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山田美緒の「旅する満点バイク」<20>シルクロード3000kmを自転車で走破した1カ月 仲間に誘われ決行した“ひとりハネムーン”

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ある日届いた壮大な「シルクロード計画」

 アフリカ縦断以来、のんびりとした旅が多かったのですが今回ご紹介するシルクロード、西安~ウルムチ3000kmの旅はちょっとした「冒険」でした。

老王、小王と蘭州・黄河のほとりにて老王、小王と蘭州・黄河のほとりにて

 シルクロードを旅することになったきっかけは、ベトナム旅行のときばったり路上で出会い数日間ともに旅をした中国西安出身のおじいちゃん、“老王”(ラオワン)こと王洛中(おう・いちゅう)さん。「西安といったらシルクロードの起点ですよねー!行ってみたいなぁ」という話をしました。

 そしてベトナムから帰国して1カ月後の2009年2月、老王から「シルクロード計画」と題したメールが届きました。開けてみるとそこには日程、宿泊地、距離が詳細に記され、1カ月で3000kmを走破するスケジュールが! 老王本気!?

 けれど、2010年に結婚式を挙げる予定だった私は、終わってから2カ月後の6月、“ひとりハネムーン”でシルクロード自転車旅というのもちょうどいいのでは…と行くことに決めました。

せっかちメンバーに振り回された3週間

宝鶏で一緒に走ったサイクリストのみなさん宝鶏で一緒に走ったサイクリストのみなさん
蘭州の有名な店「馬子禄牛子麺」のラーメン蘭州の有名な店「馬子禄牛子麺」のラーメン

 「2人だけでは嫌だろうから」と老王が気を使って声をかけてくれた北京出身の女性、小王との3人旅がスタートしました。シルクロードは砂漠で暑いイメージがありましたが、出発してしばらくはシトシト雨が降り続き、気温も15度を越えず肌寒い日が続きました。

 宝鶏という町で老王の友人20人ほどと一緒にサイクリングをし、蘭州では中国でも全国的に有名だというおいしいラーメン屋さん「馬子禄牛肉麺館」でラーメンを食べ、もくもく煙の上がる工業地帯を抜け走りました。ゆるやかに上り続けていたようで、「鳥鞘嶺」という峠では標高3200mもありました。

 西安を出て10日、武威という町を過ぎると町と町の間は何もない乾燥地になりました。峠を越えたのであとは下るだけだと思っていましたがそう甘くはなく、また上り。道路の右側の荒れ地にはあの「万里の長城」! 「当時の様子がそのままで残っている」とガイドブックにあったとおり、本当に手入れもされずそのままの土壁。よく今まで残ったものだと感心しました。

耳にリボンが結ばれた“飼いラクダ”のかたまり耳にリボンが結ばれた“飼いラクダ”のかたまり

 西安を出発して2週間、武威という町で南京虫に刺されてから蕁麻疹が出てお腹を壊し体調が悪くなりました。アフリカでもほかの旅先でもお腹を壊したことも体調を崩したこともなく、小学校から風邪を引いていないという健康体だっただけにショックでもありました。しかしせっかちな小王は先を急ぐというので休むこともできず、ほぼ食べずに気力で走り続けました。老王は中医学のお医者さんなのでマッサージや漢方を処方してくれましたがなかなか回復せず、完治するのに5日かかりました(早い?)。

 この間、やはり少しはペースダウンしてしまったのと、マイペースな老王に小王が一方的にイライラして怒ってケンカが絶えなかったため、小王は「先に行く」と別れてしまい、老王と私の2人旅に。

星空の砂漠 アクシデントを乗り越え旅は続く

炎天下でのランチは老王と半分に分けあってスイカを食べた炎天下でのランチは老王と半分に分けあってスイカを食べた

 砂漠のオアシス、敦煌を過ぎるといよいよ本格的な砂漠、そして無人地帯。50km、70km…と集落も何もないところを続けて走ります。昼食にと大きなスイカを1つ自転車の荷台にくくりつけ走りました。気温はゆうに40度を超え、50度近く。水分補給としてもスイカはぴったりですし、どんなに暑くても割ると中はひんやりしているので不思議です。

 この無人地帯でもうひとりのサイクリスト、台湾の大学生、藍くんに出会いました。藍くんは、甘粛省と新疆ウイグル自治区の境からハミへの195km「星星狭」を1日で走りきる計画を立てていました。へぇすごいなぁーと思って聞いていたら、「明日は5時に出るから」と老王。え、一緒に行くの!?

辛いものが大好きな藍くんは火鍋の辛いほうにつけた激辛の春雨に笑顔辛いものが大好きな藍くんは火鍋の辛いほうにつけた激辛の春雨に笑顔
西安から出発したシルクロードでは、餃子や饅頭がおいしかった西安から出発したシルクロードでは、餃子や饅頭がおいしかった

 現地のドライバーによれば、未開通の高速道路があり自転車なら走れるとのこと。さらに100kmくらいずっと下りなのだとか。車の人がいう「ずっと下り」ほど信用できないものはないんだけどなぁ…。

星星狭からハミまでの未開通の高速道路(2010年)星星狭からハミまでの未開通の高速道路(2010年)

 翌朝、星空の中で出発。真っ暗で風も強い。宿を出てしばらく走ると、メインロードからそれて砂利だらけの場所へ。不安になりながら自転車を押してついていくと、突然広くきれいに舗装された道が開けました! そして本当にずっと下っているではありませんか。なんと3時間で100kmを走破してしまいました。

 途中、老王が砂利にタイヤを取られ落車をするというアクシデントも。老王はハミにいるという友人に迎えに来てもらい車で移動することとなり、私は藍くんと2人、ハミまで自転車で走り切りました。1日でこんなにたくさん走ったのは初めて。

 この落車で肩を打撲してしまった老王は、数週間は安静にと電車でウルムチに向かうことになりました。「ミオは藍くんと2人で行きなさい」。老王と一緒にゴールができないことはとても辛かったけれど、再会を約束して別れました。

仲間とゴールした異国情調あふれる街、ウルムチ

無人地帯での休憩方法無人地帯での休憩方法

 ハミからウルムチへの5日間は藍くんと2人旅。新疆ウイグル自治区では外国人が泊まれない宿や、規制のある地区があるので藍くんにはずいぶん助けられました。その上野球をやっているという現役の大学生。彼につられ、1日最高210kmを走りましたよ。

 西安をスタートして1カ月、ついにウルムチに到着! 煌びやかなロングドレスを着てスカーフを巻いた彫の深い女性をはじめ、食べ物も饅頭からナンやパンに、お粥はミルクティーにと、そこには中国ではない異国の香りが漂う中央アジアがありました。

ゴビ砂漠の道ではトラックやバスなど大型車が走り抜けるたびに道の脇へ追いやられ、砂が舞ったゴビ砂漠の道ではトラックやバスなど大型車が走り抜けるたびに道の脇へ追いやられ、砂が舞った
最終到着地ウルムチのバザールにて最終到着地ウルムチのバザールにて

 「旅が終わった気がしない、明日も明後日もずっと走り続けるような気がするよ」と藍くん。旅をするとき、私もそんな気分になります。だけどいつのころからか、1日に数度は帰る日のことを考えるようになりました。日本で待ってくれている人の顔、家、生活。帰る場所があるからこそ、旅ができるということに感謝して「満点号」と私は旅を続けるのです。

文・イラスト・写真 山田美緒

山田美緒山田美緒(やまだ・みお)
大阪府生まれ。サイクリストとして世界中を旅してきたほか、一般社団法人コグウェイを設立し、「四国ディスカバリーライド」などを主催。著書に、アフリカ大陸縦断記をまとめた『マンゴーと丸坊主』、女性サイクリストたちとの旅や交流の体験記『満点バイク』がある。ブログURL(http://mantem.exblog.jp/)

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