ストーク集中レポート<後編>ストークの創始者マーカスのこだわりと成功への道筋 「一度倒れても、確固たる信念と共に立ち上がる」

by 中村浩一郎 / Koichiro NAKAMURA
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 ドイツの高性能バイクブランド「ストーク」の自転車を一言で説明するなら、“こだわりの固まり”という言葉がふさわしい。繊細な感性から得た乗り味のイメージを実現するため、使える技術力を出し惜しむことなく駆使し、自分たちが信じる品質の自転車を創っている。その乗り味自体は前編を参考にしていただくとして、今回はストークを創り出す総司令官であり、エンジニアでもある鬼才、マーカス・ストーク本人について、お伝えしよう。(レポート 中村浩一郎)


ショップ、輸入会社を経て「ストーク」を設立し、世界的な成功をおさめたマーカス・ストーク氏ショップ、輸入会社を経て「ストーク」を設立し、世界的な成功をおさめたマーカス・ストーク氏

自転車ショップの経営から「クライン」ブランドの輸入開始

実は10代の頃、すでに自分の「ストーク」という名を付けたクロモリフレームを造っていた実は10代の頃、すでに自分の「ストーク」という名を付けたクロモリフレームを造っていた

 マーカスは、根っからの自転車業界人である。「ボクは自転車業界に生まれた。そして、自転車業界で死んでいくだろう」という。父が自転車プロショップを経営しており、本人の弁によると、6歳ですでに自転車を販売したという。14歳のときに父は2軒目のショップをオープンさせ、マーカス自身は、学校が午後1時に終わると、そのショップを切り盛りしていた。

 18歳のときには、「スペシャライズド」の完成車をヨーロッパに輸入する会社を設立。そのうち、自身のブランド「バイクテック」を立ち上げるなどしながら、「クライン」というアルミの高品質なバイクブランドの輸入を開始し、そのビジネスをヨーロッパ全土に広げていく。当時、クラインの全売上のうち、25%をヨーロッパ、すなわちマーカスが手掛けていたそうである。

「クライン」と1億円の収入を失い、賞金1億円を手に入れる

 ところが、そのクラインを1995年にトレック社が買収(現在、クラインブランドは消滅)。好調だった欧州でのクライン販売権がなくなり、マーカスは突然、収入の60%を失ってしまった。

マーカスの波瀾万丈な生き様は、ドイツで本になって出版されている。分厚い雑誌形式になっているカタログも、マーカスのこだわりがつまっているマーカスの波瀾万丈な生き様は、ドイツで本になって出版されている。分厚い雑誌形式になっているカタログも、マーカスのこだわりがつまっている

 それまでのマーカスは、自転車輸入会社の経営者としてビジネスセンスを発揮してきたが、その後は、自転車ブランド造りの“鬼才”として生まれ変わる。まずは、クラインの製作に携わってきた者たちに声をかけ、新ブランドのストークを設立。6カ月で最初のプロトタイプを製作し、ヨーロッパの自転車ショー、ユーロバイクにて発表した。(余談だが、ユーロバイク設立の仕掛人もマーカス本人である)

 そして1996年、MTBのクロスカントリーが初めて五輪競技として採用されたとき、男子の金メダルを獲得したフレームは、ストークがOEM(相手先ブランドでの生産)で造ったものであった。

マーカスのプレゼンテーションは淀みなく、2時間ほどに渡って続いた。しかし、その内容はどれも興味深いマーカスのプレゼンテーションは淀みなく、2時間ほどに渡って続いた。しかし、その内容はどれも興味深い

 自分の目指すフレーム造りの方向性が間違っていないことを確信したマーカスは、MTBカーボン・フルサスフレーム「オーガニック」の開発を手掛け、その企画を、新規ビジネスへの投資コンテストに応募。総数4000件もの中から見事優勝を勝ちとり、投資金1億円を手に入れた。その後のストークは毎年、大きな利益を上げる優良企業となり、妥協のない、自分の信じるフレーム造りを続けていく。

 「結局、クラインを失ったことで1億円の収入も失いましたが、それが、自分のブランドへの1億円の投資として戻ってきた。一度倒れたとしても、確固たる信念と共に立ち上がるのが、大切なのです」

すべてのフレームに、ドイツ人ならではのこだわりを

ストークのTTモデルの、イメージ的な設計図。内容はよくわからないが、細かな技術を説明してくれたストークのTTモデルの、イメージ的な設計図。内容はよくわからないが、細かな技術を説明してくれた

 「私は、典型的なドイツ人です。つまり、全ての製品は、機能性とその形状とが、余計な装飾をすることなく、存在しているべきだと考えています」

 そのこだわりの表われの一つが、同じモデルであったとしても、サイズごとにその作り方を変えていること。「サイズが小さくなれば、後ろの剛性は堅くなる。反対にサイズが大きくなると、ヘッドなどの剛性不足を感じる」。そのために、サイズごとにチューブの太さを変え、サイズが変わっても乗り味を同じにしているのだ。

後ろ斜め方向に空くリアエンド。「世界最軽量のエンドです。変速機のハンガーも短く、剛性が出せるのです」と説明していた後ろ斜め方向に空くリアエンド。「世界最軽量のエンドです。変速機のハンガーも短く、剛性が出せるのです」と説明していた

 さらに、ストークのフレームには、特殊なリアエンドが付いている。リアホイールを装着するこのエンド部は、一般的にはホイールを取り外しやすいように下を向いて空いているが、ストークのエンドは全て、少し後方を向いたものが採用されている。

 「クイックレバーを緩めても車輪は落ちず、ペダルを漕いでチェーンが張れば、ホイールは正しい位置に入り続ける。つまりリアのクイックは軽く締めればその役目をきちんと果たします。そのため、エンド自体を世界最軽量にでき、形状としてもほとんど無駄のない、機能性をそのまま形にしたものになったのです」

マーカスの個人所有バイク。完全にプロトタイプで、自身でテストを行うのだが、ディスクとスルーアクスルを活かし、さらに軽量化を進めたようだマーカスの個人所有バイク。完全にプロトタイプで、自身でテストを行うのだが、ディスクとスルーアクスルを活かし、さらに軽量化を進めたようだ

「色で選びたいという方は、ストークのお客さまではありません」

バイクライドはもちろんだが、今は山登りに夢中なマーカス。「家からでたところに、トレールが山ほどあるんだ」バイクライドはもちろんだが、今は山登りに夢中なマーカス。「家からでたところに、トレールが山ほどあるんだ」

 このように、マーカスは機能面でのこだわりを、余すところなく形にしている。それは、素材特性にいたるまで知り尽くした彼のエンジニア的な側面と、彼が幼少から培った経営才能が生んだ資本力によるものだ。現在のマーカスは、商業的成功によりさらに大きくなった自社の研究施設で開発の指揮を取るか、どこかで自転車に乗っている。

 「自転車における機能性というものを、全て数字で考えたいのです。剛性、弾性、耐久性、そして乗り味。全ての製品は、現在ある製品特性を数値化して初めて、さらに進化できるのだと考えています。そのためか、ストークのお客さんは男性が多いんです。もし、5色のラインアップから選びたい、という方がいれば、その方はたぶんストークのお客さまではありません。走りの性能と、その性能で何ができるのか、を大切にすべきです。色や、ブランド名ではなく」

今は自転車だけでなく、ドイツの自動車メーカーと話を進めている。「これが実現したら、世界は、変わる」というモーター開発の話をしている今は自転車だけでなく、ドイツの自動車メーカーと話を進めている。「これが実現したら、世界は、変わる」というモーター開発の話をしている

 6歳のときにロードレースを始め、13歳のとき、生まれつき片方の腎臓がないことが分かり、レーサーを諦めたマーカス。その後、バイクショップで商売し、自転車輸入で経営を始め、そしてストークというブランドを興し、自身の才能を存分に活かしてきたマーカス。その才能と細かなこだわりは製品となり、世界に認められ、さらなる進化を続けていく。


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