じてつう物語<4>自転車通勤を仕事にしてしまった男 内海潤さん

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 自転車で通勤する人を応援するWebサイト「TOKYOツーキニスト」を運営している内海潤さん(45)が自転車通勤にはまったのは、2005年のこと。大手企業に勤務していた内海さんは、多くのサラリーマンがそうであるように、悩みを抱えていた。

内海潤さん(45)内海潤さん(45)

体重増加はストップ、満員電車からも解放!

 「体重がどんどん増えてきてしまって、なんとかしたいなと思っていたんです。しかし、何か運動をしようと思っても、仕事が忙しいと週末は何かをしようという気にもならならないわけです」

 そんなときにであったのが「自転車ツーキニスト」としておなじみ、疋田智さんの著書だった。

 「子供の頃はもちろん自転車に乗っていましたが、大人になってからは遠ざかっていました。ましてや、10km以上離れた会社まで、自転車で通えるなどと想像したことなどありませんでした。自転車なんてせいぜい、最寄駅までのアシだろう、と。ところが疋田さんの著書を読んで、自転車の可能性に気づかされたんです」

ヘルメットに取り付けるバックミラー。目視とバックミラーの併用で安全性が高まる。バックミラーだけに頼るということはないヘルメットに取り付けるバックミラー。目視とバックミラーの併用で安全性が高まる。バックミラーだけに頼るということはない

 痩せたいという明確な目的があった内海さんは、さっそく自転車を手に入れて、足立区から新橋までの18kmを自転車で通い始めた。

 「実際に自転車で通勤してみると、あれ?自転車ってこんなに楽しかったっけ?という感じでしたね。すぐに体重が減ったわけではないけれど、まず体重の増加にストップがかかり、健康診断の結果も良くなるしで、これはいいな!と思いました」

 そして、自転車通勤をすることによって、内海さんは都市の移動手段としての自転車が持つポテンシャルに、すっかり魅了されてしまった。

 「最初の頃はどういうルートで通えば良いかわからず、おっかなびっくりなところがありました。とりあえず、足立から新橋まで国道4号をメインに走っていたのですが、距離的には遠回り。そこでいろいろと道を調べて行くうちに、どんどん早く、楽しいルートが見つかっていきました。最終的に、電車より早く着くようになって、改めて自転車の機動力の高さを思い知りましたね。」

 とくに、電車で通勤する際に乗り換えがある場合は、自転車通勤のほうが所要時間が短くなるという現象が起きやすい。

 「私にとって自転車通勤のメリットは、体重の増加が止まる、会社に早く着くというだけではありませんでした。まず、満員電車のストレスから解放されたのが嬉しかったです。また、通勤途中に通る街の魅力を知ることができたのもよかったです。私の通勤ルートで言えば、谷中や尾久(おぐ)といった街の空気に触れることができました。電車通勤だったら見向きもしないような街ですが、自転車で足を踏み入れてみると、とても魅力的です」

 そんなふうにして自転車通勤の魅力にはまっていった内海さんは、ある考えを持つようになった。これを、業(なりわい)にできないだろうか――と。

自転車通勤をビジネスにする

ヘルメットや自転車、リュックに複数のテールライトを装着ヘルメットや自転車、リュックに複数のテールライトを装着

 内海さんが自転車通勤を始めた頃は、今ほど自転車通勤を実践している人は多くなかった。内海さんが勤務していた会社でも、自転車通勤している人はほとんどいない。しかし、そのメリットに気づいてしまった内海さんは「自転車通勤を普及させたい」という想いを強くしていた。

 「当時はリクルートに勤めていました。会社ではいろいろな経験をさせてもらったけれど、やはり、人に使われる身。これからは、やりたいことをやろうと思いました。会社には早期退職制度があって、今退職すれば退職金も上積みされる……というタイミングでもあったので、自分の会社を作ったのです。それが、6年前のことです」

 内海さんが設立した会社では、自らが立ち上げたWebサイト「TOKYOツーキニスト」を核として、自転車通勤をしている人、これから自転車通勤をしようと思っている人、そして自転車通勤制度を導入しようとしている企業などに対するコンサルティングや、講演・執筆活動等をビジネスとしている。

 「簡単に売り上げが上がるようなビジネスではありませんし、期待していたほどの成長スピードでもありません(笑)。それでも、自転車通勤が普及するために、本を執筆したり、啓蒙活動、講演を行うなどしているうちに、たくさんの方々との出会いが生まれました。そして、出会った方々からさまざまなチャンスを頂けるようになってきました」

 啓蒙活動・講演活動では、自転車の良さを伝えるだけではなく、自転車を取り巻く走行環境のこと、ルールやマナーの周知といったことにも力を入れている。これはまさに「ソーシャルビジネス」だと言えるだろう。

ディスクブレーキの自転車なら、雨の日でも制動力を確保できるディスクブレーキの自転車なら、雨の日でも制動力を確保できる
シクロクロスバイクだが、スタンドは取り付ける。「帰り道で買い物するときにはスタンドが便利」と内海さんシクロクロスバイクだが、スタンドは取り付ける。「帰り道で買い物するときにはスタンドが便利」と内海さん

「こっそりじてつう」はなくなっていく

 内海さんは「自転車通勤にはソフトとハード、それぞれ高いハードルがあります」と話す。

 「いちばんの問題は、会社が自転車通勤を認めているかどうかです。以前はその辺りがあやふやだった会社でも、自転車通勤が注目されていることを受けて、きちんと制度化しようという動きは出てきています。ただ現実には、危ないからという理由で禁止されている会社も多いのです。また、勤務先周辺に満足な駐輪設備等が用意されていないと実現できません。それに、社員が会社に対して、自転車通勤を認めてほしい!と掛け合っても、総務人事は拒否反応を示すケースが多いです。中小企業でトップが自転車に理解がある場合は、いざやろうとなったら一気に進みますけど、ふつうの会社はそうもいきませんね。自転車通勤を認める会社が増えて事例が積み重なってくれば変わってくるのでしょうが、今はまだ過渡期と言えるでしょう」

 現実には、会社に内緒で自転車通勤をしている人が多い。それに対して内海さんはどう考えているのだろうか。

鈴を取り付けている。歩行者に嫌な思いをさせることなく、自転車の存在に気づいてもらうことができる鈴を取り付けている。歩行者に嫌な思いをさせることなく、自転車の存在に気づいてもらうことができる

 「自転車通勤をするために、会社への申請、保険の加入、駐輪場の確保はクリアしてほしいと思います。それさえクリアできればあとはたくさんのメリットが享受できるわけですが、先にも出たように現実にはこれをクリアすることが難しい場合があるわけですよね。しかし、こっそり自転車通勤をするというのは、いずれはなくなっていくでしょうし、そうでなくてはいけないと思います。確かに自転車通勤を認めない会社は多いですし、危ない走行環境もありますが、そういった社会の仕組みも変えていかなくてはなりません。会社に内緒でこっそり自転車通勤をして、万が一通勤途中に事故を起こし加害者になってしまったら、それは会社としても問題ですし、どの立場にとっても辛いこと。そういうことが起きては、むしろ自転車通勤が否定されることになってしまいます。ですから、会社への申請、保険、駐輪場という条件をクリアできる人から自転車通勤を実践するのが良いのではないでしょうか。できる人から始める。そしてそれを、増やしていく。そうやって自転車通勤をする人が増えていけば、社会も変わっていくでしょう」

現在の通勤距離は片道6kmと短いため、服装は普段着。この日はかなりの猛暑だったので軽装で。でも安全装備は抜かりない現在の通勤距離は片道6kmと短いため、服装は普段着。この日はかなりの猛暑だったので軽装で。でも安全装備は抜かりない

 実際に、会社では自転車通勤についてのルールがとくになく黙認・容認状態だった会社が、社員の通勤中の事故がきっかけに、自転車通勤を明確に禁止したという例も聞く。これはたいへん残念なことだ。たくさんのメリットがある自転車通勤だからこそ、堂々とやりたい。そして、ルールを守って安全に自転車通勤をすることが、世の中を変える小さな一歩なのかもしれない。

 ちょっと固い話になってしまったが、内海さんは「そこさえクリアできれば、難しく考えることも、恐れることもまったくありません!」と話す。「会社に行くための自転車通勤であれば、無理なく生活の中に運動が取り入れられますよね」「自転車通勤をするようになってから、ほとんど風邪をひいていないんです」「朝から頭が冴えるし、身体のエンジンのかかりが良くなるんですよね」――そうやって自転車通勤のメリットを次々と挙げていくときの内海さんの楽しそうな表情が、何よりも物語っていた。

勤務先:株式会社エクスゲート
ルート:東京都練馬区〜杉並区梅里区、往復12km
時間:20分
頻度:毎日
マシン:キャノンデールのシクロクロスバイク
勤務先での設備:オフィス内にラック設置
じてつうの工夫:距離が短いので服装は普段着だが安全装備は抜かりなし!

TOKYOツーキニスト
http://tokyo-tookinist.com/

TEXT&PHOTO BY Gen SUGAI

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