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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<225>新領域へ到達したサガン 異なる勝ち方でつかんだロード世界選手権男子エリート3連覇

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 北欧ノルウェーのベルゲンを舞台に行われた、今年のUCI(国際自転車競技連合)ロード世界選手権。大会の最後を飾った、9月24日の男子エリートロードレースでは、ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)が大会史上初となる3連覇を達成した。27歳にして、これまで誰もが成しえなかった領域へと到達してみせた。そこで、今回はサガンの強さとその勝因を検証。また、サガンと同い年のトム・デュムラン(オランダ、チーム サンウェブ)が制した個人タイムトライアル(TT)にも着目し、これからのTTの重要性に目を向けてみる。

ポディウムに立つ上位3選手。中央に立つペテル・サガンは左手で3連覇をアピール。右手は力強くメダルを握りしめた Photo: Yuzuru SUNADA

オールラウンドな選手向けのコース

 戦いを振り返るにあたり、いま一度今大会のコースを確認してみたい。男子エリートは、スタートから39.5km走行したのち、メインコースであるベルゲンの周回へ。1周19.1kmを男子エリートは12周回。

UCIロード世界選手権メインコース、ベルゲン周回 ©︎UCI

 周回中盤に登場するサーモンヒルは、登坂距離1.5km、平均勾配6.4%。1周あたりの獲得標高が約200mということや、サーモンヒル以降が下りと平坦基調であることから、「上れるスプリンター」と呼ばれる登坂力を持つスプリンター有利というのは、コース発表のあった昨年の時点から言われていたことだった。

 一方で、大会が始まってみると他のカテゴリーでは独走や数人の逃げ切りから勝者が生まれていた。例年の傾向として、男子エリートは他のカテゴリーと同様のレース展開になることは少ないとはいえ、状況次第ではパンチャーや独走力のある選手にもチャンスがめぐってくることも考えられた。

 周回を追うごとにサバイバル化していく世界選手権ならではの展開も加味し、今回のコースは登坂とスピード両面に長けオールラウンドに力を発揮できる選手向けとみることができた。

3度の勝利はいずれも違ったスタイルで

 サガンは今大会に入る直前に体調を崩していた。風邪とはいえ決して軽いものではなく、3日ほどトレーニングを休まなければならなかったという。出場を予定していた大会初日(9月17日)のチームタイムトライアルを欠場し、回復に専念。とはいえ、1週間以上体調が戻らなかったとの情報もあり、実際のところは完治しないままロード本番を迎えていた可能性もある。

メイン集団の目立たないところで勝負の時を待つペテル・サガン Photo: Yuzuru SUNADA

 レース中盤から終盤にかけては、いくつかの強力なアタックもあったが、結果的には最後まで生き残った約25人でのスプリント勝負。体調の不安があったサガンは、集団の後方を走っている時間も長く、息をひそめながら勝負の時を待った。むしろスプリントに賭けた、「これしかない」といった勝ち方だったに違いない。

 それでも、今回はスプリントで勝つのは難しいと感じていたという。それを裏付けるのが、レース後のコメント。ラスト5kmでの状況を振り返り、「集団が割れ、なかなかまとまる気配が見られなかった」と述べている。ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)があわや逃げ切りかと思わせる独走を見せ、それを追おうとメイン集団からは次々とアタックが生まれた。

 また、消耗戦からどの国も集団をコントロールできるほどの人数をそろえられず、完全に主導権を握ったチームは現れなかった。ちなみに、サガンを支えたスロバキアのアシスト陣は、レース序盤の集団コントロールを担って以降は、徐々に後退。兄のユライ(ボーラ・ハンスグローエ)が最終周回まで残っていたが、勝負どころを前に遅れている。

体調の不安を払拭するペテル・サガンのスプリント勝利。最後は地元制覇に燃えたアレクサンドル・クリストフ(右端)との競り合いを制した Photo: Yuzuru SUNADA

 しかし、そんな混戦下でのスプリントに一日の長があるのがサガン。少々早掛け気味だったアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ・アルペシン)をピッタリとマークしてプレッシャーを与えつつ、最後は僅差ながら差し切るあたりはさすが。大会前からの不安を払拭する勝利、それも結果的に得意のパターンで勝ってみせた。

 ロード世界選手権男子エリート3連覇。昔ではエディ・メルクスでさえ、また女子ではマリアンヌ・フォスでさえ成しえなかった偉業を、27歳にして成し遂げた。毎年開催地が変わり、その地オリジナルのコースが採用されることから、レイアウトはもとより、展開や出場選手も変わる中での快挙だ。

 思い返せば、初優勝した2015年のリッチモンド大会(アメリカ)では強烈なアタックからの衝撃的な独走勝利。2016年のドーハ大会(カタール)では、砂漠地帯特有の砂嵐と気温40度近い暑さの中で生き残った選手たちでのスプリント。そして、今回は上りを数回こなすハードなコースをクリアした約25人でのスプリント。年々異なる展開でありながら勝つあたりに、サガンの強さと巧みさがあるといえるだろう。

 ここまでのキャリアや年齢を見ていくと、世界王者になるチャンスはまだまだありそうだ。3連覇で歴代最多の優勝記録にも並んだわけだが、きっと近いうちに史上初となる4度目のマイヨアルカンシエル獲得の日もやってくるだろう。

UCIロード世界選手権男子エリートで史上初となる3連覇を達成したペテル・サガン Photo: Yuzuru SUNADA

TT上位を占めたグランツールライダー

 ロードに先だって、20日に行われた男子エリート個人TTは、初優勝したデュムランを筆頭に、2位のプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ロットNL・ユンボ)、3位のクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)と、グランツールで活躍する選手たちが表彰台を独占。彼ら以外にも、グランツールでおなじみの選手たちが上位に食い込んでいる。

圧倒的な強さでUCIロード世界選手権個人タイムトライアルを制したトム・デュムラン Photo: Yuzuru SUNADA

 今回はフィニッシュ目前に急坂が控え、TTバイクからノーマルバイクへの乗り換えも可能とするレギュレーションという変則的なレースとなったことも関係しているが、それでも上りだけで結果がすべて決まるわけではないことを加味すると、やはりこちらも総合力が試された勝負だったことがうかがえる。グランツールでは、TT能力が最終的な個人総合成績に大きく反映されることが多いが、このところの流れを象徴する結果だったとも見ることができる。

男子エリート個人タイムトライアルの上位3選手。左から2位のプリモシュ・ログリッチェ、優勝のトム・デュムラン、3位のクリストファー・フルーム。いずれもグランツールを主戦場とする選手たちが上位に顔を出した Photo: Yuzuru SUNADA

 特に今年のジロ・デ・イタリア最終日の個人TTで逆転し総合優勝したデュムラン、同じくツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャの2冠を果たしたフルームと、TTでライバルとの差を広げることのできる2人が、TTのみの勝負でも表彰台に上がったあたりに、今後のグランツールを戦ううえでの重要なヒントがあるといえよう。

 グランツールレーサーの戦いといえば、来年9月23~30日に行われるロード世界選手権インスブルック・チロル大会(オーストリア)にその趣きが見られる。アルプス山脈特有の険しい山々による難易度の高いコース。メインコースは山岳の周回が設定され、265kmで争われる男子エリートロードレースは獲得標高が約5000mにものぼる。

 近年はスプリンターやパンチャーが主役となることが多く、今回ロードで表彰台に上がったサガン、クリストフ、マイケル・マシューズ(オーストラリア、チーム サンウェブ)は3年連続で上位に入っている。だが、次回は優勝争いの顔ぶれがガラリと変わる可能性が高い。

 今回TTで結果を残したデュムランやフルーム、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)、ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)といったグランツールの上位常連や、今回果敢な走りで見せたアラフィリップやジャンニ・モズコン(イタリア、チーム スカイ)といった若いながらも登坂やスピードに力のある選手たちが優勝争いを演じる可能性が高い。

 国別UCIポイント獲得状況によって、各国の出場枠に違いが生まれるが、次回はよりその重要度が増すことになりそうだ。有力選手擁する国の出場枠がいくつであるかや、それを受けての選手の選考など、これまで以上にあらゆる思惑が飛び交う世界選手権となるに違いない。

今週の爆走ライダー−アルベルト・ベッティオール(イタリア、キャノンデール・ドラパック)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 数々の自転車大国が復権を目指してスタートラインに並んだロード世界選手権男子エリート。2008年以来、世界王者を輩出できていないイタリアもその1つ。最後は好調のマッテーオ・トレンティン(クイックステップフロアーズ)で狙ったが、あと一歩届かず4位に終わった。

 それでも、終始集団コントロールに選手を送り込み、要所では準エースクラスを前方に送り込むなど見せ場は作った。そして、最後の最後にフィニッシュ前に先頭で現れたのも、イタリアのジャージだった。

イタリア自転車界期待のホープ、アルベルト・ベッティオール。クラシックのほか、個人タイムトライアルの向上も目指している =ティレーノ〜アドリアティコ2017第7ステージ、2017年3月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今回、トレンティンのリードアウトを担ったのが23歳のベッティオール。同国が売り出す若手のホープだ。すでにプロキャリアは4年目を迎え、ワンデーレースを中心に活躍。今年はツールでもアシストとしてチームに貢献。そんな彼の器用さと堅実性を買って代表に抜擢したのが、同国のダヴィデ・カッサーニ監督だ。実際、チームとしてはいくつもの誤算があったというが、終盤のベッティオールの働きは見立て通りだったに違いない。

 石畳や短めの上りに強く、展開次第では自らスプリントで勝負することもできるタイプ。今年は7月下旬のクラシカ・サン・セバスティアンで6位となるなど、クラシックレースを得意とするが、将来的にはタイムトライアルにも注力したいという。

 それもあって、来シーズンからはBMCレーシングチームへ移籍することを決めた。資金繰りが危ぶまれた現チームへの不安が大きかったことは確かだが、それよりもTTの向上と、同時に首脳陣からの山岳への適性を評価されたことを喜ぶ。グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー)ら、スターひしめくチームで多くのことを学びたいと意気込む。

 それだけに、このイタリア代表での働きぶりは関係者にとってよりポジティブに捉えられるに違いない。年齢を見ても今後の可能性は無限。ビッグチームでどんなライダーへと進化するのか、その楽しみを膨らませた世界選手権での走りだった。

イタリア代表のジャージをまとってスタートラインに並んだアルベルト・ベッティオール。リードアウトでチームに貢献。今後の可能性を感じさせる働きぶりだった Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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