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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<56>北のクラシック2強時代に新風吹く? フランドル、ルーベを狙う新勢力に迫る

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 北のクラシックは早いもので、E3 ハーレルベーケとヘント~ウェヴェルヘムが終了終了しました。そして、山場であるツール・デ・フランドルが6日に、パリ~ルーベが13日と、壮絶な戦いのときが迫っています。これらのレースにおいて、長らく頂点に君臨してきた2人の王者、トム・ボーネン(ベルギー、オメガファルマ・クイックステップ)とファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック ファクトリーレーシング)はまだまだ健在。とはいえ、キャリア終盤に差し掛かりつつあり、彼らに代わる勢力も台頭しつつあります。そこで、2つのビッグレースを前に、絶対王者と新勢力の構図を確かめてみましょう。

パリ~ルーベでのボーネン(手前)カンチェッラーラの攻防(2006年)パリ~ルーベでのボーネン(手前)カンチェッラーラの攻防(2006年)

群を抜いて勝ちを“分け合う”2人のベテラン

 北のクラシックを熱くする2人の男、ボーネンとカンチェッラーラ。この時期になると2人の名前が必ず話題に上り、レースの結果が良かろうと悪かろうと決まってトップニュースになる。彼らが築き上げてきた実績とカリスマ性は、クラシックの時期にとどまらず、シーズンを通してプロトンのリーダー格としての地位を安定させている。

長年よきライバルとしてお互いをたたえ合ってきたカンチェッラーラ(左)とボーネン(2008年)長年よきライバルとしてお互いをたたえ合ってきたカンチェッラーラ(左)とボーネン(2008年)

 ツール・デ・フランドルとパリ~ルーベが間近に迫っているが、ここ10年間の両レースでの2人の勝利数は群を抜く。大会の歴史を見渡しても、この2人の優勝回数は際立っており、現役ライダーにして“レジェンド”の域に到達していると言っても良いだろう。ちなみに2005年以降、フランドルではボーネン3勝(2005、2006、2012年優勝)、カンチェッラーラ2勝(2010、2013年優勝)。同じくルーベでは、ボーネン4勝(2005、2008、2009、2012年優勝)、カンチェッラーラ3勝(2006、2010、2013年優勝)。ザッと見て、交互に優勝を分け合っている印象だ。

 フランドルとルーベは、その格はもとより、北のクラシックの中でもレースの難易度が格段に高い。展開によってはアシストをほとんど機能させられず、個々の脚力、フィジカルで勝負しなければならない展開を迎える。だからこそ勝つことが難しいわけで、前述のように10年間で数多くの勝利を挙げてきた2人の存在が、いかに際立ったものであるかが分かる。

ツアー・オブ・カタールで並んで走るカンチェッラーラ(左)とボーネン(2014年)ツアー・オブ・カタールで並んで走るカンチェッラーラ(左)とボーネン(2014年)

 ジュニア時代から各年代のレースを引っ張ってきた彼らも33歳になった。まだまだトップレベルの走りを見せているが、今後さらに何年も頂点に君臨し続けられるかといえば、そうとは言い難い。もっとも、カンチェッラーラは現チームとの契約が終了する2016年シーズンでの引退を示唆している点からも、“イケイケ”だった20歳代半ばのような走りは難しくなっているのだろう。

 また、思いがけないトラブルに見舞われることも増えた。キャリアを積んでいけば、その間に大なり小なり苦難が訪れるものだが、一歩間違えば選手生命を脅かしかねない大けがを負うこともしばしばある。直近だと、2012年にカンチェッラーラがフランドルで落車し、鎖骨を3カ所骨折。2013年の同レースでは、ボーネンが激しく落車し大会を去っている。

伸び盛りの若手はボーネンとカンチェッラーラを破れるか?

 一方、ときを同じくして頭角を現し始めた若い選手たちに、世代交代の可能性を予感する向きもある。若手がボーネンとカンチェッラーラを最後まで苦しめ、場合によっては彼らを打ち破る結果さえ出てきている。それも、運に味方されたのではなく、完全なマッチアップを制しての勝利が目立ってきているのだ。多くの選手が2人にチャレンジして跳ね返されてきた状況は、ここにきて変化しつつある。

 何より、新世代の若手は、王者2人を上回る“特殊能力”(得意分野)を持っていることが大きい。彼らはそれぞれ勝ちパターンを確立し、その状況まで持ち込めれば負けないとの意識の高さを持っている。

右から表彰台に上がったペテル・サガン、ジョン・デゲンコルプ、アルノー・デマール(ヘント~ウェヴェルヘム2014)右から表彰台に上がったペテル・サガン、ジョン・デゲンコルプ、アルノー・デマール(ヘント~ウェヴェルヘム2014)

 前置きが長くなったが、次世代の北のクラシック“王者”となる資質を有する4選手をピックアップしたい。もちろん、他にも有力選手が多数いることは理解しているが、今回は最近数レースの結果から、間近に控えたフランドルとルーベで大仕事をする可能性が高い選手を特筆させていただく。

■ペテル・サガン(スロバキア、キャノンデール、24歳)

<勝ちパターン: スプリント、アタック、独走>
昨年のヘント~ウェヴェルヘムで念願のビッグクラシック初優勝。今年はE3 ハーレルベーケで盤石の勝利を挙げた。フランドルは昨年2位のリベンジを、そして満を持して臨むルーベでは初優勝の期待がかかる。

■セップ・ヴァンマルク(ベルギー、ベルキン プロサイクリングチーム、25歳)

<勝ちパターン: アタック、スプリント>
2012年オムループ・ヘット・ニュースブラッドでボーネンに勝利。昨年のルーベではカンチェッラーラと死闘を繰り広げたものの、2位に敗れ涙をのんだ。急坂や石畳セクションでのアタックを得意とする。今シーズンは上位で安定。

■ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、チーム ジャイアント・シマノ、25歳)-勝ちパターン:スプリント

<勝ちパターン: スプリント>
スプリントで抜群の勝利数を誇るが、本人の意識は「ピュアスプリンターではなく、クラシックハンター」。そして、3月30日のヘント~ウェヴェルヘムで念願のビッグクラシック初勝利。脚質的にはフランドル向き。

■アレクサンドル・クリツォフ(ノルウェー、チーム カチューシャ、26歳)

<勝ちパターン: スプリント>
3月23日開催のミラノ~サンレモで優勝。悪コンディションへの適性を見せる。昨年はフランドル4位、ルーベ9位と大いなる可能性を感じさせた。両レースとも、優勝するとノルウェー人ライダー初の快挙となる。

 前述したように、彼ら4選手ともに得意分野・勝ちパターンが確立されており、それはクラシックのみならず、グランツールやステージレースでも活かされている。この点はスプリントのボーネン、タイムトライアルのカンチェッラーラにも通じるものがある。秀でたものを持っていることは、勝負をするうえでアドバンテージになることは間違いない。今回の両レースにおいて、彼らが得意とする展開に持ち込むことができるか、パワーとスピード、そして勝負勘を兼ね備え、それを発揮できるかが焦点となるだろう。

 王者は揺らぐことはないのか、はたまた気鋭のライダーが歴史を塗り替えるのか? われわれがその瞬間に立ち会うときは迫っている。

ツール・デ・フランドル(4月6日)展望

 クラシック至高のレース、ツール・デ・フランドルは6日に開催。開催地ベルギー・フランドル地方では、「ロンド・ファン・フラーンデレン」との名で呼ばれ、サイクルロードレースにおける最高権威の大会として扱われている。それゆえ、優勝者には最高の賛辞が送られ、ベルギー人ライダーの多くが「パリ~ルーベよりも勝ちたいレース」と述べるほど、その格式は高い。

 98回目を迎える今回は、259kmで争われる。登坂セクションは17、パヴェ(石畳)セクションは6となっているが、登坂セクションの中には石畳の箇所もあることから、実際に通過する石畳は16カ所となる。

雨のコッペンベルグを進む選手ら(ツール・デ・フランドル2013)雨のコッペンベルグを進む選手ら(ツール・デ・フランドル2013)

 なかでも注目は、コッペンベルグ(登坂距離600m、平均勾配11.6%、最大勾配22%)、オウデ・クワレモント(登坂距離2200m、平均勾配4%、最大勾配11.6%)、パテルベルグ(登坂距離360m、平均勾配12%、最大勾配20%)の3カ所。勾配が20%を超える箇所では、上りきれずに足を地面に付く選手や、バイクを押して走って上る選手、それらの動きによって起こる大渋滞などが混乱を引き起こすポイントとしてもおなじみだ。

 なお、コッペンベルグは215km地点、オウデ・クワレモントは109、205、243km地点の3回通過、パテルベルグも208、246km地点の2回通過する。

 展開としては、コッペンベルグでまず本格的なメンバーの絞り込みが起こるだろう。数十人のメンバーがそのまま前を急ぐか、後方から追う選手たちが合流するかでレース展開は変わる。

 3回目のオウデ・クワレモントは、ゴール前16km。確実に勝負のポイントとなる。昨年はカンチェッラーラがアタックし、ライバルの追随を許さなかった場所。最後のセクションとなる2回目のパテルベルグは残り13km。

 そこからはゴールまでおおむねフラット。現行のコースとなってからは、2012年は優勝したボーネンら3選手が逃げ切り、昨年はカンチェッラーラが独走。可能性としては、逃げ切りを図る選手を大集団が追う展開もあり得るが、急坂と石畳で脚を削った選手たちにとって、前を行く選手を追うことは困難なことが多い。元気な選手ほど先行し、ゴールまで逃げ切ることが容易となるコース特性といえるだろう。

 優勝候補や注目選手は前項を参照されたい。

今週の爆走ライダー-ジャンクリストフ・ペロー(フランス、アージェードゥーゼル・ラモンディアル)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 2013年7月17日、ツール・ド・フランス第17ステージ。総合9位と順調にレースを進めていた彼にアクシデントが起きる。個人タイムトライアルの試走中、下りの急コーナーで落車し、鎖骨にヒビが入った。その後、痛みを押して本番に臨んだが、同じコーナーで再び落車してしまい、鎖骨が完全に骨折。家族が見守る目の前での悲劇だった。

 世界中が悲鳴を上げたあの瞬間から8カ月、元気な走りを見せる彼の姿がプロトンにはある。3月29、30日に行われたクリテリウム・アンテルナシオナルで総合優勝。得意のTTで好位置につけ、山岳頂上ゴールもしっかりと走りきる彼本来のスタイルで勝利した。

ジロ・ディ・ロンバルティアで山岳路を走るジャンクリストフ・ペロージロ・ディ・ロンバルティアで山岳路を走るジャンクリストフ・ペロー

 2000年代はマウンテンバイク・クロスカントリー種目でフランス国内、ヨーロッパのレースタイトルを総なめにし、2008年の北京五輪では銀メダルを獲得。その傍らで出場していたロードレースだったが、2009年に個人タイムトライアルでフランスチャンピオンに。その後の世界選手権でも同種目11位となり、プロロードチームからのオファーが殺到した。

 ロードに本格デビューした時点で32歳。年齢だけ見れば「遅れてきたルーキー」だが、ロードキャリアが浅い分、まだまだ伸びしろはある。2011年に初出場したツールで総合9位。今年はさらなる活躍を期待できそうだ。

 カルロスアルベルト・ベタンクール(コロンビア)を筆頭に、戦力の向上が著しいチーム。その牽引役として、さらには若い力が集うメンバーをまとめることが、彼の役目でもある。

 本来はエンジニアという、インテリジェンスな一面もある彼。そこから弾き出される計算高い走りは37歳となる今年、より精巧緻密なものとなるだろう。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介
福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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