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豊岡英子と田中苑子の欧州シクロクロス遠征記<6>アメリカへ移動、いよいよシーズン最大の目標である世界選手権…しかしレース日繰り上げの大波乱!

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ルイビルに向けて拠点のベルギーで積み込みをする。朝6時に出発し、アメリカ・ルイビルのホテルに到着したのは約20時間後ルイビルに向けて拠点のベルギーで積み込みをする。朝6時に出発し、アメリカ・ルイビルのホテルに到着したのは約20時間後

 豊岡英子選手(パナソニックレディース所属、通称“姫”)と私(フォトグラファー田中苑子、通称“チュー”)のシクロクロス遠征。ヨーロッパでのスケジュールをすべて終え、世界選手権が開催されるアメリカへと旅立ちました。

 毎年シーズンの終盤に開催される世界選手権。その名の通りシーズンの世界チャンピオンを決めるもっともステータスの高い大会です。これまで60年以上もの歴史のなかで、シクロクロスの世界選手権は常にヨーロッパで開催されてきました。しかし、シクロクロス競技のグローバル化を進める国際自転車競技連合(UCI)の狙いもあり、今年は史上初めてヨーロッパを飛び出し、アメリカ・ケンタッキー州で開催されることになったのです。

 シクロクロスは最低でも1人2台の自転車を使います。トップ選手に至っては1人6台とも言われています。これまで、ヨーロッパ圏内ではすべての機材はトラックを使って陸移動していましたが、今回はヨーロッパの選手にとっては初めての飛行機移動を経験しました。持って行くことのできる機材が限られているという状況、そしてヨーロッパとアメリカ(世界選手権が開催されるルイビル)では、6時間の時差があります。これが結果にどう反映されるでしょうか? しかし、毎回飛行機を使った長時間の移動をせざるを得ない日本人選手にしてみれば、ヨーロッパもアメリカも同じような条件ですので、この点は有利に働くかもしれません。

ルイビルの空港に到着。とりあえず私たちは無事に着いたけど、荷物は1日遅れてしまったルイビルの空港に到着。とりあえず私たちは無事に着いたけど、荷物は1日遅れてしまった
遠征は2台の自転車を持って行く。シカゴで一度ピックアップし、その後国内線に乗るさいにもう一度預けたが、このときにロストバゲージしてしまった遠征は2台の自転車を持って行く。シカゴで一度ピックアップし、その後国内線に乗るさいにもう一度預けたが、このときにロストバゲージしてしまった
シカゴからルイビル行きへのフライトが急遽キャンセルに。カウンターで違うフライトに振り替えできるか確認中シカゴからルイビル行きへのフライトが急遽キャンセルに。カウンターで違うフライトに振り替えできるか確認中

 豊岡選手は1月29日(火)、拠点にしているベルギーからパリへ移動し、シカゴ経由でケンタッキー州のルイビルへと移動しました。日本から移動するよりも、やや移動時間は短いものの、パリからシカゴまでは9時間かかるので、やはり厳しい長旅には違いありません。途中、シカゴでは乗り継ぎ便がキャンセルとなり、大急ぎで1本前のフライトに飛び乗りました。しかし、荷物は間に合わず、翌日に届くというトラブルがありましたが、無事に日本代表チームとルイビルのホテルで合流できました。

今年の日本ナショナルチーム。シクロクロスはスタッフとの距離が近く、家族のような雰囲気もある今年の日本ナショナルチーム。シクロクロスはスタッフとの距離が近く、家族のような雰囲気もある
女子カテゴリーに出場する福本千佳選手(同志社大学)と豊岡選手。2人は同じ関西出身で仲良し女子カテゴリーに出場する福本千佳選手(同志社大学)と豊岡選手。2人は同じ関西出身で仲良し
ホテルから数キロほど移動し、試走のため世界選手権の会場へ向かうホテルから数キロほど移動し、試走のため世界選手権の会場へ向かう

 コースを使った試走ができるのは31日(木)から。着いた当初、気温は15℃と非常に暖かかったのですが、徐々に下がり始め、31日になると気温は氷点下へ。一気に真っ白な景色へと変わりました。

 レースが開催される公園は川に隣接したもので(これが後にとんでもないことになるんですが…)、コースには立体交差、砂、階段、急なアップダウンなど、いろいろな要素が詰め込まれています。ハイスピードコースになる、とよく聞きますが、踏まないといけない場所やテクニカルなセクションが次々に登場するような印象もあります。

でき上がったばかりの世界選手権のコースで、多くの選手が試走を行っているでき上がったばかりの世界選手権のコースで、多くの選手が試走を行っている
コース内に2カ所ある人工的な砂のセクションコース内に2カ所ある人工的な砂のセクション
コース内に2カ所ある人工的な砂のセクションコース内に2カ所ある人工的な砂のセクション

 チュー「いやー眠いね!」

 「うん、かなり! いま(アメリカ時間の20時)ベルギーは深夜だもんな」

 チュー「これから世界選手権だけど、ここに来るまでも、またも試練か!って感じだったよね」

公式トレーニング1日目。斜面に作られたテクニカルなセクションを走る公式トレーニング1日目。斜面に作られたテクニカルなセクションを走る

 「シカゴでターミナルを移動して、案内を見たら、フライトがキャンセルになっていて…まさかって思った」

 チュー「こっちって、普通に『キャンセル』とかって言うよね……。ゴメンねとか、そういうの何もなくって。で、1本前のフライトに乗れるかもしれないって言われて、空港内を大荷物でダッシュ!!! みたいな」

 「でも着いた先のカウンターでその便は満席って言われてキャンセル待ち。そのフライトがルイビル行きの最終便で、乗れなかったら次の日になるからな」

 チュー「その時点でもう夕方。もし乗れなかったら、それからホテルを手配して、翌朝また空港に行くとか、かなり大変だろうなって思ってヒヤヒヤしたよ、私」

 「で、結局乗れたけど、荷物は乗れんかった…」

 チュー「自転車レースで来ているのに、自転車が届かないとか、ありえないトラブルだし、どうすることもできないよね。まぁ、でも何だかんだ翌日に届いて良かった! 無事に試走にも間に合ったよね。コースはどう感じた?」

難しいセクションの1つでもある石階段の上り。下って、この階段を上り、また下るというレイアウト難しいセクションの1つでもある石階段の上り。下って、この階段を上り、また下るというレイアウト
アンダー23の中井路雅選手(岩井商会レーシング)にアドバイス。豊岡選手は若手選手の多いナショナルチームのなかで頼れるお姉さん的な存在アンダー23の中井路雅選手(岩井商会レーシング)にアドバイス。豊岡選手は若手選手の多いナショナルチームのなかで頼れるお姉さん的な存在

 「ヨーロッパと大きく違うなと思ったのは、ホームストレートが短くてさ。あれにはすごく驚いた」

 チュー「とくに、最後のオンロードに入ってからのフィニッシュラインが近すぎる!」

 「最後スプリントになったら、スプリントとかできないよね。それがヨーロッパとは大きく違う。スタートしてからは芝のトラックで、今日はヌメヌメで、一番嫌いな重い芝の感じやった……」

 チュー「コンパクトなコースのように感じたけれど、その中に砂も急なアップダウンも階段も立体交差もある! 見るほうとしては、面白いのかな、と思うんだけど、走る方としてはどう?」

 「とにかく、コンパクトな分、テクニックを要するコースだから、1周目からけっこう差が開くと思うわ。とくに女子は! 本当に立体交差の上りの階段が急だし、激上りにもわざわざ石の段差を作っていて、本当に我慢大会になると思う。集中力を切らしたら、どんどん下がって行くと思うし、たぶん当日は血の味がする気がする……」

傾斜のキツい立体交差の階段。「まるで壁のよう……」と選手たち傾斜のキツい立体交差の階段。「まるで壁のよう……」と選手たち
下って階段を使って上り返すテクニカルなセクション。トップ選手はこの階段をバニーホップで越える下って階段を使って上り返すテクニカルなセクション。トップ選手はこの階段をバニーホップで越える

 チュー「正直なところ、得意?」

 「うーん…、正直なところ、得意!!!」

 チュー「おおおおっ!」

 「まー、コースのコンディションによるけどな!」

 チュー「天気が読めないよね…。変わった天気で、毎日気温や天候がコロコロ変わる印象。その日と翌日で、気温が20℃違うと言ってもいいくらい! 一応、予報だと日曜日は晴れて暖かくなるっぽい」

 「まさしく今日(木曜日)と同じコンディションになると思う。そうなったらいいな♪ なんていうか、スピードがなかったら無理なコースやわ。スピードがあるのとないのとでは、ワンセクションで10秒くらい差がどんどん付いていくと思う」

 チュー「あ、もしかして、姫の“猪突猛進”の出番???」

 「せやな…」

 チュー「気持ち的なコンディションはどうかな? 良い感じ?」

 「うん、今日も試走の時間中ずっと走ってて、どんどん楽しくなってきて、もっと走りたかったくらい! レース当日が楽しみやわ!」

雪がパラパラと舞うルイビルの空。毎日コロコロと天候が変わりやすい雪がパラパラと舞うルイビルの空。毎日コロコロと天候が変わりやすい

 ——なんて、書いていましたが、2月1日(金曜日)、現地時間の朝にすごいニュースが飛び込んできました。コースに隣接する川の増水が危惧され、3日(日曜日)に予定されていた女子とエリート男子のレースを2日に繰り上げ、すべてのスケジュールを1日に詰め込むというもの。直前になって、こんな大きな変更が起こるなんて、未だかつて誰も経験がないことです。主催者側も苦渋の決断だったと思いますが、正直みんな驚きました。

 しかし、これは全選手にとって、同じ条件。「1日繰り上げられたから走れない!」なんてことを言うような選手はここにはいません。どんな状況下でもベストを尽くすというシクロクロスの基本からすれば、じつのところ特別大きな問題はないのかもしれません。安全に大会が開催されることのほうが大切です。もちろん豊岡選手も驚いてはいますが、「何が起こったって、もう怖くない」と、目の前のトレーニングに励んでいます。

レース前日、公式トレーニングを終えた豊岡選手のバイク。バイクに付いた泥が瞬時に凍っていくという過酷なコンディションレース前日、公式トレーニングを終えた豊岡選手のバイク。バイクに付いた泥が瞬時に凍っていくという過酷なコンディション

 前日の最低気温はマイナス7℃で、試走はバイクに付いた泥が凍り付いてしまい、変速しないなどメカトラブルの連続でした。レース当日の気温は上がると言われていますが、それでも氷点下で雪の予報が出ています。いったい何が起こるか、予想不可能な状況になりました。

 史上初、アメリカで開催される世界選手権は、レースの開幕前から、かなり波乱な展開となりましたが、いよいよシーズンのクライマックス、大切なレースが迫ってきました。「最大限の力を発揮したい!」と話す豊岡選手。彼女にとって8回目の世界選手権ですが、過酷でドラマチックなヨーロッパでのレースを単身で経験した今シーズン、世界選手権への思い入れは特別なもの。どんなレースとなるのでしょうか?

豊岡英子(とよおか あやこ)
1980年、大阪生まれ。トライアスロンを経て自転車競技の選手に。シクロクロスでは2005年~11年まで全日本選手権で7連覇を達成し、2012年は2位。ヒョウ柄のウエアとバイク、キラキラのヘルメットなど華やかなビジュアルが彼女のトレードマーク。

中川裕之田中苑子(たなか そのこ)
1981年、千葉生まれ。2005年に看護師から自転車専門誌の編集部に転職。2008年よりフリーランスカメラマンに転向し、現在はアジアの草レースからツール・ド・フランスまで、世界各国の色鮮やかなサイクルスポーツを追っかけ中。

(写真・文 田中苑子)

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