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豊岡英子と田中苑子の欧州シクロクロス遠征記<5>欧州遠征のクライマックスは、雪と氷の最難関サーキットに!

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 豊岡英子選手(パナソニックレディース所属、通称“姫”)と私(フォトグラファー田中苑子、通称“チュー”)のシクロクロス遠征。1月14日のオーテヘム、そして20日のワールドカップ最終戦ホーガハイデ大会を無事に終え、予定していたヨーロッパでのレースをすべて走りきりました。

 1月上旬はのんびりと過ごしましたが、ここからは後半戦。まずは14日、私たちの滞在している街から10kmほどの場所で開催されるオーテヘムのレースです! これはUCIクラス2のレースで、ワールドカップや年末年始のレースに比べると下のランクになりますが、何といっても私たちにとって“地元”開催というのが最大のポイントです。遠征先でお世話になっている多くの人がレースを見に会場へやってきます。

 また、毎年必ずナショナル選手権の翌日に開催されるため、新チャンピオンのお披露目にもなっているこのレースは、平日開催にも関わらず数万人とも言われる人が集まるんです!

オーテヘムでのスタートライン。欧州でのナショナル選手権の翌日に開催される伝統あるレースに今年から女子カテゴリーが加わったオーテヘムでのスタートライン。欧州でのナショナル選手権の翌日に開催される伝統あるレースに今年から女子カテゴリーが加わった
オーテヘムでは、街に住むランジットの知人が家を使わせてくれ、暖かい室内でレースの準備ができたオーテヘムでは、街に住むランジットの知人が家を使わせてくれ、暖かい室内でレースの準備ができた
街の一大企業であるフェンス会社がメインスポンサー。地元に愛されているレースで今年で45回目の開催街の一大企業であるフェンス会社がメインスポンサー。地元に愛されているレースで今年で45回目の開催
レースを手伝ってくれた練習仲間のマティアス。平日開催になるが、オーテヘムの学校はレース開催に伴い休校になるレースを手伝ってくれた練習仲間のマティアス。平日開催になるが、オーテヘムの学校はレース開催に伴い休校になる

 オーテヘムのレース前から、ベルギーの天候はガラリと変わりました。年末年始は例年になく暖かい気候(最高気温10℃程度)でしたが、1月の2週目になると、徐々に気温が下がり始めて、オーテヘムの2日前には今年最初の雪が降りました。そして、寒波の影響から、レースの前夜には氷点下まで冷え込み、当日は辺り一面が雪と霜で真っ白。泥のレースから一転、凍ったサーキットでのレースとなりました。

真っ白な雪に覆われたオーテヘムのサーキット。街の隣の畑がコースに組み込まれる真っ白な雪に覆われたオーテヘムのサーキット。街の隣の畑がコースに組み込まれる

 地元開催ということで、大きな期待とプレッシャーを抱えながら挑んだ豊岡選手ですが、不運にも1周回目で前を走る選手が突然の落車。それを避けきれず、前輪がパンクし後退してしまいます。その後、少しずつ順位を上げながら走りきり、結果は12位。多くのトップ選手が出走していましたが、ほかのレースに比べれば人数は少なく、もう少し上を狙えると言われていただけに、悔しさの残るレースになりました。この悔しさは来年へと持ち越しです。

オーテヘムでの1周回目。パンクのためピットに入る豊岡英子オーテヘムでの1周回目。パンクのためピットに入る豊岡英子
オーテヘムでのレース。豊岡英子は12位でフィニッシュオーテヘムでのレース。豊岡英子は12位でフィニッシュ

 このレースではパンクだけでなく、他にもブレーキが利かないなどいくつかのメカトラブルが起こりました。これまで泥のひどいレースをたくさん走っていますが、今回、豊岡選手には専属のメカニックがいません。知らないうちにかなりの負担がバイクにかかっていたようで、いつも手伝ってくれているランジットが、あまりの寒さのため仕事が休みになったこともあって(!)、今回のレースをキッカケに、ケーブルの交換など、しっかりとメンテナンスをしてくれました。

 オーテヘムのレースが終わっても寒い日が続き、雪が深く積もってきました。こんな状態でもベルギーの子どもたちはトレーニングのために森へ向かいます。シクロクロスはどんな天候でも開催されるので、雪が積もったなら、それはそれでいいトレーニングになります。さっそく14歳のマティアスに誘われて、豊岡選手も雪の森でのトレーニングを満喫しました。

一晩で10センチほどの雪が積もり、朝から“雪かきトレーニング”に精を出す豊岡英子一晩で10センチほどの雪が積もり、朝から“雪かきトレーニング”に精を出す豊岡英子
雪が積もった森でのトレーニング。幻想的な風景のなかで汗を流す雪が積もった森でのトレーニング。幻想的な風景のなかで汗を流す
雪の森でのトレーニングは、テクニカルなセクションも多く、貴重なトレーニングができる雪の森でのトレーニングは、テクニカルなセクションも多く、貴重なトレーニングができる

 そして、1月20日に迎えたワールドカップの最終戦。このレースが豊岡選手のヨーロッパ遠征では最終戦になります。会場はベルギー国境に近いオランダのホーガハイデ。2009年に世界選手権が開催され、そのあとも毎年ワールドカップが開催されている定番のサーキットです。

 例年は泥のひどいレースが多いのですが、今回は最高気温マイナス10℃なんて日が続き、サーキットはカチコチに凍り付きました。日本でも雪のレースはときどきありますが、雪の下の路面がすべて凍るというのはヨーロッパならでは。まるで氷の上でレースをしているような状態で、いつも表彰台を独占するベルギー人選手らが苦戦を強いられ、逆にチェコやスイスといった豪雪地帯の選手たちが活躍する波乱のレースとなりました。

ワールドカップ・ホーガハイデ大会、女子のスタート。豊岡英子はランキングにより2列目でスタートできるようになったワールドカップ・ホーガハイデ大会、女子のスタート。豊岡英子はランキングにより2列目でスタートできるようになった
意味がわからないほど難しいという下り坂のV字セクション。トップ選手ですら、バイクを降りていても滑ってしまうほど意味がわからないほど難しいという下り坂のV字セクション。トップ選手ですら、バイクを降りていても滑ってしまうほど
ホーガハイデ大会名物の急な担ぎセクション。ツルツルに滑ってしまい、手を使っても滑ってしまう選手が続出したホーガハイデ大会名物の急な担ぎセクション。ツルツルに滑ってしまい、手を使っても滑ってしまう選手が続出した

 豊岡選手は、何度も何度も落車しながらも31位で完走。これまでのワールドカップと比べると、やや数字の上では劣ってしまいますが、特殊なコースでのレース。リタイアしていく選手も多いなか、経験を積むことができ、無事に完走できたことで最低限の課題はクリア。そして、いよいよ残すレースは、ヨーロッパを飛び出して、アメリカで開催される2月3日の世界選手権となりました。

いつもは笑顔で手伝ってくれるジャスティンも、あまりの寒さから、こんな顔に……いつもは笑顔で手伝ってくれるジャスティンも、あまりの寒さから、こんな顔に……
地元オランダの世界チャンピオン、マリアンヌ・フォスが圧巻の勝利地元オランダの世界チャンピオン、マリアンヌ・フォスが圧巻の勝利

 チュー「無事にヨーロッパのレースが全部終わって本当に良かったよ! にしても最後のレースまで凄まじかったよね?」

 「ほんまに! 当日の天気がマイナス6℃。そして風が吹いて体感気温はマイナス14℃っていう中でのレースだった。風が強くて、雪も降っていて、路面はガチガチ。もう痛くて顔を出せないくらいの寒さだった。前日の試走のときから路面は凍っていて、最も不得意なコンディションだと思っていたけど、当日試走したら、もっと難しくなっていて……」

体感温度マイナス14℃。あまりの寒さから、屋外にいられずシャワールームの前でアップをする体感温度マイナス14℃。あまりの寒さから、屋外にいられずシャワールームの前でアップをする

 チュー「観客の多さで有名なサーキットでもあったけど、さすがに人が少なかったしね。あれだけシクロクロスが好きなファンが来ないって普通じゃないよ!」

 「自転車に乗っていても転ぶし、自転車から降りても転ぶっていう、何て言うか、みんな路面との戦いだった」

 チュー「トップ選手ですらみんな転んでいたよね。あまりにもみんなが転ぶから、なんだかコントみたいだなって密かに思っていたら、今度は私がツルンと転んだし…。本当にわけがわかんない感じだった。ここにいる人たちは、一体みんなして何をしてるんだろう?って思った」

 「いや、本当にツラかったよね。でも最後の最後に、これが経験できて良かったと思う。間違いなく日本にはないし。ヨーロッパ来たときは暖かかったから、まさかこうなるなんて思ってなかった。でも、これがヨーロッパのシクロクロスなんだな、って本当に思った。泥も氷も気温の変化も。いや、レースキャンセルになるんじゃないかってちょっと思ってたんだけど…」

ワールドカップ・ホーガハイデ大会の前日。コースに積もった雪を取り除くスタッフワールドカップ・ホーガハイデ大会の前日。コースに積もった雪を取り除くスタッフ
女子選手のポディウム。地元オランダの世界チャンピオン、マリアンヌ・フォスが圧巻の勝利女子選手のポディウム。地元オランダの世界チャンピオン、マリアンヌ・フォスが圧巻の勝利

 チュー「変わりやすい天候っていうのもヨーロッパの特徴だよね。試練の神さまは最後まで私たちを見放さなかった…」

 「いやー、本当に勉強させてもらったよ!」

 チュー「レースが終わってやりきった! って思ったけど、じつは私たちの試練は終わらなかったんだよね。そのあとノーマルタイヤで、大雪のなかオランダから100キロ以上運転して帰ってこなきゃいけなかった。いやー、本当に滑ってたよね。エンジンの力で前に進むんじゃなくて、滑って前に進むような……ツルツルの路面はレース会場だけじゃなかった!」

降り続く雪のなかで開催されたワールドカップ・ホーガハイデ大会降り続く雪のなかで開催されたワールドカップ・ホーガハイデ大会

 「笑。高速道路ですら雪で埋まっている区間があったし! 無事に帰ってこられて良かった」

 チュー「何から何までが試練だけれど、1つ1つ乗り越えられて良かった。そう考えると、今年でベルギー拠点の遠征は4年目、姫はほかの国での遠征を含めると経験年数はもっと多くなると思うけど、なんだか刺激的な遠征だったね」

 「本当に、イチバンの収穫は“動じない心”かもしれない。数年前は、凍ってガチガチの区間とか本当にイヤって思っていたけれど、今年はなんか、まーこれもシクロクロスかって思うようになった。そういう器ができてきたと思う」

 チュー「でもそれが本場のシクロクロスではかなり大切な要素かもって、今シーズンのレースを見ていて思うようになったよ。あと1週間でアメリカの世界選手権に向かうけれど、心構えはどう? もう何がきたって怖くないよね?」

 「ルイビルの天気予報を頻繁に見ているけれど、最高気温が10℃の日があれば、マイナス10℃の日もある。天気予報が間違っているんじゃないのって思うほど、コンデョションがまったく読めない。だからこそ、今回ヨーロッパで経験したことを生かせるんじゃないかって思う」

ワールドカップ・ホーガハイデ大会の前日。冷たい風が吹いて、あまりの寒さに……ワールドカップ・ホーガハイデ大会の前日。冷たい風が吹いて、あまりの寒さに……

 チュー「そうだね、次の目標は、まずは無事に世界選手権のスタートに立つことだよね。これまでレースを続けられないほどの大きなトラブルはないけれど、いつだって油断大敵!」

 「試練はどこまでも続くと思って、世界選手権に向けて、万全の準備をしていきたい!」

 チュー「もう一息、頑張ろうね!」

 さらに1週間ほどベルギーで滞在した後、2月3日の世界選手権に向けて、29日にフランス・パリからアメリカのケンタッキー州ルイビルへと移動し、日本ナショナルチームに合流する予定です。31日からレース会場でのトレーニングが始まります。

豊岡英子(とよおか あやこ)
1980年、大阪生まれ。トライアスロンを経て自転車競技の選手に。シクロクロスでは2005年~11年まで全日本選手権で7連覇を達成し、2012年は2位。ヒョウ柄のウエアとバイク、キラキラのヘルメットなど華やかなビジュアルが彼女のトレードマーク。

中川裕之田中苑子(たなか そのこ)
1981年、千葉生まれ。2005年に看護師から自転車専門誌の編集部に転職。2008年よりフリーランスカメラマンに転向し、現在はアジアの草レースからツール・ド・フランスまで、世界各国の色鮮やかなサイクルスポーツを追っかけ中。

(写真・文 田中苑子)


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