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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<59>新たな夢は2度目の“トリプルクラウン” フィリップ・ジルベールの復活に迫る

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 20日のアムステル・ゴールドレース(オランダ)で幕を開けたアルデンヌクラシック。新城幸也(チーム ヨーロッパカー)の10位入賞という快挙もあり、日本のロードレースファンが大熱狂したレースとなりました。そして、このレースで完全復活を印象付けたのがフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)。アルデンヌ3連勝を挙げた2011年以来の勝利で現実味を帯び始めた彼の「新たな夢」と、復活の理由に迫ってみたいと思います。

復活を印象付けるアタックで、ライバルを一気に引き離したフィリップ・ジルベール(アムステル・ゴールドレース2014)復活を印象付けるアタックで、ライバルを一気に引き離したフィリップ・ジルベール(アムステル・ゴールドレース2014)

順調な調整でアムステル・ゴールドレースを勝利

 1982年生まれ、今年の7月に32歳となるジルベールは、早くから頭角を現し、毎年大小さまざまなレースで勝利を挙げてきた。ベルギーの有力選手の多くが北部・フランデレン地域出身で、フラマン語(オランダ語方言)を話すのに対し、ジルベールは数少ない南部・ワロン地域出身のライダー。フランス語圏で育った彼だが、ジュニア時代にはすでに流暢なフラマン語を話し(ワロン地域ではフラマン語を話せない人も多いと言われている)、その人間性と持って生まれた才能から得られたものは多いはずだ。

シュレック兄弟を振り切り、フィリップ・ジルベールはアルデンヌクラシック3連勝を達成した(リエージュ~バストーニュ~リエージュ2011)シュレック兄弟を振り切り、フィリップ・ジルベールはアルデンヌクラシック3連勝を達成した(リエージュ~バストーニュ~リエージュ2011)

 そんな彼が一大センセーションを巻き起こしたのは2011年シーズン。アムステル・ゴールドレース、ラ・フレーシュ・ワロンヌ、リエージュ~バストーニュ~リエージュと、アルデンヌクラシック3連勝を挙げたばかりか、その1年で18勝を挙げる大活躍。アルデンヌクラシックの時期だけで見ると、この3レース以外にもアルデンヌ前哨戦と言われるブラバンツ・ペイル(UCI1.HC)でも勝利。約10日間で4勝を挙げる離れ業を演じている。

 一方で、BMCレーシングチーム入りした2012年以降の2年間は精彩を欠いた。2012年はカウベルグが決戦の舞台となったロード世界選手権こそ勝利したものの、マイヨ・アルカンシエルを着用した2013年はブエルタ・ア・エスパーニャでの1勝のみ。マイヨ・アルカンシエルを1年着用し、それを手放した際には「このジャージがこれほどまでにプレッシャーになると思わなかった」とのコメントを残したほどだ。

 つらい日々を乗り越えて迎えた2014年シーズン。前年冬のチームビルディングキャンプの頃から手応えを口にし、シーズンイン時も順調にトレーニングを積んだことを強調。最終調整として出場したブエルタ・アル・パイス・バスコ(4月7日~12日)では総合25位だったが、アルデンヌに向けて視界は良好だったようだ。16日のブラバンツ・ペイルでスプリント勝利を挙げると、その4日後のアムステル・ゴールドレースでの勝利。カウベルグでの圧倒的な爆発力に、強いジルベールの復活を見た人も多かったことだろう。

完全復活の理由はウエイトコントロールか?

 アムステル・ゴールドレースの勝ち方を見る限り、完全復活したと言っていいだろう。無敵状態にあった3年前と比較し、「シーズン序盤から勝っていた当時の方が今より強かったと思う」と本人は分析しているようだが、シーズンを送るうえでのスタンスが当時から変わっており、一概に比較しにくいのも事実である。

 オメガファルマ・ロットに所属していた2011年当時は、ほぼ「ジルベールのワンマンチーム」の様相となっていた。スプリンターのアンドレ・グライペル(ドイツ)の加入や、ユルヘン・ヴァンデンブロック(ベルギー)のグランツールでの台頭こそあったものの、ジルベールの一声ですべてが回るようなチーム事情にあった。

 一方で、現チームはグランツールの総合成績を狙うことのできる選手が複数揃っており、それら選手たちを中心にチームが動いている。ジルベール自身もそれは想定内で、「グランツールやステージレースではアシストを務めたうえで、クラシックでの勝利を狙っていく」との考えに至っている。したがって、以前のようにシーズン序盤から勝ち星を重ねていなかったとしても、不安視するポイントではないと捉えるべきだろう。

復活の優勝を挙げたフィリップ・ジルベール。体が相当絞り込まれている(アムステル・ゴールドレース2014)復活の優勝を挙げたフィリップ・ジルベール。体が相当絞り込まれている(アムステル・ゴールドレース2014)

 では、どこに着目したらいいだろうか。

 日頃からレースをチェックしている目の肥えたファンなら、彼の体が相当絞り込まれているのに気が付いているだろう。特に脚に注目してほしい。かなり細くなっている。走るうえで不要なものをギリギリまで削ぎ落とした印象だ。

 これについてはジルベール自身も認めており、冬のトレーニング時から体重を上手くコントロールできていたことを明らかにしている。どうやら今までにない感覚のようで、「体重と走りの関係は興味深い。オーバーウエイトこそがサイクリストにとっての敵だ」とのコメントも残している。

 完全復活のカギは、彼自身のフィジカルにあると言えそうだ。

3年ぶりのアルデンヌ3連勝なるか

 こうなってくると、アルデンヌ3連勝に期待が高まる。ラ・フレーシュ・ワロンヌ、リエージュ~バストーニュ~リエージュの2レースはベルギー開催。リエージュの隣町ヴェルヴィエで生まれ育った彼にとっては、ホストレースとなる。

息子に勝利をプレゼントしたフィリップ・ジルベール(アムステル・ゴールドレース2014)息子に勝利をプレゼントしたフィリップ・ジルベール(アムステル・ゴールドレース2014)

 本人のモチベーションも高い。特に、家族の見ている前で勝利することが目下の夢だったという。アムステル・ゴールドレースでは、2年ぶりに妻とわが子が観戦に訪れ、見事に勝利シーンをプレゼントすることができた。3年前に生後間もないわが子を抱いてポディウムに上がった姿が印象的だったが、今年のポディウムでは成長した姿をお披露目。一緒にガッツポーズをしてみせるなど、家族との時間を楽しみながらレースに臨んでいる。

 次なる夢は、トリプルクラウン(アルデンヌ3連勝)だ。トライできる資格があるのはジルベールただ1人。もっと言えば、前哨戦のブラバンツ・ペイルでも勝利しており、3年前と同様に4連勝する可能性も高まっている。ライバルは多数立ちはだかるが、今の勢いがあれば、それを打ち破るだけの力はあるはずだ。

ラ・フレーシュ・ワロンヌ、リエージュ~バストーニュ~リエージュ展望

 春のクラシックシーズンは、残り2戦。23日のラ・フレーシュ・ワロンヌと、27日のリエージュ~バストーニュ~リエージュ(ともにベルギー)となった。

 ラ・フレーシュ・ワロンヌは、昨年205kmと距離が長くなったが、今年は199kmと再び200km以下の距離で行われることに。登坂ポイントは11カ所あるが、最大の注目はミュール・ド・ユイ(ユイの壁)だ。

 登坂距離1.3km、平均勾配9.3%、上りの後半には最大勾配26%に達する激坂が勝負のときを待つ。レースではユイの壁を3回通過するが、頂上ゴールとなる3回目の上りで勝敗が決するのは間違いないだろう。ラスト10kmは、ゴールスプリントさながらの位置取り合戦が繰り広げられるはずだ。

ホアキン・ロドリゲス(左)とダニエル・マーティンがゴール前の上りで競り合った(リエージュ~バストーニュ~リエージュ2013)ホアキン・ロドリゲス(左)とダニエル・マーティンがゴール前の上りで競り合った(リエージュ~バストーニュ~リエージュ2013)

 今回で100回目を迎えるリエージュ~バストーニュ~リエージュは、1892年に創設された世界最古のクラシックレース。アルデンヌクラシックの中でも、最も格式が高いレースとされている。こちらは263kmで争われる。コースは絶えずアップダウンが繰り返され、獲得標高は4000mを超える。

 ポイントは、残り44.5kmのコート・ド・ラ・ルドゥット(登坂距離2km、平均勾配8.9%)。さらに、昨年道路工事のため回避された残り19.5kmのコート・ド・ラ・ロッシュ・オウ・フォーコン(登坂距離1.5km、平均勾配9.3%)が復活。チーム2番手、3番手クラスの選手がアタックしはじめると、メーン集団の人数が大きく減ることだろう。

 そして、残り5.5kmのコート・ド・サン・ニコラ(登坂距離1.2km、平均勾配8.6%)が最後の難所。その後はゴールへの緩やかな上りとなる。サン・ニコラまでに決定的な動きが起きなかった場合は、数人または集団でのゴールスプリントとなる可能性が高い。

 2レースともに中心となる存在は、ジルベールとアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)か。ミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド、オメガファルマ・クイックステップ)もアムステル・ゴールドレースでの走りを見る限り、十分にチャンスはあるだろう。

ユイの壁を飛ぶように駆け上り優勝したダニエル・モレノ。今年は連覇がかかる(ラ・フレーシュ・ワロンヌ2013)ユイの壁を飛ぶように駆け上り優勝したダニエル・モレノ。今年は連覇がかかる(ラ・フレーシュ・ワロンヌ2013)

 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム カチューシャ)は、ラ・フレーシュ・ワロンヌでは2連覇のかかるダニエル・モレノ(スペイン)のアシストに回る構え。アムステル・ゴールドレースでの落車負傷の影響が心配されるが、予定通りレースには臨む。

 マイヨ・アルカンシエルを着るルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)、安定感のあるバウケ・モレマ(オランダ、ベルキン プロサイクリングチーム)、スピード勝負になれば強いエンリーコ・ガスパロット(イタリア、アスタナ プロチーム)にも期待。サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)は、リエージュのみに集中する。

 アムステル・ゴールドレース10位の新城もリエージュ参戦が決定。アップダウンへの対応は問題ないだろう。もつれた展開になればなるほど、持ち前のスピードを武器に上位進出のチャンスが広がる。2レース連続の入賞なるか。

今週の爆走ライダー-サムエル・サンチェス(スペイン、BMCレーシングチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 「あと2週間で所属チームが決まらなければ引退する」と悲壮な決意を語った1月下旬。その数日後に彼を迎えたのは、UCIワールドツアーきってのビッグチームだった。

 そこで待っていたのは、アシストとしての役割。これまで何年もにわたりエウスカルテル・エウスカディのエースに君臨し、バスクチームの英雄(サンチェス自身はアストゥリアス人)として慕われてきた彼が、ビッグチームでアシストを務める。かつてオリンピックで金メダルを獲ったことを思えば、一見プライドが傷つきかねない待遇と言える。だが本人は、「チームが決まらないつらさを思えば、今は大いに幸せだ」と話す。

 アムステル・ゴールドレースでは、“アシスト・サンチェス”の本領が発揮された。最後のカウベルグ。有力選手たちの焦りと消耗を生んだ一気の飛び出しで、エースのジルベールの勝利を大きく引き寄せた。真のBMCレーシングチームの一員となったばかりか、名アシストとしての可能性を感じさせる熱い走りだった。

最後のカウベルグで気迫のアタック見せたサムエル・サンチェス(アムステル・ゴールドレース2014)最後のカウベルグで気迫のアタック見せたサムエル・サンチェス(アムステル・ゴールドレース2014)

 アルデンヌクラシックが終われば、カデル・エヴァンス(オーストラリア)のもとに合流し、ジロ・デ・イタリアに臨む。サンチェスといえば「ダウンヒル」が代名詞であるが、エヴァンスもダウンヒル巧者。山岳ステージでは上りはもちろんのこと、下りでの絶妙なアシストが見られるかもしれない。

 アルデンヌ残り2レースでのジルベール、続くジロでのエヴァンスの勝利は、申し分のない経験と実績、エースを勝利に導く走りも巧みなこの男にかかっている。それが実現したとき、彼にはもう1つ、「優勝請負人」という代名詞が加わることだろう。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介
福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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