管洋介の「ロンダフィリピネス」レポート<上>マトリックス・パワータグが挑む伝統のフィリピン14日間ステージレース 観客や各国選手と温かい交流

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 2月1日から16日にかけて全14ステージで開催中の「Ronda a Phillipines」(ロンダフィリピネス)に、日本からロードレースチーム「マトリックス・パワータグ」が参戦している。フィリピンで最も歴史あるステージレースに、同チームの一員として挑むプロカメラマンの管洋介さんによる現地レポートを、全3回に渡ってお届けする。

◇      ◇

フィリピンの熱帯雨林を行く集団フィリピンの熱帯雨林を行く集団
通り過ぎる集団に歓声を送る子ども達通り過ぎる集団に歓声を送る子ども達
ボトルを運ぶ筆者ボトルを運ぶ筆者

 煌々と照りつける太陽を追いかけながら、吹き込む風にほんの少しの余裕を求め、前走者の隙間に車輪を差し込む。延々と続く一列棒状の自転車の影が、終わりのない一日を想像させる。すでに9日間も走り続けてきた。14ステージ・2000kmのレースは、折り返しを過ぎてクライマックスへと向かっている。

 伝統のレース「ロンダフィリピネス」に、私が所属するマトリックス・パワータグは招待された。地元フィリピン勢6チームに、われわれ日本チームを含むアジア、ヨーロッパの8チームが加わり、計14チーム・79人の選手達が2月1日、首都マニラを旅立った。

スタート前は観客が大勢詰めかけるスタート前は観客が大勢詰めかける
好意的に迎えてくれる観客達好意的に迎えてくれる観客達
サイクルファンもスタート時には多くみられるサイクルファンもスタート時には多くみられる

 長年続くこのレースは、フィリピンでの認知度も定着し、地元を駆け抜ける選手の大集団を多くの人々が大歓声で迎えてくれる。

レースを語るオーガナイザーのRIC RODRIGUEZレースを語るオーガナイザーのRIC RODRIGUEZ

 オーガナイザーのリック・ロドリゲスによると、このレースは1954年にフィリピンで最初の自転車レース「マニラ~ビガン」として、4日間の日程で始まった。その後、1984年にスタートした「マルボロツアー」がフィリピンを代表するステージレースとして1998年まで続き、その後は何度か名前を変えながら2011年、フィリピンの団体が完全に主催する形でロンダフィリピネスが実現。2010年にUCI(国際自転車競技連合)公認レースになった「ツールドフィリピン」(UCI 2.2)と人気を分かつ2大ステージレースになったという。

 季節は2月。フィリピンには季節の変わり目が2度あり、この時期は過ごしやすいという。しかしながら、冬真っただ中の日本や韓国、ヨーロッパの選手達にとっては、自国との気温差は30度近くにもなる。独特の湿気を帯びた重く熱い風に苦しめられ、選手達はひたすら水を求める。

標高1500mのBAGUIOの街標高1500mのBAGUIOの街
棚田の風景棚田の風景
総合リーダーのレッドジャージ総合リーダーのレッドジャージ

 地元フィリピンの選手達にとっては、ツールドフィリピンと並ぶ非常に重要なレース。この国にはフィリピン選手権と、この2つのステージレースしか、ナショナルクラスのロードレースが存在しない。そんな脆弱な競技環境のもと、限りなく少ない可能性の中でロードレース選手となった彼らからは、走る姿に大きな自信と誇りが感じられる。

地元の期待を一身に背負うセブン-イレブンチーム

 ここで、フィリピンを代表するコンチネンタルチーム、セブン-イレブンチームを紹介しよう。

 2005年にチームROAD BIKEを結成後、2007年からセブン-イレブンをメーンスポンサーにUCIアジアツアーへ参戦するチームへと発展。マニラから約90km離れたタルラックに拠点を置き、選手は共同生活を送りながらレースに備える。今季はフィリピンのロードレース史上初めて、スペイン人のエドガーとイギリス人のダニエルという欧州の選手を迎えてスタートした。

フィリピンを代表するセブンイレブンチームフィリピンを代表するセブンイレブンチーム
セブンイレブンチームの宿舎にて エドガーセブンイレブンチームの宿舎にて エドガー
スタート前のカロットスタート前のカロット

 チームの若きホープ、KULOTことMARK JULIUS BORDEOS(以下カロット)にインタビューを試みた。セブン-イレブンで2シーズン目を迎えた19歳に、フィリピンでロード選手になるという事、またロンダフィリピネスの事を、私の2年前のチームメイトで、今回はセブン-イレブンの兄弟チームROAD BIKEで走るスペイン人のEDGER NIETO(以下エドガー)も交えて語り合った。

Mark Julius Bordeos [KULOT]

1995年生まれ、19歳/165cm/54kg/B型/兄弟:弟が2人/好きな食べ物:ベジタブル/趣味:映画を観る事/アイドル:シルベスタスタローン/訪れたい国:イタリア

 昨日(第9ステージ)は守って来たベストヤングライダーのマイヨを失ってしまって残念だけど、君とこうして直接話せる機会が出来て光栄だよ。

カロット こちらこそ! 僕はまだ経験不足だから、昨日の山岳ステージで失敗してしまったんだ(第9ステージは1400mの頂上ゴール、カロットはトップから7分遅れて21位だった。筆者は19分遅れ)。でもチームのエースのガレドが3位でゴールして総合リーダーを守ってくれたから、嬉しいよ。

第9ステージのゴールは標高1500mのBAGUIO第9ステージのゴールは標高1500mのBAGUIO
棚田の風景棚田の風景
BAGUIOの街BAGUIOの街
BAGUIOでもジープニー(乗合ジープタクシー)が走るBAGUIOでもジープニー(乗合ジープタクシー)が走る
イタリアで5年修行したメカニック、ビラアモール氏イタリアで5年修行したメカニック、ビラアモール氏

 選手になって何年目なの?

カロット 自転車選手は3年目だよ。それまでは陸上・トラック競技の長距離ランナーをやっていたんだ。

 何がきっかけで自転車選手になったの?

カロット フィリピンでも競技人口の多いトラック競技の難しさから、17歳の時に自転車に挑戦しようと転向したんだ。

 この国にはナショナルクラスのレースがほとんど無いと聞いているけれど、転向してどうやってセブン-イレブンのチームに入れたんだい?

カロット 転向して最初の年(2011)はチームに所属しない個人登録でフィリピン選手権のジュニアカテゴリーに挑戦したんだ。

 どうだった?

フィリピン陸軍チームのスタート前フィリピン陸軍チームのスタート前
フィリピンPLDT、スタート前フィリピンPLDT、スタート前
セブ島チームのシューズカバーがおしゃれセブ島チームのシューズカバーがおしゃれ
ステージ各賞のメダルステージ各賞のメダル
選手ブロマイドが即席販売される選手ブロマイドが即席販売される

カロット その大会は優勝することが出来たんだ。それで2012年の10月に行われたトライアル(ロンダフィリピネスへの出場資格を得られる2日間のトライアルレース。1日目はロード、2日目はタイムトライアル。プロアマ問わず300人の選手によって争われる)に挑戦して、ロードで27位、タイムトライアルは忘れちゃったけど、総合20位になってセブン-イレブンコンチネンタルチームに誘われたんだ。

エドガー ロンダフィリピネスに出るためのトライアルがあるの! それはすごいな!

 プロ1年目の昨年はどんなレースを走ったの? ロンダフィリピネスも走ったのかい?

カロット ロンダフィリピネスは今年が初めて。昨年は中国とボルネオのUCIステージレースに参加したんだ。

 じゃあ、これが3回目のステージレースなんだね。それでベストヤングライダーのジャージを着ていたのはすごいね。

カロット (すこし恥ずかしそうに)前半は結果的にうまくいっただけだよ。でも、チームの目的はこのレースの総合優勝とチーム総合優勝だから…。

エドガー 隙をみて(ヤングライダージャージを)取り返すだろ?

カロット (苦笑)

出走サインボード出走サインボード
ポディウムガール達ポディウムガール達
DAGUPANの街DAGUPANの街
DAGUPANの川景色DAGUPANの川景色
家族3人乗りのオートバイ家族3人乗りのオートバイ

 4年後、5年後の未来はどう考えているの?

カロット いまリーダーのガレドのように、このレースで総合リーダーになりたいんだ。

 ツールドフィリピン(UCI2-2)よりもロンダフィリピネスなの?

エドガー フィリピン選手にとってこの大会が最も国内で価値のある大会なんだ。

 そうかー。レースの少ないフィリピンで、セブン-イレブンはどういう活動をしているの。

カロット フィリピンにレースが無いから、コンチネンタルチームとして年に16~17レースのUCIツアーを計画しているんだ。この試合が終わったら、ツールド台湾(UCI2-1)の可能性があるから、それを走るかもしれないよ。

現在総合リーダーのMARK GALEDO(ガレド)現在総合リーダーのMARK GALEDO(ガレド)
海軍チームキャプテン、ロイ海軍チームキャプテン、ロイ
タトゥー調のアームウォーマーを使用する韓国チームの選手タトゥー調のアームウォーマーを使用する韓国チームの選手

 セブン-イレブンはどんな環境に拠点を置いているの?

カロット マニラから90km離れたタルラックにチームの宿舎が2つあって、火曜日から木曜日まではそこで6人1室の共同生活を送っているんだ。

エドガー チームの環境としては完璧。トレーナーが常駐し、ジムも完備して、週に3日の合同トレーニングをしているよ。

 具体的にはどんなトレーニングをするの?

カロット 火曜日は距離(160km)、水曜日はスピード(100km)、木曜日は山を登るんだ。金曜日は自宅のあるパンガシナンまでの75kmを一人で自転車で戻り、土曜日はまた山を登り、日曜日は休み。月曜日はチームの寮に向け75km走って向かうんだ。

エドガー このチームはみんな若いのに全員子どもを持っているんだ(笑)。俺の国(スペイン)じゃ考えられないな! 週末は家族に会いに自宅に戻るプログラムなんだよ。

6カ月のザーちゃんを抱き微笑むクリス・ホベン選手6カ月のザーちゃんを抱き微笑むクリス・ホベン選手
リーダーのガレドを中心に良い雰囲気のセブンイレブンコンチネンタルチームリーダーのガレドを中心に良い雰囲気のセブンイレブンコンチネンタルチーム
珍しいロードバイクを守衛のおじさんも触りにくる珍しいロードバイクを守衛のおじさんも触りにくる
ひとときの休息をとる海軍チームのメカニックひとときの休息をとる海軍チームのメカニック
ハンモックでうたた寝ハンモックでうたた寝

 へぇ~!家族4人(父母子ども2人)で暮らすのにいくらぐらいで暮らせるんだい?

カロット うーん だいたい5万円から6万円だよ。

エドガー スペインじゃ13万円くらいだぜ。半分かぁ~。

セブンイレブンの分身チーム、ROAD BIKEチームで走るエドガー(Edger Nieto)。1986年生まれの27歳セブンイレブンの分身チーム、ROAD BIKEチームで走るエドガー(Edger Nieto)。1986年生まれの27歳

 将来は俺らもフィリピンに移住するか(笑)。ところでエドガーはどうしてセブン-イレブンと契約したんだい? 去年までインドネシアのPOLYGONだったろ。

エドガー POLYGONもいいチームだったけれど、昨年のツールドフィリピンで総合8位になったこともあって、昨年の11月に監督からオファーが来たんだ。

 どんなオファーだったの。

エドガー セブン-イレブンの選手をレースでうまく展開出来るようにコントロールしてくれとね。

 確かに、今回のロンダフィリピネスはリーダーをセブン-イレブンのガレドが穫ってから、チームのコントロールが目立つようになったね。

エドガー 個々の力はスペインでも通用するぐらい高いんだけれど、ここにはレースをどう走るかを教える環境がまだないんだ。俺がその役割を担っているんだよ。

80人ものスタッフで運営するロンダフィリピネス80人ものスタッフで運営するロンダフィリピネス
バナナキュー(バナナのカラメル焼き)&トゥロン(バナナのクレープ巻き)バナナキュー(バナナのカラメル焼き)&トゥロン(バナナのクレープ巻き)
タフーと呼ばれる、豆腐とタピオカのカラメル和えタフーと呼ばれる、豆腐とタピオカのカラメル和え
5ペソで買えるインスタントコーヒー自販機5ペソで買えるインスタントコーヒー自販機
暑さに悩まされ続けたオランダ勢暑さに悩まされ続けたオランダ勢

 それはエドガーにとって歓迎すべきことなの?

エドガー もちろん。セブン-イレブンはUCIアジアツアーを多く走るし、自分にもチャンスが回ってくると思うよ。

 あと5ステージ残っているけど、厳しいステージも多いこのレース。コントロールするのも大変だな。

エドガー 大丈夫。彼らはとても明るくて雰囲気を作れる上に、レースになれば強い精神力を発揮するから、多分うまくいくよ。

 うちのチーム(マトリックス・パワータグ)も、ダイキ(安原大貴選手)がまだ総合10位を狙える位置(総合18位)にいるから、俺たちも彼のために最善を尽くすよ。今日はありがとう! 明日からも頑張ろう!

カロットエドガー Sigue!!! またね!

ホテルの廊下も選手が入ると…ホテルの廊下も選手が入ると…
ステージ毎に自分たちの衣類を洗濯するステージ毎に自分たちの衣類を洗濯する
休息日は靴も洗う休息日は靴も洗う
名画も洗濯干しに…名画も洗濯干しに…
あらゆる場所が物干し場にあらゆる場所が物干し場に

◇      ◇

9ステージを走り終えたマトリックス・パワータグ

 安原昌弘監督率いるわれわれマトリックス・パワータグの今回のレースの目的は、14ステージのレースを2つのセクターに分け、前半の7ステージはオフシーズンから明けた身体にスイッチを入れる期間。後半は、スピードに慣れた身体で、チャンスを作って勝負を試みる期間と位置づけている。

TEAM MATRIX POWERTAGの安原監督TEAM MATRIX POWERTAGの安原監督
毎ステージ、レース前にチーム紹介が行われる毎ステージ、レース前にチーム紹介が行われる
マッサージのためにすね毛を処理マッサージのためにすね毛を処理
サイクルファンに囲まれる向川選手サイクルファンに囲まれる向川選手
チキンプレートを食べる向川選手チキンプレートを食べる向川選手

 4人でスタートしたロンダフィリピネスは前半、慣れない酷暑に悩まされ、第10ステージに挑むのは、安原大貴、向川尚樹、管の3人に。特にダイキ(安原)は第2ステージを4位で終え、上位に位置する総合成績を守りつつ迎える後半戦。これからどう戦っていくかは、次のレポートに乞うご期待。

第9ステージ出走前。ここまでのステージですっかり真っ黒に第9ステージ出走前。ここまでのステージですっかり真っ黒に
第9ステージ出走前の筆者と向川選手第9ステージ出走前の筆者と向川選手
出走サインを行う筆者出走サインを行う筆者
ステージを重ねる毎にリタイアする選手も増えてくるステージを重ねる毎にリタイアする選手も増えてくる
即席ブロマイドには、なんと監督のものまで即席ブロマイドには、なんと監督のものまで
山岳を上る集団。安原選手が健闘する山岳を上る集団。安原選手が健闘する

毎ステージ後は回復へ、時間との戦いが始まる

レース後スタンドハンバーガーに寄る筆者と安原選手レース後スタンドハンバーガーに寄る筆者と安原選手

 毎ステージ5時間の高強度のレースの疲労を次の日に残さないために、レース後は、ミネラルと、胃に負担にならない程度の量の食事を補給後、まずホテルのベッドで1時間程睡眠をとる。そして、なるべく夕飯前に全身オイルマッサージを施し、疲労した筋肉をほぐし、血の流れを促進するように努める。

 マッサージオイルは専用オイルがあればそれを使うのが良いが、入手困難な時は、ベビーオイルが便利。レース後に肌が暑く火照るフィリピンでは、少しタイガーバームを混ぜてマッサージを行っている。

 そしてマッサージ後は、一日で使ったカロリーを炭水化物とタンパク質で程よく補えるよう、食事を少し多めにとり、十分に睡眠をとるのが鉄則だ。

5時間のレースの後にはオイルマッサージを1時間行う5時間のレースの後にはオイルマッサージを1時間行う
オイルマッサージは筆者の得意分野オイルマッサージは筆者の得意分野
レース後は大量のエネルギーを補給するレース後は大量のエネルギーを補給する
レース後のひとときレース後のひととき
ラインレースの行程図はフレームに貼り付けるラインレースの行程図はフレームに貼り付ける
日々ステムを調整して筋肉を使い分ける日々ステムを調整して筋肉を使い分ける

レース中の補給食

補給食を作る和田選手補給食を作る和田選手

 日本では、便利な携帯補給食が数多く手に入るが、今回は柔らかい食パンにジャムや蜂蜜、チョコレートを挟んだ物をアルミホイルに包んで携帯した。アルミホイルは、走りながら開けるのが容易で、食べた後も手で握りつぶせばコンパクトなサイズに収まる。

 柔らかいパンは消化が早く、すぐにエネルギーに代わるので、レース、トレーニング中の補給には最適だ。

※<中>に続く 

管洋介
管洋介(すが・ようすけ)

think deep DEBO 所属 プロカメラマン
10歳よりサイクリングを始め、日本の島々を回り、16歳で自転車競技を始めてからはスペインをはじめ、ヨーロッパ、アフリカ、アジアへ世界が広がった。夢はメキシコのプロレス記者になること。2014年はMATRIX POWER-TAG所属で競技活動を行う。
1980年2月26日生まれ A型

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