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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<230>トリプルエースで悲願のツール総合優勝へ モビスター チーム 2018年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 10月半ばに2017年シーズンのUCIワールドツアーが終了。一部のコンチネンタルツアーを除き、サイクルロードレースシーズンはオフに入っている。例年ビッグネームのサプライズ移籍で盛り上がるストーブリーグだが、そろそろ有力チームの多くが陣容を固め、確定したロースター(所属選手)の発表を進めている。そこで今回からしばらくは、UCIワールドチームを中心とした2018年シーズンの展望をお届けしていきたい。まずは、所属25選手が確定したモビスター チーム。ナイロ・キンタナ(コロンビア)、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン)の巨頭2人に、来季はミケル・ランダ(スペイン)が加入。ツール・ド・フランス制覇を目指して大幅な戦力アップを図っている。

2018年はツール・ド・フランス制覇を目指すことを明言したナイロ・キンタナ =ツール・ド・フランス2017第19ステージ、2017年7月21日 Photo: Yuzuru SUNADA

キンタナ、バルベルデともにツールを最大目標に

 2018年シーズンから、UCIワールドツアーにおける1チームあたりの出走人数が基本7人、グランツールが8人となる。それも関係してこのオフは、ワールドチームの多くがUCIが定める所属選手上限30人を大幅に下回る形で来季の陣容を確定させている傾向にある。これを執筆する11月8日時点で数チームがロースター発表を行ったが、いずれも25選手前後にとどめている。チームにとっては、仮に出場レースがスケジュール的に重なっていたとしても、これまでより少ない人数で選手たちのやりくりができるとの判断がなされているようだ。

 モビスター チームも例に漏れず、2018年は25選手で戦う。退団選手8人に対し、加入選手は5人。スペイン唯一のトップチームとあって、所属選手の多くがスペイン語圏の国のライダーで構成される。

シーズン序盤は絶好調だったナイロ・キンタナ(左)とアレハンドロ・バルベルデだったが、グランツールシーズンに失速してしまった © Movistar Team

 そのチームを引っ張るのは、絶対エースのキンタナとバルベルデだ。両者は今シーズン出だしから絶好調。2月以降勝利を量産し、春のステージレースではキンタナがティレーノ~アドリアティコ(イタリア)、バルベルデはボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャとブエルタ・アル・パイス・バスコを連勝。その勢いのままアルデンヌクラシックへと突入し、ラ・フレーシュ・ワロンヌとリエージュ~バストーニュ~リエージュ(ともにベルギー)をバルベルデが快勝。続くグランツールも席巻するのでは、とみられていた。

ツール・ド・フランス2017第1ステージ個人タイムトライアル、勢いよく飛び出したアレハンドロ・バルベルデだったが、この後激しい落車に見舞われた =2017年7月1日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ところが、肝心のグランツールシーズンで失速。ジロ・デ・イタリアとツールの2冠「ダブル・ツール」を目指したキンタナが、ジロの山岳で勝ちきれず。最終日に逆転を許し総合2位に終わった。さらに、ツールではドイツ・デュッセルドルフでの個人タイムトライアルで、バルベルデが雨の路面でスリップして落車。シーズン後半を棒に振る大けがを負った。キンタナも調子を落とした状態で開幕を迎えてしまい、総合12位と惨敗した。

2018年はツール一本に集中する方針のナイロ・キンタナ =ツール・ド・フランス2017第17ステージ、2017年7月19日 Photo: Yuzuru SUNADA

 キンタナにとってはあまりに不本意なグランツールシーズンとなり、彼の父親がチームマネージャーのエウセビオ・ウンスエ氏に無理なグランツール連戦を抗議するなど、一時は不慣れなレーススケジュールに問題があるのではないかとの見方が広がった。その反省からか、2018年はツールを最大目標として臨むことが大筋で決定。将来的にダブル・ツールを目指す意欲があるとしながらも。来季はひとまずツール一本に集中する。

 けがからの復帰を目指すバルベルデは、骨折した脚に入れていたボルトやプレートなどの金属類をすでに抜釘し、3時間程度のトレーニングライドを再開。当初は今シーズンのUCIワールドツアー最終戦、ツアー・オブ・クワンシー(中国)への出場を目指していたが、自らの判断で回避。来年の開幕戦、ツアー・ダウンアンダー(オーストラリア)で戦線に戻る意向だ。スプリントトレーニングでは、けが前とほぼ変わらない数値を記録しているとし、復帰後の走りに自信を見せる。予定通りにレースに戻ることができれば、アルデンヌクラシック、ツールと目標を定めることになる。来年4月に38歳となるが、彼にとって年齢面はまったく関係ないようだ。

ランダの加入でトリプルエース体制に

 毎年着々と戦力アップを図っているモビスター チームだが、今年はストーブリーグを最も盛り上げたチームと言ってもよさそうだ。5月のジロではステージ1勝と山岳賞、続くツールでは総合4位となったランダをチーム スカイから獲得したのだ。

チーム スカイからモビスター チームへと移籍するミケル・ランダ =ジロ・デ・イタリア2017第19ステージ、2017年5月26日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ジロではゲラント・トーマス(イギリス)、ツールではクリストファー・フルーム(イギリス)のアシストを務めながら、自らも好成績。開幕時から自身をエースに走ることができれば、もっと上の成績が残せたはずというのが大方の見解だ。ランダ本人もその意識が強く、ツール後にはエース待遇を求めて移籍の意向を示していた。ヨーロッパのサイクルメディアを中心に、いくつかの候補チーム名が挙がっていたが、最終的に決断したのがモビスター チームだった。

 自国のトップチームであることが、移籍決定に際してランダの背中を押したことは確かだが、何よりチームを指揮するウンスエ氏にして「スペイン自転車界のスタンダードになるだけの存在」とし、実力だけではなく人間性も高く評価する。12月には28歳となり、キャリアで最も脂の乗る時期に差し掛かるが、自身とチームをどう上へと引き上げるかが楽しみなところ。

 気になる点としては、キンタナやバルベルデらとの棲み分け。過去に所属したアスタナ プロチーム、そして今シーズン限りで退団するチーム スカイと、エースクラスの選手との棲み分けや共闘で集中力を削がれたケースもあるだけに、どのようにチームメートとの折り合いをつけるかもポイントになりそう。

ミケル・ランダも2018年はツール・ド・フランスをターゲットにする可能性が高い =ツール・ド・フランス2017第16ステージ、2017年5月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 もっとも、現時点ではキンタナ、バルベルデとツールを目指す可能性が最も高いとされる。「打倒フルーム」に向け、打ち出したチームの策はランダを含めた“トリプルエース”作戦。3人でフルームを包囲し、あらゆる位置から攻撃を仕掛けようというものだ。ジロやブエルタとの相性も良いランダだけに、「さまざまな可能性を否定しない」というウンスエ氏だが、ツールでのトリプルエースが実現すれば、選手個々の実力や実績だけで見るなら圧倒的なチーム力となる。

 新メンバーによるチームミーティングの場で、ランダはキンタナやバルベルデらとあいさつ。冗談をかわしながらコミュニケーションを図ったとされ、まずは良好な関係づくりに努めているようだ。

 またランダは今後、自身が生まれ育ったバスク自治州からトップシーンを目指す新規UCIプロコンチネンタルチーム「エウスカディバスクカントリー・ムリアス」の運営にも携わり、有力な地元の後輩たちの育成にも力を注ぐ。

充実アシストや次期エース候補も台頭

 チームを牽引するであろう3選手のほかにも、力のある選手がそろっている。

グランツールの上位を狙える力を持つアンドレイ・アマドール =ジロ・デ・イタリア2017第18ステージ、2017年5月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 アンドレイ・アマドール(コスタリカ)はジロにめっぽう強く、トップ10入りすること2回。今年はジロ、ツールともにアシストとして貢献し、タフなところを見せている。

 山岳アシストでは、“キンタナ専属”ともいえるウィナー・アナコナや、心身の不調を乗り越えて好走を見せているカルロス・ベタンクール(ともにコロンビア)に今後、さらなる重要任務が与えられることになりそう。バルベルデやランダが高く評価するクライマーのヴィクトル・デラパルテ(スペイン)も、来シーズンは大きな仕事が控えていそうだ。

 次期エース候補としては、中堅に入りつつあるルーベン・フェルナンデス、今年のブエルタで山岳逃げを再三試みたマルク・ソレル(ともにスペイン)あたり。2人ともそろそろ殻を破りたいところだ。

 来年のツールではチームタイムトライアルとパヴェが復活とあり、平地系ライダーの役割が増える。ベテランのダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)やホセ・ロハス(スペイン)、TTスペシャリストのネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル)、ヤッシャ・ズッターリン(ドイツ)らの奮起に期待がかかる。

2018年のチームキットも発表された © Movistar Team

 新加入組ではランダのほか、エデュアルド・セプルベダ(アルゼンチン、フォルトゥネオ・オスカロ)、ラファエル・バルス(スペイン、ロット・ソウダル)といった、実績のあるクライマーがラインナップ。選手層の厚みはもとより、チーム内競争の激化が予想される。

 チームは11月3日、メインスポンサーのモビスターを運営するテレフォニカ社が本社を置くスペイン・パンプローナで2018年メンバーがそろってミーティングを実施。選手・スタッフとが顔合わせを行い、来年に向けた準備やスケジュールの確認を行った。また、来年から女子チームも結成され、10選手の合流が決定。男子同様にミーティングに参加した。

モビスター チーム 2017-2018 選手動向

【残留】
アンドレイ・アマドール(コスタリカ)
ウィナー・アナコナ(コロンビア)
ホルヘ・アルカス(スペイン)
カルロス・バルベロ(スペイン)
ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)
カルロス・ベタンクール(コロンビア)
ヌーノ・ビコ(ポルトガル)
リカルド・カラパス(エクアドル)
エクトール・カレテロ(スペイン)
ビクトル・デラパルテ(スペイン)
イマノル・エルビティ(スペイン)
ルーベン・フェルナンデス(スペイン)
ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル)
アントニオ・ペドレロ(スペイン)
ダイエル・キンタナ(コロンビア)
ナイロ・キンタナ(コロンビア)
ホセ・ロハス(スペイン)
マルク・ソレル(スペイン)
ヤッシャ・ズッターリン(ドイツ)
アレハンドロ・バルベルデ(スペイン)

【加入】
ハイメ・カストリーリョ(スペイン) ←リサルテ(アマチュア)
ミケル・ランダ(スペイン) ←チーム スカイ
ハイメ・ロソン(スペイン) ←カハルラル・セグロスRGA
エデュアルド・セプルベダ(アルゼンチン) ←フォルトゥネオ・オスカロ
ラファエル・バルス(スペイン) ←ロット・ソウダル

【退団】
ヨナタン・カストロビエホ(スペイン) →チーム スカイ
アレックス・ドーセット(イギリス) →チーム カチューシャ・アルペシン
ヘスス・エラダ(スペイン) →コフィディス ソリュシオンクレディ
ホセ・エラダ(スペイン) →コフィディス ソリュシオンクレディ
ゴルカ・イサギレ(スペイン) →バーレーン・メリダ
アドリアーノ・マローリ(イタリア) →引退
ダニエル・モレノ(スペイン) →チーム EFエデュケーションファースト・ドラパック
ローリー・サザーランド(オーストラリア) →UAE・チーム エミレーツ

今週の爆走ライダー−リカルド・カラパス(エクアドル、モビスター チーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 キンタナやバルベルデを頂点に、実力者がひしめくチームにあって、次世代のエースが誰になるのか注目され続けて久しい。チームを率いるウンスエ氏も、「将来的には自チームで育った選手をトップに送り込みたい」と強く願い続ける。

モビスター チームの次期エース候補として期待されるリカルド・カラパス =ブエルタ・ア・エスパーニャ第8ステージ、2017年8月26日 Photo: Yuzuru SUNADA

 2017年シーズンに、次期エース候補として名乗りを挙げたのが、南米・エクアドル出身のライダーとしては初のワールドチーム所属選手となったカラパス。ジュニア時代から南米のタイトルを総なめにし、昨年チームのトレーニー(研修生)となって本格的にヨーロッパへと渡ってきた。フランスやイタリアでのレースにもしっかりと順応し、今年からの正式契約につなげている。

 今シーズン、早くもステージレースで2度のトップ10入り。グランツールデビューとなったブエルタでも山岳でたびたび逃げを打った。引退目前のアルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)が有終の美を飾った第20ステージでは、アングリルの激坂に耐えて11位。総合上位陣にも負けない登坂力をアピールしている。

 チームは年々選手層が厚くなり、将来を嘱望されている若手へのチャンスは徐々に減りつつあるのが実情。あっという間にアシスト役に回されてしまう状況だけに、数少ないチャンスを何としてもモノにしなければならない。

 カラパスにはその可能性が大いにあるとされるだけに、来年は期待に応える走りを見せる必要がある。ブエルタでともに山岳逃げ役を務めたソレルとの24歳コンビが、そろそろ“本気”になってもよさそうな時期に差し掛かっている。

アングリル峠を上ったブエルタ2017第20ステージで11位と健闘したリカルド・カラパス。来シーズンは勝負の1年になる =2017年9月9日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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