管洋介のスペイン・サイクリスト・レポート<下>思い出のスペインの地で仲間たちとの再会 変わらぬ温かい友情に乾杯!

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 欧州の経済危機の渦中で、自転車選手も厳しい環境に向き合っているスペイン。カメラマンで現役Jプロツアーレーサーでもある管洋介さんによる現地レポート<下>をお届けします。

地中海に面したカタルーニャ州、最南端の街アルカナールへ

 ホセと別れた私は、マドリードから高速鉄道に乗り、かつて3年間にわたって拠点にした街、ビナロスとアルカナールへ向かった。この2つの街は、地中海に面してカタルーニャ州とバレンシア州の境界線を二分する街にあたる。この地域は私が活動していた時代に偶然にもハイレベルの選手が揃っていて、常に刺激のある環境の中で選手生活を送る事ができた。その後もSNSなどを通じて連絡を取り合っており、今回もうまく皆が都合をつけて集まってくれた。

元短距離の自転車選手で、現在はカメラマンとして活躍するビクトル元短距離の自転車選手で、現在はカメラマンとして活躍するビクトル

 今回は、短距離選手を引退後、私と同じカメラマンに転身したVictor Segui(ビクトル)の実家に初めてステイすることになった。ビクトルとは選手時代はもちろん、カメラマンになってからは、お互い仕事上でも付き合う仲となっていた。

 ビクトル「おー、Yosuke ! この日が来るのを楽しみにしていたんだ!」

 管「Victooor、イグアルメンテ!!(同じく!) 今日は初めてお前の家族に会うなぁ」

 ビクトル「いやいや、俺の親父は、レースの先導バイクをやっていたから、何度も会っているはずだぜ!」

 管「本当? そりゃ知らなかったなぁ!」

クリスマスはパエリアで

 到着した日はクリスマス。スペインではファミリーで団欒するのが一般的だ。この日は、鶏肉と野菜、ランゴスティーノ(海老)をふんだんに使ったパエリアを庭の釜で作ってくれた。パエリアといえばスペインでは全国で食べる事ができるが、このバレンシア地方が発祥の地。パエリアを調理するのは男の仕事。ビクトルの父親の手さばきに感心しながらパエリアの作り方を教えてもらった。

 たっぷりのオリーブオイルで炒めた素材の香りは、釜から溢れる湯気に乗って食欲をそそる。水分が抜けて来るとサフランの染みた黄色いお米がしっかりと素材を包み込んだパエリアが姿を現した。食こそスペインの醍醐味。私が選手で居た時には、週末は試合で、家族揃って作って食べるパエリアには殆ど巡り会う機会がなかっただけに、皆で味わうパエリアがこんなに美味しいとは感激した。

ビクトルのパパ。パエリア作りは男の仕事だビクトルのパパ。パエリア作りは男の仕事だ
キュートなビクトルのママキュートなビクトルのママ
たっぷりのオリーブオイルで材料を炒めるたっぷりのオリーブオイルで材料を炒める
続いて米を入れて炒める続いて米を入れて炒める
スープを入れて煮込む。鮮やかな黄色はサフランスープを入れて煮込む。鮮やかな黄色はサフラン
ランゴスティーノを乗せて蒸し焼きにして完成!ランゴスティーノを乗せて蒸し焼きにして完成!

カタルーニャ地方のクリスマスは サンタさんよりも「CAGA TIO」(カガ ティオ)

 この丸太にマントの姿のTIOがクリスマスの主人公だ。カガ ティオの歌を皆で歌いながら、最後にマントをはがすとそこにはプレゼントが!

 スペインでもカタルーニャ州特有の風習となっている。

地元の選手達と再会

エドゥがタラゴナから駆けつけてくれたエドゥがタラゴナから駆けつけてくれた

 夜は急遽アルカナールの若者の集うバールに、選手たちが集まってくれた。未だに皆現役で走ってくれているのは、とても嬉しい事だ。

 特に当時まだ18歳でエリートアマチュアのFCバルセロナで走っていたEduard(エドゥアルド、通称エドゥ)が、近年目覚ましく成長し、ポルトガルのOFM Quinta da Lixanに所属のプロ選手として活躍しているのは、日本にいながらも、いつも嬉しい話題の一つであった。ちなみにエドゥは2013年のスペイン選手権プロロードレースで5位に入っている、スペイン若手の期待の星だ。

 遅れて到着したのが、私の大親友のSergi Casanova(セルジ)。彼の誘いでアルカナールのチームに移籍した事もあって、私の恩人の一人だ。

アルカナールのバールに集まった仲間アルカナールのバールに集まった仲間
遅れて来たセルジと遅れて来たセルジと

 管「Sergiiii!! 久しぶりだなぁ〜。彼女と一緒に暮らしはじめたんだって?」

独立を目指しているカタルーニャ州を応援して人間旗を披露独立を目指しているカタルーニャ州を応援して人間旗を披露

 セルジ「Yosuukeee!! まだ2人で引っ越したばっかりなんだ。仕事も変わってトルトサのサイクルショップで働いているよ」

 管「試合はたまに出ているんだろ?」

 セルジ「シエスタの時間(スペインの午後1時〜4時くらいまである休憩時間)にトレーニングに出ているよ。2013年は40レース走ったかなぁ」

 管「本当かよ! 普通に俺より試合は走っているじゃないか!」

 セルジ「明日はクリスマスで休みだろ! 走ろうぜ」

翌日はジャージで再会!

朝食はトースト&パスティセル朝食はトースト&パスティセル

 翌日は快晴なものの嵐のような風が吹き荒れる日となってしまった。このところスペイン全土で大風の注意報が流れていて、特に北西では相当被害が出ている模様であった。

 今日の朝食はトーストにパスティセルというカタルーニャ州のクリスマスのお菓子。中にジャム(この日はカボチャのジャムだった)が挟んであって、少し厚めのパイ生地と砂糖で包んである。

 朝食を食べ終わると、約束の9時半にスペイン人らしくなく時間にきっちりしたエドゥが到着した。

 「Bon dia !! Yosuke !! 今日のこの風はやばいぞ! 今日は2時間ぐらいにしようぜ!!」

エドゥと筆者、セルジの3人でスタートエドゥと筆者、セルジの3人でスタート
エドゥの兄貴のベンジャミンを迎えて4人のグルペットになったエドゥの兄貴のベンジャミンを迎えて4人のグルペットになった

 先に着いたエドゥが今日のとてつもない強風に苦笑い。空は青々と晴れているのに、思いっきり走れないのはなんだか悔しい。続いてセルジか到着すると開口一番同じ事を言っている。

 「今日はビナロスへ、リブラード(かつての監督)に挨拶に行こうぜ!」と提案し、かつて住んだ町ビナロスへ向かった。走り出すと向かい風では頑張って時速15km、追い風では軽く時速60kmという暴風。横に風を受けるとまっすぐ走れない。素直にあきらめることにした。

バレンシアオレンジの畑が続く農道をトレーニングバレンシアオレンジの畑が続く農道をトレーニング
セルジとエドゥセルジとエドゥ
バレンシアと言えば、オレンジバレンシアと言えば、オレンジ
ひどい横風に、傾きながら走るひどい横風に、傾きながら走る

ビナロスのバールでかつての監督と再会

いつも同じバールでワインのソーダ割りを飲んでいるリブラード監督(右)といつも同じバールでワインのソーダ割りを飲んでいるリブラード監督(右)と

 管「Librado … 相変わらず何も変わっていなくて嬉しいよ!」

 リブラード「Yosukee !! またここに戻って来たのか!!」

 管「今回はオフシーズンの休暇で来たんだよ! また走りたいなぁ」

 リブラード「Yosukeee … お前の家はここにいっぱいあるじゃないか、いつでも走りに来なよ」

 私が3年所属していたチームの監督 リブラードは今やスペインで一番古い監督。79歳で未だにレースに帯同するというのだから驚きだ。とても癖のあるカタラン(カタルーニャ語)を話すため、最初の頃は聞き取りに本当に苦労したが、スペイン語特有の合間にアクセント的な冗談を入れるタイミングをうまく掴めば、話の流れを整理して聞くことができる。私も少し覚えたカタランを会話の合間に挟んでいくと何やら嬉しそうだ。

 リブラード監督が若い選手達に色々と話をしだすと、皆スッと彼の話を聞き出す。信頼関係がそうさせているのもあるが、田舎町のスペインの若者と老人たちの会話はなんだか自然で和ましい。日本も年上を敬う国ではあるが、スペイン特有の距離感のない付き合い方が好きだ。

ビクトルの家で好物のアルカチョファスを頂く!

とれたてのアルカチョファス(朝鮮アザミ)とれたてのアルカチョファス(朝鮮アザミ)

 ビクトルの家に戻ると、今日も庭の釜戸でビクトルパパが何やら準備をしている。見れば私の大好物アルカチョファス(アーティチョーク)だ!

 「昨日好きだと言っていたろ。今ちょうど食べごろの時期なんだ!」

 アルカチョファスの調理の仕方は色々あって、トルティージャ(卵焼き)に刻んだものを挟んだり、酢漬けにして漬け物のように食べたり、炒め物にすることもある。しかし今回はナチュラルかつ王道のALCACHOFAS A LA BRASA(アルカチョファス・ア・ラ・ブラサ)を調理してもらった。

 ア・ラ・ブラサという調理法は、とてもシンプルにオリーブオイルと塩をかけて釜でじっくり焼くだけ。素材の新鮮さと焼き加減が勝負になる。この地域ではバレンシアオレンジの他にこのアルカチョファスの畑が結構あって、絶妙な焼き加減でいただくアルカチョファスはもう最高! ビールがすすんだのは言うまでもない。

塩をまぶすため一度潰す塩をまぶすため一度潰す
塩をかける塩をかける
オリーブオイルをたっぷりかけるオリーブオイルをたっぷりと
釜にいれ炭の上でじっくり焼く釜にいれ炭の上でじっくり焼く
外の葉が開いて来て、きつね色に色づいたら食べごろだ外の葉が開いて来て、きつね色に色づいたら食べごろだ

ビナロスを離れ、バルセロナへ

街のキオスクでも、自転車雑誌が売られている。かつては毎週発刊の自転車新聞 META 2 MIL をはじめ多くの自転車雑誌が存在したが、不況でその多くが姿を消した街のキオスクでも、自転車雑誌が売られている。かつては毎週発刊の自転車新聞 META 2 MIL をはじめ多くの自転車雑誌が存在したが、不況でその多くが姿を消した

 今回の旅の締めは、スペイン時代に最後に住んだ町バルセロナへ。なんだか少し苦い思い出の地だ。しかしながら、スペイン最大の観光都市バルセロナ。私の住んでいたのはガウディ最大の建築遺産であるサグラダファミリアの近くだ。

 バルセロナの都市部では不況の為、経営ができなくなったバールを華僑がまるまる買い取るという動きが近年多いらしい。私がいた頃は、スペインバールの主人がスペイン人というのが普遍的であったが、ここバルセロナでは中国人主人のスペインバールというのが多く見られるようになった。どこまでも活力のある彼らに感服!

現在残っている自転車雑誌は本当に少ない。老舗ではこの Ciclismo a fond が貴重な雑誌現在残っている自転車雑誌は本当に少ない。老舗ではこの Ciclismo a fond が貴重な雑誌
誌面のトピックスの一つに昨年日本のJプロツアーを制した トリビオ(チームUKYO)の写真が!!誌面のトピックスの一つに昨年日本のJプロツアーを制した トリビオ(チームUKYO)の写真が!!
ビシング(bicing)はバルセロナのレンタサイクルシステム。市内には400を超えるステーションがあるビシング(bicing)はバルセロナのレンタサイクルシステム。市内には400を超えるステーションがある

 バルセロナの街はビシングというレンタサイクルも近年増え、車も減ってエコなイメージも広がっている。今回バルセロナで会ったのは、かつてBIANCHIチームにいた時のチームメイト、David llaurdo(ダビッド・リャウラドー)に会うためだった。近年タンデムのパイロットとして世界中で活躍する彼とは、かれこれ14年の付き合いだ。

 管「おーダビちゃん! 俺らはいつまでも老けないなぁ!!」

 ダビ「Suga chan!! 本当だな! 日本も自転車競技の環境が良くなったみたいだね」

ダビちゃんにも息子が誕生した。次の世代になっても友情は不滅!ダビちゃんにも息子が誕生した。次の世代になっても友情は不滅!

 管「そうだね。アジア全体が今自転車競技が盛んだよ。日本で走るスペイン人も年々増えてきてるんだぜ」

 管「ダビちゃん、タンデムの方はどうなんだい」

 ダビ「おー、今年はちょっとギリギリだったよ。なんとかスペイン選手権でタンデムロード4位になれたから、来季も活動が決まったけどな」

 管「東京オリンピックで会おうぜ!」

 ダビ「6年後かよ! そりゃ難しいなぁ。俺らで子どものクラブを作って未来を繋げようぜ」

 管「そうだな!」

 今回の旅も毎度ながら友人を廻り、彼らの温かさを感じながらスペインを満喫した。いつかスペインと日本を繋げる様な事ができたら、更に人生が面白くなりそうだ。夢は実現するもの。自転車片手にこれからも飛び回っていきます。

管洋介
管洋介(すが・ようすけ)

think deep DEBO 所属 プロカメラマン
10歳よりサイクリングを始め、日本の島々を回り、16歳で自転車競技を始めてからはスペインをはじめ、ヨーロッパ、アフリカ、アジアへ世界が広がった。夢はメキシコのプロレス記者になること。2014年はMATRIX POWER-TAG所属で競技活動を行う。
1980年2月26日生まれ A型

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