スマートフォン版はこちら

サイクリスト

序盤3ステージを無事クリア“U23版ツール”に挑む日本代表チーム 「ツール・ド・ラヴニール」レポート

  • 一覧

 フランスで開催されている国別対抗U23版のツール・ド・フランス「ツール・ド・ラヴニール」が8月18日に開幕した。U23日本チームは国内最高レベルのU23選手が出場しており、日本ロードレース界の今後を占う重要なレースとなっている。日本チームは20日までに行われた3ステージを、リタイアを出すことなく終えている。 (U23ジャパンナショナルチーム)

ツール・ド・ラヴニール第3ステージ、時速48kmで進む集団内の(右から)石上優大と岡本隼 Photo: CyclismeJapon

自力で出場枠を獲得した日本

雨のはずが晴天になった第1ステージ Photo: cyclismejapon

 晴天よりも雨の日が多いとされるフランス西岸部ブルターニュ地方の都市、ルデアックからスタートしたU23版ツール・ド・フランス「ツール・ド・ラヴニール」(未来へのツール)。18日から27日までの全9ステージ(休息日1日)、総走行距離1201km、獲得標高1万6673mで争われる“世界最高峰のU23(23歳未満)選手限定レース”である。

 国別対抗戦である本大会には、イギリス、フランス、イタリア、スペインを始め24チーム、計144人の世界のU23トップ選手が出場。今年の日本U23は招待枠ではなく、自力で出場枠を獲得しての出場ということもあり、日本自転車ロードレース界にとっては歴史に残る第一歩となった。

 U23日本チームのメンバーは、雨澤毅明、岡篤志、小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)、石上優大(EQADS/Amical Velo Club Aix en Provence)、岡本隼(日本大学/愛三工業レーシング)、山本大喜(鹿屋体育大学)の6人が選出された。

ツール・ド・ラヴニール第2ステージのレース前には、ユーモアを交えた受け答えで観衆の笑いを取る余裕を見せた日本U23 Photo: CyclismeJapon

開幕ステージは順調な滑り出し

ベルギーやポーランドチームの追い上げに抵抗し、ソロ逃げ切り優勝を掻っ攫ったキャスパー・アスグリーン Photo: Tour de l'Avenir

 第1ステージはレース序盤、最初の山岳賞ポイントである25km地点で、総合優勝候補本命で先日のジロ・デ・イタリアU23で優勝したパヴェル・シバコフ(ロシア)を含む11人の逃げが形成された。逃げが集団に対して稼いだタイム差は最大で4分。ベルギーやポーランドがメイン集団を強力に牽引したため逃げ切り不可に見えたものの、人数を3人ほどまで減らしつつ最終局面まで抵抗する逃げ集団。

 最後は8月3日に行われたヨーロッパ選手権のU23タイムトライアルチャンピオンであるカスパー・アスグリーン(デンマーク)が、得意の独走力を生かして見事な逃げ切り優勝を飾った。

全日本選手権での鎖骨骨折から一カ月あまりで復帰の岡篤志「ちょっとムズムズ痒いです」(笑)と余裕の表情 Photo: cyclismejapon
子供にサインを求められる石上優大。第1ステージ後には「走りながら調子を上げていきますよ」と意気込んだ Photo: cyclismejapon

荒れた第2ステージでサバイバル成功

オランダのU23王者、ヤコブセンが混沌のスプリントを制した Photo: Le Tour de l'Avenir

 第2ステージはスタート直後に2選手がアタックしタイム差を3分以上に開いたが、メイン集団はその差を計算尽くで捉えに行く展開。そんな中、U23日本は山本大喜が他選手のクラッシュに巻き込まれて落車。ハンドルを破損するほどの衝撃で右手首を痛めた。幸い大事には至らなかったが、集団復帰に全精力を使い切った。

 終盤まで逃げを容認したプロトンの計画通りに逃げは吸収され、勝負はスプリントで決することに。集団での位置取りは熾烈を極め、日本チームは後方に追いやられ、スプリントの役目を担った小野寺もパンクに見舞われ脱落。ゴールまで300mの最終コーナーでは先頭の選手が落車し、最後は落車を生き延びた5人程度の上りスプリントとなり、U23オランダチャンピオンのファビオ・ヤコブセン(オランダ)が制した。

 リーダージャージを着るアスグリーンも巻き込まれ、壊れた自転車を引きずりながらゴールまで歩く羽目になった。しかし落車はゴール手前3km以内で発生したことでタイム差は付かず、アスグリーンがマイヨジョーヌをキープ。U23日本も落車した山本以外は全員マイヨジョーヌから4秒差につけた。

ツール・ド・ラヴニール第2ステージのスタートの模様 Photo: CyclismeJapon
終盤の周回でペースを上げるプロトン Photo: Le Tour de l'Avenir

平均時速47.5kmの高速レースに耐えた日本

 第3ステージは、フランスの“自転車首都”ブルターニュ地方を走る最後のステージ。世界最高のU23選手が集まるレースという事もあり、UCIワールドチーム「エフデジ」のマルク・マディオ監督や、UCI公認選手代理人らも会場に訪れ選手を観察。この場で成績を出すことが、そのまま来年のプロへの切符獲得に繋がるチャンスだ。ちょっとやそっとでは勝てないレベルだが、夢の舞台に指先が触れる場所で戦う日本選手の士気は非常に高い。

スタート前に集中するU23日本 Photo: CyclismeJapon
前日の落車で負った傷にサポーターを付ける山本大喜。まるでプロレスラー!? Photo: CyclismeJapon
スタートラインのU23日本 Photo: CyclismeJapon

 レーススタート直後から激しいアタック合戦が続いたため、スタート後1時間の平均時速は49.6kmに上り、アタックが決まったのは50km地点を過ぎてから。2017年欧州選手権王者のカスパー・ペデルセン(デンマーク)や欧州北部の大柄な選手らが中心となる14人が逃げ集団の形成に成功。日本からは山本がそれに加わるべく時速50km超で追いかけたが、逃げ集団の凄まじいスピードに届かず後続集団に戻った。

 逃げ集団は直線になると集団からも目視できる40秒程度のタイム差。メイン集団が時速48km程度の巡航スピードで追いかけたため、誰もがすぐに逃げが捕まると思っていたが、士気の高い逃げ集団は完璧なローテーションを組み、真正面からメイン集団と対決。あまりの高速レースに、第2ステージで落車に見舞われたフランク・ボナムール(フランス、フォルトゥネオ・オスカロ)は集団からちぎれてそのままリタイアすることを余儀なくされた。しかしながらメイン集団のスプリンターチームによる強力な牽引に屈服し始め、逃げ集団は徐々に人数を減らしていった。

高速の集団内を走る岡篤志 Photo: CyclismeJapon

 ゴールの街、シャトーブリアンの周回コース(約9kmx2周)に突入した残り20km地点で、最後の最後まで逃げを主張したU23欧州王者のペデルセンもとうとう力尽き、全ての逃げが吸収。レースは振り出しに戻り、集団スプリントで勝負は決することに。日本U23は小野寺玲のスプリントで勝負する段取りだったが、この日も北欧勢を中心としたフィジカルにものを言わせた激しい位置取り合戦を前に、組織的なスプリントを組むことに苦戦。結果、最終局面で好位置にいた岡が最終スプリントに参加することになった。

U23世界王者のハルフォルセンが集団スプリントを制した Photo: Le Tour de l'Avenir

 ゴールまで300m手前ほどの最終コーナーを曲がると、ノルウェーチームが凄まじいスピードでスプリントを開始。最後は2016年のU23世界チャンピオンであるクリストファー・ハルフォルセン(ノルウェー)が、上り基調のスプリントでライバルをごぼう抜きにする圧倒的なパワーで今大会初のステージ優勝。約1カ月後に迫った自国開催の世界選手権への弾みをつけた。日本U23では岡が16位。第2ステージの落車で遅れた山本以外の選手は全員マイヨジョーヌと4秒のタイム差をキープしている。

■第3ステージ結果
1 クリストファー・ハルフォルセン(ノルウェー)2時間56分5秒
2 アルヴァロ・ホセ・ホデグ・チャグィ(コロンビア) +0秒
3 クリストファー・ロウレス(イギリス)
16 岡篤志(宇都宮ブリッツェン)
41 小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)
81 岡本隼(日本大学/愛三工業レーシング)
99 石上優大(EQADS/Amical Velo Club Aix en Provence)
112 雨澤毅明(宇都宮ブリッツェン)
135 山本大喜(鹿屋体育大学) +6分3秒

■個人総合
1 キャスパー・アスグリーン(デンマーク) 9時間5分27秒
2 クリストファー・ハルフォルセン(ノルウェイ) +4秒
3 アルヴァロ・ホセ・ホデグ・チャグィ(コロンビア) +4秒
15 岡篤志(宇都宮ブリッツェン) +4秒
30 小野寺玲(宇都宮ブリッツェン) +4秒
42 岡本隼(日本大学/愛三工業レーシング) +4秒
99 石上優大(EQADS/Amical Velo Club Aix en Provence) +4秒
108 雨澤毅明(宇都宮ブリッツェン) +4秒
136 山本大喜(鹿屋体育大学) +16分40秒

■レース動画『岡篤志へのレース中補給の様子』
(U23ジャパンナショナルチーム撮影)

U23ジャパンナショナルチーム選手紹介

■小野寺玲(日本U23/宇都宮ブリッツェン)

サングラスへのこだわりを語った小野寺玲 Photo: CyclismeJapon

 選手がかけるサングラスはスポーツタイプが主流の昨今。そんな時代に逆行するような“昭和”なサングラス、夜の新宿で張り込みをする刑事を彷彿とさせるシャキっとした髪型。まるで往年の名作ドラマ「西部警察」の登場人物のような小野寺玲のスタイルには半端ない本人のこだわりが隠れている。

 「トム・クルーズ主演の映画“トップガン”を学生の頃に観て、トムのかっこよさに衝撃を受けてしまったんです。そこでトムが掛けていたのがこのレイバンのティアドロップ。ボクは“トップガン”が好きすぎて、戦闘機パイロットの試験を受けたぐらいなんですよ。海外UCIレースのタイムトライアルでもこのティアドロップで走っています。世界的にも選手間ではスポーツタイプのサングラスが主流なので、このタイプのサングラスでレースに出ると海外選手や観客がざわつきますね(笑)コレをかけると、命をかけて戦う男のメンタリティが宿る気がします。今の若者は“トップガン”の良さがわからないので、少々がっかりしていますね」

 独自のスタイルを貫く強さは、世界で戦う者にとっては重要な要素。この漢(おとこ)が世界自転車界のファッショントレンドを塗り替える日を心待ちにしよう!

■雨澤毅明(日本U23/宇都宮ブリッツェン)

 先のネイションズカップ「クルス・ド・ラペ」では総合18位に入り、U23ナショナルチームの「ツール・ド・ラヴニール」出場権獲得に貢献した雨澤毅明。彼は自分の性格を“半端やモタモタするのが大嫌い”と分析する。「今回全部で9ステージありますが、ボクが得意な山岳は7ステージまでやってこない。もう早く平坦ステージが終わってほしいです!」

チームプレゼン中に観客席のフランス美女をせっかちに物色しているに違いない雨澤 Photo: CyclismeJapon

 国立宇都宮大学農学部の学生だったが、自転車推薦などではなく一般受験での入学。「センター試験を受けたんですが、すでに那須ブラーゼン入団が決まっていたこともあり、早く練習したくて、試験期間が短い“センター推薦”で試験を終わらせたんです」。筋金入りのせっかちである。

 父が自転車好きで、家族みんなで自転車に乗り始めてから競技の才能に気づき、学業と両立する形でプロ選手の道へ。日本のレースではデビューから非常に早く頭角を表したが、海外レースに関しては少々時間がかかり、昨年のUCIネイションズカップU23が初参戦。

 「レースで見る全部が衝撃的、日本のレースとは別物です。単純に選手たちの身体が異様にでかい、よってフィジカルを使った位置取り争いが激しい。ボクはクライマーとはいえ、日本では平坦で苦しんだことはないんですが、欧州で初めて平坦で苦しみました。“やばい”と思いましたね。“このままじゃ世界では何一つ戦えない!”と。ここでせっかち魂に火が付き、今はなるべく早く全力で世界との遅れを取り戻しています」

 ちなみに小野寺が映画「トップガン」の話をものすごい熱量で語って来たときはせっかち癖が出て「早くこの話を終わってくれないかなぁ……」と思っていたそうだ。そんな雨澤が最近凝っているのはレース遠征先のコンビニで読む週刊誌グラビア。「ひとまず大体の週刊誌のグラビアに目を通し、女性のトレンド動向を調査してます(笑)」せっかちな雨澤が袋とじのグラビアをコンビニで開けてしまわないことを祈っている。

レース会場スパイ活動報告

■ブルターニュの“英雄&神”ベルナール・イノー

 ツール・ド・フランス総合優勝5回、世界選手権やパリ~ルーベでも優勝し、フランス自転車界の絶対的ご意見番であるベルナール・イノー。フランス全土でも知らない人はいないほど有名だが、彼の本拠地であるブルターニュ地方では、誇張は一切なしに10秒歩くたびにサインを求められるほどの大スターだ。近年はツール・ド・フランスのアンバサダーとして「さいたまクリテリウム」にも複数回来日しているため、日本自転車界のことも観察している。そんな神様に「なぜ日本は強くなれないのか?」とズバリ聞いてみた。するとイノー氏は目を輝かせながら捲し立てた。

自転車界のレジェンド、ベルナール・イノー氏 Photo: CyclismeJapon

 「日本選手がなかなか強くならないのは選手やチームが欧州に来ないからだよ。順序なんか気にしなくたっていいし、それこそ言葉なんかわからなくたって良いんだ。仮に言葉がわからないなら通訳を連れてくればいいだけだろ?とにかく欧州で特に環境が厳しい場所、例えばブルターニュ地方のレースに出ろ。日本のシルクのようなサラサラ路面なんかこっちにはないぞ。ザラザラのボコボコだ。晴れの日のほうが少ないし、風も強い。脚を一切休ませてくれない細かいアップダウンばかりだよ。環境適応や言葉なんて、こっちに来て走り続ければなんとかなるさ」

 「なぜ欧州以外の海外選手たちが欧州に適応できないか分かるか?苦しくなって途中で自国に帰ってしまうからなんだよ。これは日本選手に限った話じゃない。そして今の日本に必要なのは、欧州で経験を積んだ選手やスタッフが次の世代にそのノウハウを繋いでいくことだよ。アラシロとベップの後にはあまり強い選手がいないんだろう?『さいたまクリテリウム』でも日本選手を見ているけど、選手層に空洞があるのは日本の関係者からも聞いている。日本は自転車ロードレースに関するリソースが少ない国なんだから、しっかりとシステマチック&組織的に次の世代へと経験を繋ぎ次のステージに進む事に集中しろ。早く動いて日本のチームをツール・ド・フランスに連れてこい。お前らがツールで活躍するのを楽しみに待ってるぞ」

■UCIワールドチーム「エフデジ」マルク・マディオ監督

エフデジのマルク・マディオ監督も未来の逸材を探しに、ロックバンドのTシャツ姿で偵察 Photo: CyclismeJapon

 フランスを代表するチームであり、ツール・ド・フランス常連のエフデジ。その名門チームの監督であるマルク・マディオは、過去に選手としてパリ~ルーベ優勝など輝かしい成績を誇るスター選手であった。そんな彼も優秀な選手を探しにツール・ド・ラヴニールの会場を訪問。そんなマディオさんにはこんな質問をしてみた。「いつになったら日本人選手をエフデジで採用してくれるんですか?」と。

 「私は日本人選手のことは全くわからない。悪く思わないでくれ。なぜ知らないかというと、成績を出さない選手に注目する理由はないからだよ。つまり日本人選手は欧州の重要なレースで成績を出していないという事だ。U23選手にとって一番プロに上がる近道はこのツール・ド・ラヴニールで成績を出すこと。あと日本選手に対して一つだけ言えることは、『欧州に来て走れ』ということだね。なぜなら欧州こそが世界の中で最も優秀な選手が、命をかけて戦う場所だからだ」

■ポルトガルU23代表選手 ルイ・オリベイラ

日本チームについて印象を語ったU23ポルトガル代表のルイ・オリベイラ Photo: CyclismeJapon

 欧州においては小国ながら、元世界チャンピオンのルイ・コスタを排出する隠れた強豪国ポルトガル。そんなポルトガルのU23代表選手であり、2016年のヨーロッパ選手権エリミネーション種目王者である20歳のルイ・オリベイラ(Axeon-HagensBerman)に、日本チームに対する率直な感想を聞いてみた。

 「プロトンでは最近日本の存在感が増している気がする。正確に言うと“いる”ということがはっきり認識されてきたと思うよ。決して強いとはいえないけど、軽視はされていないと思うね。以前は正直言って軽視されていたと思う。やはり君たちが遠くから欧州に来てレースに出続け、居場所を獲得しようと努力した結果だと思うよ」

 「世界チャンピオンを輩出したとはいえ、ポルトガルは選手数が他の欧州大国に比べて絶対的に少ない。だから効率の良い強化策を行わなければならないよね。レースも予算がかからない地続きの欧州中心で戦っているし、パワーメーターも積極的に導入している。昨今のレーススピードに付いていくには、もちろん旧来の集団ロードトレーニングも有用だけど、やはりパワーメーターがあるに越したことはない。何はともあれ、最高のトレーニングは“実戦レース”だね。昨日今日(第1、第2ステージ)の高速ステージを見てみなよ。パワーメーターを使った練習だって、絶対にあそこまでは追い込めない。だから仮に日本チームがさらに強くなりたいなら、欧州に来てガンガンレースに出ることが重要だと思う」

関連記事

この記事のタグ

ツール・ド・ラヴニール2017 ロードレース

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

スペシャル

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載