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豊岡英子と田中苑子の欧州シクロクロス遠征記<7・終>最後の大一番、アメリカでの世界選手権は26位フィニッシュ 姫はまだまだ速くなる

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 豊岡英子選手(パナソニックレディース所属、通称“姫”)と私(フォトグラファー田中苑子、通称“チュー”)のシクロクロス遠征。シーズン最後の大一番、アメリカでの世界選手権を終えて、私たち2人の約2ヶ月にわたる遠征生活も終わりを迎えました。

 前代未聞の開催日繰り上げというタイトなスケジュールのなかで、今年のシクロクロス世界選手権は開催されました。前日はマイナス10℃くらいまで冷え込み、凍った泥によりバイクが変速しない、ブレーキが利かないなどのトラブルが頻発し、一時はどうなることかと思われましたが、当日の気温は0℃前後にまで上昇し、雪が降ってはいたものの、前日のような最悪なコンディションは避けられました。

遠征のクライマックス、世界選手権のスタートを直前に控えた豊岡英子遠征のクライマックス、世界選手権のスタートを直前に控えた豊岡英子
自身8回目となる世界選手権を走る豊岡英子。これまでの最高位は25位自身8回目となる世界選手権を走る豊岡英子。これまでの最高位は25位
雪が積もった砂地のセクションに入る豊岡英子雪が積もった砂地のセクションに入る豊岡英子

 豊岡選手の出場する女子のレースはジュニアのレースに引き続いて、11時にスタートが切られました。ジュニアのレースでは、まだ気温が低かったため、雪は融けませんでしたが、女子のレースでは、周回を重ねるごとに雪が融けていく難しいコンディションになりました。

 女子のトップはロンドン五輪ロード金メダリストのマリアンヌ・フォス(オランダ)が快走し、5連覇を達成。豊岡選手は中盤で落車などにより順位をやや落としてしまい、26位でフィニッシュしました。数字だけを見る限り、けっして悪くはありませんが、80%ルールにより最後の1周回を残して降ろされてしまうという結果でした。

レースを終えて、最終周回まで走れなかった悔しさを浮かべるレースを終えて、最終周回まで走れなかった悔しさを浮かべる
才能豊かなオランダのマリアンヌ・フォスが5回連続、6回目の優勝を飾る才能豊かなオランダのマリアンヌ・フォスが5回連続、6回目の優勝を飾る
自国開催で注目されたケイティ・コンプトン(アメリカ)。2位でフィニッシュ自国開催で注目されたケイティ・コンプトン(アメリカ)。2位でフィニッシュ

 チュー「世界選手権が終わって、まずはアメリカからパリに戻ってきたけれど、今年の世界選はどうだった?」

 「いやー、まー、結果は出なかったけど、本当にめまぐるしくコースコンディションが変わっていって、今までにない世界選手権になったと思う。1台のバイクで1周乗れるってことがなかったようなレースだった」

 チュー「特殊な路面での走り方も学んだと思うし、改めてスタッフのありがたさにも気がついた世界選手権だったよね」

 「うん、もちろん結果を出せなくて悔しいという気持ちも大きいけれど、そこから身に付いたものがたくさんあった気がする。けっしてマイナスなイメージはない。結果に落ち込んで『もういい!』っていう投げやりになる気持ちはなくて、むしろ早く来シーズンを走りたい気持ちやな」

 チュー「試走のときは自転車に付いた泥がどんどん凍っていって、すぐにバイクが動かなくなる。そういう状況でレースをしなきゃいけないっていうのは、どんな気持ちだった?」

氷点下の気温のため、スタッフが凍結予防のため不凍液をバイクに塗る氷点下の気温のため、スタッフが凍結予防のため不凍液をバイクに塗る
世界選手権の朝、雪のなかでスタッフたちが洗車機のエンジンをかける世界選手権の朝、雪のなかでスタッフたちが洗車機のエンジンをかける

 「今までだったらむっちゃ焦ってたと思う。不安で不安でたまらなかったと思う。でも今年は、バイクのトラブルが多かったけれど、メカニックの人たちがていねいにやってくれているのがわかったから、安心してスタートラインに立てたし、試走を十分に行ったので、コースに対しても不安はなかった。悔いが残るような何かはなかった。睡眠不足はあったけれど、大きな不調やケガもなかったし、アップしていたときに、調子が上がっているのがわかった。ただ落ち着いて、と自分に言い聞かせていた」

レース直前までバッテリーを充電した。特殊な構造のため、スタッフがホテルまで充電器を取りに行ったレース直前までバッテリーを充電した。特殊な構造のため、スタッフがホテルまで充電器を取りに行った

 チュー「当日になって、寒さのせいかDi2のバッテリーが切れて、レース直前まで動かないトラブルがあったんでしょ? 間一髪で事なきを得たって聞いたけれど、メカニックは姫の落ち着きぶりに少し驚いていたよ。今までとは違う!って(笑)。そしてレース中はどんな感じだった?」

 「スタートして落車があったけれど、世界選手権のスタートではみんな焦っているから落車が起こるのは当たり前。ゼッタイにあると思っていた。至近距離だったけど、前で倒れているのとかイメージができていて、焦りはなかった。冷静にわずかな隙間を見つけて、そこをすり抜けることができた。たとえ、そこで巻き込まれても、そのあとで立て直していけばいいって思った。今までは、もっと焦っていて、前に前にという気持ちだったけれど、今年は落ち着けるようになった」

スタートラインに並ぶ豊岡英子スタートラインに並ぶ豊岡英子
女子のレースがスタート。このあとオフロードに入ったところで落車が発生女子のレースがスタート。このあとオフロードに入ったところで落車が発生

 チュー「あああ…よく昔はそこでの落車に巻き込まれていたイメージ。さらに『スタートの落車に巻き込まれたら前と差ができて終わっちゃう』って話していたよね。心配していた路面の状態はどうだった?」

 「やっぱり毎周回変わっていった。とくに2周回目から3周回目が一気に変わっていった。凍っていたコーナーが融けて水になって、そうなるとラインが変わって、滑りやすいし、それで少しビビってしまったのが反省点…」

 チュー「大きなミスとかは?」

 「だから3周回目はけっこう転んだね。それが、完走できなかったことにつながったと思う。今年けっこう走れていたのは、そういうミスが少なかったからだと思う。ミスしても対処できる感じだった。それが世界選手権でも発揮できればよかったんだけど…」

 チュー「まぁ結果は結果。そこから何を学んだかだと思うけど、来年に向けての課題は見つかった?」

 「うん、低圧でオンロードを走るための脚がほしい。オンロードを踏んでも、次のオフロードでまた踏める力を付けたい。あと氷っていうのは不得意なんだけど、なかなか練習しにくい。今回思ったのは色んなシチュエーションをイメージトレーニングすることも大切だと思う。スタート後の落車も自分が思ったとおりに起こったし」

差を付けられてしまい、今後の課題だと話すオンロードにて差を付けられてしまい、今後の課題だと話すオンロードにて
階段の登りを越える。男子選手の中にはこの階段を乗って通過する選手も階段の登りを越える。男子選手の中にはこの階段を乗って通過する選手も

 チュー「経験を重ねてきたからこそ、そういうイメージも沸くようになってきたんだろうね」

 「今までのぶっ込み感も大事なんだけど、今年はぶっこみながらも落ち着きを取り戻そうとすることができた。かと言って、守りの走りをするつもりはないんだけど」

 チュー「今季、1人だったけどヨーロッパ遠征をして良かった?」

 「もちろん! 良かったことはいっぱいある。ひとつ挙げるなら、レース会場に知り合いが増えて、レースに行くのが楽しくなったし、今までなかった情報が入るようになった。人のつながりって大事だなって思う」

 チュー「やっぱり。私もそうだけど、唯一のアジア人選手だから、選手仲間からも観客からも、いろんなイメージを持たれていると思うんだよね。でも、ちゃんと結果を残すことで、なんとなく認められてきたように感じるよ。で、来シーズンはどうしたい?」

アメリカからだけでなく、ヨーロッパからもたくさんのファンが集まった世界選手権アメリカからだけでなく、ヨーロッパからもたくさんのファンが集まった世界選手権

 「希望としては、シーズンの始めから、9月や10月からヨーロッパに来たいと思う。選手が少ないこともあって、ポイントを稼ぎやすいし、できるだけ長い期間、本場のレースを走りたい」

 チュー「具体的な目標は見えてきた?」

 「とりあえずヨーロッパのレースでポディウムに乗りたい。今年は最高12位だったけど、もう1つ上に行けたら、また違うものが見えてくると思う。マイナスに考えられない。ただ上をめざすだけ。ポジティブな感じで、楽しくやっていきたい。そのために練習も頑張れる気がする。最近、これをこうしたら、もっと速く走れるかも…とかってことばっかり考えてしまうんだよね」

 チュー「今年のナショナルチームでは最年長だったけど、まだまだ辞める気はないよね?」

 「私1人でチームの平均年齢を上げてたよね…(笑)。ジュニアの子なんて一回り以上も違う! 今年になって『32歳で、もう年だから…』とか言われたけど、まだ自分では体力の限界を感じていないし、なんでそんなことを人に言われなきゃいけないのかわからない。

 ヨーロッパでは、そういう雰囲気はなくて、50歳近くの人も第一線で走っていたりする。逆に今年は年を取ったから、余計に体調には気を配るようになったし、規則正しい生活を送っていた。そのせいか、シーズンを通して一回も体調を崩さなかった。そういうのも結果に繋がったと思う」

優勝したマリアンヌ・フォス。2位のケイティ・コンプトンは34歳、3位のルーシー・シャネルには子どもがいる優勝したマリアンヌ・フォス。2位のケイティ・コンプトンは34歳、3位のルーシー・シャネルには子どもがいる
男子の世界チャンピオンはベルギーの英雄スヴェン・ネイスに男子の世界チャンピオンはベルギーの英雄スヴェン・ネイスに

 チュー「年齢による“ピーク”っていうのは、どうしてもあるかと思うけど、シクロクロスって人それぞれな気がするんだよね。今回世界チャンピオンになったネイスだって36歳だし、女子の表彰台には子どもを産んだルーシーが入った。今年の姫の走りを見るかぎり、まだまだ上を目指せると思う。これから!って思うくらい」

 「せやな。また次のシーズンに向けて頑張っていかな!」

 チュー「うんうん。顔のシワならいくらだって画像修正で消せるんだから!(笑) 一緒にやれるところまで、いや、世界のトップに立つまで頑張ろうよ!」

アメリカから戻ってきたパリのシャルルドゴール空港にて。最後の記念撮影アメリカから戻ってきたパリのシャルルドゴール空港にて。最後の記念撮影

 こうして私たちはパリの空港で別れ、別々の飛行機で無事に帰国しました。この2ヶ月間ずっと一緒に、家族のように生活し、いろんなことを話してきました。豊岡選手も私も立場は違うけれど、『世界をめざす』という共通の目標のもとで活動しています。この遠征が終わると、私たちは次のシーズンまでに、何回か会う程度になるかと思いますが、来シーズンに向けて、お互いに頑張っていきたいと思っています。

 今回、このコラムを掲載させていただいたサイクリスト編集部の皆さま、読んでいただき応援していただいた皆さまに本当に感謝しています! ありがとうございました!!!

豊岡英子(とよおか あやこ)
1980年、大阪生まれ。トライアスロンを経て自転車競技の選手に。シクロクロスでは2005年~11年まで全日本選手権で7連覇を達成し、2012年は2位。ヒョウ柄のウエアとバイク、キラキラのヘルメットなど華やかなビジュアルが彼女のトレードマーク。

中川裕之田中苑子(たなか そのこ)
1981年、千葉生まれ。2005年に看護師から自転車専門誌の編集部に転職。2008年よりフリーランスカメラマンに転向し、現在はアジアの草レースからツール・ド・フランスまで、世界各国の色鮮やかなサイクルスポーツを追っかけ中。

(写真・文 田中苑子)

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