ブエルタを初めて戦った日本人トップレーサー「敗北のない競技」とは 土井雪広が自伝で語る、本場のロードレースの輝きとリアルな舞台裏

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土井雪広著『敗北のない競技(レース)―僕の見たサイクルロードレース』(東京書籍) 帯の推薦文は『サクリファイス』『キアズマ』著者の近藤史恵さん土井雪広著『敗北のない競技(レース)―僕の見たサイクルロードレース』(東京書籍) 帯の推薦文は『サクリファイス』『キアズマ』著者の近藤史恵さん

 プロロードレーサー土井雪広選手の、自伝的スポーツノンフィクション『敗北のない競技(レース)―僕の見たサイクルロードレース』が出版された。土井選手は日本の現役トップレーサーの一人で、2012年のロードレース日本チャンピオン。グランツール(世界3大ステージレース)の一つ「ブエルタ・ア・エスパーニャ(スペイン一周レース)」に2011年と2012年、日本人として初めて出場し(現時点で唯一人)、また完走を果たしている選手だ。現在は国内トップチームの一つであるチームUKYOに所属している。

敗北のない競技(レース)―僕の見たサイクルロードレース
著者:土井雪広
出版社:東京書籍
体裁:186x132x20mm、240ページ
本体価格:1,500円
ISBN:978-4-487-80827-4

 そんな土井選手がこれまでの半生と選手生活を綴った自伝。彼の生い立ちから始まり、自転車競技にのめり込み、国内トップレーサーになり、ヨーロッパで走りながら年々強くなり、ブエルタを走り、ヨーロッパから帰国するまでが綴られている。時代を追いつつ、エッセイ風に短い各節の小さなテーマに言及していく形式だ。

 選手の日常から科学的トレーニング、レースの風景、オフ、チームの仲間やトップレーサーの横顔、フミ(別府史之)や幸也(新城幸也)のこと、そしてドーピングやクスリのことまで、彼がレーサーとしてこれまで体験してきたことが、率直な気持ちを通して書かれている。

 読んでいて面白かったのが、本書の中の土井選手がなかなか素直なところだ。ナマの土井選手は、自分の口から自転車ロードレースの素晴らしさを、情感たっぷりに語るようなタイプではない(少なくともレースの現場では)。そんな彼が自伝の中では、ファンに対して率直に感謝の気持ちを述べている。過去の生意気だった頃の自分を恥じる記述もあったりして、これは彼自身が伝えるメディアを変えることで、新しく話せることが出てくるのだろうと興味深かった。

 出版直前に土井選手と会って話を聞く機会があったが、「去年1年ほとんど、この本に費やしましたよ」と語っていた。会話の中では、ドーピングの問題や、お金の話、本場ヨーロッパに遠く及ばない国内ロードレースの現状など、競技界の暗部にも触れた。「全部書きました。変わって欲しいから」だという。

 一体どんな内容が書かれているのか…読むまでは戦々恐々としていたのだが、実際のところ、彼が打ち込んできた自転車ロードレースに対する愛情たっぷりの半生記になっている。すべてのエピソードがみずみずしく、彼の歩んできた道は苦しさや悲しさも含めて、著書の中でグランツールのプロトンのように美しい輝きを放っているのだ。

 2012年秋、2度目のブエルタを走り終えた後、当時の所属チームとの契約継続が叶わなかったことで、土井選手は帰国を余儀なくされた。キャリアの上では、大きな挫折だ。だが、そのおかげで本書がこのタイミングで出版できたことを考えると、決して悪いことではなかったとも感じられる。

 ロードレースは残酷な競技だ。200人が出走したとしても、勝てるのはたった一人。言い方を変えれば「常にほとんど全員が敗者となる競技」なのだ。しかし土井選手は「敗北のない競技」だと言う。そう感じるようになるまでのプロセスを、本書を読めば辿ることができるだろう。

 日本に戻ってからの土井選手自身のレースについては、特に触れられていない。あくまで2012年のブエルタ2度目のゴールが、本書のクライマックスだ。現在はこれまでと全く違うチームに身を置き、彼のキャリアは“第2章”に入ったといえるだろう。「片山右京さんと一緒にヨーロッパへ行く」と話している第2章でも、本を1冊出せるくらい、しぶとく活躍してくれることを願わずにはいられない。 (米山一輝)

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