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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<57>“不言実行”の男・カンチェッラーラ フランドル優勝は弱点強化の成果か

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 6日に行われたツール・デ・フランドル。予想だにしない幕切れが観る者を感動させるレースではありますが、今年も我々を驚かせる激闘が繰り広げられました。そして勝利したファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック ファクトリーレーシング)。新たに追加した勲章は、昨年のパリ~ルーベに続くスプリントによるもの。今回の勝利と彼の過去の結果を比較しながら、レースを振り返ってみたいと思います。

またひとつ、大きな勲章を手に入れたファビアン・カンチェッラーラ(ツール・デ・フランドル2014)またひとつ、大きな勲章を手に入れたファビアン・カンチェッラーラ(ツール・デ・フランドル2014)

「スプリント勝負は厳しい」との見方は見直すべきか

 カンチェッラーラといえば、勝負どころで圧倒的なパワーを見せつけ、独走で勝利するのがお決まりのパターン。その牽引力ゆえ、ライバルにマークされアタックを封じられると、一方的に牽きを任され、ゴールスプリントで敗れるといったケースも少なくはなかった。または、周囲に先頭交代のローテーションを求めているうちに、先行する選手の逃げ切り、または後続の合流を許すといった展開もしばしば。圧倒的な脚力は、ときに賭けになることもあるが、それでも勝つときのインパクトは他には真似のできない、彼だけが持ちうる強さである。

セップ・ヴァンマルクを引き連れて走るカンチェッラーラ(ツール・デ・フランドル2014)セップ・ヴァンマルクを引き連れて走るカンチェッラーラ(ツール・デ・フランドル2014)

 今回のフランドルでは、先にアタックを仕掛けたグレッヒ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)、スティーン・ヴァンデンベルフ(ベルギー、オメガファルマ・クイックステップ)に合流し、最終局面を迎えることになった。さらには、3回目のオウデ・クワレモントからは、昨年のパリ~ルーベで死闘を繰り広げたセップ・ヴァンマルク(ベルギー、ベルキン プロサイクリングチーム)を引き連れてしまった。

 スプリント力の高いヴァンアーヴェルマートとヴァンマルクが先頭集団に含まれたことは、カンチェッラーラがどこかでアタックを成功させない限り、勝機を逸する可能性が高まる。

 というのが、これまでの彼だった。

カンチェッラーラは、感情を爆発させるように何度もガッツポーズ(ツール・デ・フランドル2014)カンチェッラーラは、感情を爆発させるように何度もガッツポーズ(ツール・デ・フランドル2014)

 何度か試みたアタックは力なく、結局スプリントに委ねられた最終局面。スプリント力の高い2人の“ヴァン”が同時にカンチェッラーラへのマークを外した瞬間だった。真っ先にスプリントを開始したが、高出力のペダリングは得意とするところ。トップスピードに乗ると、そのままゴールへと飛び込んだ。落ち着いたイメージの強い彼がなかなか見せることのない歓喜のリアクションを示したあたりに、このレースの難しさと勝利の喜びが込められているといえるだろう。

 ここで、カンチェッラーラのクラシックにおける勝利と敗北を、レース展開・勝利のパターンから振り返ってみたいと思う。なお、勝負に絡まなかった、絡むことができなかった、勝負以前に諦めた、などといったケースは敗北の例には含めない。

■勝利

・パリ~ルーベ2006 →独走
5つ星パヴェ、カルフール・ド・ラルブルで独走態勢を築き、2位に1分48秒差をつけてクラシックレース初優勝。
 
・ミラノ~サンレモ2008 →逃げ切り
最後の難所・ポッジオの下りを終え、ゴールまでの平坦路でアタック。4秒差で逃げ切り。
 
・ツール・デ・フランドル2010 →独走
カペルミュールの上りでアタック。並走していたトム・ボーネン(ベルギー、当時クイックステップ)を圧倒し、最終的に1分15秒差で勝利。
 
・パリ~ルーベ2010 →独走
ゴールまで50kmを残したモンス・アン・ペヴェルを利用してアタック。驚異的な走りに「モーターバイク疑惑」が浮上するほどの強さを発揮。
 
・ツール・デ・フランドル2013 →独走
3回目のパテルベルグでペテル・サガン(スロバキア、キャノンデール)を圧倒。得意の形で危なげなく勝利。
 
・パリ~ルーベ2013 →スプリント
集団の動きに気を遣いながら、慎重にレースを展開。一方で、複数のライダーに食らいつかれる苦しい走り。最後はヴァンマルクとのマッチスプリントを制する薄氷の勝利。
 
・ツール・デ・フランドル2014 →スプリント
前述の通り、4選手でのバンチスプリントを制しての優勝。

■敗北

・パリ~ルーベ2004 →4位・スプリント
4選手によるバンチスプリントは、最下位に。優勝はマニュス・バクステッド(スウェーデン、当時アレッシオ・ビアンキ)。
 
・パリ~ルーベ2008 →2位・スプリント
ボーネン、アレッサンドロ・バラン(イタリア、当時ランプレ)とルーベのヴェロドロームまでもつれた争いは、ボーネンに敗れ2位に終わる。
 
・ミラノ~サンレモ2011 →2位・スプリント
7選手に絞られた優勝争い。スプリンターのマシュー・ゴス(オーストラリア、当時HTC・ハイロード)のスピードに太刀打ちできず2位。
 
・ツール・デ・フランドル2011 →3位・スプリント
独走に持ち込もうと試みるも、先行していたシルヴァン・シャヴァネル(フランス、当時クイックステップ)に食らいつかれ、さらには後続の合流も許す格好に。結果、終盤に合流したニック・ナイエンス(ベルギー、当時サクソバンク・サンガード)の後塵を拝す。
 
・パリ~ルーベ2011 →2位・逃げ切り
ヨハン・ヴァンスーメレン(ベルギー、当時ガーミン・サーヴェロ)らが含まれた大きな逃げ集団の追走を試みるも、有力選手が次々と追随。自チームから逃げに選手を送り込んでいなかったことが災いし、自力での追走を余儀なくされる。結果的に、ヴァンスーメレンの逃げ切りを許してしまう。
 
・ミラノ~サンレモ2012 →2位・スプリント
ポッジオで強力なアタックを見せるも、サイモン・ゲランス(オーストラリア、当時グリーンエッジサイクリング)とヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、当時リクイガス・キャノンデール)が合流。ほぼ1人でゴールまで牽引する格好となり、最後にゲランスに先行されてしまう。
 
・ミラノ~サンレモ2013 →3位・スプリント
7選手による優勝争いに、スプリンターを含んだことが誤算に。スプリンターのゲラルト・ツィオレク(ドイツ、MTN・クベカ)が優勝し、自身は3位。
 
・ミラノ~サンレモ2014 →2位・スプリント
26選手によるゴールスプリントに。強烈な伸びを見せるも、アレクサンドル・クリツォフ(ノルウェー、チーム カチューシャ)のスピードに屈する。

 こうして見ると、彼の勝ちと負けの形がある程度パターン化しているのが分かる。一方で、ここ2年ほどで、スプリントで勝利するケースや、勝てないまでもあと一歩のところまで迫るレースも増えているのが実情である。

 これらを単にレース展開の綾と見るべきか。筆者的には、パターン化しているレース展開や、33歳という年齢などを踏まえ、さまざまなレース展開に応じたトレーニングを施しているのではないかと見ている。もっと言えば、カンチェッラーラ自身のフィジカルが頭打ちの状態であることや、若手の台頭により、これまでの戦い方に難しさを感じているのではないかと思っている。結果的に、戦い方の幅が広がっていると言って良いだろう。

昨年のパリ~ルーベでもスプリントで勝利したカンチェッラーラ。今年はどんな走りを見せるのか昨年のパリ~ルーベでもスプリントで勝利したカンチェッラーラ。今年はどんな走りを見せるのか

 もっとも、個人タイムトライアルで全盛期にあった5年ほど前、将来的にオールラウンダーとしてグランツールの総合を狙ってみてはどうか、といった話題がいくつも挙がった。当時は本人も乗り気で、自信満々なコメントも多かった。しかし、彼が選択したのはクラシック路線。そして世界選手権ロードでのマイヨ・アルカンシエルの獲得を目標とするもの。その過程で、彼が必要と感じたものが「スプリント力」だとしたら、妙に納得できるのは筆者だけだろうか。

 いずれにせよ、トレーニングに関してはあまり多くを語らないカンチェッラーラ。不言実行で、日々の努力をレースで発揮していることだけは間違いないだろう。

パリ~ルーベ2014展望

 北のクラシックの花形、“北の地獄”ことパリ~ルーベが4月13日に行われる。

アーレンベルグを走るペロトン。過酷なパヴェセクションが選手たちを待ち受ける(パリ~ルーベ2013)アーレンベルグを走るペロトン。過酷なパヴェセクションが選手たちを待ち受ける(パリ~ルーベ2013)

 257kmで争われる今回、大小28ものパヴェ(石畳)セクションが設けられる。それぞれのセクションには5段階の難易度が設定される。最初の注目ポイントである18番アーレンベルグ(161.5km地点、距離2.4km)、10番モンス・アン・ペヴェル(208km地点、距離3km)、4番カルフール・ド・ラルブル(240km地点、距離2.1km)に最高の5つ星が与えられている。例年、この3カ所で決定的な動きが起こっている。昨年はカルフール・ド・ラルブルで、優勝争いに加わっていたヴァンデンベルフ、ズデニェック・シュティバル(チェコ)のオメガファルマ・クイックステップ勢が、立て続けに観客と接触するアクシデントに見舞われている。

 やはり本命はカンチェッラーラ。ルーベ4回目の優勝が懸かる。ライバルのボーネンは、北のクラシックで今のところ不発。ここで奮起が期待される。オメガファルマ・クイックステップ勢は、ヴァンデンベルフやシュティバル、ニキ・テルプストラ(オランダ)も控え、あらゆる展開に対応する。

 昨年あと一歩で勝利を逃したヴァンマルクは今度こそ勝利なるか。フランドルで見せ場を作ったヴァンアーヴェルマートも有力。スプリントになれば大いにチャンスが膨らむのは、クリツォフやジョン・デゲンコルプ(ドイツ、チーム ジャイアント・シマノ)。

 久々のルーベで未知数なのがペテル・サガン(スロバキア、キャノンデール)。それでも、2008年にはジュニア・パリ~ルーベで2位に入っており、適性は十分。3年ぶりの参戦となるブラッドリー・ウィギンス(イギリス、チーム スカイ)も前半戦最初の目標レースとしてルーベに臨む。

今週の爆走ライダー-マイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 現在開催中のブエルタ・シクリスタ・アル・パイス・ヴァスコ(バスク一周)。バスク自治州の州都であるビトリアへゴールする第3ステージで勝利。スプリンターに出る幕がないとさえ言われる山岳オンパレードのレースにあって、意地のスプリントを見せた。

 「上りに強いスプリンター」であることは、早くから証明してきた。日本のファンにとって印象深いのは、オーストラリアの育成チーム「チーム ジャイコ・スキンズ」時代の2010年。ツアー・オブ・ジャパン、堺ステージの個人TTを桁違いのスピードで制すると、リーダージャージを3日間着用。大会後半の富士山ステージでは、並み居るクライマーに混じり、4位フィニッシュ。関係者を驚かせる快走を披露した。

 同年には、世界選手権U-23ロードでマイヨ・アルカンシエル獲得。翌年にはラボバンクに加入し、ワールドツアーデビューとなったツアー・ダウンアンダー第3ステージ勝利。この時も上りスプリントを制したものだった。

 ラボバンクでの2年間を経て、2013年からは現チームで活動。スプリンターであると同時に、その登坂力や牽引力を買われ、山岳アシストを務めることもある。それでも、本人の意識はやはりスプリンター。昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでのステージ2勝は、大きな自信になったという。

第21ステージ、マドリードで大会2勝目を挙げたマイケル・マシューズ(ブエルタ・ア・エスパーニャ2013)第21ステージ、マドリードで大会2勝目を挙げたマイケル・マシューズ(ブエルタ・ア・エスパーニャ2013)

 当初チームの顔に据える予定だった、マシュー・ゴス(オーストラリア)が苦戦を続ける現状で、マシューズのスプリントに期待する向きは高い。その実力はもちろんのこと、23歳という若さを前面に押し出した明るい性格、甘いルックスと3拍子揃った彼には、チームの看板を背負う資格が十分にある。

 そしていつの日か、エリートクラスでのマイヨ・アルカンシエルを獲得し、サイクルロードレース界の顔になる日が来るかもしれない。彼の姿からは、それくらいの魅力を感じずにはいられないのである。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介
福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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