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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<51>ルイ・コスタは“マイヨ・アルカンシエルの呪い”を跳ね返せるか!? セミクラシック展望もお届け

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 2月23日に閉幕した各地でのステージレースをもって、シーズン序盤戦となる1月と2月の戦いは一段落。有力選手は順調にシーズンインを果たし、来たるべきビッグレースでの戦いに備えています。そこで今回は、好スタートを切った選手の1人、現世界チャンピオンのルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)にスポットを当て、彼にのしかかる“マイヨ・アルカンシエルの呪い”の打破について考えてみます。

世界チャンピオンとして来日したルイ・コスタ(さいたまクリテリウム by ツールドフランス)世界チャンピオンとして来日したルイ・コスタ(さいたまクリテリウム by ツールドフランス)

数年先を見据えるコスタ オールラウンダーの利点を活かし“呪い”打破へ

 まず、今回取り上げる“マイヨ・アルカンシエルの呪い”については、あくまでも都市伝説であるとお断りしておく。何の根拠もないうえ、そもそも前シーズンの後半に調子を最大限ピークにもっていった選手が、翌シーズンも継続して絶好調をキープすることなど難しいからだ。さらに、アルカンシエル獲得時の鮮烈な走りが、勝利への高い期待を観る者に与えてしまう。“呪い”といわれる現象は、このような理由からくるものであると筆者は考えている(一部、レース外でのトラブルに遭う選手もいるが)。

 それらを踏まえて“マイヨ・アルカンシエルの呪い”を説明すると、世界選手権ロードを制した翌年、またはそれ以降に成績を大きく落とす、レース中のクラッシュ・メカトラブルが頻発する、体調不良に陥るといったケースを総称して呼ぶものとなっている。また、レース出場時に常にメディア対応の対象となるほか、選手によっては格好の“ネタキャラ”にされるケースも少なくない。レース外の要素から、調子を落とす選手も存在する。

マイヨジョーヌ獲得から一転、落車による負傷で順位を落としたカデル・エヴァンス(ツール・ド・フランス2010)マイヨジョーヌ獲得から一転、落車による負傷で順位を落としたカデル・エヴァンス(ツール・ド・フランス2010)

 近年では、2008年世界チャンピオンのアレッサンドロ・バッラン(イタリア)がサイトメガロウイルスに感染し、翌年は絶不調。その後、ドーピング容疑がつきまとい、今年に入り2年間の出場停止処分が下った。2009年チャンピオンのカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)は、翌年のツール・ド・フランスで落車し肘を骨折。マイヨ・ジョーヌを獲得した翌日に大きく遅れをとり、総合争いから脱落した。

 2010年のトル・フスホフト(ノルウェー、BMCレーシングチーム)も、ウイルス感染の影響でここ数年体調が上がらない。2011年のマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファルマ・クイックステップ)は、当時鳴り物入りでスカイ プロサイクリングに移籍したが、オールラウンダー重視のチームゆえ、自身の活躍の場は思うように得られなかった。

フィリップ・ジルベールは得意とする北のクラシックで不発。以降もなかなか結果を残せなかった(リエージュ~バストーニュ~リエージュ2013)フィリップ・ジルベールは得意とする北のクラシックで不発。以降もなかなか結果を残せなかった(リエージュ~バストーニュ~リエージュ2013)

 2012年の世界チャンピオン、フィリップ・ジルベールは呪いには否定的だが、戦いを難しくしたものであることは認めている。プロトン内ではマークが厳しくなり、世界チャンピオンへのチャレンジ姿勢を見せる選手が少なくないのだという。マイヨ・アルカンシエルを手放す際、「アルカンシエルを身に付けることで、ライディングスタイルにまで影響を及ぼすとは思いもよらなかった」とコメントしたことに、彼の複雑な思いが込められている。

 さかのぼればさかのぼるほど、多くの呪いネタが挙がるが、決して良い気分にはならないので、この辺でとどめておきたい。もっとも、書いている筆者自身が少し悲しい気分になっている…。

 逆に、アルカンシエルを力に変えた選手も多い。前述のエヴァンスは、涙のツールの翌年に悲願の総合優勝。フスホフトは2011年ツールでマイヨ・アルカンシエルを着用したままマイヨ・ジョーヌを7日間守り続けた。2005年に25歳で世界の頂点に立ったトム・ボーネン(ベルギー、オメガファルマ・クイックステップ)は、今もなお実力を維持し、北のクラシックの顔であり続ける。

 引退した選手で見ると、オスカル・フレイレ(スペイン)は世界選手権を3度制覇、パオロ・ベッティーニ(イタリア)にいたっては2006年、2007年と連覇する偉業を達成している。マイヨ・アルカンシエルの獲得は、必ずしもネガティブに見るべきものではないことはお分かりだろう。

トム・ボーネンの袖にはアルカンシエルの証が輝く(ツアー・オブ・カタール2014)トム・ボーネンの袖にはアルカンシエルの証が輝く(ツアー・オブ・カタール2014)
“呪い”をものともせず連覇を成し遂げたパオロ・ベッティーニ(ロード世界選手権2007男子エリート)“呪い”をものともせず連覇を成し遂げたパオロ・ベッティーニ(ロード世界選手権2007男子エリート)
チームプレゼンテーションの記者会見で、世界チャンピオンという立場について「チャンスと考えている」と語ったルイ・コスタチームプレゼンテーションの記者会見で、世界チャンピオンという立場について「チャンスと考えている」と語ったルイ・コスタ

 今シーズンはご存知の通り、コスタが純白に5色の虹をあしらったジャージを身にまとう。26歳の若き世界チャンピオンである。かねてから実力は発揮していたが、チーム内でアシストに回ることが多く、思うようにレースができないこともあった。しかし、世界選手権を制し状況は一変。行く先々で大きな注目を集め、メディア対応の機会も増えた。それでも笑顔は絶やさず、真摯に応対する。それは当サイトの「メリダ・プレスキャンプ」のレポートなどからも伝わってくる。

 そのコスタは今シーズン、新天地ランプレ・メリダでツールのエースの座を確約されている。ファンとしてはやはり呪いの存在が引っ掛かってしまうところだが、本人はいたって現実的。初めてエースとして臨むツールの目標は、総合トップ10。本来の実力を考えれば、十分に可能な数字だろう。数年先を見据え、今回は3週間をしっかり走りきることに主眼を置くそうだ。また、アルデンヌクラシックにも意欲を見せている。リエージュ~バストーニュ~リエージュでは、リザルトよりも見せ場を作りたいとしている。

 良い形でシーズンに入ったコスタは、23日に閉幕したヴォルタ・アオ・アルガルヴェ(ポルトガル、UCI2.1)で総合3位。凱旋レースでミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド、オメガファルマ、クイックステップ)、アルベルト・コンタドール(スペイン、チーム ティンコフ・サクソ)と総合優勝争い繰り広げた。現時点での走りからは、プレッシャーは感じられない。

ランプレ・メリダのエースを務めるルイ・コスタ(ドバイ・ツアー2014)ランプレ・メリダのエースを務めるルイ・コスタ(ドバイ・ツアー2014)

 常に勝利を求められるスプリンターやクラシックハンターとは異なり、オールラウンダーのコスタにとっては、ステージレースの総合成績が試される。毎ステージ勝利する必要はなく、コンスタントに上位を走ることができれば結果はついてくる。その意味では、コスタにとっての“マイヨ・アルカンシエルの呪い”打破は、シーズンを通してしっかりと結果を残し続けることにあるのではないだろうか。

 実際、呪いネタなど信じない選手が大多数だろう。プロライダーであれば誰もが欲しい勲章であり、一生の宝となるのだから。1年後にマイヨ・アルカンシエルを手放しても、現役ライダーである限りはジャージの袖に5色のラインがあしらわれ、世界チャンピオンの称号とともに走り続けることができる。ごくごく限られた選手だけに与えられる権利なのだ。今シーズンのコスタには、安定した走りはもとより、アルカンシエルをプラスにする活躍に期待をしたい。

2月3週目のレース結果&3月初旬のレースプレビュー

 UCIワールドツアーの再開を約2週間後に控え、各地で熱いレースが繰り広げられた。そして、3月に入るとベルギーでのセミクラシックが開幕。簡単にではあるが、チェックしていきたい。

■ツアー・オブ・オマーン(2月18日~23日、オマーン、UCI2.HC)結果

クリストファー・フルームが連覇を達成(ツアー・オブ・オマーン2014)クリストファー・フルームが連覇を達成(ツアー・オブ・オマーン2014)

 クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)が早くもエンジン全開。クイーンステージのグリーンマウンテン(第5ステージで)でライバルを圧倒し、ステージ優勝。総合も制し、連覇を達成した。

 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)は、スプリントでステージ3勝。アタックの応酬となった第4ステージでは、ペテル・サガン(スロバキア、キャノンデール プロサイクリング)が優勝し、今シーズン初勝利を飾った。

■ブエルタ・ア・アンダルシア(2月19日~23日、スペイン、UCI2.1)結果

 総合3連覇を狙って臨んだアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)がプロローグ(7.3km個人タイムトライアル)で勝利すると、翌日、翌々日とステージ3連勝。第2ステージの頂上ゴールでは、ひとりケタ違いのスピードを見せてゴールへと飛び込んだ。リッチー・ポート(オーストラリア、チーム スカイ)が総合2位、ルイスレオン・サンチェス(スペイン、カハルーラル・セグロスRGA)が総合3位に食い込んだ。

■ヴォルタ・アオ・アルガルヴェ(2月19日~23日、ポルトガル、UCI2.1)結果

 前述したように、クフィアトコフスキー、コンタドール、コスタの3選手が第2ステージ以降、熾烈な総合争いを展開。第2ステージで逃げ切り、第3ステージの個人タイムトライアル(13.6km)でも勝利したクフィアトコフスキーに軍配が上がった。一方、コンタドールはアルト・ド・マルハオ頂上ゴール(第4ステージ)で優勝し、復活を印象付けた。第5ステージではカヴェンディッシュがシーズン初勝利を挙げている。

■オムループ・ヘット・ニュースブラッド(3月1日、ベルギー、198km、UCI1.HC)レビュー

 ベルギーのセミクラシック開幕戦。北のクラシックに通じる、パヴェでの戦いが始まる。急坂セクターが10ヵ所、その他パヴェセクターも多く含まれている。今シーズンからUCIは、急坂やパヴェセクターでの側溝や側道への回避を禁止するルールを設定している。これにより、難所では実力がより反映されやすくなるはずだ。例年、単独または数名での逃げ切りが決まることが多いのが特徴のレース。ボーネンが初優勝を果たすかどうかにも注目が集まる。

■クールネ~ブリュッセル~クールネ(3月2日、ベルギー、197km、UCI1.1)レビュー

 昨年は大雪により中止。2年ぶりの開催となる。前日のオムループ・ヘット・ニュースブラッドと比較すると、フラットなレイアウトで、パヴェの難易度も低い。スプリンター向けのレースと言える。終盤のクールネ市街地周回コースに入ると、レースペースが一気に上がる。2年前に優勝したカヴェンディッシュは、今回は欠場。グライペルが数年前からこの大会での優勝に執念を燃やしており、今年もベストメンバーを組んで乗り込む予定だ。

今週の爆走ライダー-セップ・ヴァンマルク(ベルギー、ベルキン プロサイクリングチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 昨年のパリ~ルーベで、王者ファビアン・カンチェッラーラ(スイス、現トレック ファクトリーレーシング)に最後まで食らいつき、死闘を演じた若きパヴェ巧者だ。自信のあるスプリントでカンチェッラーラに敗れ、ゴール後に泣き崩れた姿は、観る者に強い印象を残した。

ファビアン・カンチェッラーラの前を果敢に走るセップ・ヴァンマルク。敗れたものの、有望なクラシックレーサーとして強い印象を残した(パリ~ルーベ2013)ファビアン・カンチェッラーラの前を果敢に走るセップ・ヴァンマルク。敗れたものの、有望なクラシックレーサーとして強い印象を残した(パリ~ルーベ2013)

 25歳ながら、クラシックでのキャリアは十分。ベルギーの育成チーム、トップスポルトフラーンデレン時代の2010年には、ヘント~ウェヴェルヘムで2位。当時無名の若者が一気に脚光を浴びた瞬間だった。翌年にガーミン・シャープ入り。2012年のオムループ・ヘット・ニュースブラッドでは、ボーネンを撃破。この時は喜びの涙を流した。

 そのボーネンが、自国の後継者として指名するほどの逸材は、さらなる勝利を求めてクラシックシーズンへと向かう。2年ぶりのオムループ制覇もかかっている。チームにはもう1人のエース、ラルス・ボーム(オランダ)も控え、どちらでも勝負できる態勢にある。

 若くしてトップフォームに達したため、故障がちの日々が続いたが、この冬は何ひとつ問題なくトレーニングをこなしたという。その成果を発揮することはできるだろうか。

 これまでの快走を見れば、北のクラシックの頂点に立つ日もそう遠くはないと感じさせられる。大きな勝利は目の前にある。今年もまた、無限の可能性を自らの力で切り拓くときがやってきた。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦、柄沢亜希

福光俊介
福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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