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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<58>「パリ~ルーベ」勝負の真実 勝利の女神がテルプストラに微笑んだ理由は?

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 13日のパリ~ルーベをもって、春のクラシックシリーズ前半戦が終了。同時に、2014年の“北のクラシック”が終了しました。そのラストを飾ったのは、ニキ・テルプストラ(オランダ、オメガファルマ・クイックステップ)による鮮やかな独走劇。これまでも勝てる能力を証明していただけに、ついにその日がやってきた、という印象でした。今回は、選手たちのコメントなどからレースを振り返り、その勝負の真実に迫ってみたいと思います。

石畳のトロフィーを手にしたニキ・テルプストラ(パリ~ルーベ2014)石畳のトロフィーを手にしたニキ・テルプストラ(パリ~ルーベ2014)

クナーフェン、ボーネンの系譜をたどるテルプストラの勝利

 詳しいレースの流れなどはレポートをご覧いただくとして、早速本題へ。

 ニキ・テルプストラ。1984年5月18日生まれの29歳。トラック競技出身で、2005年には世界選手権・チームパシュートで銀メダルを獲得。2007年にチーム ミルラムでプロロード選手としての歩みをスタートさせた。

念願の優勝を飾ったニキ・テルプストラ(パリ~ルーベ2014)念願の優勝を飾ったニキ・テルプストラ(パリ~ルーベ2014)

 今年で7回目の出場となったパリ~ルーベで、念願の優勝を飾った。ゴール後には、「自転車競技を志した時からの夢が実現した!」とコメント。オランダ人ライダーのルーベ制覇は、2001年のセルファイス・クナーフェン(現・チーム スカイスポーツディレクター)以来13年ぶり。通算では6人目の勝者となった。

 テルプストラの勝利は遅かれ早かれ、運命づけられていたものなのかもしれない。というのも、チーム ミルラム在籍時の2009年にクナーフェンとチームメートとなり、ともに北のクラシックを転戦。クナーフェンが引退する2010年にも一緒にクラシックに臨んでいる。このときは2人とも目立ったリザルトを残すことはできなかったが、“クラシックの女王”に輝いた今、当時を振り返り「セルファイスは私にたくさんのことを教えてくれた」と述懐する。

ともに走るニキ・テルプストラ(左)とトム・ボーネン(ツール・デ・フランドル2014)ともに走るニキ・テルプストラ(左)とトム・ボーネン(ツール・デ・フランドル2014)

 また、チームの解散に伴い2011年から加入した現チームでは、早くからトム・ボーネン(ベルギー)に続くチーム2番手、または3番手としてのポジションが与えられた。加入当時のボーネンからの評価は、「アタック下手」。持ち前の独走力を武器にアタックを試みるも、「今ここで!?」と周囲が疑問に思うほど、妙なタイミングで飛び出してしまう選手だったという。

 さらに、ボーネンとはこんなエピソードがあるという。

 「ミルラム時代、彼はいつも私の後ろにピッタリとつけていて、レース中のトイレ休憩でも常に隣にいるほどだった。当時はさすがに彼を好きにはなれなかった(笑)」と冗談半分に語っている。テルプストラは、ボーネンを尊敬していると言い、フィジカルの問題から復調した今シーズン序盤には、自分のことのようにボーネンの走りに喜びを見出していた(詳しくは当コーナー第50回「今週の爆走ライダー」をご覧いただきたい)。

 どんなライダーにも、チームメートや指導者とのよき出会いがあるものだが、テルプストラにとっては、クナーフェンとボーネンという最高の“お手本”が間近にいる環境が、プラスに働いたのだろう。

追わなかったのか、追えなかったのか 残り6.3kmの攻防

2位以下の選手たちはニキ・テルプストラから20秒遅れでゴールした(パリ~ルーベ2014)2位以下の選手たちはニキ・テルプストラから20秒遅れでゴールした(パリ~ルーベ2014)

 パリ~ルーベ2014の結末は、思いのほかあっけなく訪れた。スルスルと前に出て行ったテルプストラが、そのまま抜け出してゴールへ急いだ。ゴールまで9kmを残して11選手が一団となった混戦のレースに、終止符が打たれた瞬間だった。

 テルプストラが勝負に出た最後の6.3kmに何があったのだろうか。当事者である複数の選手のコメントを基に結論を導き出すと、「誰もが消耗しきっていて、追うことができなかった」となるようだ。

 こればかりは言っても仕方がないが、レース中の国際映像では、テルプストラを追う10選手の動きがいまひとつ伝わってこなかった。ファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック ファクトリーレーシング)や、ペテル・サガン(スロバキア、キャノンデール)といった有力選手をアップで映し出すことが多く、集団全体の動きを捉えていなかったからだろう。

ゲラント・トーマス(右)とトム・ボーネンはレース中盤に先行したことで消耗(パリ~ルーベ2014)ゲラント・トーマス(右)とトム・ボーネンはレース中盤に先行したことで消耗(パリ~ルーベ2014)

 まず、テルプストラを追う姿勢を見せたのは、ゲラント・トーマス(イギリス、チーム スカイ)だったという。結果的に9位となるチームメートのブラッドリー・ウィギンス(イギリス)の状態がすこぶる良く、ウィギンス自身が勝負することを望んだことから、トーマスがアシストに。しかし、レース中盤でボーネンらとともに先行した際のダメージがあったため、思うように追い切れなかった。

 また、この日は北からの風が吹き、選手たちにとっては向かい風を受けながらのレースでもあった。それによって消耗を余儀なくされたというのはカンチェッラーラ。早い段階でアシストを失ってしまい、単騎でのレースとなった彼にとっては、どんなにパワーとスピードを持っていても、避けられない疲労があったのだろう。

 そうした意味では、11選手の中に3人を送り込むことに成功したオメガファルマ・クイックステップからすれば、数的優位を生かした結果だったと言えそうだ。

オメガファルマ・クイックステップの勝因は“脱ボーネン”にあり!?

 最後に、オメガファルマ・クイックステップの勝因に触れたい。数的優位だと前述したばかりだが、具体的にはどのような動きだったのだろうか。

 チーム関係者、各選手が述べたのは、勝負においていくつかのオプションが用意されていたこと。「ルーベのヴェロドロームでのスプリントになればボーネンで勝負」を軸に、それまでの間はテルプストラとズデニェック・シュティバル(チェコ)がアタックし、ライバルの動きを誘うというものだった。

戦略通りにアタックを決め、勝利を手繰り寄せたニキ・テルプストラ(パリ~ルーベ2014)戦略通りにアタックを決め、勝利を手繰り寄せたニキ・テルプストラ(パリ~ルーベ2014)

 結果的にテルプストラによる最初の攻撃で勝負が決まってしまったわけだが、そこには“脱ボーネン”の趣があったことも事実だろう。アタックが決まれば、あとはゴールを目指す。テルプストラの勝利は、チームオーダーに基づいたものだ。

 これは、3月1日に行われたセミクラシック、オムループ・ヘット・ニュースブラッド(ベルギー、UCI1.HC)の反省もあるのだろう。一時は先行したテルプストラが、メーン集団に待機していたボーネンの合流を待とうと、周りの動きを見過ごしてしまうミスを犯していた。結局、勝負らしい勝負ができないままテルプストラがチーム最高位の5位でレースを終えた。

 「ボーネンの勝利に固執しすぎる」と言われていたチームだが、この大一番で“個の力”を重視した点は勝利とともに、十分な評価に値するものではないだろうか。

 いずれにしても、テルプストラがこの日強かったライダーであることは間違いない。もっとも、5つ星パヴェであるセクター4、カルフール・ド・ラルブルでは、カンチェッラーラらのグループを目指し、追走集団を牽引していたのである。そんな彼が最後の最後に見せた逃げ足は、強い者にしか発揮できない華麗な走りだったのだ。

アムステル・ゴールドレース展望

 春のクラシックは、舞台をオランダとベルギー南部のワロン地域へと移す。アルデンヌクラシックと呼ばれるシリーズは、20日のアムステル・ゴールドレース(オランダ)から始まる。

おなじみのカウベルグを上る選手たち(アムステル・ゴールドレース2012)おなじみのカウベルグを上る選手たち(アムステル・ゴールドレース2012)

 レースは昨年からゴール地点が変更に。2012年のロード世界選手権での成功を受け、おなじみの上り、カウベルグ(登坂距離800m、平均勾配12%)を通過したのち、1.8kmの平坦路を経てゴールとなる。

 ゴール前の上りを含め、カウベルグを4回通過する。そのほか、全部で33カ所の上りが待ち受け、獲得標高は4000mを超えるサバイバルレースだ。優勝争いは、カウベルグでのアタック、その後の平坦でのゴールスプリント、さらには昨年のように終盤からの逃げなど、いくつものパターンが考えられる。

 前回優勝のロマン・クロイツィゲル(チェコ、ティンコフ・サクソ)は、2連覇をかけてスタートラインに就く。クラシックハンターとしては、復権を狙うフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)、サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)らに注目。

 クライマーやオールラウンダーにもスピード自慢が揃う。ホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム カチューシャ)、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)は順調な調整ぶり。ルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)は、マイヨ・アルカンシエルでの初勝利なるか。カルロスアルベルト・ベタンクール(コロンビア、アージェードゥーゼール ラモンディアル)、ミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド、オメガファルマ・クイックステップ)といった若手にも大いに期待したい。

 チーム ヨーロッパカーからは、新城幸也がエントリー。ブエルタ・アル・パイスバスコ(バスク一周)では、中盤ステージまで総合上位争いやゴールスプリントに加わるなど、調子の良さをアピール。クラシックでの走りにも期待が膨らむ。

今週の爆走ライダー-ギヨーム・ヴァンケールスブルク(ベルギー、オメガファルマ・クイックステップ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 長身にしっかりとした体躯。その風貌から、ベルギーでは“ニュー・トム・ボーネン”との呼び名がつけられた。

 ボーネンに似たライディングフォームは、経験豊富なベルギーの実況アナウンサーでさえも見間違えるほど。ともに身長は192cm、体重はヴァンケールスブルクが85kg、ボーネンが82kgと、体型までそっくりだ。

 今月上旬に行われたステージレース、デ・パンネ3日間(ベルギー、UCI2.HC)で総合優勝。これが認められ、念願のツール・デ・フランドル、パリ~ルーベのメンバー入りを果たした。フランドルは44位、ルーベは84位と自身のリザルトには結びつかなかったが、レース序盤から中盤にかけての集団牽引やポジション取りに従事。チームにしっかりと貢献した。

集団を牽引するギヨーム・ヴァンケールスブルク(パリ~ルーベ2014)集団を牽引するギヨーム・ヴァンケールスブルク(パリ~ルーベ2014)

 ジュニア時代は、個人タイムトライアルで国内チャンピオンとなり、19歳の若さで現チーム入り。1963年のプロロード世界チャンピオンで、ツール・ド・フランスでのステージ優勝経験もあるブノニ・ブエイ氏を祖父に持ち、その才能は誰もが認めるところだ。

 ボーネン、ジルベールらベルギーのスター選手たちが30歳代となり、新世代の台頭に期待がかかるなか、23歳の彼の登場は願ってもないことのようだ。すでにチーム内での信頼も勝ち取り、今後は得意のシチュエーションで勝利の量産といきたい。

 そして、いつかは祖父の偉業に並ぶことができるだろうか。彼の未来は、今まさに切り拓かれたばかりである。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介
福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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