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栗村修の“輪”生相談<22>20代女性「外国人選手が日本のプロチームに来て競技をするメリットとは一体何でしょうか?」

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 自転車競技において、外国人選手が日本のプロチームに来て競技をするメリットとは一体何でしょうか? ヨーロッパの方が確実にメジャーで、レースの賞金もチームの給与も良いでしょうし、もしアメリカ国籍の選手などでも、同じ外国で競技をするのなら日本に来るよりヨーロッパで競技をする方が良いのではないか、というのが個人的な見解です。

(20代女性)

 Jプロツアーという、いわば極東のローカルレースに外国人選手が参加している今の状況は面白いですね。中にはグランツールを走った選手までいるという、かつてないシチュエーションです。彼らは、日本のプロトンで賞賛されています。特に、日本の指導者層に。「さすが本場ヨーロッパの選手」「ハングリー精神が違う…」。

 でも、僕はそれは当たり前だと思います。彼らがハングリーなのは当然です。特に賞賛するようなことでしょうか?

 話が少し逸れてしまいました。彼らが日本に来るのは単純に生活のためです。イタリアやスペインの景気がよくないのはご存知だと思います。その影響は自転車界にも及び、大物選手ですらチーム探しに困るような状況です。失業率も高く、自転車選手が新しく職を見つけるのは容易ではないでしょう。どうにかして、喰っていかなければならない。養わなければいけない家族もいるかもしれません。

 そんな彼らの前に、ある程度の額を提示する日本のチームが現れたら、どう思うか。渡りに船、とはこのことではないでしょうか。もちろん、本場の選手にとって「日本に行く」という選択肢は都落ちです。けれど、それ以上に切実な生活の問題があれば、プライドをかなぐり捨ててでも行かざるを得ないでしょう。

チームUKYOで昨年Jプロツアーを制したホセビセンテ・トリビオは、ブエルタ・ア・エスパーニャを3度完走した経験を持つ。リカルド・ガルシアは昨年限りで解散したエウスカルテルからの移籍チームUKYOで昨年Jプロツアーを制したホセビセンテ・トリビオは、ブエルタ・ア・エスパーニャを3度完走した経験を持つ。リカルド・ガルシアは昨年限りで解散したエウスカルテルからの移籍

 誤解を恐れずに言えば、日本に来る選手は「傷物」です。来期の契約が見つからない、ドーピングの噂があるチームにいた…等々です。過去に何も問題がなく、グランツールの勝利を狙えるような選手が日本に来ることはありえません。傷物の選手が、生活のためにやってきている。それだけの話です。

 ところが日本人は、それを妙な精神論で美化してしまう。やっぱり欧米の選手は凄い、という美談になっちゃうんですね。外国人選手ももちろんオトナですから「日本の自転車界の発展に尽力したい」とか、嬉しいことを言ってくれます。それは一面の真実ですし、大歓迎なのですが、それ以上にリアルな本音はあるでしょう。

 はっきりいえば、日本の自転車界の欧米崇拝的な部分が日本人の目を曇らせているのだと思います。彼らがハングリーで、必死で勝ちを狙うのは本場の選手だからではなく、喰わなければいけないからです。もし彼らに日本人選手と同程度の経済的基盤があれば、ハングリーにはならないでしょう。

 あるいは、日本人選手だって同じ状況に置かれればハングリーになるはずです。名誉ではなく、生活のために。腹が減っては、ロードレースはできません。

 じゃあ、日本人の若手選手を同じ状況に置けばいいのか。僕はまったくそうは思いません。自国の経済危機を歓迎するつもりはありません。外国人選手のハングリーさを、まったく条件が違う日本人に当てはめるのはナンセンスです。外国人選手は、今まで述べた様な理由で高いモチベーションで走っている。それは、単にそういう社会・経済状況があるというだけです。真似をする必要はありません。日本人には日本人なりのモチベーションの上げ方があるはずです。

 ただし、僕は外国人選手の参入は基本的に歓迎です。レースのレベルが上がりますし、彼らの目に日本のレースがどう映っているかが気になるからです。

マトリックスパワータグに所属するセバスチャン・モラは、トラック競技のスペイン代表としてロンドン五輪に出場した経験を持つ。マトリックスには今季3人のスペイン人選手が加入したマトリックスパワータグに所属するセバスチャン・モラは、トラック競技のスペイン代表としてロンドン五輪に出場した経験を持つ。マトリックスには今季3人のスペイン人選手が加入した

 彼らには、当然ですが、欧米崇拝はありません。また、「生活のため」というシンプルでリアルな理由で動いていますから、変に精神論で目が曇ることがないんですよ。その彼らから見た日本のレースが、日本人から見たそれとは違い、意外と評判がいいのは興味深いところです。どうやら、日本のレースは日本人が思っているほど悪いものじゃないらしいということです。

 市民レースも含めて色々なレースがあって、チームがあり、それらを楽しんでいる人たちがいる。お金もある程度もらえる。つまり、ロードレースがビジネスとして成り立っているならばそれでいいじゃん、という考えです。もちろん国内のレース環境には様々な問題がありますし、ちゃんとビジネスとして成り立っているわけではありません。まず重要なのは、レースがあり、観客がいて、選手たちが生活できるというビジネスを成立させることです。

 ところが、肝心の日本人が理想ばかりを見て、この本質を見落としてしまっては困ります。結局、欧米だろうが日本だろうが、選手も人間であり、生活をしなければいけないということです。霞を食べながら走ることはできません。リアルに現状を分析して、スポーツビジネスを自転車の世界にも築かないといけないと思うんです。

 …こういうことを本場の選手が言うとみんな納得してくれるんですけれど、日本人の僕が言ってもイマイチ響かないようです。でも、一歩一歩がんばります。

(編集 佐藤喬・写真 米山一輝)

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 「宇都宮ブリッツェン」テクニカルアドバイザー、「J SPORTS」サイクルロードレースレース解説者、「ツアー・オブ・ジャパン」副イベントディレクター。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
 ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまでお寄せください。

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