MSN産経ニュースwest【関西の議論】より規制強化される「歩道の暴君、車道の弱者」…“自転車王国・大阪”の憂鬱

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 自転車の走行をめぐって昨年、大きな動きがあった。ブレーキのない自転車の運転が全面禁止され、道路を走る場合は左側だけに統一。悪質な運転手には安全講習を義務付けるなどの内容で、道路交通法が改正されたのだ。背景には「歩道の暴君、車道の弱者」とも呼ばれる自転車による事故の増加があり、最近は事故で高額賠償を命じられた訴訟も話題となった。こうした流れに沿うように、自転車利用率が全国トップの大阪では、“日本一長い”商店街で通行規制が始まったり、都市部の幹線道路で自転車専用レーンが設置されたりしている。「自転車にぶつかりそうでヒヤヒヤしていたので、うれしい」と歩行者側は歓迎するが、自転車側は「こっちが車にはねられそうで怖い」。無謀な運転は撲滅すべきだが、対策を講じることで新たな危険を生み出すのは本末転倒。新たな自転車対策は期待された効果を発揮できるのだろうか。(MSN産経ニュースwestより)

自転車利用率トップ、事故はワースト2の大阪

大阪市内に導入された自転車レーン。しかし、配送のため駐停車するトラックを避けるため、車道へ追いやられる自転車も =大阪市中央区の本町通(一部画像を処理しています)大阪市内に導入された自転車レーン。しかし、配送のため駐停車するトラックを避けるため、車道へ追いやられる自転車も =大阪市中央区の本町通(一部画像を処理しています)

 歩行者にとって、自転車はたとえスピードを出していなくても危険極まりない存在だろう。交通問題に詳しい大阪大大学院工学研究科の土井健司教授(都市交通計画)は「自転車は『歩道の暴君、車道の弱者』と言われる」と指摘する。この“暴君”の部分の解消を目指した内容を盛り込んで昨年12月、改正道交法が施行された。

 内容は、(1)ブレーキに不備がある自転車の運転者に対し、警察官が応急措置や運転を続けないよう命じることができるように。検査拒否や命令違反には「5万円以下の罰金」(2)これまで路側帯を双方向通行できたが、道路の左側に限定する-。このほか、平成27年6月までに、悪質な自転車運転者に対する安全講習が義務化される。

 法改正されるほど、自転車の無謀運転は待ったなしの状況にあるといえるが、とりわけ大阪では切実な問題かもしれない。それは、大阪が知る人ぞ知る「自転車王国」だからだ。

 国勢調査の中で、電車やバス、車などの交通手段のうち自転車の利用割合を示す「自転車分担率」という指標がある。少し前のデータだが、平成22年の国勢調査では大阪府が22%で全国トップ。また、自転車産業振興協会によると、20年の自転車の保有台数は大阪府民1・3人に1台と、埼玉県に次ぐ2位だった。

 自転車を持っていたり使ったりする数が多ければ、やはり自転車が関係する事故も多くなる。

 大阪府警によると、25年に府内で発生した交通事故は4万6110件だが、そのうち自転車が関係する事故は1万4571件で全体の約31%を占める。これは東京都に次いで全国ワースト2だ。

自転車レーンは安全か

 そんな自転車王国・大阪では昨年9月、自転車が歩道を走行することで歩行者と接触する事故を防ごうと、大阪市が市内で初めてとなる自転車レーンを設置した。

青く塗装された大阪市内初の自転車レーン。車道では「自転車注意」とドライバーに呼びかけている =大阪市中央区青く塗装された大阪市内初の自転車レーン。車道では「自転車注意」とドライバーに呼びかけている =大阪市中央区

 モデルケースとして選ばれたのは、交通量の多い同市中央区の本町通(御堂筋から堺筋までの東西約500メートル)。片側2車線のうち歩道寄りの1車線について、帯のように1メートル幅で青く塗りつぶし、自転車専用の走行帯とした。

 市の交通量調査によると、自転車レーンを設置した結果、歩道を走る自転車の数は1日あたり57%から48%に減少したという。ある程度の成果を挙げているように思えるが、近くの勤務先に自転車通勤している女性会社員(31)は「歩行者がいないので走りやすいけど、車が横を走るので危なく感じる」と話す。

 確かに現場を訪れてみると、自転車が危険な走行を強いられそうな面がある。自転車レーンは青く色分けされているものの、縁石や柵などで区切られたわけではないので、自転車のすぐ隣を車が走り抜けていくからだ。

 さらに、駐停車が危険に拍車をかける。自転車レーンが設けられた一帯は駐車禁止区域。しかし、道路交通法では、荷さばきやタクシーの客の乗降のためであれば、5分以内の停車は許される。そのため、レーンをふさぐように車が止まっていることも少なくなく、それを避けようとすると車道に膨らんでしまうのだ。

 市の担当者は「歩道で歩行者と自転車の接触を避けるのが目的」と説明する。もっともなのだが、車道に追い出された自転車が車にはねられては本末転倒。「車道の弱者」という視点も忘れてはいけない。

「マナーの問題」と放置

 通行規制に専用レーン…。「面倒だ」と考える自転車ユーザーもいるかもしれないが、侮ると痛い目に遭う可能性もある。

 東京地裁は今年1月、スポーツタイプの自転車に乗っていた男性会社員が赤信号を無視して女性=当時(75)=をはねて死亡させたとして、約4700万円の支払いを命じた。昨年7月には、自転車で高齢女性をはねて意識不明の重体にさせた当時小学5年の少年の母親に対し、神戸地裁が約9500万円の賠償を命じている。

 大阪大大学院の土井教授は自転車事故について「自転車は道交法上は軽車両に分類され、原則として車道を走らなければならない。一方、同法では『安全確保のためにやむを得ない場合は歩道を走ってもよい』などともされており、走行ルールがあいまいで非常にわかりにくかった」と指摘。その上で、「自転車は、どこを走ってもいいという権利はあったが、どう走らなければならないかという義務がこれまでなかった。利用者のマナーの問題として放置され、事故が多発する要因になってきた」と分析する。

日本一の商店街の決断

“日本一長い商店街”の天神橋筋商店街では自転車の通行規制が実施され、自転車を押して歩く人の姿が目立つ =大阪市北区“日本一長い商店街”の天神橋筋商店街では自転車の通行規制が実施され、自転車を押して歩く人の姿が目立つ =大阪市北区

 規制の動きは一般道だけではない。商店街というエリアを限定した規制も始まっている。

 「以前は自転車と肩がぶつかったりしても、歩行者の私が怒られたこともあった。でも、今は自転車を押して歩いている人が多くてびっくり」。幼い子供をベビーカーに乗せて買い物をしていた主婦(26)はこう話す。

 日本一長い商店街として知られる大阪市北区の天神橋筋商店街(2・6キロ)で1月31日から、ほぼ全区間での自転車の通行規制が始まった。

 1日に約3万人が訪れるとされる大阪屈指の人気商店街。雑貨屋や飲食店など約600の商店が軒を連ね、一~七丁目の各商店街に分かれている。悩みの種は、混雑する買い物客の間を縫うように走る自転車だった。

 天神橋筋商店連合会では随時、買い物客アンケートを実施しているが、「自転車とぶつかりそうで怖い」との回答が多かった。このため昨年3月、三丁目商店街に「危ない 自転車は押して通りましょう」と書かれた標識を9個設置。事故防止を呼びかけていたが、翌4月、二丁目商店街で、自転車同士が正面衝突して乗っていた男性が一時意識不明の重体となる事故が起きた。

 このため、同連合会は大阪府警に対し自転車の通行規制を要望、今回の規制が実現した。

 「効果は抜群」というのは、同連合会の土居年樹会長(67)。まとまった数字はないものの、「感覚的に言うと、自転車で走る人は8割ぐらい減った」そうだ。帽子店を営む男性店主(61)も「通勤のたびに自転車とぶつかりそうでヒヤヒヤしていた。通行規制は大賛成」と歓迎している。

 一方、同市北区の主婦(60)は「自転車だと通り過ぎるけど、歩きだと『こんな店があったんや』と発見がある」と話しており、自転車規制には思わぬ副次的な効果もあったようだ。

 遅ればせながら規制が強化された感のある自転車。もはやマナーだけの問題ではないと肝に銘じることが必要だろう。

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