ワールドカップ女王の素顔強さの秘密は、経験と努力と愛 シクロクロス東京を制したケイティ・コンプトンに密着

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「シクロクロス東京2014」のレースを終えてリラックスした表情のコンプトン=東京・お台場海浜公園「シクロクロス東京2014」のレースを終えてリラックスした表情のコンプトン=東京・お台場海浜公園

 シクロクロス“ワールドカップの女王”、ケイティ・コンプトン(アメリカ、トレック シクロクロスコレクティブ)が2月8、9日に東京で開催された「シクロクロス東京2014」に参戦。レース前日は大雪に見舞われ、滑りやすいなどの影響があったものの、2位の豊岡英子(パナソニックレディース)に1分28秒の差をつけ圧勝し、世界トップの力を見せつけた。レース当日からその後の東京観光まで、初来日のコンプトンにCyclistが密着取材をした。(柄沢亜希)

ケイティ・コンプトン(左)と夫のマーク・レッグさん=東京・浅草ケイティ・コンプトン(左)と夫のマーク・レッグさん=東京・浅草

楽ではないから、シクロクロスが好き

 コンプトンは、ヨーロッパで10月から1月にかけて開催された今季のワールドカップ7戦のうち5つの勝利を収め、シーズンを締めくくる2月1日の世界選手権では優勝候補として有力視されていた。結果は9位、1位のマリアンヌ・フォスに3分近いタイム差を許した。「これまでで忘れられないレースは」という記者の質問には、真っ先に世界選手権と答えた。

細くうねった泥の森林未舗装区間をクリアしていくコンプトン(シクロクロス東京2014)細くうねった泥の森林未舗装区間をクリアしていくコンプトン(シクロクロス東京2014)

 世界選手権の時は、「アレルギー性ぜん息を発症していて調子は良くなかった」上に「(優勝した)フォスが得意とするコースだった」という。出だしでは遅れをとりほとんどラストからのスタート。さらに1周目でほかの選手と接触するアクシデントに遭いながらポジションを上げていった。悔しい気持ちはあるものの、「世界最速の女性選手たちと、私の強さを持ってしても敵わないようなハイスピードなレースを経験できた。エキサイティングだったわ」と、あくまでも前向きにとらえている。

 シクロクロスの魅力は何かと尋ねると、「テクニカルな部分で競うことができる点。レースの最中はただ自分を鼓舞し続けなければならず、とても苦しい…でもそんなところも大好き。精神面での準備は欠かせないわ」とコンプトン。スタート前に、どの走行ラインを取るか、どのギアを使うかといったコースイメージやどんなレース展開にしていくかといったことに意識を集中させて心構えにつなげていくのだという。

 「そのためには、どんなコースなのかを徹底的に頭に叩き込んでおかなければならない。今シーズンのワールドカップでは、いつも前日に2~5回、当日直前にもコース状況を把握して落ち着くために試走をした。コースの難易度によってどれくらい試走しておくかは変わってくるけれど、泥が重すぎる場合は体力温存のためにそれほどは乗らないこともあるの」

2月9日に行なわれたシクロクロス東京2014・エリート女子のレースを圧巻の走りで制した2月9日に行なわれたシクロクロス東京2014・エリート女子のレースを圧巻の走りで制した

 雪や日光が降り注ぐレースをはじめ、泥のレースも大好きだという。その理由は、「まるで、泥まみれになって喜ぶ小さな子供ってかんじ」とおどけたあとで「周回ごとに走行ラインが変わり、一筋縄ではいかない。パワーも必要でチャレンジングなところが楽しいの」と語った。

初レースは二日酔い!?

「レース必勝祈願をしていたらうしろが行列になっちゃうわね」=東京・浅草寺「レース必勝祈願をしていたらうしろが行列になっちゃうわね」=東京・浅草寺

 そもそも今季は、昨年4月にヒザを痛めて夏の間リカバリーに努めてきたため、シーズン初めのコンディションは万全とは言えなかったようだ。「12月、1月になってからやっと調子が出てきたかんじね」

 アメリカ・コロラド州在住のコンプトンだが、シーズン中はベルギーの“第2の家族”とともに過ごし、近くのトレイルで練習を重ねているという。日本人選手では豊岡英子がやはり同じようにホームステイしながらワールドカップに参戦していると告げると、「そう、ベルギーではそれが各家庭での典型的なイベント。レースともなると家族総出でサポートしたり参戦する子供がいたりと賑やか。私にとって大切なもうひと組の両親がいるかんじ」と想いを馳せた。

 現在35歳、自転車に乗り始めて28年というコンプトンは、トラック、ロード、マウンテンとさまざまな種類の自転車にチャレンジしてきた。特にトラックでは2006年にシクロクロスでプロ転向するまでの4年間、パラサイクリングのタンデム競技に打ち込み、2つのゴールドメダルをはじめ、数多くの世界選手権で勝利を勝ち取った経験を持つ。

テストやデザインなど開発段階から関わっているトレックのバイクを駆って波打ち際をハイスピードで走り抜けていく。「いいバイクであればあるほど、体力をセーブできる」(シクロクロス東京2014)テストやデザインなど開発段階から関わっているトレックのバイクを駆って波打ち際をハイスピードで走り抜けていく。「いいバイクであればあるほど、体力をセーブできる」(シクロクロス東京2014)

 「シクロクロスを始めた時は、ライド仲間に誘われて不承不承といった感じだった。ロードバイクやマウンテンバイクのレースには参加していたけれど、1999年当時のアメリカではまだ人気とは言えず、シクロクロスは私にとっても新しいものだった。最初のレースなんて二日酔いで出て、なんとか完走。最高に気持ち悪かったけど楽しくて、気づいたら夢中になって毎週末のレースに参戦してたの(笑)。そこからもう15年経つのね!」

 シクロクロス東京の同レースで4位となったウェンディ・シムズ(カナダ、コナ シクロクロスチーム)とは、これまで何戦も各国のレースで顔を合わせてきたという。「ウェンディがスタートのピストルと同時に飛び出すファストスターターだということはよく知っていた」と話したコンプトンは、スタート時に飛び出したシムズを2周回目には捉え、その後は独走でレースを終えている。

 「35歳を過ぎた大人の女性同士が東京で“同窓会”ができたなんて、素敵ね」とシムズとの再会を喜んでいたコンプトン。ワールドカップで何度か目にしたという豊岡とも、「今回の表彰台にいっしょに並ぶことができてよかった」と語った。

コースを“読む”技はオートクロスから

東京駅から散策スタート!東京駅から散策スタート!

 レース以外にコンプトンは、趣味のスキーやオートクロス(ジムカーナ)、愛犬との時間を過ごしているという。オートクロスは、フットボールスタジアムが入るほどの広大な駐車場でカラーコーンをターンするなどしながらタイムを競い合うもので、1レースは50~70秒、最速で時速200kmにも達する。夫のマーク・レッグさんと共に所有する「BMW 1M」を代わりばんこに乗り換えながら楽しむのだとか。

 「レースの朝にはコースを歩いて回り、カーブや路面をチェックする。もちろんスピードは違うけれど、目で見てどのラインを走るのかを直ちにイメージするといった点はシクロクロスにも役立っている」

浅草・吾妻橋でスカイツリーやアサヒビール本社ビルをバックに“念願だった”というピースポーズで記念撮影浅草・吾妻橋でスカイツリーやアサヒビール本社ビルをバックに“念願だった”というピースポーズで記念撮影
真剣な表情で包丁を見つめるコンプトン真剣な表情で包丁を見つめるコンプトン

 コンプトンは3年前から小麦アレルギーがひどくなり、自宅では料理もよくするという。今回の来日では、お気に入りの包丁を見つけさっそく購入していた。

 また「シクロクロスでまだまだ走り続けたいし、目下最優先」としながらも、「将来は夫といっしょに救助犬のトレーニングに関わりたいと話しているの」と言うほど犬が大好き。シーズン中ヨーロッパ遠征をしている間は、友人たちに預けた愛犬のことが気になって仕方がないといった様子だ。

 プロレーサーになる前の夢は看護師だったと言い、引退後のやりたいことのひとつ。「現実的でしょ!」と輝く笑顔がまぶしい。

 今はU23で走る若手ライダー数人のトレーニングを指導しているほか、シクロクロスのテクニックを磨く“クリニック”も、夫と2人で夏に合宿スタイルで開催している。クリニックは地元で行なう20人程度の小規模なもので、ターンやカーブ、乗り降りを重点的にトレーニングして、機材のセットアップ方法も教えているという。

 「自転車競技を続けるには機材などにお金がかかる上、両親の協力も欠かせない要素。特に女の子たちには、私のこれまでの経験を踏まえたアドバイスをしながらサポートをするように務めているわ」

夫婦そろって東京散策タイム

皇居前の松林では「シクロクロスをしたら気持ちよさそう…」と眺めていた皇居前の松林では「シクロクロスをしたら気持ちよさそう…」と眺めていた

 最後に、皇居や浅草寺など、東京の名所を観光。小麦入りの料理や菓子類はアレルギーのため食べられなくても、「東京は食べられるものがたくさん」とうなぎや芋ようかんを楽しみ、せんべいを買い込んでいた。

 犬を交代で預かってくれている友人らにはおみやげにウイスキー「竹鶴」のミニボトルと肉球柄の箸を選び出した。また通りすがりの“働く自転車”には、夫婦そろって興味津々。警察が乗る白いママチャリや、浅草の音楽ショップ前に飾られていた拡声器付きの自転車には熱心のシャッターを切っていた。

浅草寺でお香の煙を遠慮しがちにあびて感想は「温かい」浅草寺でお香の煙を遠慮しがちにあびて感想は「温かい」
早くも日本のうな重が大好物になったというコンプトンの喜びの瞬間早くも日本のうな重が大好物になったというコンプトンの喜びの瞬間
東京・浅草で“働く自転車”をチェックするコンプトン&レッグ夫婦東京・浅草で“働く自転車”をチェックするコンプトン&レッグ夫婦

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 コンプトンの強さは、多様な経験で培われた感覚とスキル、メンタルのタフさにあると取材をしていて感じた。そしてもちろん努力を惜しまないこと。さらなる秘訣は、適度な距離で寄り添い、練習も常にいっしょにこなすという夫でありパートナーのマークさんとの“愛”にあるのではと思う。

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