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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<35>ツール・ド・フランスが日本にやってきた! トップライダーが示した「日本へのリスペクト」

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 10月は日本のサイクルロードレース界にとって、最も盛り上がりを見せた1カ月となりました。10月19、20日の「ジャパンカップ・サイクルロードレース」。そして、10月26日には「さいたまクリテリウム by ツールドフランス」。前回のジャパンカップに続き、今回はさいたまクリテリウムについて振り返ってみたいと思います。

イベントは成功 次のステップに向けて歩みを進める段階へ

 「さいたまクリテリウム by ツールドフランス」のすごいところは、“ツール・ド・フランス”の冠を称して行う関連イベントとしては、フランス国外で初めて行われる、ということではないだろうか。

握手するフルーム(左)と清水勇人さいたま市長握手するフルーム(左)と清水勇人さいたま市長

 昨年、イベントの構想が明らかになり、さいたま市による積極的なロビー活動が世界的にも注目を集めた。もちろん、ツールの主催者であるA.S.O.(アモリ・スポル・オルガニザシオン社)によるワールドワイドな活動方針に合致した、というのも大きい。さいたま市とA.S.O.はすぐに相思相愛となった。ツールの象徴ともいえる4賞のマイヨ(総合首位、ポイント賞、山岳賞、新人賞ジャージ)をさいたまでも着用し、その走りをいかんなく披露してくれる。ツールのヒーローたちがさいたま新都心を走ったのだ。それがすべての結果である。

 前回、“仕事はプレス、心はファン”なんてことを地味にアピール(笑)した筆者であるが、さいたまクリテリウムに関しても同じで、だからこそ見えてきたものは数々あった。

 中でも、オーガナイズに関しての意見は数多く目にした。「さすがツール!」と思うこともあれば、「おいおい、何やってんだ!?」と感じたりと、私自身の評価も浮き沈みが激しかった。

沿道に集まった大観衆。一目見ようと足を止める人も多かった沿道に集まった大観衆。一目見ようと足を止める人も多かった

 このイベントで動員した観客数は20万人。とにかくコース周辺は人、人、人…。ツール人気や自転車競技への関心の高さの表れと言えるだろう。その一方で、現場ではコース周辺を移動する観客が多いと感じていた。

 ふたを開けてみると、動員数に対して観戦ポイントの収容力が少なかったようだ。観戦禁止場所がコースの約半分を占めていたこともあり、早くから場所取りをしていた人でなければ、選手をしっかり見える場所にとどまって観戦することができない状況だったという。

 もっと言えば、観戦に関して事前ならびにリアルタイムの情報提供が少なかったのではないか。沿道では、国内の他のレースでも活用されている街頭の大型ビジョンがなかったこともあり、レース展開がわかりにくかった。また大会の公式サイトは、レース前日、当日とたびたびダウンしてしまっていた…。

 レース後の表彰式も、ファンがあまり近づけない場所で行われたのは何だか惜しかった。何もかも区切ってしまうのではなく、選手とファンが楽しみや喜びを共有できるスペースがあると、なお良かったのではないか。

ツールのヒーローたちが、さいたま新都心を駆け抜けたツールのヒーローたちが、さいたま新都心を駆け抜けた

 ザックリと言ってしまえば、主催者A.S.O.はフランスで開催するツールの感覚でイベントを進めたのかも知れないが、ここは日本であり、フランス式を完璧に再現することは難しい。さいたま市側も、出場選手や観客、関係者など大会にかかわるすべての人に正しくアプローチができていたかといえば、決してそうとは言えない。さいたま市が「スポーツによるまちづくり」を進めていることは十分なアピールとなったが、その中身や実態を日本、そして世界に発信していくのは、今後の取り組み次第ではないだろうか。

 1回目から100点満点の運営など難しいし、そこで挙がった問題をフィードバックするためには2回、3回…とイベントを実施していく必要がある。何より、忘れてはならないのは、日本はまだまだ「自転車の国」ではないことだ。誰にとってもやさしい自転車イベントはどうあるべきか、みんなで考えていけると良いと思う。ファンも含めて意見交換する場を設け、良い点・悪い点すべての声を次につなげてほしいと願っている。

トップライダーが示した「日本へのリスペクト」とは

有力選手たちは、前夜の記者会見にも出席有力選手たちは、前夜の記者会見にも出席

 今回が初開催の「さいたまクリテリウム」では、長いシーズンを終えたばかりの海外トップ選手たちが、はるばる日本へやってきた。短期間の滞在で、時差ボケを解消する間もなくイベントに参加し、レースに臨むことは、いくらプロライダーとはいえ楽ではなかっただろう。

 個人的な興味として、選手たちがどれほど日本に対して友好とリスペクトを示してくれるかを見たいと思っていた。そしてその思いは、期待以上の形で実現された。

 何より、レース外の活動設定が見事だった。相撲のけいこ体験は今回のハイライトだろう。選手たちがレース用のビブショーツの上にまわしを締める姿。その様子は海外にも配信され、スポーツ紙の一面を飾った国もあったという。

ビブショーツの上にまわしをつけたフルーム。力士との体格差もインパクト大ビブショーツの上にまわしをつけたフルーム。力士との体格差もインパクト大

 そして、クリストファー・フルーム(イギリス、スカイ プロサイクリング)をして「力士こそ“真のアスリート”だ」と言わしめたのである。ルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター チーム)は「盆栽が好きだ」と言う。みんなが日本の文化に触れてくれたのはうれしい限りだ。

盆栽好きだというルイ・コスタ(左奥)盆栽好きだというルイ・コスタ(左奥)
単独で逃げた別府史之。ポイント賞、敢闘賞獲得と大活躍単独で逃げた別府史之。ポイント賞、敢闘賞獲得と大活躍

 もちろん、レースでも選手たちはしっかりと魅せてくれた。マイヨジョーヌ、マイヨヴェール、マイヨ・アルカンシエルの3人が最後の最後に盛り上げてくれたが、そればかりではない。集団内で日本人選手と協調しながらレースを進める姿勢や、自らの走りでアピールを繰り返した日本人レーサーたちを称えることも忘れていなかった。何より、大会に賛同し、各チームがベストのメンバーで臨んでくれたことに喜びを感じる。

 レースを終えた選手たちは、翌日ツインリンクもてぎで行われた「モトGP」を観戦。日本を堪能し、良い思い出を作ってくれたことだろう。ペテル・サガン(スロバキア)やイヴァン・バッソ(イタリア)のキャノンデール プロサイクリングの面々は、台湾へと渡り、プロモーション活動を行っているという。

 サイクルロードレースはヨーロッパで伝統を重ねてきたスポーツだ。ヨーロッパ圏外、とりわけアジア地域のライダーがヨーロッパで活動することは、未だに不自由が多いという。マイナスからのスタートを乗り越えることは容易でなく、レースで結果を残したり、チームオーダーを120%こなしたりしてようやく認めてもらえる、そんな世界なのである。

 今回、さいたまクリテリウムの1レースだけで、日本のロードレース界の水準が本場ヨーロッパと肩を並べたわけではないが、少なくとも心理的な距離は縮まったのではないだろうか。

今週の爆走ライダー-新城幸也(日本、チーム ヨーロッパカー)

「爆走ライダー」とは…
1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

記者会見で“ユキヤ節”を放った新城記者会見で“ユキヤ節”を放った新城

 「目標はズバリ優勝です!」

 さいたまクリテリウム前日の取材で放った“ユキヤ節”である。彼の元気なコメントを聞くと、取材しているこちらまで明るい気持ちになる。ナイスガイである。

 日本・アジアでトップの地位を確立し、現チームへと移ったのは2009年。レースのたびにチーム内評価を高め、ツールへの出場を勝ち取った時には、ロードレース界が驚いた。それがいまや、チームの主力となり、ビッグチームからもオファーがかかるほどの存在だ。忠実かつ堅実なアシストや、自らもエースを務められるだけの実力は、多くの関係者が認める。

 さいたまクリテリウム本番は、レース直前までファンサービスやメディア対応に追われた影響で、ハンガーノックになってしまったのだとか。残念ではあったが、シーズンオフの出来事であり、大事に至らず安心した。

レース以外の面でも大きくイベントに貢献した新城レース以外の面でも大きくイベントに貢献した新城

 2年の契約延長にサインし、来シーズンも現チームで走る。いまやツール出場は当たり前。ツールのほか、ジロ・デ・イタリアでステージ3位、世界選手権9位、ツール・ド・リムザン総合優勝と、日本人ライダーとしての歴史を次々築き上げてきたその脚で、2014年も大いに我々を興奮させてくれることだろう。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)
自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて数十年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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