豊岡英子と田中苑子の欧州シクロクロス遠征記 2013-14<5・完>遠征ラストの世界選手権を完走 「もう一段階上に行くために」、姫は前を向いて走り続ける
豊岡英子選手(パナソニックレディース所属、通称“姫”)と私(フォトグラファー田中苑子、通称“チュー”)の欧州シクロクロス遠征。ついに、この遠征の最終戦であり、もっとも高いステータスをもつ世界選手権が開催されました。豊岡選手の結果は36位完走。現在、豊岡選手のUCIランキングはもっと上ですので、さらに上の数字も期待されていましたが、本人は「何よりも無事に完走できてよかった」と話しています。
12月18日にベルギーへ到着して早6週間。毎週末、各地のレースを転戦していたため、過ぎてみればアッという間に思えます。2月1日、激動の欧州遠征最終戦である世界選手権を迎えることができました。先週末のフランスでのワールドカップのあと、一度、拠点のあるベルギー、ズウェベへムに戻り、レース前々日の木曜日に会場近くのホテルへと移動。その日の午後から公式練習が始まりました。

ホーガハイデのサーキットは、毎年ワールドカップに組み込まれ、2009年にも世界選手権が開催されています。毎年、コースは多少変更されますが、基本的なところは一緒。昨年は寒波が襲い、体感気温マイナス15℃の凍り付いたコンディションで、「バイクから降りても、路面が凍っていて転んでしまう!」なんて状況でしたが、今年は気温が高く、レース前に雨が降ったため、泥のコンディションとなりました。
大会当日は、朝から大勢のファンが集まりました。女子のレースは、開催国オランダの絶対的女王マリアンヌ・フォスとアメリカのケイティ・コンプトンとの対決が注目の的。ファンの関心度も高く、40分間、4周回のレースは、終始大歓声に包まれながら進行しました。24番手スタートだった豊岡選手は、冷静にスタートし、「2周目はキツすぎてやめたかった」と言いますが、それでも諦めずに前を目指し、大きなトラブルなく36位でレースを終えました。
チュー「姫ちゃん、世界選手権お疲れさま!」
姫「お疲れさま!」
チュー「結果は36位。この結果をどう思っている?」
姫「うーん…もちろんもっと上に行けたらいいなと考えていたけど、それはできなかった。でもこの前の3回の世界選手権では完走すらできなくて、本当に悩んだから…。もっと上を狙いたかったけど、まずは絶対にゴールしたいと思っていた。スタートすると、最初からめちゃくちゃ速いペースで、2周目に帰ってきたときには、先頭から3分空いてしまって…正直、本当に焦ったな」
チュー「でも大きなミスもなく、中盤からうまく立て直して、無事にゴールできたよね」
姫「集中できていたんだけど、2周目が本当にしんどくてやめたかった。いつも2周目であかんかったら、ズルズル失速するねん。けど、今年はしんどくても、復活できることがあったから、それを信じて耐えることができた。コースは重い泥が多いから、すごくエネルギーを消費したんだ」
チュー「やめたいと思ったときに、やめなかったのはなぜ?」
姫「そうやな〜、やっぱり、今回、練習をちゃんと計画的にやってきて、しんどくても復活できると言われてきたから、ただそのときを待った。ピットにお世話になっているランジットがいると思ったら、やめるわけにいかない。そうしたら3周目に復活してきた。結果は36位だったけど、頑張れたと思う。そして、もう一段階上に行くためには、もう一段階違うことをしないと無理だと思った」
チュー「今回、ナショナルチームで若い選手とたくさん話していた印象だけど、何を話していたの?」

姫「たわいもないことだけど、やっぱり初めて外国に来た子も多いし、すごい緊張していたから、そうやって楽しい雰囲気を作ったり、私が知っていることを教えてあげることで、気持ちがラクになればいいと思った」
チュー「だって、気がつけば姫が最年長だもん。みんな海外で走ることの面白さや、難しさがよくわかったと思う。姫は2014年、これからどんな目標でいく?」
姫「もちろん私は上をめざす。もう1つ上で戦いたい。もっと上にいけたら、今よりももっと突き詰めたところに入っていけて、もっともっと楽しくなると思う。そこの領域にいかないと、なかなかわからないことだと思うけど」
チュー「来シーズンに向けて、具体的に、何かすべきことは見つかった? どうしたらもっと先にいけるかな?」
姫「より速く走るためには…多々あるんだけど、自分ではよくわかっている。たとえば…上りだな。上りのためにしないといけないことが、一番しんどいわけで…(笑)。それをここで明らかにしたくはなかったんだけど…(笑)。自分でも、じゅうぶん気がついているから!」
チュー「あ…、でも、ほら、下りは速いじゃん!!!(笑)」
姫「たしかに…(笑)!!! ワールドカップのとき、自分の下りの速さにビックリしたしな」

チュー「いいところを生かしつつ、弱点強化でいこう。そして、いつも楽しくね!」
姫「本当に日本全国各地から、そしてヨーロッパ、アメリカまで、たくさんの人が応援してくれて、その言葉だけで頑張れていたときもたくさんある。感謝の気持ちを忘れずに頑張ろうと思う!」
チュー「うん、また来シーズンのために頑張ろうね!」
◇ ◇
世界選手権を終えて、ベルギーでサポートしてくれている人たちは「アヤコはもっと上を狙える!」と話しています。毎シーズンそうですが、今シーズンもたくさんの人に助けてもらいました。彼らの気持ちに応えるのは、前を向いて一生懸命走り続けることしかないです。なかなか思うような結果が出ないこともありますが、試行錯誤を繰り返しながら、豊岡選手はこれからも上をめざして、走り続けていきます。本当に、今シーズンも応援ありがとうございました。これからもよろしくお願いします!
(写真・文 田中苑子)

豊岡英子(とよおか・あやこ)
1980年、大阪生まれ。トライアスロンを経て自転車競技の選手に。シクロクロスでは2005年~11年まで全日本選手権で7連覇を達成し、2012年は2位、2013年は4位。ヒョウ柄のウエアとバイク、キラキラのヘルメットなど華やかなビジュアルが彼女のトレードマーク。

田中苑子(たなか・そのこ)
1981年、千葉生まれ。2005年に看護師から自転車専門誌の編集部に転職。2008年よりフリーランスカメラマンに転向し、現在はアジアの草レースからツール・ド・フランスまで、世界各国の色鮮やかなサイクルスポーツを追っかけ中。