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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<217>ツール3連覇へ終盤に集中力を発揮したフルーム 王者の牙城を崩すのは誰か?

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 世界最大のサイクルロードレース、ツール・ド・フランス2017が大きな盛り上がりの中、閉幕した。日本を含む世界の多くの国でレースが放映され、たくさんの注目のもと繰り広げられた戦いは、クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)が3年連続4回目の個人総合優勝に輝いた。今回はツール総括として、フルームが見せた強さや勝因、そしてこの先ライバルとなる選手たちの条件などに迫り、未来のサイクルロードレース界への思いを馳せてみたいと思う。

ツール・ド・フランス2017総合上位3選手。(左から)3位ロマン・バルデ、優勝クリストファー・フルーム、2位リゴベルト・ウラン Photo: Yuzuru SUNADA

シーズンのピークをツール第3週に集約

 今シーズンのフルームは、1月下旬にオーストラリアでシーズンインを果たしたが、ツール開幕までシーズンハイのリザルトは3月のボルタ・ア・カタルーニャでの2度のステージ2位。ステージレースでの総合成績では、ツール前哨戦として注目される6月のクリテリウム・デュ・ドーフィネの4位が最高だった。

 かつてのフルームであれば、シーズンインから全開で走り、出場するレースで次々と勝利を収めてた末に、その集大成としてツールで強さを発揮していたが、今シーズンはまったく違った趣きだった。果たして、意識的に力をセーブして走っているのか、本当に調子が上がっていないのか、それが明らかとなるのがツールだった。

第15ステージのフィニッシュでのひとこま。クリストファー・フルームはライバルとの差をチェックする Photo: Yuzuru SUNADA

 ふたを開けてみると、「さすがフルーム」と唸る結果だった。3週間を通してステージ優勝はゼロ。しかし、ライバルたちが個人タイムトライアル(TT)で遅れ、マスド・スタートのラインステージ(通常ステージ)で何らかの理由でタイムを取りこぼしていた一方で、フルームは要所ではしっかりとプロトン前方でフィニッシュを繰り返した。

 今大会1度目のマイヨジョーヌ獲得となった第5ステージは、山頂フィニッシュこそライバルから多少遅れたものの、個人TTで競った第1ステージで得ていた貯金を生かしてトップに立った。また、一度手放したマイヨジョーヌは、第14ステージでライバルから数秒先着したことで取り返す格好となったが、仮にあの日にジャージ奪還ができていなくとも、その後のステージで取り戻すことができていただろう。山岳を上手くまとめ、確実にリードが得られる個人TTを重視できるスタイルは、やはり大きな強みとなった。

個人タイムトライアルでの走りでライバルに差をつけるクリストファー・フルーム。盤石の戦いぶりだった Photo: Yuzuru SUNADA

 実際、大会を終えたフルームは「第3週に主眼を置いた」ことを明らかにしている。山岳ステージにあっては、山頂フィニッシュが3つと少なく、ダウンヒルを経てフィニッシュを迎えるレイアウトが多かった今大会。個人TTの総距離も37kmと、例年に比べると短かったが、僅差の勝負となることを念頭に置いたうえで、得意とするライバルがそう多くはない個人TTでの勝負をフルームは選択したのだ。

 その見立ては間違っていなかった。第19ステージを終えた時点で、フルームを含む総合上位3選手が1分以内にひしめいていたが、今大会の最終決戦となった第20ステージの22.5km個人TTでライバルとの差を広げ、マイヨジョーヌを確定。ステージを追うごとにライバルが遅れていき、大会終盤で逆転の可能性があると見られたのはロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)とリゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール・ドラパック)に絞られたが、もっと混戦になっているケースもフルームは想定していたかもしれない。

 今シーズン、ツール以外のレースでは本来の力から程遠い走りに終始していたが、ツールを最大のターゲットとする過程での結果とみれば、なんら不思議ではない。過去のフルームのスタンスとは異なるとの見方もあるが、32歳とベテランの域に入っていることなどを考えれば、さまざまな変化もあるだろう。何より、本人が明確にしているのは、「今後もトップとして走り続けられるであろう」ということだ。

 毎年変わるコース設定にどう対応していくのか。われわれが目にしたことのない、幅を持ったフルームの戦い方にまだまだ期待をしてもよさそうだ。

フルームへと迫る次世代の選手たち

 連覇継続に意欲を燃やすフルームだが、一方では「来年は今年以上に難しくなるだろう」と分析。マイヨジョーヌを守ることは決して簡単でないことは、本人も理解している。

マイヨジョーヌを守り続けるクリストファー・フルーム(右から2人目)だが、ライバルは増え、確実にその差は縮まっている Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年個人総合2位、今年も3位と2年連続で総合表彰台を確保したバルデ、ここ数年の不振を脱却する躍進で個人総合2位となったウランは、これまで以上にフルームに迫った選手となった。フルームとウランの最終的な総合タイム差は54秒。これは、ここ10年の個人総合優勝者と同2位のタイム差では最少だった。

 これは数字上での見方であり、もちろんコース設定やレース展開に大きく左右される部分であることは確かだ。とはいえ、フルームが制した2013年が4分20秒、2015年が1分15秒、2016年が4分5秒だったことを考えると、着実にフルームと他の選手たちとの力の差は縮まってきていると見てよいのではないだろうか。

 フルームの年齢からして、徐々に衰えが見えてきていることは否定できなくもないが、それ以上に他の選手たちの実力が上がってきていると見るべきだろう。特に、バルデら“ゴールデンエイジ”と呼ばれる1990年生まれの選手たちは、早くからトップシーンに台頭し、着実にその力を伸ばしている。この年代では、ステージ1勝のほかマイヨジョーヌを2日間着用したファビオ・アル(イタリア、アスタナ プロチーム)、今大会は不発に終わったナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)なども含まれる。

 さらには、山岳賞を獲得しスーパー敢闘賞にも選ばれたワレン・バルギル(フランス、チーム サンウェブ)は1991年生まれ、新人賞のマイヨブランを争ったサイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)とルイス・マインティーズ(南アフリカ、UAE・チームエミレーツ)に至っては1992年生まれ。これから、もっと若い選手たちの押し上げもあるだろう。

 こうした、「打倒フルーム」に燃える選手たちの層が厚くなっていることは、来年以降のツールに限らず、レースシーンを盛り上げる大きな要素となる。ただ、勝つとなると話は別。グランツールの頂点に立つには、山岳に強いだけではその条件を満たすことはできないのである。

2年連続で総合表彰台を確保したロマン・バルデだが、個人TTでは大苦戦を強いられた Photo: Yuzuru SUNADA

 今大会でフルームが改めて証明したように、ある程度ステージ上位を押さえられるだけの個人TTの能力を持っていないと、3週間を総合して戦うことは難しい。いまをときめく若手の多くが、お世辞にも個人TTに強いとはいえず、そこでロスをしている事実は本人たちも目を背けるわけにはいかなくなってきている。ジロでTTスペシャリストのトム・デュムラン(オランダ、チーム サンウェブ)が頂点に立ったように、山岳を上手くまとめ、個人TTでライバルに差をつける、またはライバルに迫るくらいの走力を有することは大きな強みになる。

 その年によって山岳・個人TTとコースや距離の設定は変わるし、チームTTが組み込まれる場合も多分にあるだけに、3週間の構成は統一されていない。だが、“総合力”が試されるのがグランツールの優勝争い。どれか1つでも欠けていると、それだけ勝負を難しくすることは間違いない。

 今回のフルーム優勝を支えたミケル・ランダ(スペイン、チーム スカイ)はすでに移籍を示唆している。また、第9ステージでの落車でリタイアとなったリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシングチーム)は、山岳・TTともに強い選手。若い選手に限らず、経験と実績の豊富な選手たちも控えている。百戦錬磨のフルームとて、次のツールに向けて視界良好とは言い切れないくらいに、猛者がそろっている。これからのプロトンは、群雄割拠の時代になっていくことは必至だ。

総合表彰台で握手するクリストファー・フルーム(右)とロマン・バルデ。これからは群雄割拠の時代へと進んでゆく Photo: Yuzuru SUNADA

3つのタイトルを獲得したチーム サンウェブ

 このツールで成功を収めたチームの1つに、チーム サンウェブが挙げられる。マイケル・マシューズ(オーストラリア)が初のポイント賞を獲得し、クライマーのバルギルは、こちらも初の山岳賞とスーパー敢闘賞を獲得。それぞれ、マイヨヴェールとマイヨアポワに袖を通した。

総合表彰台に上がり喜ぶマイケル・マシューズ Photo: Yuzuru SUNADA

 マシューズは「上れるスプリンター」を代表する1人。登坂力があり、3級や4級の山岳であれば難なくクリアできる走力を持つ。ピュアスプリンターが上りで遅れるなかマシューズは最後まで生き残り、フィニッシュでのスプリントで勝利をものにするスタイルを得意とする。また、今大会の山岳ステージでは逃げに入り、中間スプリントをしっかり収集するスタイルも目立った。

 こうしたスタイルは、昨年までマイヨヴェール5連覇していたペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)と同様。サガンは大会序盤に失格となり6連覇の夢は潰えたが、来年は必ずツールに戻ってくるだろう。現行のポイント賞レギュレーションが変わらなければ、新旧マイヨヴェールの激突が見られるはず。これまではサガンの圧倒的な力に多くの選手が早々に諦めてしまったが、来年こそはスプリントに逃げに自在な2人を中心としたポイント賞争いに期待が膨らむ。

第18ステージで今大会2勝目を挙げたワレン・バルギル。マイヨアポワ獲得を決定づけた瞬間だった Photo: Yuzuru SUNADA

 バルギルは5月にけがで戦線を離脱していた経緯があり、ツールは当初から総合を狙わない意向を示していた。それでも、持ち前の上りの強さをたびたび発揮。山岳ステージでの2勝に加えて、結果的に個人総合でも10位と健闘。来年以降は再び総合争いへと戻る心積もりでいる。チームには絶対エースのデュムランが控えている関係から、自身が移籍をしてリスタートする可能性もあるとしているが、どのような形であれマイヨアポワ連覇への色気は今のところないようだ。

今週の爆走ライダー−トマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 今年のツールでは、合計1000km以上にわたって「逃げ」として走った。今大会の総距離が3540kmだから、おおよそ3分の1はレースを先行したのである。ステージを追うごとに増す存在感。第14ステージでは敢闘賞を獲得し、その成果が現れつつあった。

ツール第14ステージで敢闘賞を獲得したトマス・デヘント。3週間で1000km以上の距離を逃げた Photo: Yuzuru SUNADA

 だからこそ、自らも期待していた。パリ・シャンゼリゼ通りのポディウムに立つのは自分だと。しかし、その願いはかなわず。多くの関係者も、「今年のスーパー敢闘賞はデヘント」とまで言わしめた果敢な走りだったが、その座はバルギルに譲ることとなった。

 「バルギルには不満はないんだけど…」と前置きしたうえで、「もし敢闘賞を審査する人たちがベルギー人だったら、結果は違っていただろう。でもそれは不公平だ。実際、その逆のことが起こってしまっているし、さまざまな国の人たちで審査員は構成されないといけないと思う」と恨み節。いや、その意見は多くの人が正しいと思ったはずだ。

 かねてから“逃げ屋”としてレースをにぎわせてきた。2011年のパリ~ニースのステージで逃げ勝った時には、トマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー)が「なんであの有名な逃げ屋を誰も知らないの?」と報道陣に問いかけたという逸話もあるほど。2012年のジロでは総合3位に入ったこともあるが、決してブレることなく、そのスタイルを崩さずにここまでやってきた。

 そんな彼だからこそ、スーパー敢闘賞は最大級の栄誉だったに違いない。せめてもの救いは、レースを知る人々なら誰もがデヘントの健闘を理解していること。たびたび逃げながらも、独りよがりになることはなくチームの仕事もこなしてきたのだから、これほど器用に走ることができる選手も数少ない。

 これからも自分に合った形でレースを続けるに違いない。逃げて、逃げて、逃げて。ツールのスーパー敢闘賞は分からないけれど、続けていればきっと何かきっとよいことがあるはずだ。

トマス・デヘントのチャンスがあれば逃げるスタンスは今後も変わらないだろう。またきっと大きなチャンスがめぐってくるはずだ Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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