管洋介の「ロンダフィリピネス」レポート<中>南国フィリピンのレースに挑む マトリックス・パワータグと、チームの若武者ダイキの奮闘

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 2月1日から16日にかけてフィリピンで開催された「Ronda a Phillipines」(ロンダフィリピネス)に、日本からロードレースチーム「マトリックス・パワータグ」が出場した。同チームの一員としてレースを走ったプロカメラマンの管洋介さんによるレポート後半は、各ステージの様子とチームの戦いぶりを2回に分けてお届けする。

フィリピンの大地をレースの一団が駆け抜けていくフィリピンの大地をレースの一団が駆け抜けていく

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 フィリピン最大のステージレース「ロンダフィリピネス」は、国内フィリピンチーム同士のプライドがぶつかり合う、全14ステージ・約2000kmのドラマ。タイからやってきた最強の刺客である元フランスチャンピオンと、地元フィリピンのプロチーム、セブンイレブンの接戦の結末は、大どんでん返しのクライマックスを迎える。その裏で、マトリックス・パワータグ(以下マトリックス)の安原大貴選手は、外国人総合1位を目指して奮闘した。

オープニングセレモニーオープニングセレモニー
総合リーダーのレッドジャージ総合リーダーのレッドジャージ
マトリックスパワータグの使うフォーカス・イザルコマトリックスパワータグの使うフォーカス・イザルコ

第1ステージ・90km 市内クリテリウム
フィリピン勢の走りを垣間みたステージ

 2月1日(土曜日)、ロンダフィリピネスの開幕を告げるクリテリウムは、フィリピン経済の中心地であるマニラの北東に位置するケソンシティで行われた。

 気温は33度。冬真っ盛りの日本からやってくると息苦しいほど太陽が熱い。1978年に設立されたケソンシティのテーマパーク、ケソンメモリアルサークルの1周2kmの周回路をコースに行われた。 14日間のスタートを告げるこのステージは、観客への顔見せというより、選手同士がお互いの実力を見せ合う緊張したレースとなった。

第1ステージ、スタート地点へ向かう選手達第1ステージ、スタート地点へ向かう選手達
第1ステージ、マニラの交通事情は渋滞がつきもの第1ステージ、マニラの交通事情は渋滞がつきもの
排気ガスが舞い空気の良くないマニラ。民間のバスの質は決してよくない排気ガスが舞い空気の良くないマニラ。民間のバスの質は決してよくない

 フィリピン勢のレース運びは、ひたすらアタックを掛け合うのが特徴。何度もアタックして、その先で数人が固まって逃げとなる展開だ。マトリックスは初戦は様子見ながらというものの、落ち着かない展開に対応し、何度もアタックに挑戦しては捕まるという展開に苦しめられた。集団が大きく割れて分解するというよりは、1人、2人で飛び出し、先頭に追いつくという流れに、外国勢のどのチームも混乱気味であったが、やはり勝つ者は実力者だ。インドネシアのコンチネンタルチーム CCNのニュージーランド人、クリスティ・ジョンソンがフィリピン勢2人を抑えて優勝した。 安原大貴選手(以下ダイキ)は34位でゴール。

スタート地点は地元民が多く駆けつけるスタート地点は地元民が多く駆けつける
何度も選手が通過するクリテリウムは観客の声援が絶えない何度も選手が通過するクリテリウムは観客の声援が絶えない

第2ステージ・182km ムンティンルパ → シラング
ダイキの好調な走りに沸いたステージ

 2月2日(日曜日)、マニラ最南端のムンティンルパをスタートし、ルソン島南部を大きく一周、再び出発地の近くの街シラングに戻ってくる182km。スプリントポイントと山岳ポイントがそれぞれ3度設置され、レースの総合時間賞以外にポイント賞、山岳賞を狙う選手にとっても最初の重要なステージとなった。

 前半に2度続くスプリントポイントを狙い、スタートからアタックが続く激しい戦い。60km地点の最初の山岳ポイントから15%近い激しい勾配、そして湿気を帯びたうだる様な暑さに集団は大分裂。20人の先頭グループは、132km地点の3度目の山岳ポイントには10人に絞られ、この中にダイキが残った。

 チームカーでは安原昌弘監督が息子の健闘を興奮気味に見守る中、先頭では3人が抜け出しゴールは地元セブンイレブンのアイドル的選手、クリス・ホベンが優勝した。ダイキは7人のグループからさらに単独で抜け出して4位となった。好感触をつかんだダイキは、ゴール後も覇気のある表情で、続くステージに向けて自信を見せた。チームとしても総合9位につけたダイキを守っていく展開を主軸とすることになった。

スタート前にパンク。チームは色々なトラブルに素早く対応するスタート前にパンク。チームは色々なトラブルに素早く対応する
選手は全体のタイミングを見計らい用を足す選手は全体のタイミングを見計らい用を足す
車へ水分や食料の補給に降りてくる選手車へ水分や食料の補給に降りてくる選手
レース後のひとときレース後のひととき
第2ステージを4位で終えたダイキ第2ステージを4位で終えたダイキ

第3ステージ・144km アマデオ → サンパブロ
暑さに慣れ身体も動くようになった

 2月3日(月曜日)、マニラ湾に隣接する街アマデオをスタートし、ルソン島南部の1周40kmのカルデラ湖タール湖を半周し、サンパブロシティをゴールとする144kmのステージ。

 総合リーダー、クリス・ホベンを守るセブンイレブンのレースコントロールに始まったレースは、台湾チャンピオンのフェン・チンカイとフィリピン勢4人を逃がすレース展開。最後はフェン・チンカイが逃げ切った。ラスト5kmで私(管)を含む4人がメーン集団から抜け出すも、ゴール800mで韓国勢の猛追で集団スプリントになり、メーン集団の頭は韓国勢が制した。

第3ステージ、アマデオ近辺。スタート前のパレードの集団第3ステージ、アマデオ近辺。スタート前のパレードの集団
レース後はスタンドバーガーに寄るレース後はスタンドバーガーに寄る
まだステージ前半、元気のよい筆者とダイキまだステージ前半、元気のよい筆者とダイキ

第4ステージ・110km サンパブロ → ルセナ
少し調子を落としたダイキに山岳の厳しさが待ち受ける

手作りのキャリアを自慢する観客手作りのキャリアを自慢する観客

 2月4日(火曜日)、前日のゴール地点からルセナ島南部を大きく回り、ルセナに戻ってくる110km。40kmから始まる山岳と、その尾根を走るアップダウンがこのコースの特徴だ。

 山岳に入る手前で10人程の逃げが決まり、山岳でレースをコントロールしようとするセブイレブンも緊張感が漂う。上りに入ると急激にペースが上がり、メーン集団も分裂。ダイキが遅れてしまうも、復調していた私がダイキを引っ張り山岳賞ポイントの2km手前でメーングループへブリッジに成功。ダイキのみ先頭にジャンプさせたが、メーングループでセブンイレブンが落ち着いたペースを作り始めたため、私を含め20名程が追いつき、メーン集団は40人ほどになった。

 キツい尾根沿いのアップダウンも、多少ペースが安定したためうまくこなす事ができた。結局、メーングループは総合3位の選手が入る逃げを捕まえる事はできなかったが、1分以内に差を詰めてゴール。私とダイキはメーングループで23位と56位でゴールした。

第4ステージ、サンパブロの選手宿舎第4ステージ、サンパブロの選手宿舎
毎日チェーンを洗い、翌ステージに向け徹底的に整備する毎日チェーンを洗い、翌ステージに向け徹底的に整備する

第5ステージ・152km ルセナ → ルセナ
復調したダイキ、向川選手も調子を上げる

 2月5日(水曜日)、ルセナをスタートしてカタナワンの半島を一周してルセナに戻って来るコース。海岸線のアップダウンがスタートからゴールまで続くハードなコースレイアウトだ。

 パレードを経てスタート後、曲がりくねった上にアップダウンした海岸線の道路へすぐに入っていく。セブンイレブンは前日リーダージャージを失っており、新たな総合リーダーとなったのはフィリピンネービー(海軍チーム)のサンティベル・ナチェア。セブンイレブンのエースが僅差のため、序盤からアタック合戦が始まる。

第5ステージ、スタート前の3人第5ステージ、スタート前の3人
補給の水は仲間の分まで、ボトル8本を持つ事もある補給の水は仲間の分まで、ボトル8本を持つ事もある
レース後に疲れを癒す向川選手レース後に疲れを癒す向川選手

 1回目のスプリントポイント手前で10人ほどが集団から抜け出し、タイム差は1分程度。リーダーチームは積極的にコントロールする様子がないため、山岳ジャージを着ているフランスチャンピオンのピーターが山岳賞に向けて集団を引き始める。しかしコントロールは崩壊し、再びアタック合戦が始まる。1回目の山岳手前でダイキが3人で抜け出すが、その後10人の追走に向川選手が加わり山頂手前でダイキと合流。人数が増えた集団はまとまらずペースが落ち、そうしているうちに後ろの集団に追いつかれた。

 集団にいる選手は皆かなり体力を消耗している様子で、アタックする選手への反応がかなり鈍くなっている。ダイキはまた3人で抜け出していき、集団は完全に止まる。その後さらに数人が単独で追走する。集団のタイム差は先頭から5分、ダイキまで2分となっている。集団からまた10人ほど抜け出しそこに向川選手が入る。

 2回目の山岳に入り、前の集団も追走グループもバラけて小グループになる。ゴールまで30km。先頭を追うダイキのグループはタイム差を詰めるために先頭交代を繰り返す。しかし、先頭には追い付かず、21位でゴール。その結果、総合順位は1つ落として10位となった。

十数台のバイクを手際よく整備する十数台のバイクを手際よく整備する
整備された自転車はホテルの通路に丁寧に置かれる(マレーシアナショナルチーム)整備された自転車はホテルの通路に丁寧に置かれる(マレーシアナショナルチーム)
筆者と安原監督筆者と安原監督

第6ステージ・153km ルセナ → アンティポーロ
体調に変調をした私、パンクトラブルに泣いたチーム

 休養日をはさんだ2月7日(金曜日)、前ステージのゴール地ルセナをスタートし、スタート地に近いマニラ郊外のアンチポーロにゴールする153km。

 依然僅差で総合争いが繰り広げられているため集団は緊張状態が続く。110km付近から始まる400m程の山岳が勝負の分かれ目となるところ。この日レース中に嘔吐が止まらなくなってしまった私は山岳前に脱落。ダイキが接触により前輪のスポークが飛び車輪交換となり、追いついた直後に山岳が始まるという苦しい展開を迎えた。

第6ステージ、各チームにレース前の待機ブースが用意されている第6ステージ、各チームにレース前の待機ブースが用意されている
第6ステージ、出走サインに向川選手とダイキ第6ステージ、出走サインに向川選手とダイキ

 ダイキをサポートしたい向川選手も、山岳手前で遅れてしまい、直後にパンク。フロントにチームカーが展開している事もあり、パンクしたままラスト20kmを独走する羽目となる。ダイキも山岳で力を消耗し、メーン集団から3分遅れでゴール。総合を13位に落とした。私と向川選手にいたっては28分、33分遅れと、大きく総合順位を落とした。

 優勝は第1ステージも制しているCCNのクリストフ・ジョンソン。センスを兼ね備えた実力者が、存在感を見せてくれた。

補給を運ぶ向川選手補給を運ぶ向川選手

第7ステージ・172km ヴァレンズエラ → タルラック
平地のステージ、総合争いは落ち着く

PLDTマニラチームの補給食。袋に入っているのはみかんやイチジクを潰したもの。携帯補給食は健康食品としてドラッグストアで売られているシリアルバーだPLDTマニラチームの補給食。袋に入っているのはみかんやイチジクを潰したもの。携帯補給食は健康食品としてドラッグストアで売られているシリアルバーだ
アジアを舞台に活躍するスペイン人エドガー(ロードバイクフィリピン)と、かつてのトレンガヌ、現在はインドネシアのCCNチームを監督するフランス人、セバスチャンアジアを舞台に活躍するスペイン人エドガー(ロードバイクフィリピン)と、かつてのトレンガヌ、現在はインドネシアのCCNチームを監督するフランス人、セバスチャン

 2月8日(土曜日)、マニラ北西部のヴァレンズエラをスタートし、セブンイレブンチームの拠点タルラックをゴールする172km。

 前ステージでセブンイレブンのエースであるガレドに総合リーダーが移動。チームの拠点がゴールとなるこの第7ステージは、セブンイレブンにとって、リーダージャージを守る事が大きな意味を持つ事となった。総合圏外の選手達のエスケープを容認しながら、最後に急激なコントロールでレースをまとめにくる。セブンイレブンの展開を指揮するのはスペイン人のエドガーだ。

 ラスト10kmで先頭をキャッチして、大ゴールスプリントの展開に。砂煙が立ちこめるゴールに向けてのスプリントは、韓国人のイン・ジョンが制した。私は先頭から10m以内でゴールし、15位となった。向川選手とダイキはスプリントで分解した後方に残され、数十秒を失ってしまった。

第7ステージ、出走サインを行う筆者第7ステージ、出走サインを行う筆者
マニラのプロチーム、PLDTマニラマニラのプロチーム、PLDTマニラ

第8ステージ・197km タルラック → ダグパン
ダイキの復調、180kmエスケープ

第8ステージ、サイクルファンと筆者第8ステージ、サイクルファンと筆者
第8ステージ、サイクルファンに囲まれる向川選手第8ステージ、サイクルファンに囲まれる向川選手

 2月9日(日曜日)、タルラックをスタートする平坦なコース。

 この翌日が標高1500mまで登るステージで、総合順位に大きく影響する勝負の日となる。このため安原監督からのオーダーは、特に総合13位のダイキが大きなダメージを受けないように、この長いステージでレースの流れに落ち着いて対応し、脚を温存するというものだ。

 街中を抜けて郊外に出ると、すぐにレースがスタート。2回目のアタックで6人の逃げが決まり、ここにダイキが入った。リーダーチームの選手がエスケープに入っておらず、別のチームの総合上位の選手が入っている。セブンイレブンとしては、総合上位の選手達のエスケープを容認し、体力を使わせて翌日の厳しいステージで更に差を付けようという思惑の見える展開だ。4分の差を作り出し、追従アタックをあきらめさせた。

スタート前にオーガナイザーと談笑するクリス・ホベン(セブンイレブン)スタート前にオーガナイザーと談笑するクリス・ホベン(セブンイレブン)

 ダイキとしては、もう数人リーダーチームの選手も含めて追いついて来てくれる事が、この逃げグループが逃げ切れる理想の展開と考えていた。しかし、4分差でこの6人の逃げが容認されてしまった以上、ダイキの走りを無駄にしないよう逃げ切りを狙う作戦で行くことを安原監督は選んだ。

 ラスト50kmとなりタイム差は1分半。先頭グループは諦めずペースを上げる。タイム差は2分半まで広がる。しかし、集団はゴールスプリントを狙うチームが先頭交代に加わり、ペースを上げて追走に入った。このタイミングで私がパンクで集団から脱落してしまう。ラスト10kmでタイム差は一気に詰まり、向川選手からダイキの姿が確認できるところまで迫った。

 ゴール直前に向けて、集団をコントロールするチームがなくなり、アタック合戦が始まる。ラスト3kmでCCNのクリストフ・ジョンソンが抜群のタイミングで単独で抜け出した。集団は少し牽制が入り少しスピードが緩むが、再びスピードを上げてゴールスプリントへ向かう。ダイキはラスト1kmで集団に飲み込まれた。優勝はクリストフ・ジョンソンが逃げ切って3勝目を挙げた。向川選手は10位でゴール。ダイキは4時間以上レースでフロントを走り続けた事に自信を持ちながらも、悔しげな表情を見せた。

※<下>に続く 

レースを監督と振り返る向川選手レースを監督と振り返る向川選手
第8ステージ、他チームとの顔も知れ、一緒に夕食を食べる第8ステージ、他チームとの顔も知れ、一緒に夕食を食べる
管洋介
管洋介(すが・ようすけ)

think deep DEBO 所属 プロカメラマン
10歳よりサイクリングを始め、日本の島々を回り、16歳で自転車競技を始めてからはスペインをはじめ、ヨーロッパ、アフリカ、アジアへ世界が広がった。夢はメキシコのプロレス記者になること。2014年はMATRIX POWER-TAG所属で競技活動を行う。
1980年2月26日生まれ A型

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