管洋介の「ロンダフィリピネス」レポート<下>地元フィリピン勢のプライドをかけた戦い 思わぬ土壇場の逆転劇とダイキの躍進

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 2月1日から16日にかけてフィリピンで開催された「Ronda a Phillipines」(ロンダフィリピネス)。ロードレースチーム「マトリックス・パワータグ」の一員としてレースを走ったプロカメラマンの管洋介さんによるレポートの最終回は、チームの若武者、安原大貴選手(ダイキ)の奮戦記の後半をお届けする。

第10ステージ、バッギオの高地クリテリウム第10ステージ、バッギオの高地クリテリウム

◇      ◇

第9ステージ・102km ダグパン → バッギオ
厳しい山岳に実力を発揮、元フランスチャンプのピーターが山岳の主役に

山岳賞を着るフランス人のピーター・ポーリー(INFINITO)山岳賞を着るフランス人のピーター・ポーリー(INFINITO)
第9ステージ、手作りのレッグウォーマーや手袋を売る商人。なんともたくましい第9ステージ、手作りのレッグウォーマーや手袋を売る商人。なんともたくましい

 2月10日(月曜日)、ダグパンをスタートし、標高1500mの山岳都市バッギオをゴールする102km。全身に疲労が溜まってしまったダイキには前夜マッサージを普段より長く施した。エタッパレイナ(山頂ゴールする最もドラマティックなステージ)となるこの日が、今回のロンダフィリピネスの目玉となっている。

 リーダーチームのセブンイレブンは、山岳前に極力細かいアタックに対応し体力を消耗しないよう、初っ端の逃げを容認。作戦通り見事に上りの手前でエスケープを捕まえ、レースは本当の勝負へ。ここで今回のロンダの真の実力者となる、タイのinfinitoチームのフランス人、ピーター・ポーリーが独りで飛び出していく。集団の力をもってしても彼のヒルクライムには手も足も出なかった。

第9ステージ試合前、14歳の女のコ達と第9ステージ試合前、14歳の女のコ達と

 ピーターが飛び出した直後、追いに出た集団は大分裂。やはり昨日の疲れが残ったダイキは、第2グループからも遅れてしまう。私が復調していて第2グループから遅れたダイキを引っ張り、なんとか20人のグループ戻し、最後の16%勾配が続く10kmを残して、ダイキに今の体調で行けるところまで頑張ってもらった。

 その第2グループも徐々に分解し、ダイキは10分遅れの36位でゴール。優勝のピーターは、聞けばMTBのフランス選手権を5回優勝し、オリンピックにも出たという実力者だった。

朝焼けのバッギオ朝焼けのバッギオ
標高1500mのバッギオの街で朝を迎えた標高1500mのバッギオの街で朝を迎えた
バッギオは比較的生活にゆとりのある街に見えたバッギオは比較的生活にゆとりのある街に見えた
久々の巻き寿司に喜ぶ安原監督久々の巻き寿司に喜ぶ安原監督
休息日は安原監督とサイクリング休息日は安原監督とサイクリング
第10ステージを迎えた面々第10ステージを迎えた面々

第10ステージ・89km バッギオ市内クリテリウム
ダイキがとうとう逃げ切る

マトリックスの安原昌弘監督。息子の活躍を熱い眼差しで見守るマトリックスの安原昌弘監督。息子の活躍を熱い眼差しで見守る
第10ステージ、前ステージは遅れてしまったため、少し緊張気味のダイキ第10ステージ、前ステージは遅れてしまったため、少し緊張気味のダイキ

 2月12日(水曜日)、1日の休日をはさんで、第10ステージは標高1500mのバッギオでクリテリウム。さすがにこの高度では、ゆっくり走っているだけでなんだか息苦しい。

 試合になるとどんな苦しさになるか未知数で、通常のステージより緊張感が増した。しかしながら、レースがスタートすると、直角コーナーやUターンが多いこのコースでは、日本人のコーナーリングのうまさが際立ち、苦しいながらも無駄の無いラインでレースを進める事ができた。

第10ステージ、台湾チャンピオンのフェン・チンカイとアタックするダイキ第10ステージ、台湾チャンピオンのフェン・チンカイとアタックするダイキ
第10ステージ、エスケープを潰しに隊列を組むリーダーチームのセブンイレブン第10ステージ、エスケープを潰しに隊列を組むリーダーチームのセブンイレブン
第10ステージ、調子が上がって来た向川選手第10ステージ、調子が上がって来た向川選手
第10ステージ、逃げ切ったレースを振り返るダイキ第10ステージ、逃げ切ったレースを振り返るダイキ

 前半に向川選手とダイキと3人で先頭付近を位置とり、アタックに対応していると、センスの光るダイキが単独で飛び出したのをきっかけに、15人程の各チームの選手を含むエスケープができた。1分離れるとセブンイレブンはこの逃げを潰そうとまとまってはいるものの、アップダウンとコーナーが続くこのコースに、各々のコーナーリングテクニックの差もあり、メーンとの差はどんどん開いていく。

 これに焦ったセブンイレブンの監督が、前のエスケープグループに入っていた同チームの選手を、メーン集団にバックして追走に加わるよう指示。前にいた選手もオーダーに困惑しながらエースのポジションを守る事に徹した。結局メーンは追いつく事ができず、エスケープグループは1分半のタイム差でゴール。優勝は韓国のイン・ジョン、第7ステージに続き2勝目を挙げスプリントの実力を見せつけた。

 ダイキは12位でゴール。連日のアタックが実ったステージになった。

大きな集団がうねりながら進むバッギオのクリテリウム大きな集団がうねりながら進むバッギオのクリテリウム
第10ステージ、ダイキを含むエスケープグループは掛け合いの展開に第10ステージ、ダイキを含むエスケープグループは掛け合いの展開に

第11ステージ・96km サンフェルナンド → バッギオ
再び1500mゴールのエタッパレイナ、ダイキが気を吐く

 2月13日(木曜日)、第11ステージは1500mの街バッギオからバスで海沿いの街、サンフェルンドまでバスで降りて、再びバッギオを別ルートで上る96kmのレース。

第11ステージの夜は韓国料理を愉しんだ第11ステージの夜は韓国料理を愉しんだ
山岳ステージ前に大きいギアを急遽取り付ける山岳ステージ前に大きいギアを急遽取り付ける

 前半にフィリピン・マニラを拠点とするプロチーム、PLTDマニラのジャンリー・ナバラを含む2人がエスケープ。しかし、第9ステージを制したフランス人ピーターを警戒する集団は、レース全体に山岳に備えて体力を温存する流れとなり、2人を逃がして進行した。

 ところが、レースにトラブルはつつきもの。最後の上りの中腹に至る場面でピーターの後輪がパンクしてしまった。既に彼のチームメイトが遅れてしまっているため、自力で先頭に復帰を目指す事に。ダイキも先頭集団で粘っていたが、数人で少し遅れ始めたところでピーターが後ろから上がって来た事により、再び先頭へ復帰を果たす事ができた。

 そして後ろを振り返る事無くゴールしたのは、前半から逃げていたPLTDマニラの21歳ジャンリー・ナバラ。「最後は国のため、自分の家族のために走った」とインタビューに答えた。ダイキも総合1位のセブンイレブンのガレドと大差なくゴール。チェーン落ちなどで脚を使ったが6位と大満足の結果で、これで総合を11位まで引き上げる事に成功した。総合トップは変わらず、セブンイレブンのガレド。

第12ステージ・157km アゴー → エンジェルシティ
平坦ステージに落ち着いた展開が続く

 2月14日(金曜日)、ルセナ島中腹の都市アゴーをスタートした集団は、総合が変動しにくい平坦基調のコースに、セブンイレブンのコントロールもあり落ち着き気味だ。それも前半の逃げにセブンイレブンの第2のエース、クリス・ホベンを乗せていることもあり、徹底的に逃げを追い潰す動きをせず、メーン集団のコントロールをしている展開だ。

第12ステージ、レース前もゆるめのマッサージを行う第12ステージ、レース前もゆるめのマッサージを行う
第12ステージ、平坦のステージにスタート前も穏やかなダイキ第12ステージ、平坦のステージにスタート前も穏やかなダイキ

 ダイキも前日の疲れもあり、翌ステージがアップダウンのキツいコースとあって集団の流れに準じた。このステージ 私は胃腸の疲れもあってか食べても嘔吐してしまう程調子が悪く、なんとかついていくだけの辛いステージとなった。口に物を入れる事もできず、最後の上りに差し掛かるところで吐き気のピークが来てしまい、監督に伝えてドロップアウト。メーンのゴールから20数分遅れてしまった。

 レースは、クリス・ホベンが小グループを制し第2ステージに続き2勝目。ダイキもメーン集団でゴールした。

第12ステージ、細かなアップダウンが続く。メーン集団も選手が削れてだいぶ少なくなった第12ステージ、細かなアップダウンが続く。メーン集団も選手が削れてだいぶ少なくなった

第13ステージ・149km エンジェルシティ → スビックベイ
総合争いの最終決戦ステージ

 2月15日(土曜日)、ロンダフィリピネスも終わりが近くなってきた。後半山岳ポイントが3つ続くこの山岳ステージも、フランス人ピーターに注目が集まる。

 セブンイレブンもこのステージでジャージを守り切れば、総合優勝がほぼ手中に収まることもあり、気合いを入れて出走。しかしこのステージ、Cycleline-Butuan Mindanao’sのレイモン・ラパサを含む逃げを、セブンイレブンが許してしまった。ラパサはチーム力は無いものの非常にうまい走りを続け、総合で2位まで上がって来ていた選手だ。

第13ステージで大逆転を果たしたレイモン・ラパサ(CYCLELINE Butuan)第13ステージで大逆転を果たしたレイモン・ラパサ(CYCLELINE Butuan)

 山岳までにラパサに力を使わせ、追いついてから更に引き離すイメージを持っていたセブンイレブンであるが、厳しい山岳に入ったところで、なんと総合1位のガレドが遅れをとり始めた。

 フィリピン南部のミンダナオ島のチームの一員であるレイモンはMTBの選手。ロードもフィリピン選手権で5位になっているが、MTB選手らしい独走力を武器に山岳ステージを逃げ切り、なんと3分程リーダーを引き離しゴール。ガレドから1分半のアドバンテージをもって、ニューリーダーとなった。ダイキも大分裂した山岳でなんとかフロントをキープし総合11位を死守した。

第14ステージ・90km マリキーナシティ クリテリウム
いよいよ最終日、最後まで波乱含みの展開

 2月16日(日曜日)、いよいよ最終ステージ。前日入れ替わったリーダーチームがどう動くかで、今日の試合が激しくなるかが決まって来る。当然守りに入るのがセオリーだが、チーム力がないButuanチームなので展開が読めない。私は第11ステージから調子を落としていたのが、激しい頭痛に変わり最終ステージ展開によっては自分自身危ないと感じていた。

 レースが始まると台湾チャンピオンのフェン・チンカイとPLTDマニラのロナルド・オランザが抜け出す。フェン・チンカイの走力はツールド台湾を翌月に控えていることもあり、相当強い。しかし今日のレースは一緒に抜け出したオランザが展開の要となった。彼が逃げている事で、チーム総合優勝でPLTDマニラと争っているTeam Navy(フィリピン海軍チーム)が追わないといけない展開となったのだ。

第14ステージ、気を吐く走りを魅せる向川選手第14ステージ、気を吐く走りを魅せる向川選手
フェン・チンカイ(台湾)とロナルド・オランザ(PLDT−Maynila)のマッチレースとなった第14ステージフェン・チンカイ(台湾)とロナルド・オランザ(PLDT−Maynila)のマッチレースとなった第14ステージ
爆発的なスプリント力と耐久力を持つ台湾チャンピオン、フェン・チンカイ爆発的なスプリント力と耐久力を持つ台湾チャンピオン、フェン・チンカイ

 ここで今大会初めてセブンイレブンチーム以外がレースをコントロールする事になった。ステージ優勝を目指すフェン・チンカイのあまりの走力にフィリピン海軍チームは5人で追っても追いきれず、タイム差を縮めるものの結局2人に追いつく事はなかった。

 第3ステージに続き優勝はフェン・チンカイ。必死で先頭を追ったフィリピン海軍チームは、ギリギリ25秒差でチーム総合優勝を守り、胸を撫で下ろした。一方ガックリと肩を落としたのが、13日間レースをコントロールし続けながらリーダージャージを失ったセブンイレブンだった。

第14ステージ、長かったステージに感傷に浸る向川選手第14ステージ、長かったステージに感傷に浸る向川選手
第14ステージ、レース後観客に写真をせがまれる筆者第14ステージ、レース後観客に写真をせがまれる筆者
地元フィリピン・マニラ勢の活躍に湧く観客地元フィリピン・マニラ勢の活躍に湧く観客
総合優勝はレイモン・ラパサ(CYCLELINE Butuan)総合優勝はレイモン・ラパサ(CYCLELINE Butuan)
団体総合首位を守った地元フィリピン海軍チーム団体総合首位を守った地元フィリピン海軍チーム

 ダイキ、向川選手もメーンで完走し、総合11位(外国人個人総合2位)を獲得。私も海軍チームがコントロールをしてことで、体調がひどい中完走する事ができたが、長いステージレースの洗礼を受ける事になった。

 14日間プレッシャーとともに走り続けたダイキは、開放感からか疲れが出て、レース後ぐったりとしている。この経験が彼の更なる躍進の起爆剤となることを願い、このロンダフィリピネスのレポートを締めたい。マトリックスを招待してくれたオーガーナイザー、レースに関わる全てのスタッフに感謝。

管洋介
管洋介(すが・ようすけ)

think deep DEBO 所属 プロカメラマン
10歳よりサイクリングを始め、日本の島々を回り、16歳で自転車競技を始めてからはスペインをはじめ、ヨーロッパ、アフリカ、アジアへ世界が広がった。夢はメキシコのプロレス記者になること。2014年はMATRIX POWER-TAG所属で競技活動を行う。
1980年2月26日生まれ A型

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