寄付はホイールセット25ドルから飛躍的な距離を授ける自転車の“モンスター” NPO「ワールド・バイシクル・リリーフ」の活動に迫る

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 アフリカや東南アジアにおいて、自転車を用いた支援およびインフラ構築活動を行なっている団体「ワールド・バイシクル・リリーフ」(WBR)。WBRは、2005年のスマトラ島沖地震で発生した津波で甚大な被害を受けた被災地の交通インフラを支援しようと発足し、今日も安定した活動を継続している。自転車によって開ける新しいライフスタイルや、ただモノを提供するだけでないサスティナブル(持続可能)な支援について、WBRドイツ支部CEOで欧州での活動を率いるクリスティーナ・ハスィウナイテさんと、ボランティアとして携わるレナ・クライネカルマーさんへのインタビューをつうじて紹介する。(柄沢亜希)

ワールド・バイシクル・リリーフ(WBR)のバッファロー・バイシクルを持つハスィウナイテさん(右)とクライネカルマーさんワールド・バイシクル・リリーフ(WBR)のバッファロー・バイシクルを持つハスィウナイテさん(右)とクライネカルマーさん

バイク1台、134ドル

 WBRは本部をアメリカ、各支部をカナダ、ドイツ、イギリスに構え、その活動拠点をアフリカに広げる。WBRを設立したフレデリック・デイ代表は、コンポーネントやホイールなどの自転車アクセサリーメーカー「SRAM」(スラム)の創設メンバーのひとりでもある。サポート企業にはスラムをはじめとする自転車関連メーカーや、プロMTBチーム「マルチバン・メリダ バイキングチーム」が名を連ねる。

レナ・クライネカルマーさんレナ・クライネカルマーさん

 活動資金となる収入は寄付と社会事業の利益でまかなわれ、そのうち寄付は全体の7割近くを占めている。NPO(非営利団体)としての側面がある一方で、活動を継続していくために収益をあげるというWBRのような方法は、特にアメリカでは一般的なスタイルだ。

 「2カ月前に旅から戻ったばかり」と話すクライネカルマーさんは、ボランティアでヨーロッパ各国やメキシコからアルゼンチンへのラテンアメリカ各国を自転車でめぐりながらWBRの活動をサポートしてきたという。

 「自転車で旅する喜びを共有することでWBRの活動を世界に広めています。何かを与えるという行為ではなく、自転車を購入することで誰かの人生そのものをアクティブなものへ変えることができるというWBRの支援の仕方に賛同しているんです」

WBRのTシャツの袖には「パワー・オブ・バイシクル」WBRのTシャツの袖には「パワー・オブ・バイシクル」
WBRはアフリカや東南アジアで自転車を用いた支援をしている ©WBRWBRはアフリカや東南アジアで自転車を用いた支援をしている ©WBR

 クライネカルマーさんの話すように、WBRは寄付のスタイルがユニークだ。WBRのウェブサイトから寄付をしようとすると、そこには「25ドル―ホイールセット」「50ドル―メカニック向けツールセット」「134ドル―バイク1台」といった項目がリストアップされている。誰かが自転車を“買う”ことで、それを必要としている人の元へ自転車やメンテナンスグッズが届く仕組みだ。

作るだけでは終わらない、持続するシステム

クリスティーナ・ハスィウナイテさんクリスティーナ・ハスィウナイテさん

 WBRが行なっている社会事業には、自転車組み立て、販売、メンテナンスといった内容が含まれ、それらが行なわれる工場は、ザンビア、ケニア、アンゴラ、ジンバブエ、南アフリカに置かれている。また実際に自転車が提供され、使われている国は前出の5つを含む13カ国だ。

 ハスィウナイテさんは「活動を始めるきっかけとなったスマトラ島沖地震の被災地では、およそ2万5千台の自転車を届けました。ここでは速やかな支援が求められていたため市販品の自転車を用いましたが、継続的な支援となると話は違います」と説明。さらに「工場には合わせて80人ほどの従業員がいますが、特徴は、さまざまなことを教え伝えるエキスパートを除き、働き手が現地の人たちだという点です」と続けた。

 また組み立ては「最初の一歩」であって、WBRでは自転車を使い続けることで必要となるメンテナンスなどの各種サービスをこなすメカニックの育成や、そういった際に必要となる交換パーツの製造も行なっているのだという。「それにより、1台の自転車をより長く乗ってもらい、その自転車が与えることができる効果を最大限にすることができます。親から子へと代々続くようなことができれば最高ですね」とハスィウナイテさんは目を輝かせた。

工場で出荷を待つバッファロー・バイシクル ©WBR工場で出荷を待つバッファロー・バイシクル ©WBR
自転車をメンテナンスできるスタッフの養成も欠かせない ©WBR自転車をメンテナンスできるスタッフの養成も欠かせない ©WBR

タフな相棒、バッファロー・バイシクル

 WBRが開発する自転車に求められる機能の中で最も重要だったのは、「アスファルトで舗装されていない場所はもちろん、砂の上などの道なき道を走ることができるタフな自転車であること」だった。また、どのような状況下でも問題なく走り続けられるようにできるだけシンプルな構造であることや、荷物を運搬するという日常的な使い方を想定しかなりの重量に耐え得る丈夫な車両であることなども欠かせなかったという。

バッファロー・バイシクルバッファロー・バイシクル
バッファロー・バイシクルは変速なし、コースターブレーキバッファロー・バイシクルは変速なし、コースターブレーキ
耐荷重100kgというバッファロー・バイシクルのリアキャリア耐荷重100kgというバッファロー・バイシクルのリアキャリア
どんな道でも走れるように作られたバッファロー・バイシクルのタイヤどんな道でも走れるように作られたバッファロー・バイシクルのタイヤ
泥だらけになって使われているバッファロー・バイシクル ©WBR泥だらけになって使われているバッファロー・バイシクル ©WBR

 改良を繰り返して誕生したのが、「バッファロー・バイシクル」だ。車体重量は24kg。100kgまでの荷物を積むことができるリアキャリアや、パンクしにくい上に劣化しにくい素材を用いたタイヤを配した。故障の原因となりやすい部分は極力取り除いたため変速ギアは持たず、ハンドブレーキの代わりにペダルをうしろへ逆回転させるコースターブレーキが採用されている。

 バッファロー・バイシクル1台の価格はおよそ1万4千円(1ドル=102.84円)。アフリカで活動するユニセフといったほかの団体などへも販売し、WBRの活動資金源ともなっている。

 ハスィウナイテさんは、「例えば市販のタイヤを使うこともできますが、私たちには高価過ぎます。常に、寄付金の範囲内でどれだけ高品質のものをどれだけ多く準備することができるのかを考えなければなりません。またタイヤひとつでバッファロー・バイシクル1台分の値段の製品はありますが、私たちに求められているのはその地でのニーズに合った自転車を作るということなんです」と想いを募らせた。

インタビューに応じるハスィウナイテさん(右)とクライネカルマーさんインタビューに応じるハスィウナイテさん(右)とクライネカルマーさん
WBRのロゴマークがデザインされたバッファロー・バイシクルのフロントWBRのロゴマークがデザインされたバッファロー・バイシクルのフロント

 試乗した感想は、「のっそり」といった表現が合う。クライネカルマーさんが「まるで“スチール・モンスター”」と笑って冗談を言うとおり、こぎ始めは重くゆっくりで女性の力で持ちあげるのにはかなりのパワーが必要となるが、その安定感たるや“無敵”だ。1段の高低差が少ない階段はほとんど衝撃を感じることなく下ることができ、砂浜でも走ることができた。

“距離”があきらめの理由にならない未来へ

 WBRの活動内容を紹介するパンフレットで目に飛び込んでくるのが、「キャパシティー:5倍、距離:4倍、タイム:3時間」というイラスト付きの大きな文字だ。これは、バッファロー・バイシクルによって得られるインパクトを表した数値で、人ひとりが運ぶことができる荷物の5倍の積載量を誇り、歩きと同じ時間走れば4倍の距離を進み、16kmの道程では3時間短縮できることを意味する。

「キャパシティー:5倍、距離:4倍、タイム:3時間」(WBR資料より)「キャパシティー:5倍、距離:4倍、タイム:3時間」(WBR資料より)
自転車は毎日の水くみにも活躍する ©WBR自転車は毎日の水くみにも活躍する ©WBR

 例えば、週5日間の通学で片道8kmを歩く場合に自転車がどれだけ有益かを想像することは難しくない。またハスィウナイテさんは、「私たちが活動をする国々では、診療所よりももっと小さな医療単位でホームケアリングのようなスタイルがありますが、歩いて訪れる場合はその日ひとりしか診られないことだってあるでしょう。患者のもとへ自転車で行くことができれば、救える命の数に直結します」と熱を込めて説明をした。

 「私だったら、病院までの30kmを誰かを担いで歩くということはできません。自転車があれば、それが叶うのです」

 最後に、ハスィウナイテさんとクライネカルマーさんが口を揃えた。「WBRでは、学校や病院へ行く、または仕事や経済的なチャンスがあるといった際に、“距離”がそれを妨げる理由とならない未来を夢見ています。望むものやことに自分たちのパワーでたどり着けることができるように」

◇         ◇

 記者がハスィウナイテさんと握手を交わした時の、痛いほどの力強さとまぶしい笑顔が忘れられない。

(写真 柄沢亜希、ワールド・バイシクル・リリーフ)

WBRのTシャツ背面は、「革命、回転」の意があるrevolutionに「参加しよう」と呼びかけるデザインWBRのTシャツ背面は、「革命、回転」の意があるrevolutionに「参加しよう」と呼びかけるデザイン

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