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ブエルタ・ア・エスパーニャ直前講座③「前待ち」って何?グランツールで頻出する作戦を6つ紹介!

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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 近年のサイクルロードレースでは、エースの実力だけでなく、アシストの力が重要視されている。年々、作戦・戦術が高度化されており、エースの力だけでなくチーム力の差が勝敗に直結することも多くなっている。8月19日に開幕するブエルタ・ア・エスパーニャなど、グランツールでよく見られる様々な作戦・戦術を6つ紹介しようと思う。

1,山岳トレイン

 近年、大流行している作戦だ。方法は上り坂で上りに強いアシストが先頭でペースアップするだけだ。すると上りでのハイペースに耐えられなくなった選手たちが、千切れて集団の人数が絞り込まれる。ライバルチームのアシストを減らすことが、「山岳トレイン」の目的だ。
 
 強いアシストがいるチームにとっては、ほぼ確実にライバルチームのアシストを削り落とすことができる非常に優秀な作戦となる。選手層の厚いチーム向きの作戦であり、チームスカイは多用している。裏を返せば、選手層の薄いチームにとっては、対策のしようがない理不尽な攻撃となる。

ニエベ、ランダ、フルームの順に隊列を組むチーム スカイの山岳トレイン。他のチームの選手はみなエース1人だ Photo : Yuzuru SUNADA

 また山岳トレインと同じ要領で、下り坂でペースアップを図る「ダウンヒルトレイン」も見られるようになった。今年のツールではアージェードゥゼールが多用して、作戦の有用性を示した。リスクの高いダウンヒルで攻撃を仕掛けること自体に賛否もあるようだが、新たなトレンドになり得るだろう。

山岳トレインに向いてる脚質

クライマー
オールラウンダー
クライマー型パンチャー
上りに強いTTスペシャリスト

2,セカンドエースの先行

 まず、具体例をあげたいと思う。

 今年のジロ第11ステージは、中級山岳ステージだった。総合首位のトム・デュムラン(オランダ、チーム・サンウェブ)からリーダージャージを奪還するために、総合2位のナイロ・キンタナ(コロンビア)擁するモビスターチームが仕掛ける。4分39秒遅れの総合9位につけていたアンドレイ・アマドール(コスタリカ)を逃げに送り込んだのだ。

 チーム・サンウェブは山岳アシストの戦力不足が否めないため、中級山岳とはいえ集団コントロールにやや難があったのだ。逃げ集団に4分39秒以上の差をつけられてフィニッシュされると、リーダージャージはデュムランからアマドールへと移る。したがって、サンウェブはアシストを総動員して、逃げ集団とのタイム差を縮める必要に迫られた。

 結果的に、アマドールは総合6位に浮上し、以降のステージでもアマドールを積極的に動かして、サンウェブのアシスト陣に揺さぶりをかけたのだ。

逃げるし、アタック仕掛けるし、山岳トレインとしての役割もこなしていたアンドレイ・アマドール Photo : Yuzuru SUNADA
ミケル・ランダもチームスカイのセカンドエースとして、揺さぶりをかける動きが目立った Photo : Yuzuru SUNADA

 というように、セカンドエースがメイン集団から先行する展開を作り出し、ライバルチームを揺さぶる作戦も度々用いられる。セカンドエースの存在により作戦の幅が大きく広がる。

セカンドエースに向いてる脚質

クライマー
オールラウンダー
(※総合成績が良いことが重要)

3,前待ち作戦

 戦術の花形ともいえる芸術的な作戦が前待ちだ。

 まずアシストを逃げに送りこんでおき、エースのいるメイン集団が近づいてきたら、前を走るアシストのところまでエースがアタックする(ブリッジをかけるともいう)。アシストと合流して、サポートを受けながら後続集団を引き離す作戦だ。

 2016年ブエルタ第20ステージでは、総合4位につけていたオリカ・バイクエクスチェンジ(現オリカ・スコット)のエステバン・チャベス(コロンビア)が、総合3位のアルベルト・コンタドール(スペイン)に対して、前待ち作戦を仕掛けた。フィニッシュまで40km以上残した2級山岳の中腹で、単独アタックを仕掛けた。無謀に思われたアタックだったが、2級山岳を越えたダウンヒルで逃げていたダミアン・ハウスン(オーストラリア)と合流。下り・平坦路が苦手なチャベスのために、牽引役を務めた。コンタドールも、同じく逃げていたユーリ・トロフィモフ(ロシア)を呼び戻して、前を牽かせた。

 最後の超級山岳に入り、力尽きるまでハウスンは献身的にチャベスをアシストした。コンタドールをアシストするトロフィモフに対しては、チャベスのチームメイトであるサイモン・イェーツ(イギリス)が「セカンドエースの先行」作戦を実行し、トロフィモフに対応を迫らせる。無駄足を使わされたトロフィモフはチャベスに追いつく前に脱落してしまう。チャベスはコンタドールを逆転して総合3位表彰台を獲得したのだった。

見事な前待ち作戦を成功させ、独走するエステバン・チャベス Photo : Yuzuru SUNADA
2015年ブエルタのトム・デュムランは、アスタナの前待ち作戦をくらってしまい、総合首位から6位まで転落してしまった Photo : Yuzuru SUNADA

 前待ちは決まると、総合成績を一変しかねない派手な作戦ではあるが、前待ちが有効なタイミングで、アシストと合流できるとは限らないため、成功はなかなか難しい。

前待ちに向いてる脚質

クライマー
オールラウンダー
パンチャー
ルーラー
TTスペシャリスト

4,横風分断

 気象条件に左右される作戦ではあるが、横風が強く吹く区間では破壊力のある作戦になる。

 横から風が吹くと、空気抵抗が少ないゾーンが前を走る選手の斜め後ろになる。そのため、通常はまっすぐに伸びる隊列が斜めの隊列になる。これを「エシュロン」と呼ぶ。道幅に収まる程度の人数しか、一つのエシュロンには収まりきらないため、あふれた選手は横風の影響をもろに受けて遅れやすくなる。

エシュロンからはみ出ている選手(写真右の後方)は横風が直撃している Photo : Yuzuru SUNADA
今年のジロ第3ステージでは、クイックステップが横風分断作戦を成功させ、ボブ・ユンゲルスが総合首位に浮上した Photo : Yuzuru SUNADA

 そこで、横風を物ともしない強力なルーラーやTTスペシャリストが一気に集団のスピードを上げると、次々と千切れる選手が現れ、集団が分断される。特に総合上位を狙う軽量な選手は横風の影響を受けやすく、致命的な遅れを喫してしまうこともある。対策としては、横風に強いルーラーを起用して、横風の恐れがある区間ではできるだけ集団前方を走ることだ。

横風分断に向いてる脚質

ルーラー
TTスペシャリスト

5,スプリントトレイン

 集団スプリントに向けて、一列棒状に隊列を組んで位置取り争いをすることをトレインを組むという。スプリントトレインは山岳トレインと区別するためにつけた名前で、通常「トレイン」という言葉は、平坦ステージでの隊列のことを表している。位置取り争いは、早い時はフィニッシュまで残り50kmほど残した地点からでも始まることもあるが、概ね残り残り10kmくらいから激しくなる。

一列に連なる姿が列車に似ているため、「トレイン」と呼ぶ Photo : Yuzuru SUNADA
平坦ステージの終盤は、激しい位置取り争いが繰り広げられる Photo : Yuzuru SUNADA

 まずは、ルーラーやTTスペシャリストが先頭で速度をキープしながら、できるだけ前のポジションを守る。スピードは時速50kmを越えているだろう。もちろん、様々なチームが好位置を確保しようと、ペースアップを図ったり、先頭の選手の前に覆いかぶさるような動きを見せたりする。エーススプリンターは、前を走るアシストとはぐれないよう、背後にピタリとついていくことが重要だ。

 スプリンターチームだけでなく集団落車の危険を回避するため、総合系チームもエースを守るためにトレインを組む。そのため、かなり多くのチームが集団前方にひしめき合う結果となり、特に道幅が狭いコーナーで行き場を失った選手同士が衝突して落車を引き起こすこともよくある。

スプリントトレインに向いてる脚質

クライマー
オールラウンダー
パンチャー
ルーラー
TTスペシャリスト

6,リードアウト

 残り1kmを切る頃には、エーススプリンターのアシストも2〜3人まで減っていることだろう。この時点で集団先頭を確保できていれば、スプリントトレインはしっかり機能したといえよう。あとは、リードアウトと呼ばれるエーススプリンターの発射台となる選手たちの見せ場である。

 時速50kmから60kmに達しようかという速度域で、エースのポジションを必死に守る。1人仕事を終え、また1人仕事を終え、最終発射台となるリードアウトがここぞというタイミングでエースを発射する。残り200m付近で発射できれば理想的だ。

リードアウトから発射されたエースたちによる集団スプリントは迫力満点だ Photo : Yuzuru SUNADA

 リードアウトの最高スピードが上がりきらない場合、ライバルチームのリードアウトに前を塞がれて、ポジションを落としてしまうこともある。したがって、エース自身もどこまでリードアウトしてもらうのか見極める判断力も重要となってくる。

 また、リードアウトがいないスプリンターが、他のチームのリードアウトの後ろにつくことを、列車になぞられて「タダ乗り」や「無賃乗車」という。リードアウトがいないと不利と思いきや、むしろ「タダ乗り」を駆使した方が強い選手も存在する。

リードアウトに向いてる脚質

スプリンター
スプリンター型パンチャー

作戦の仕掛けあいも見どころの一つ

 波乱が起きやすいブエルタでは、何かしら派手な作戦が決まることが多い。昨年は第15ステージでのキンタナとコンタドールによる奇襲攻撃や第20ステージのオリカの前待ち作戦が強烈な印象を残した。

 作戦の仕掛けあいや、攻撃をくらってしまった時の対応などに魅力を感じるようになれば、サイクルロードレースの持つ芸術性にどんどん引き込まれていくことだろう。アシストの動き、チームの狙いを予想しながら観戦するのも一興だ。

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ブエルタ・ア・エスパーニャ2017 ブエルタ2017・コラム

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