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Cyclist的エンタメ観戦記:stage2アシストこそが要 『サクリファイス』が放つサイクルロードレースの輝き

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 「著者は自転車経験がほとんどない」と聞き、驚いた。本書は、サイクルロードレースを知らなくても読める、解説書的な存在だからである。それどころか、選手の生々しい感情が交錯し、まるでチームに帯同したかのような距離感でストーリーを読み進めることができる。著者の近藤史恵さんに、ストーリーの原点や、ロードレース観戦の魅力などをうかがった。

「サクリファイス」の表紙「サクリファイス」の表紙

 ――ロードレース観戦がお好きだと聞きました
 「はい。2005年のジロ・デ・イタリアから観始めました。他のスポーツと違って妙に“ビジネスライク”なところに惹かれています。特にステージレースでは、勝てそうな時の攻め具合と、手を抜くときの差が『結構ドライだな』と。そんな中で、例えばアレッサンドロ・ペタッキがチームメイトに支えられつつ泣きながら峠を上って行くシーンだったり、人間の弱さや割り切りといったドラマチックな面も伝わってくるんです」
 「それまでは、短いスパンで盛り上がりがあるようなスポーツを目にしていたように思うのですが、もっと大きな流れにストーリー性を感じました。逆にロードレースを観てからほかのスポーツを観たら、同じような面もあることに気づかされました。こういった視点は、主人公が陸上から自転車競技へ転向した際の描写に生かされているかもしれません」

 ――その主人公は、エースでなく「アシスト」役ですね
 「自転車の小説を書こうと思った時点で『アシストの物語=サクリファイス』ということが自分の中で決まっていました。アシストはエースのために走る役割とされていますが、ある時『エースがアシストのために走っている』と感じられたんです。アシストという存在が、ロードレースの構造そのものなんじゃないかと」

 ――モデルになった選手はいますか
 「数人の要素を合わせた人物を描いているので、指名できるようなモデルはいません。ただ、好きなのはピュアクライマータイプの選手なので、小説にも多分に反映されていると思います。今一番好きなのは、エウスカルテル・エウスカディ(スペイン)のイゴール・アントンです。とても素朴で実力もあり、次のブエルタ・ア・エスパーニャでの活躍も楽しみですね」

ブエルタ・ア・エスパーニャ2011で山を上るイゴール・アントンブエルタ・ア・エスパーニャ2011で山を上るイゴール・アントン

 ――日ごろ、自転車に乗っていらっしゃいますか
 「10km程度の近場を走るのにクロスバイクを愛用しています。前かごを付けたりして、生活仕様です。公共交通機関が豊富でない場所でも、自転車だと身軽さが違いますね。自宅近辺は山坂が多く、大阪市内から“坂バカ”サイクリストたちが出かけてくるような場所です。『行きが上りなら、帰りは下り!』と思って乗っています」
 「何かを調べることが好きなので、クロスバイクを選ぶ時も何軒もショップを巡って調べまくりました。その後、20インチの『DAHON』を手に入れました。女子高校生でも電動アシスト自転車を乗るような時代ですが、私は、モノとして美しい小径車などを選んでいきたいと思っています」

近藤史恵さん著者の近藤史恵さん

 ――自転車のどんなところが魅力だと思いますか
 「『軽やかなこと』じゃないでしょうか。車みたいにたいそうでなく、歩くよりはぜんぜん遠くまで行ける。ただ、現在の、車主体の道路設計は、サイクリストには複雑だと感じています。例えば私の場合、大阪市内までは20kmとそれほど遠くないのですが、淀川が結界で(笑)。橋の上が自転車や歩行者が渡るための設計になっていないので、遠回りしているうちに力尽きてしまいます」

 ――これから、自転車関係の小説は続いていくのですか
 「初めは懐疑的だった『ことばを肉体的な部分に引き寄せることができるか』という課題について、『サクリファイス』で体現できたのではないかと思っています。昨年は、続編として、白石と同じアシストの赤城をメインにした『サヴァイヴ』を出版しました。またそのうちに、ヨーロッパを舞台にした自転車の小説を書ければ、と準備中です」

◇      ◇

 実は出版後、ツール・ド・フランス観戦へも赴いたことがある、と近藤さん。感想を尋ねると「暑かった」と一言。夏のヨーロッパは日が長く、いつまでも日中の暑さがひかないのだという。「選手たちも大変だろうなぁ」とつぶやく様子に、自転車ロードレースを走る選手たちへの愛のある視点を垣間見た。

『サクリファイス』
陸上選手から自転車競技に転じた白石誓はサイクルロードレースでのアシスト役に喜びを見出す。遠征したレース中の悲劇を鍵に、アシストやエースそれぞれのプライド、ロードレース界の過酷さをチームの内側から描いた「ロードレース×青春×サスペンス」小説。単行本、文庫本(新潮社)のほか、コミックス化(秋田書店)されている。2008年大藪春彦賞受賞。続編には『エデン』『サヴァイヴ』がある。

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