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彼女と自転車<5>“強かわいい”自転車女子 太郎田水桜さん「勝つことで、強くなれる」

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 まだあどけなさが残る、一見普通の女子高生。しかしひとたびレースに降り立てば、そのふんわりとした表情が一変する。太郎田水桜(みお)さん16歳(東京成徳・東京)。女子では唯一の高校生として東京都自転車競技連盟(東京車連)の強化指定選手に選ばれた自転車競技界の期待の新人だ。方や女性ロードチームユニット「ちゃりん娘」としても活動し、活躍の場を広げている。女性サイクリストとして自転車の楽しさと勝負の厳しさに体当たりで挑戦する17歳の素顔に迫った。

太郎田水桜さん Photo: Kyoko GOTO

衝動で父親のロードバイクに

初めて買ってもらったアンカーのロードバイクと (太郎田水桜提供)

 水桜さんが自転車に乗り始めたのは10歳のころ。初めて買ってもらったクロスバイクで、サイクリストの父親に連れられて、通称「荒川サイクリングロード」を走っていた。「最初の頃は目標のグルメスポットを決めて、行って食べて帰ってくるという“ご褒美ライド”で遊んでました。うちから10km地点に美味しいお団子屋さんがあるんですけど、最初はよくそこに行っていました。最初はしんどくて、25kmでもつらかったんですけど、ご褒美を作って少しずつ距離を伸ばしていきました」と、スタートはごく普通の自転車女子だった。

小学5年のときの夏休みの自由研究。父親と挑戦した125kmのロングライドの思い出を綴った (太郎田水桜提供)

 しかし、そんな水桜さんを変えたのは小学5年生のときに出場した「デュアスロン」の大会だった。水桜さんはもっていたクロスバイクで出場したが、ロードバイクに乗った同じ小学生の子たちに次々と抜かされ、悔しい思いをしたという。しかしそこで「自分の自転車と形が違う」と気付いた水桜さん。父親のバイクと同じく、ハンドルが前方にぐるりとカーブを描いていた。

 自宅で父親の大きなサイズのロードバイクをみて「この自転車に乗ったら勝てるのかな」と思った水桜さん。次の瞬間、そのロードバイクにまたがりポーズをとっていた。この時の様子を目にした父親の太郎田能之さんは、「自転車部屋で音がするので行ってみたら、灯りもつけず真っ暗な部屋の中で自転車にまたがっていてびっくりした」と振り返る。水桜さんは急いで下りたが、初めてのロードバイクに乗った興奮は冷めなかった。

幼いときはいつもお父さんと一緒に。写真は小学6年生のとき参加したシマノ鈴鹿ロードレースで (太郎田水桜提供)

 それからというもの、近所の自転車店に行っては眺めていたロードバイク。ブラックのフレームにピンクの差し色が入った「アンカー」を「かわいい!」と言い続けていたある日、父親から「今日、これ持って帰ろう!」という一言。12歳の誕生日のサプライズプレゼントとして予め購入していたそうで、水桜さんは念願だった初のロードバイクを手に入れた。

飛び込むことで広がる世界

小学6年生の夏の自由研究では小学生の部で準優勝を獲得した鈴鹿の思い出を工作に (太郎田水桜提供)

 自慢の“愛車”でレースにも挑戦し始める。初めて参加した「もてぎ7時間エンデューロ」では、小学生の女子の部で見事優勝を果たした。「表彰台の一番上に上がったことと、とにかくたくさん景品をもらえたことが嬉しかった。とても印象深い思い出です」と語る水桜さん。「どんどんレースに出たくなった」とチャレンジ精神に火が着き、その後も立て続けに「シマノ鈴鹿ロードレース」に挑戦した。

ロードレースにも興味を始めた。小学6年生のとき憧れの新城幸也選手(チームヨーロッパカー当時)と (太郎田水桜提供)

 結果は惜しくも2位だったが、規模が大きな大会で大勢の観客が見守るなか、高い表彰台に上ることは、これまでの人生にない経験だった。勝利を祝福される喜びと緊張と、そして2位の悔しさ。湧き上がる様々な感情が水桜さんを一段ずつ成長へと導いた。

 次第にプロのロードレースにも興味を持ち始めた。憧れる選手は新城幸也選手(バーレーン・メリダ)。水桜さんいわく「速くて、世界でも活躍している姿がかっこいい」とのこと。

 小学校6年生だった当時、日本に一時帰国していた新城選手のサイン会で、沖縄の方言で「がんばって」を意味する「ちばりよー」と書いてもらったグローブは今でも宝物。「大会のときに身に着けてると元気になる」というが、使いすぎて、最近は洗濯でサインが薄れてしまっているのが悩ましいところだという。

勝つことの喜びが次の挑戦へのエネルギーに (太郎田水桜提供)
2015年、シマノ鈴鹿ロードレース中学生以上の部で優勝 (太郎田水桜提供)
中学2年生から女性ロードチームユニット「ちゃりん娘」としても活動 (太郎田水桜提供)

 中学2年生からは、自転車の魅力を発信する女性ロードチームユニット「ちゃりん娘」としての活動を開始した。勧誘され、最初は悩んだが「サポーターの人も応援してくれるし、色々な大会に出られるようになった」と、飛び込んだ先で活躍の場を広げている。イベントゲストとして出演することもあるけれど、それでも「走るときはしっかり走りたい」という水桜さん。とあるエンデューロでは途中まで男子の先頭集団についていき、周囲を驚かせたこともあった。

ゲスト出演する大磯クリテリウムでは「負けられない」と本気の走り (太郎田水桜提供)
活躍の場が増え、人前で話すことで経験値もあがった (太郎田水桜提供)
「負けず嫌いで、体育の授業でも絶対負けたくないんです」という太郎田水桜さん Photo: Kyoko GOTO

 「『ちゃりん娘』の中ではちょっと特殊な存在かもしれません(笑)」と微笑む笑顔からは想像もつかない根性の持ち主。「負けず嫌いで、体育の授業でも絶対負けたくなくてめっちゃ頑張ります!でもサッカーは苦手。いつも変なとこに蹴って友達から怒られます(笑)」。選手と子どもの顔が入り混じる、瑞々しい成長期に、伸び代を感じずにはいられない。

憧れの東京五輪に向かって一歩ずつ

 今年3月に行われた全国高校選抜大会ではトラック競技のスクラッチで3位、7月の全国高校総体でも同じくトラック競技の女子ポイントレースで3位を獲得。そして8月に開催されたJOCジュニアオリンピックカップ自転車競技大会では、女子U17の部の「ポイントレース」で2位に入賞し、「2km個人パーシュート」でも3位を獲得するなど、戦績も輝かしい。

2017年の全国高校選抜大会ではスクラッチで3位を獲得(先頭が太郎田水桜さん) (太郎田水桜提供)
普段乗りのスタイルでは「FELT」のカーボンフレームと「GOKISO」のホイールにカペルミュールのサイクルスカートがお気に入り Photo: Kyoko GOTO

 東京車連の強化指定選手に選出された時の気持ちについて尋ねると、「これからもっと頑張らなきゃ、と思いました」という答え。高校生は水桜さん1人で、周囲は大学生の先輩たち。選ばれた嬉しさよりも、圧倒的な脚力の違いに「ヤバい!」と焦りの方がつのった。それでもワクワクと嬉しそうな表情に、ロードバイクへの愛情とレースへの貪欲さが伺える。

「MIO」と自分の名が刻まれたヘッドキャップ。お父さんからのプレゼントだそう Photo: Kyoko GOTO
よく見るとバーエンドには大好きな「リラックマ」。自転車は部品がたくさんあって自分好みにカスタマイズできるのも楽しい Photo: Kyoko GOTO

 幼い頃、父親と一緒にサイクリングを楽しんでいた女の子が、6年で全国を舞台に競い合う女子選手へと成長した。さらに4年後の東京五輪は20歳で迎える。「オリンピックは憧れ。出来ることなら自分もその舞台に立って、すごいと思ってもらえる人になりたい」という水桜さん。

憧れの東京五輪に向けて一歩ずつ前進したいという太郎田水桜さん。「応援よろしくお願いします!」 Photo: Kyoko GOTO

 「そのためにはまず、日本自転車競技連盟の強化指定選手に選ばれないといけない。東京五輪も将来的な目標に入れているけど、高校生活の中での目標を1つずつクリアしていくことで、その先に見えてくるものなんだと思っています」と意志の強いまなざしを向ける。そして「自分が活躍することで、たくさんの人たちに自転車の魅力を伝えられたらと思っています」と語った。

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Cyclist for Woman インタビュー(女性向け) 彼女と自転車

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