title banner

栗村修の“輪”生相談<17>14歳男性「自転車選手は、引退後は皆どんな事をして生活しているのでしょうか?」

  • 一覧

 
自転車選手は、引退後は皆どんな事をして生活しているのでしょうか?

(14歳男性)

 若い質問者さんの夢を壊してしまったら申し訳ないんですが、引退後も仕事はしないといけないはずです。

 サイクルロードレースよりもずっと稼ぎがいい他の競技でも、極端な話ですが、引退後に自己破産をする選手が結構いたりします。それは生活水準を下げられないからなんですね。あと、リアルな話で恐縮ですが、大人になったら避けて通れない(逃げたら捕まります)税金というものがあるのです。

 もし、質問者さんがヨーロッパに渡り、グランツールでステージ優勝できるような名レーサーになったとしましょう。年俸数千万円程度は貰えると思います。若くしてこの収入。大金持ちですね。

 ところが、出ていくものも大きい。メディアやファンの目もありますし、そんな大スターが四畳半でつつましい暮らしとはいきません。いい車も買いたいし、いい服も着たい。高いレストランで食事もしたいですよね。収入が増えれば、支出も増えちゃうでしょう。そして、税金を支払わないといけませんから、数千万の年俸がそのまま懐に入る訳でもない。これだけの額になると、実に半分近くを税金として国に収めないといけません。

“イタリアの伊達男”として名を馳せたマリオ・チポッリーニ。自宅のドレスルームはこんな感じ“イタリアの伊達男”として名を馳せたマリオ・チポッリーニ。自宅のドレスルームはこんな感じ

 世界レベルのレーサーとなった質問者さんが、選手としての全盛期に年俸3000万円で5年間走り、引退する。稼ぎは1億5000万円です。駆け出し時代の年俸も含めたら2億円程度でしょうか。でも、そのうちのかなりは税金に消えますし、支出も多い。

 いっぽうで、普通に働く日本人男性の生涯収入は、大卒の男性なら2億円~3億円程度だそうです。年間あたりの額は小さいので、税金として納める額も小さくて済みます(「累進課税」というやつです)。しかも、支出は抑えられる。つまり、トップレベルのレーサーでも、引退後に仕事をしないと、生涯収入はサラリーマンよりも低くなっちゃうんですよ。だから、普通に就職活動をしなければいけません。

 しかも、本場には自転車選手はたくさんいます。ツールやジロを走った人がごろごろいるんです。グランツールで総合優勝するようなレベルの選手でもなければ、選手としての経歴は「就活」であまり有利には働かないでしょう。本場の選手で自転車関連の仕事に就く・就ける人は案外少なく、大多数はゼロから職探しです。フランス、イタリア、スペイン、ベルギーのような伝統国ほど、この傾向が強い気がしますね。

 と、ここまでネガティブな話をしてしまいましたが、日本人の場合、有利な面もあります。

 日本人レーサーは、自転車競技の世界では基本的に不利です。まだまだ新参なので、国内でも国外でもいろいろと逆風が強いでしょう。お金もない世界ですし。その中でプロになれたということは、人間としてバイタリティーがあるということです。

 世の中、理不尽なことも多いんですよ。ホント。だから、根性論じゃないですが、仕事をする上で根性は必須です。忍耐力というのかな。日本のレーサーはその辺が強いので、就活では有利になるはずです。

レース会場や展示会に行くと、メーカーブースで普通に接客している人が、元日本チャンピオンとか、元五輪選手だったりとか、実は結構ありますレース会場や展示会に行くと、メーカーブースで普通に接客している人が、元日本チャンピオンとか、元五輪選手だったりとか、実は結構あります

 それから、日本は意外と自転車関連の仕事が多い国なんですね。特に問屋さんなどハード面。日本人選手の、「リタイア後に自転車界に残る率」は世界的に見てもかなり高いと思います。

 まだお若いのに、引退後のことまで心配するなんてしっかりしていますね。結局、引退後に大事なのは、浪費しない自己マネージメント力にコミュニケーション能力、コネクション、根性、語学力、そして頭の良さと、ごく普通のサラリーマンに求められる能力と一緒なのかもしれません。プロロードレーサーは世界を巡る職業なので、現役中に培ったコネクションや語学力は役立つでしょう。

 幸い、プロロードレーサーはけっこう自由時間が多い仕事でもあります。トレーニング後に休んで体を回復させるのも仕事ですからね。だから、その時間に「第2の人生」を見据えた勉強をするのもいいかもしれません。読書とか、資格取得とか。なんだかリアルな回答になってしまいましたが、日本人という条件は、引退後を考えると決して不利な材料ではありません。

(編集 佐藤喬・写真 砂田弓弦、米山一輝)

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 「宇都宮ブリッツェン」テクニカルアドバイザー、「J SPORTS」サイクルロードレースレース解説者、「ツアー・オブ・ジャパン」副イベントディレクター。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまでお寄せください。

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

栗村修の“輪”生相談

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載