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つれづれイタリア~ノ<97>ポリャンスキーの脚は「真似すべきではない」!? 自転車の乗りすぎによる健康被害

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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 7月19日、ツール・ド・フランスの最中に公開されたとある写真が話題となりました。第16ステージを終えたパウェル・ポリャンスキー(ポーランド、ボーラ・ハンスグローエ)が、レース直後の脚の写真をインスタグラム上で公開したところ、多くのフォロワーから驚きの声があがりました。やせていて、血管が浮かびすぎていたので「ありえない」、「きもい」、「ドーピングの影響だろう」、「自転車は体に悪い」などと否定的なコメントも寄せられました。

パウェル・ポリャンスキーが第16ステージ後に公開した写真 (インスタグラムより)
2011年に左脚の静脈瘤が話題になったジョージ・ヒンカピー Photo: Yuzuru SUNADA

 確かに私も驚きました。2011年に話題になったジョージ・ヒンカピー(アメリカ)の脚の写真も衝撃的なものでした。彼はドーピングをしていたことを2012年に認めたので、前述のような反応も理解できます。しかし私は自転車に乗っている者として内心「すごいなぁ」と思いました。真剣に練習に取り組んでいる人なら「この脚は頑張っている証だ」、「私もこうなりたい」、「この脚になればツールを走れます」と感心する人も少なくないです。

 一方、警告を鳴らす人もいます。「この脚はプロなら普通ですが、あまり真似すべきでない」と、トレック・セガフレードのスポーツドクター、ガエタノ・ダニエレ氏はイタリア紙コッリエレ・デッラ・セーラ(電子版)に対し語っています。彼の発言が気になったので、ツール・ド・フランス終了後にその真意を確かめました。とても面白い返事が返ってきたので、紹介します。

◇         ◇

■ガエタノ・ダニエレ

1955年、イタリア・テラモ生まれ。ローマ・サピエンツァ大学で医学を専攻し、スポーツドクターに専念。イタリアロードレースナショナルチーム、オリンピックナショナルチームの公式ドクターを経て、ディスカバリーチャンネル、レディオシャック、2011年からはトレックチームのドクターを務める。ファビアン・カンチェッラーラも担当した。現在、ローマで「Bikedoc 2014」というクリニックを経営している。

――なぜポリャンスキー選手の脚は真似すべきでないのでしょうか

 ポリャンスキーは体質的にとてもやせていて、レース直後だっただけに、かなり強調されていました。どの選手も普通のことです。ヒンカピーのような静脈瘤ではありません。もう少し後で撮っていたのなら、きっと脚は元の形に戻っていたのでしょう。写真を載せた本人も自分の脚を見て、驚いていたかもしれません。

 病気でも特別な現象でもありませんが、これは目指すべき脚の姿ではありません。一般のレーサーは誤解してしまう危険性がありますが、意識してほしいのは、この脚は極限の状態にあるということです。この脚を目指した人が、過剰な練習のしすぎで、健康被害が出ることを懸念しています。

ツール・ド・フランス第9ステージのパウェル・ポリャンスキー。まだ脚はお疲れではない? =2017年7月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

――健康被害ですか。具体的に?

 自転車はほかのスポーツと比べて体への負担が少ないし、心肺機能も高めるだけでなく、リハビリ中の人にもお勧めできます。一方、ツール・ド・フランスやジロ・ディタリアに出場する選手たちは、毎日極限の状態にいるので、体に大きな負担をかけます。特に筋肉の収縮制御をコントロールするタンパク質、トロポニンの分泌が多く、心臓への負担も大きくなります。そのため、レース後の安静は重要な課題です。

 プロ選手の場合、ドクターや監督による指導がありますので、負荷をコントロールできますが、多くのアマチュアレーサーはそれができず、練習のやりすぎが原因で、慢性的な疲労感に襲われる可能性があります。近年、グランフォンドのブームで市民レーサーの間で急増している病状の一つです。

――慢性的な疲労感とは具体的にどんな症状ですか?

管理されたプロのトレーニングメニュー =2017年7月17日 Photo: Yuzuru SUNADA

 練習が終わってから2~3時間が続く疲れは普通です。それ以上続けば、体が練習量に追い付いていない重要な信号です。人によって、不眠になる場合もありますので、日常生活にも悪影響が出かねません。自転車の場合、耐久系スポーツ特有の問題があります。結果がすぐに出ないのです。とにかくトレーニングの成果が出るには時間がかかります。強くなりたい人がいるなら、専門知識のある人と、トレーニングメニューを組むべきです。プロは誰でもやります。

――誰もがプロになりたいわけではないと思いますが、自転車は誰に勧めたいスポーツですか。

 そうですね。まずは、やせたい方にお勧めできます。真面目に取り組むとやせられます。ただし、ゆっくりしたやせ方です。ランニングと比べて、消費するエネルギーが低いからです。わかりやすく言えば、負荷をかけない1時間のサイクリングは、同じ時間の散歩に匹敵します。一方、負荷をかけると早く痩せられますし、ランニングと比べて膝や関節への負担が少ないので、長く続けられます。成果が出るために理想的な運動量は週4~5回です。時間的には最低でも1時間から2時間。

――先ほど、やせたい人は自転車に乗ったほういいと言いましたが、ほかに乗るべき人はいますか。

 糖尿病や高血圧、高コレステロール血症の方にお勧めできます。適度の運動は血の値を平常に保つことを助ける働きがあります。場合によって薬の数を減らす効果もあります。まずは行きつけの医師に相談してみたほうがいいと思います。

――持病を持っている方は、何を避けるべきですか。

 健康な人も同じことですが、いきなり負荷の高い練習は避けるべきです。腰痛の方にも薦めます。体重が3つの部分に分散されますのでスポーツとして優しい。そして自転車はメンタルにもいい影響を与えます。

――メンタル的に?

 はい。自転車に乗ると、日常生活や仕事のストレスが軽減されます。変わってゆく景色と運動の働きで、脳内にエンドルフィンというホルモンが分泌されます。興奮や幸福感を感じさせる物質です。これが実は体全体にもいい影響を与えます。これは自転車に限ったことではなく、エンデュランス系のスポーツに共通することです。もちろん、練習をやりすぎると疲労感が抜けず、ストレスが増す可能性がありますのでご注意ください。

◇         ◇

 私も気になっていたことについて、ダニエレ医師は見事に応えてくれました。一人でできることも多いですが、やはりプロの医師やトレーナーの下で練習メニューを組んだほうがいいですね。自分では気づかないことがきっと出てくるはずです。それではよい夏を!

ゲストで走ります「伊豆大島御神火ライド」

 トレーニングではなく楽しく走りたい人、9月10日(日)に伊豆大島で「伊豆大島御神火ライド2017」が行われます。東京から一番近い南の島でサイクリストの間で人気のある伊豆大島を一周するサイクリングイベントです。ゲストがたくさん来ます。栗村修さんやモデルの福田萌子さんとRENさん、スポーツMCアリーさんとそして私です。みんなと一緒に走りますので、身近にたくさんの面白い話が聞けるイベントです。ぜひお越しください。受付締め切りは8月13日です。ぜひ一緒に走りましょう。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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