スマートフォン版はこちら

サイクリスト

【関西の議論】「そのロチュウ見られてんで!」路上キスではありません…悩ましい自転車マナー向上活動の成否

  • 一覧

 市民1人に1台といわれるほど自転車が普及している兵庫県尼崎市で、自転車マナーの向上に向けた取り組みが進んでいる。地元の中学生が夏休みを利用し、商店街を自転車で走りぬける大人たちに「危ないからやめて」と自転車から降りるよう注意する活動を実施。商店街でも対策に乗り出し、「そのロチュウ(路上駐輪)見られてんで!」などと表記された啓発漫画のチラシを作成した。市は10月施行の「市自転車のまちづくり推進条例」で取り締まりを強化する方針だが、自転車の利用客と〝共存〟を図りたい商店主にとっては悩ましい場面も出てきそうだ。(沢野貴信)

自転車走行はNO!

「尼崎中央・三和・出屋敷商業地区まちづくり協議会」が作成した自転車のマナー向上を啓発するチラシ。「そのロチュウ見られてんで!」と、路上駐輪に注意を促すユニークな内容だ

 阪神尼崎駅近くの尼崎中央・三和商店街。東西約1メートルにおよぶ尼崎市を代表する商店街の一つだ。買い物にやってくる近所の主婦のほか、会社員や中高生らの通勤通学路でもある。

 そんな商店街に7月27日の昼過ぎ、市立中央中学校の生徒5人が集まった。「多くの人が行き交う商店街の中を自転車が走りぬけるのは危険。いつ事故が起きてもおかしくない」。地元の課題解決に何かできることはないかと考え、夏休み期間中、5回にわたり、「商店街で自転車走行はNO」と書かれた手作りのポスターを掲げて商店街を練り歩き、マナー違反の大人に訴えることにしたのだ。

 生徒たちは自転車に乗った大人たちに「自転車から降りてください」「押して歩いてください」と呼びかけた。そんな生徒の姿に、大人たちも「ごめん、ごめん」と自転車から降りて押し出す光景もみられた。

 生徒たちは約1時間かけて商店街を往復。商店街での自転車走行は商店街や市なども「マナー違反」と訴え続けているだけに、自転車に乗った大人たちもばつの悪さを感じていたようだ。

啓発参加の動機は「自転車にひかれた」

 8月9日の活動では、もっと目立つようにと、プラカードに変更。混雑した商店街で遠くからでも見えるように工夫した。さらに取り組みの効果を確認するために、生徒1人が声をかけた人の反応をメモに残した。この日の活動中、自転車を押していた人は64人、呼びかけて降りた人が36人、走り去った人が7人だった。

 商店主にとっては「お客なので店からは注意しにくい」というのが本音で、生徒たちの善意の取り組みを歓迎する。夏休みを返上してまでマナー改善を訴える熱の入れように感心しきりだ。

 ある商店街関係者は「中学生の頑張りが商店街全体に浸透すれば」と期待を寄せた。

 なぜ、生徒たちは啓発活動に積極的なのか。参加した女子生徒(15)は 「小学3年のとき、商店街で自転車にひかれたから。地元の商店街で、買い物客が安全に買い物できるようにしたい」と語る。

 女子生徒は大けがをしなかったが、ぶつかりようによっては大事故につながる可能性もある。それだけに生徒たちも、本気でマナー向上につなげたいと考えて活動しているという。

商店街も独自チラシ

 一方、商店街自体も独自の取り組みを展開している。今年3月に可決された市自転車のまちづくり推進条例で、商店主ら事業者に対し、罰則はないものの「顧客等に迷惑駐輪をさせないために必要な措置を講ずるよう努めなければならない」という一文が盛り込まれたからだ。

 商店主らでつくる「尼崎中央・三和・出屋敷商業地区まちづくり協議会」は条例制定を見越して昨年11月、商店街に訪れる利用客にマナー向上を訴えるチラシを1万枚作成。お客に過度な刺激を与えないようにと、漫画で表現した。

 「そのロチュウ見られてんで!」。最も大きな字で書かれた「ロチュウ」とは、もちろん路上でのキスではなく、路上駐輪の略。若い女性が駐輪禁止の場所に自転車を止めるのを見た子供が「あっ、あんなキレイな人やのに」と落胆する内容だ。わざわざカタカナ表記にして、恥ずかしがる女性のイラストを添えており、ついつい見てしまいがちな仕上がりだ。

 裏面には「みんなハミチンしてへんで!」の文字も。こちらは商店街の各店舗が路上に商品などを陳列せず、ルールを守っているのをアピール。これも、はみ出し陳列を「ハミチン」とわざわざカタカナ表記して目立たせた。

 同協議会は「手にとってつい読んでしまう面白いチラシを作った。マナーの改善につなげられれば」とその狙いを説明した。

市民1人に1台…自転車王国尼崎

 尼崎市によると、約46万人の市民に対し、自転車の推計台数は約46万台。およそ市民1人に1台ある計算だ。

 交通事故の発生も、市内全域で昨年1年間に自転車が関係する事故(自転車が加害者となったケースも含む)は人身事故の約4割にあたる825件発生し、このうち4人が死亡した。

 市が8月5日に開いた「自転車のまちづくりフォーラム」では、市生活安全課の職員が市民の通勤通学での自転車利用実態をグラフで示しながら報告。国勢調査などをもとにしたデータから、政令市や中核市の中でも「会社や学校、駅など自転車で移動する割合が全国トップクラス」とし、交通手段として自転車利用の人が多いと強調した。

 その理由として、市内全域がほぼ平地であるのが大きいという。また東西に鉄道や主要国道が走る一方、南北交通の利便性の低さに加え、鉄道の駅が市内に13駅と駅数も多い点を挙げ、尼崎の特異性を指摘した。

 こうした状況を踏まえ、10月から施行される条例では、軽微とみられがちな信号無視などに加え、迷惑駐輪やひったくり防止の前かごカバーの未装着の市民に対し、市長が「指導」する内容が盛り込まれた。

 市職員が違反者を見つけた場合、「指導票」を交付して注意を促すとしている。

商店主らの「葛藤」

 条例による厳密なルール化は、商店街の商店主に葛藤を強いるものになる。アウト・セーフの線引きの判断が難しいのだ。条例で「顧客等に迷惑駐輪をさせないために必要な措置を講ずるよう努めなければならない」と商店主に努力義務を課す一方、市は買い物で立ち寄り、店の前で止めた自転車が通行の妨げにならない限り「放置自転車」と判断せず、「一時的な駐輪」と見なす方針も示す。

 商店主には〝臨機応変〟の対応が求められることになるが、やはり気がかりなのは「お客が来なくなる」というリスクと隣り合わせであるという現実だ。商店街近くには、駐輪場があるものの、高齢者の買い物客にすれば重い荷物を持って商店街を歩くことになり、できれば店の近くまで行きたいのが本音。商店主たちもその事情をよく知っており、事故の危険性が高い自転車走行をやめるよう呼びかける啓発は積極的に行うが、店に自転車でやってくる客には通行の邪魔にならないよう、やさしく応対していくしかないようだ。

産経WESTより)

関連記事

この記事のタグ

セーフティーライド

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

スペシャル

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載