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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<224>ブエルタ2017総括 新たな伝説を作ったフルームと有終の美飾ったコンタドール

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 情熱の国・スペインを主な舞台に繰り広げられたブエルタ・ア・エスパーニャ2017の戦いが終了した。シーズン最後のグランツールにふさわしく、格式を同じくするツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアにも劣らないビッグネームの顔ぶれと熱戦となった。いま一度総合争いに目を向け、ツールとブエルタの2冠「ダブルツール」を達成したクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)や、有終の美を飾ったアルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)らの走りを振り返ってみたい。

史上3人目のツール・ブエルタの2冠「ダブルツール」を達成したクリストファー・フルーム Photo: Yuzuru SUNADA

ダブルツールを可能にした3つのポイント

 今年のブエルタを終えてみて、やはりフルームのダブルツールに尽きるだろう。ツール・ブエルタの2冠は史上3人目、39年ぶり。もっとも、過去2回はブエルタが4月下旬から5月に開催されていたこともあり、現行のレーススケジュールになってからは初の快挙となった。

 思えば昨年、フルームはツール・ブエルタの2冠を狙いスペインに乗り込みながら、連戦の疲れもあってナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)の後塵を拝した。敗戦の一方で、ツール、リオデジャネイロ五輪、ブエルタという過密スケジュールをこなしての総合2位に手ごたえをつかみ、「来年はダブルツールを現実的な目標にしたい」と宣言していたのだった。

 有言実行の偉業達成となった背景として、3つのポイントを挙げてみたい。

クリストファー・フルームを支えたチーム スカイのアシスト陣。先頭を引くのはワウト・プールス =ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第12ステージ、2017年8月31日 Photo: Yuzuru SUNADA

 まずは「チーム力」。現在のグランツールを戦ううえで、総合エースを上位に送り込む重要な要素となるアシスト陣の存在。チーム スカイは山岳アシストの充実を武器に、3週間を通して主導権を握った。

 山岳でフルームを支えたジャンニ・モズコン(イタリア)、ミケル・ニエベ(スペイン)、ワウト・プールス(オランダ)は、チーム スカイのお家芸ともいえるパワーデータなどをもとに計算されたペーシングでレースを進行。ライバルのアタックにも惑わされず、“設定”に基づいて淡々とフルームを重要局面へと運んだ。これにより、フルームは必要以上にライバルとの駆け引きに身を削ることなく、後続との総合タイム差を見ながらレースを展開することができた。また、バッドデイとなった第17ステージ(9月6日)も、力のあるアシスト陣が寄り添ったことで、その遅れを最小限にとどめられたといえよう。

ブエルタ第9ステージを制した時のクリストファー・フルーム。狙うレースを絞り、最大限の力を発揮できるよう努めた =2017年8月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 次に「コンディショニング」。ブエルタ開幕までのシーズンレース数は48と、例年とそう大差はなかったが、内容はこれまでとは異なっている。ターゲットを完全に絞り込み、それ以外のレースに関しては決して無理をしないスタンスに終始。ツールの総合優勝こそあったが、今年初めてのステージ優勝は今大会の第9ステージ(8月27日)という点でも、出場レースで次々と勝利を狙って攻めたかつての走りとは変わってきている。

 32歳という年齢面による変化も考えられるが、今となってはダブルツールを意識してシーズンを送ってきたと見ることもできる。大会が進むにつれ、疲労からかアグレッシブさは徐々に潜めていったが、それでも最後をまとめてしっかりと目標を達成。その要因には、ツール以前のシーズンをゆったりと構えたことが考えられる。

40.1km個人タイムトライアルで争われたブエルタ第16ステージで快勝。ダブルツールを現実的なものとした =2017年9月5日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そして、いかなるレース展開でも「取りこぼさないこと」はフルームの強みでもある。チームとしてレースの主導権を握る優位性を生かし、終始前方で展開できたことは未然にトラブルを防ぐことにもつながり、またハイスピードでなだれ込む平坦ステージのフィニッシュでも上位を確保する徹底ぶり。

 特に大会前半は、ツールからの勢いそのままに攻めの走り。3級山岳頂上フィニッシュとなった第5ステージ(8月23日)では、コンタドールの動きに乗り、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)らを振り切ったあたりを境に、少しずつライバルとの差を稼ぎ始めた。そして、40.1km個人タイムトライアルの第16ステージ(9月5日)で狙い通り快勝したことで、ダブルツールがより現実的なものとなった。

 悲願のダブルツールを果たし、次なる目標が注目されるところ。ジロを勝って全グランツール制覇を期待する声も高まっている。フルームも実際に「いずれはジロが目標になる」と明言する。同時に、「2018年はツール4連覇が最優先」と続け、ジロ出場に関しては今のところ流動的だ。シーズンオフに来年のレースプログラムが大筋決まる見通しだが、ジロのリーダージャージであるマリアローザへ傾倒するのは、もう少し先のことになるのかもしれない。

大会終盤に調子を上げたコンタドール

 フルームと並び、今大会の主役だったコンタドール。開幕前にこの大会限りでの現役引退を表明。並々ならぬ意思でブエルタのスタートラインに立ったのだった。

 全世界のファンが「キャリアの終焉はマイヨロホで」と思ったことだろうが、その望みは第3ステージで崩れてしまった。この日だけで、ステージ優勝のニーバリや同タイムフィニッシュのフルームらから2分33秒の遅れを喫してしまったのは、マイヨロホ争いにおいては致命的だった。あくまでも数字上の話だが、フルームとの最終的な総合タイム差は3分18秒。第3ステージをライバルとともにフィニッシュできていれば、もっと違った戦いになっていたはずだ。

強い意志と執念で勝ち取ったブエルタ第20ステージの勝利。大会終盤に調子を上げたことも勝因となった =2017年9月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 一方で、大きく遅れたことがその後のステージでのコンタドールの果敢な攻めを生んだことは確かだ。また、展開次第ではメイン集団からの容認も得られ、たびたびライバルから先着できた。感覚に身を任せて走る彼本来のスタイルが、キャリアの終わりに来て完全によみがえった。

 その最たる結果が、アングリルの頂上を制した第20ステージ(9月9日)だ。チーム スカイによるメイン集団のペースコントロールもあり、総合順位を大きくジャンプアップさせるところまではいかなかったが、強い意志と執念で事実上最後のレースを勝利で飾ってみせた。

 「これ以上美しい勝利はない」と感激に浸ったコンタドールだが、チーム首脳陣は「尻上がりに調子を上げていた」と走りを分析。チームメートの働きや、他チームに所属するスペイン人選手の“好アシスト”もあったと同時に、コンディションのよさも勝因だったようだ。

 ライバルの追い上げもあり、惜しくも総合表彰台は逃したが、精彩を欠いたツールから立て直してきたあたりはさすが。キャリアを終えるその瞬間まで、集中力を保って戦い続けたあたりに、コンタドールの意地とトッププロとしてあるべき姿勢を示したといえそうだ。

チームメートと総合表彰台へ上がったアルベルト・コンタドール。素晴らしきキャリアを祝福された =2017年9月10日 Photo: Yuzuru SUNADA

巻き返し誓うニーバリ

 第11ステージ以降は総合2位が定位置となったニーバリ。第3ステージでは勝負強さを発揮して勝利を挙げるなど、3週間を通して一定の成果は残した。

総合2位とまとめたヴィンチェンツォ・ニーバリだが、ベストコンディションで戦えなかったことを悔やむ =ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第17ステージ、2017年9月6日 Photo: Yuzuru SUNADA

 それでも、ベストコンディションで戦えなかったことを悔やむ。「スーパーとは言えない日もあった」とし、ステージごとに調子に波があったことを示唆した。同時に、「もう少し(全体の)登坂距離が長ければ違った戦いになったと思う」とも述べ、山岳の厳しさが自身の想定とは異なっていたことも挙げる。

 第20ステージのアングリルではフルームから遅れたが、コンディションが整わなかったといい、「総合2位を守ることを重視した」とコメント。戦いを終えて「フルームは無敵だとは思わない」と強気の姿勢は崩さず、今年のジロ総合3位と合わせて来年のグランツールでの巻き返しを誓った。

 山岳・TTと高いレベルを誇るとともに、チーム力にも恵まれるフルームに対し、今後ニーバリがどう打って出るのか。現役選手の中では群を抜く経験と実績が、今後より生かされるか注視していきたい。

今週の爆走ライダー−ミケル・ニエベ(スペイン、チーム スカイ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 登坂力と安定感を買われてチーム スカイ入りしたのが2014年。以来、プロトン随一のチームの山岳アシストとして、また時に自身も総合上位入りを果たしながら、グランツールを主に主戦場としてきた。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第9ステージのフィニッシュ後、クリストファー・フルーム(左)の勝利を称え合うミケル・ニエベ =2017年8月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今年のブエルタを終えて、ダブルツールを達成したフルームが真っ先に称えたのがニエベだった。チームメートとなってから、グランツールで一緒に出場すること6回。そのうち3回でフルームが頂点に立っている。チームリーダーはその献身的な働きぶりに感謝した。

 このブエルタをもって、チーム スカイでの大きなミッションは終わり。来シーズンからは、オリカ・スコットで走ることが決まっている。エステバン・チャベス(コロンビア)や、アダムとサイモンのイエーツ兄弟(イギリス)と、グランツール制覇が狙える若き才能を支えることを決めた。チームも歳月をかけて総合狙いのチームへと進化。残っているピースを埋める1人にニエベが任命された。

 近年は、チーム スカイで活躍した選手たちが他チームへ移籍し、当時の経験を生かすケースが増えてきた。常に前衛的で、驚きをもたらすその姿勢が広がりを見せることで、プロトンがさらに活性化されるのはロードレース界にとって大きな魅力。きっと、ニエベもこれからその一翼となることだろう。

2018年からオリカ・スコットへ移籍するミケル・ニエベ。これまでの経験を若い選手たちに伝える役割が期待される =ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第20ステージ、2017年9月9日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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