欧州現地レポート<上>フランスを拠点に“世界”を経験 水谷壮宏監督率いる「ブリヂストン アンカー サイクリングチーム」の挑戦

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ブリヂストン アンカー サイクリングチームの水谷壮宏監督ブリヂストン アンカー サイクリングチームの水谷壮宏監督

 日本を代表するプロ・ロードレースチームのひとつ「ブリヂストン アンカー サイクリングチーム」は、国際自転車競技連合(UCI)に登録するコンチネンタルチームで、活動拠点を埼玉県上尾市と、フランスの“へそ”となる中南部の都市、クレルモン・フェランに置く。Cyclistでは、この時季にフランスのレースを中心に転戦しているチームを追って仏クレルモン・フェランを訪れ、選手たちが共同生活を送る「ブリヂストンアンカーベース」などで密着取材を敢行した。

 日本チームに所属する日本人選手たちが、ロードレースの本場フランスのレースに挑むことには、一体どんな苦労や価値があるのだろうか? 今回は、同地に根を下ろしてチームを率いる水谷壮宏監督へのインタビューと、4月27日に行なわれたUCIカテゴリー1クラスのレース「ラ・ルー・トゥランジェール」のレポートをお届けする。

フランス、クレルモン・フェランの「ブリヂストンアンカーベース」フランス、クレルモン・フェランの「ブリヂストンアンカーベース」

フランスで監督業を再開

 「監督のオファーがあったのは、ガレージ製造業に携わっていた2012年。最後のチャンスだと思いました」

 ブリヂストン アンカーの選手を2006年で引退し、監督をしていたチームの解散を経て4年後のこと。前チームが好調だった矢先の解散に、くすぶる気持ちを抱きながら地元企業で働いていた水谷監督に訪れた転機だった。

水谷壮宏監督と夫人のセリンさん水谷壮宏監督と夫人のセリンさん

 フランス語を自由に操り、取材中にも友人や監督仲間からの電話をひっきりなしに受ける水谷監督。仕事を離れれば、ブリヂストンアンカーベースから通りを挟んで向かいに建つ自宅で、フランス人の妻セリンさん、そして12歳、7歳の娘たちと共に暮らしている。2人の娘は日本人選手たちや日本語に馴染み、逆に選手たちにとってはその愛くるしい笑顔が癒しになっているようだ。

 1989年に初めて生活の拠点としたクレルモン・フェランは、気がつけば「人生で一番長く住んでいる」場所になった。父親の仕事の関係から香港の日本人学校(中等部)で学び、そこでは「香港のトライアスロン大会でジュニアチャンピオンになるレベル」だったという水谷少年。卒業後の進路を考えた末に選んだ道は、「当時どんどんはまっていった」というロードレースを極めるために、本場フランスで学ぶことだった。

本場で育まれた元選手だからこそ

 知り合いを頼って移り住んだクレルモン・フェランでは、初めて出たレースで優勝。高校に通いながら地域のチームで練習し、経験を積んでいったという。

 「競技スポーツが学校単位で行われる日本と異なり、フランスではあらゆるスポーツが町のクラブチーム単位。学校が変わった、あるいは卒業したといった理由で所属チームを変える必要がありません。また、自分もそうでしたが、最初は地元チーム、そこで認めてもらったら次はとなり町の大きなチームというように、チームをステップアップしていくこともできます。より強くなるために圏外のチームを選択できるのはいいシステムですし、自分にも可能性があるんだと気づくことができるんですね」

チームカーにスポンサーのステッカーを貼るのも監督の仕事チームカーにスポンサーのステッカーを貼るのも監督の仕事
ラ・ルー・トゥランジェールのスタート会場に並んだチーム関係車両ラ・ルー・トゥランジェールのスタート会場に並んだチーム関係車両

 フランスでのプロ選手育成システムを、スタート地点から自身で経験してきた水谷監督だからこそ、日本のロードレースや選手に対しても一家言を持つ。フランスの自転車連盟が運用するプロリーグについて「ドクターを含めチームスタッフの人数が規定されているなど、チームにしっかりした体制が求められ、選手には賃金も社会保障もサラリーマンと同じように与えられる。強い選手は『プロになればやっていける』ことが保証されている上、ライセンス料収入や、連盟が営業して獲得するスポンサー料など活動資金も十分に用意されている」と述べた上で、日本では「プロ選手がプロとして認められていない」と指摘する。

 日本のレース環境について水谷監督は、「レース数が少なく、高い交通費を払って参加しても、距離が短いレースがあるだけ―ということが多い。(プロ選手をサポートするために)チームカーが出走して当然の本格的なロードレースでも、それが許可されていないことがあり、理解に苦しむ」とコメント。記者が、日本ではチームで参戦していない選手も多いのではないかと質問したところ、「チームとしてまとまっていない場合はチームカーがなくても困らないと思う。それよりも、見かけばかり(ヨーロッパのレースの)真似をするのではなく、レースに必要な体制を整え、本来のプロのロードレースをするべきだ」と、本場の厳しさの中で奮闘するプロチームの監督として、誇りをもった答えが返ってきた。

“水谷流”プロの磨き方

ラ・ルー・トゥランジェールの受付会場で大会運営者にあいさつをする水谷監督。招待制のフランスのレースでは大切な仕事のひとつラ・ルー・トゥランジェールの受付会場で大会運営者にあいさつをする水谷監督。招待制のフランスのレースでは大切な仕事のひとつ

 ブリヂストン アンカーにはフランス人選手のトマ・ルバ、ダミヤン・モニエも所属している。水谷監督は「フランス人の力を借りて強くなってほしい」と話すが、その意図する点は必ずしもチーム内のことに留まらない。数多く出場するフランスのレースで、強さやスキルを身につけていってほしいという願いがあるのだ。フランスには「普段、苦いスープを飲んでいれば、ほかが甘く感じる」ということわざがあるという。その教訓を引き合いに、水谷監督は「本場のロードレースという苦いスープを飲み続け、その経験をもって日本へ帰ってほしい」と語った。

 また、今季新加入した椿大志と寺崎武郎のような若手選手に対しては、「1年目はダメで当たり前。時速50kmで走り続けることはできないし、そのまま上りきれる場所でもギアチェンジをしてしまうというように、スピードについていくためのパワーがない。これにはインターバルトレーニングが重要です」と、求められる能力や対応策を的確に指摘した。

監督会議でコースをチェックする水谷監督監督会議でコースをチェックする水谷監督
夕食を終えると選手を集めてレース前のミーティングを行なう夕食を終えると選手を集めてレース前のミーティングを行なう

 練習だけでなく実践の場を大切に考える水谷監督ゆえに、頭を悩ませるのはいつも「どの選手にどのレースを走らせるかという割り振り」だという。「以前は、伸び盛りの選手をさらに勢いづけようと期待して、大きなレースへ無理に出走させたこともあったけれど、結局、成長するかしないかは選手次第。あまりいろいろと考え込まず、シンプルにやるようにしています」と、監督としての心構えを語った。

悪天候に苦戦も…ハイレベルなレースに学ぶ欧州での経験

 チームを率いて2シーズン目となる2014年は、トマ・ルバがアルジェリアのレース「ツアー・インターナショナル・セティフ」で総合優勝を飾ったほか、タイでのステージレース「ツアー・オブ・タイランド」でも好成績を残し、チームの出足は好調だ。

ラ・ルー・トゥランジェールのスタート前にお披露目されたブリヂストン アンカーのマシンラ・ルー・トゥランジェールのスタート前にお披露目されたブリヂストン アンカーのマシン

 4月27日に挑んだ「ラ・ルー・トゥランジェール」は、今年初めてのUCI1クラスのレースとあって、気合いとともに水谷監督の期待も大きかった。ところが、当日の天候は冷たい雨と風。完走者が4割程度となった厳しいレース展開の中で、ブリヂストン アンカーも苦戦を強いられた。

スタート前、熱心な地元ファンにサインを求められ、快く応じる選手たちスタート前、熱心な地元ファンにサインを求められ、快く応じる選手たち
出走サインに向かうブリヂストン アンカーの選手たち出走サインに向かうブリヂストン アンカーの選手たち

 レースが始まると、前週からコンディションが優れないという寺崎が早々に脱落。寒さに凍えながらアップをしていた井上も、続いて回収され、「キツかった」とつぶやいた。初山、ルバも最初の補給ポイントで脚を止めた。110kmを過ぎたところで内間、モニエが「集団についていけなくなった」とレースを終え、ゴールへたどり着いたのは清水のみ。完走選手55人のうちのひとりだ。

小さな街をチームトラックが走り抜けてゆく小さな街をチームトラックが走り抜けてゆく
ランチにサンドイッチを頬張りながらも、水谷監督のレースを追う目は真剣ランチにサンドイッチを頬張りながらも、水谷監督のレースを追う目は真剣
回収された機材を受け取る井上選手回収された機材を受け取る井上選手
まもなく過酷な200kmを走り終える清水都貴選手まもなく過酷な200kmを走り終える清水都貴選手

 この結果について水谷監督に感想を求めると、しばらく考えたのちに「UCI1クラスのレースだということを痛感した日」と、自身にも言い聞かせるようにレースを振り返った。「アップダウンのある200kmのコースで、(カテゴリーの高さを反映した)ハイスピードレースが展開された。さらに悪天候とあいまって、この結果。本当はみんなもっとできるはずなのに…。早く散った(寺崎)武郎、(井上)和郎、(伊丹)健治、(初山)翔にはがっかりだし、(内間)康平とダミヤン(・モニエ)にはもうちょっと頑張ってもらいたかった。その中で(清水)都貴の調子がいいとわかって嬉しい」

レース後、選手たちの話を聞くためにさりげなく現れた水谷監督(左)レース後、選手たちの話を聞くためにさりげなく現れた水谷監督(左)
ラ・ルー・トゥランジェールに出場していた宮澤崇史選手(ヴィーニファンティーニ・NIPPO・デローザ)が水谷監督のもとへあいさつに来たラ・ルー・トゥランジェールに出場していた宮澤崇史選手(ヴィーニファンティーニ・NIPPO・デローザ)が水谷監督のもとへあいさつに来た

 結果を残せなったレースについて「“苦いスープ”になってしまいましたね」と話した水谷監督だが、すでに気持ちは「ツアー・オブ・ジャパン(TOJ)」に切り替えており、週明けからのトレーニングは「仕上げの乗り込み」を行なっていくという。「TOJでは総合優勝を狙います。ということは、富士山ステージを含め区間優勝が必須」と、目標は明確だ。「レースは練習として数をこなしていく。選手たちは、ダメだったレースも含め、いま自分たちが何をやっているのかを理解しているはずです」と、選手たちへの厚い信頼を胸に、まもなく日本での決戦に向けて帰国する。

→<中>料理、洗濯、トレーニング! フランス拠点に潜入取材

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