走破すると、また訪れたくなる橋を巡り、島を感じた90km サイクリストの聖地「しまなみ海道」一日縦走記
広島・尾道と愛媛・今治を結ぶ「しまなみ海道」は、本州と四国の間を自転車で走破できる唯一のルートだ。今や日本国内はもとより、海外のサイクリストの間でも知名度が高くなっている。いつかは走ってみたい―と思っていた憧れのコースを、ついに訪れる機会がやってきた。瀬戸内の多島美を、自転車で巡っていこう。 (レポート 米山一輝)
今回は尾道から今治まで、途中6つの島を縫うように走る。1979年に本四架橋で最初に開通した大三島橋から、最も新しく1999年に開通した、世界初の3連吊り橋でもある来島海峡大橋など、架かる橋もバラエティに富んでおり、本四架橋の歴史を巡ることができるルートでもある。
最新ロードバイクで快適サイクリング

愛車を持っていくのも良いが、レンタサイクルも便利。しまなみ海道を全線走破すると最低でも約70kmあり、走り通すならスポーツバイクを選びたい。今回は「ジャイアントストア尾道」のレンタサイクルを利用。尾道に新しくオープンしたサイクリスト向け複合施設「ONOMICHI U2」内に今年3月オープンした同ストアは、駅からも徒歩約5分とアクセスしやすい。
お借りしたバイクは「DEFY 3」というモデル。完成車価格10万円(税抜)、シマノSORAコンポのアルミロードバイクだ。高級モデルではないが、ロードバイクとしての基本性能は必要にして十分。最新モデルで、整備状態も良いのが嬉しい。
自転車に乗って担いで楽しんだ尾道の景観

しまなみ海道を走る前日、尾道市内を少しだけサイクリングしてみた。個人的に気になっていたのが、尾道駅の裏の山上にそびえ立つ「尾道城」だ。よく見ると窓がガラス張りで、つまり「お城風の何か」なのだが、B級スポット好きには逆にワクワクさせられる。
山の裏側から上り、お城(残念ながら、だいぶ前に閉鎖されていた)や展望台、千光寺公園を一通り巡って、眼下の展望を楽しんだ。この日はスニーカーでバイクに乗ったので、帰りは表側の急な階段をバイクを担いで下った。パノラマの風景が徐々に手が届く距離になるのが楽しい。軽量で担ぎやすいスポーツバイクなら、乗るだけじゃなくこういう楽しみ方もありだ。



まずは渡船 いざ、しまなみへ
さあ、しまなみの旅に出発しよう。

まずは尾道駅前の港から、渡船で向島(むかいしま)に渡る。「全部自転車で走れる」というテーマがいきなり崩れてしまうが、向島に渡る尾道大橋は自転車で走るのにあまり適さない構造で、駅からは少々遠回りになってしまうこともあり、渡船利用が推奨されている。
船は頻繁に運航されており、料金も100円程度。生活の足として、ママチャリと共に乗る人も見られる。瀬戸内海では船がかなり気軽に使われているという印象を受けた。
5分ほどの乗船で向島に到着。渡船のターミナルを出ると、すぐにルートを示す「ブルーライン」が引かれているのが嬉しい。四国へのサイクリングのスタートだ。
島々を巡り、しまなみ海道の奥へ奥へ
「島に来た」という実感はさほどないまま8kmほど走ると、最初に渡る「因島大橋」が見えてきた。本四架橋の大動脈、瀬戸大橋に似たフォルムの2層構造(実はこちらが元祖らしい)。下層を歩行者と自転車、原付バイクが走る。橋へのアプローチは少々細い道を入っていくが、ブルーラインが引かれていて分かりやすい。それでもボヤボヤしていると曲がる道を見落として、突然ブルーラインがなくなったりするので、注意深く進もう。
因島(いんのしま)に渡ってすぐにある「はっさく屋」のはっさく大福は絶品。ここにはサッカーのマンチェスターユナイテッドをサポートする万田発酵の本社もある。5kmほどで次の「生口橋」に至る。すぐ向こうに見える陸地が違う島というのは、何だか不思議な感覚。橋を渡って逆方向から今まで走ってきた島を見返すのも、また不思議な感覚だ。


生口島(いくちじま)は海道上で広島県最後の島。ここまで来ると、本州側との関わりよりも、島として独立した文化圏という印象だ。先に渡った生口橋と、続く「多々羅大橋」は、巨大な斜張橋で、橋脚から斜めに真っ直ぐ張られたケーブルが精悍なイメージ。多々羅大橋は開通当時、この種の橋では世界最長だったそうだ。橋の両端がそれぞれ歩行者・自転車と、原付の道路となっている。自転車が通るのは、いわゆる「自歩道」の扱いとなるため、通行時は歩行者優先でスピードを調整したい。
橋を渡れば、いよいよ愛媛県だ。
サイクリスト必見の神社、造船所、そしてクライマックスの3連吊り橋

大三島(おおみしま)は、しまなみ海道で一番大きな島だ。島の名前はその大きさに由来するものではなく、全国の「三島神社」の総本社である大山祇神社(おおやまつみじんじゃ)の別名の「大三島」が、そのまま呼び名になったという。古くから神の島として栄え、国の名勝にも指定されている。大山祇神社にはユニークな「ヘルメット守」もあり、最短ルートからは外れてしまうが、ぜひ立ち寄りたい。
次に現れた「大三島橋」は、海道上に架かる他の橋に比べると少々可愛らしい。この橋を渡ると、伯方島(はかたじま)だ。「伯方の塩」が全国的に有名だが、造船の島でもある。ブルーラインから少し脇道にそれると、造船所のすぐ横を通り、建造中の船を間近に大迫力で見ることができる。
2つの橋が一体となっている「伯方・大島大橋」を抜け、大島(おおしま)の丘を越えると、いよいよ四国への最後の橋「来島海峡大橋」が目前に迫る。美しい3連吊り橋の展望は、しまなみ海道と言えば必ず出てくる有名なものだ。途中に2つの小島を飛び越え、全長は4kmを超える。さすがに長い。因島大橋と違って車道と同じ階層を走り、垂れ下がるケーブルを真横に見られるのも面白い。
ついに今治に到着 レンタサイクルなら帰りもラクラク

四国に上陸しても、ブルーラインは続く。JRの線路の隣を走り、30分足らずで目的地の今治駅前に到着した。高架化された駅の1階に「ジャイアントストア今治」があり、ここがこの日のゴールだ。しまなみ海道の両端にジャイアントストアが位置することで、一方で借りたロードバイクを、もう一方で返却する“乗り捨て”が可能になった(乗り捨てには予約と別料金が必要)。シャワーやロッカールームもあり、電車に乗る前にキレイに身だしなみを整えられる。自転車を返却して身軽になれば、お土産をたっぷり買う余裕も生まれる。
駆け足での縦断だったが、それでも島ごとの文化や魅力を垣間見ることができた。この日の走行距離は約90km。もちろん、見たかったものを全て1日で見られるわけがなく…そちらも、あちらも面白そうだったよなぁ、というポイントがいろいろ思い浮かぶ。しまなみ走破は、次なるしまなみ来訪の始まりなのかも知れない。