
レースでにぎわう飯田の街レースでにぎわう飯田の街

 イタリアのランプレ・メリダやイギリスのラファ・コンドールJLTがまとまって作る集団のハイペースに、早くも1周目から調子を崩した選手が遅れ始める。補給所を通過する集団は、通り過ぎた数秒後に風が吹き抜けるほど速い。マトリックスのメンバー達の消耗がとても気になる。

 雨の日は身体が冷える分、余計にエネルギーを消費するので、補給食もカロリーを多くとれるように、ジェルをボトルに入れたり、糖分をすぐにとれるコーラを、炭酸ガスを抜いてボトルに入れたりして対策する。しかしながら前半の数周回は集団のペースが速く、選手達は補給を受け取る余裕すらない。

強い雨の降る補給所の様子強い雨の降る補給所の様子
ラファコンドール・JLTの補給スタッフはすごくお茶目だラファコンドール・JLTの補給スタッフはすごくお茶目だ
補給は選手のギリギリまで寄って行う補給は選手のギリギリまで寄って行う
補給所では惣菜をサービスしていただいた補給所では惣菜をサービスしていただいた
補給のリクエストをするモラ補給のリクエストをするモラ

アイコンタクトで意思疎通

 レースは中盤を過ぎ、逃げ切りが濃厚な30人ほどの先頭グループにベンジャミンが乗っている。第2グループにモラ、第3グループに和田とアイラン、少し離れてダイキが補給所にやってきた。

 先頭集団のペースがあまりに速いので第2グループが追うのをあきらめると、2分だった差が一気に5分、10分へと広がる。第2グループと第3グループはひとつになり、ねばったダイキもこのグループに戻ることに成功した。先頭グループはひたすら速いが、ベンジャミンは落ち着いている。通り過ぎ様にアイコンタクトで、自分の頑張りを伝えてくれた。

チームカーを運転しながら選手を見つめる安原昌弘監督チームカーを運転しながら選手を見つめる安原昌弘監督
補給所でリタイアした選手補給所でリタイアした選手
チームカーハンドルの横には選手リストを貼付けてあるチームカーハンドルの横には選手リストを貼付けてある
チームカーの後ろには代輪をいつでも取り出しやすいように配置するチームカーの後ろには代輪をいつでも取り出しやすいように配置する
ドリンクにカロリーのあるジェルを加えることもあるドリンクにカロリーのあるジェルを加えることもある

 第2グループは40人ほどの大集団となり、ベンジャミン以外のマトリックスのメンバーが全員残る事ができた。展開が確定した今、選手たちは消耗したエネルギーをいかに早く回復させるかが需要だ。補給するボトルも、甘めのジェルを入れ、給水と同時にカロリーがとれるように準備する。

 身振りから今にもエネルギーが切れそうなモラには、サコッシュという自転車用の袋にボトル2本、ジェル4本、ジャムを挟んだ小さなパンを5、6個入れて渡す事に成功。一つ胸を撫で下ろした。

 レースはいよいよ終盤。先頭集団はいよいよ最後の展開を迎え、高いスピードのままグループがばらけ始めた。ベンジャミンは力を振り絞って17位でゴールしてきた。疲れきっているはずなのに、バイクを降りるとあまりにいつも通りの口調でレースを振り返るベンジャミン。そんな彼に底知れぬ実力を感じつつ、労をねぎらった。他のメンバーも大きなグループで走り切り、マトリックスではベンジャミンの総合25位が最高位となった。

雨のレースに神経を使い疲れ果てる雨のレースに神経を使い疲れ果てる
湿布を貼ってあげるベンジャミン湿布を貼ってあげるベンジャミン

 第4ステージはタイム差が開きやすい富士山ステージ。選手には22日の下見の時点で勾配のキツさを十分確認してもらった。23日のレース本番では、総合成績を狙えるベンジャミンがどこまで上位に行けるか? 残るステージでの成功を強く願った。

富士山5合目で記念撮影富士山5合目で記念撮影
美濃ステージの山岳賞でプレゼントされた提灯を抱くアイラン美濃ステージの山岳賞でプレゼントされた提灯を抱くアイラン
富士山ステージを下見中のひとコマ富士山ステージを下見中のひとコマ
休息日に練習する安原監督を応援するアイランとモラ休息日に練習する安原監督を応援するアイランとモラ

(文・写真 管洋介)

管洋介
管洋介(すが・ようすけ)

think deep DEBO 所属 プロカメラマン
10歳よりサイクリングを始め、日本の島々を回り、16歳で自転車競技を始めてからはスペインをはじめ、ヨーロッパ、アフリカ、アジアへ世界が広がった。夢はメキシコのプロレス記者になること。2014年はMATRIX POWER-TAG所属で競技活動を行う。
1980年2月26日生まれ A型

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