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山口和幸の「ツールに乾杯! 2017」<6>ツール5勝・アンクティルの最大のライバル 今でも人気者の“万年2位”プリドール

by 山口和幸 / Kazuyuki YAMAGUCHI
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 エルサレム、バチカンとともにキリスト教の三大巡礼地として知られるスペインのサンチャゴデコンポステーラ。フランスからそこにいたる巡礼路は4つあって、そのうちの1つが第15ステージのゴール地点、ル・ピュイアンブレを出発点とするものだ。

フランス中南部はアルプスや地中海と劣らないほど気持ちいいリゾートエリアだ Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

“伝説の地”ピュイドドーム

巡礼地の路面にはときおりホタテのオブジェが埋め込まれていたりする Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 中央山塊の火山活動によって針のように隆起した岩山が2つあって、それぞれにノートルダム聖堂と聖母マリア像がそびえ立つ。敬虔なキリスト教徒はまずこの町で聖母マリアに祈りを捧げ、はるか西方のサンチャゴデコンポステーラを目指して果てしない旅を始める。サンチャゴデコンポステーラは「ホタテ」が象徴で、巡礼途中の町の路面に埋め込まれていることがあって、かつての巡礼者はこれをたどって歩き続けたのかも知れない。

 ツール・ド・フランスとしてはこのあたりは中央山塊の山岳ステージだ。赤く焼けた岩石地帯で、高い木が少ないので日陰がほとんどない。冬場は凍てつくようだが、夏ともなれば灼熱地獄だ。1996年に日本人プロとして初出場を果たした今中大介もこの中央山塊でたまらずリタイアしている。

中央山塊の戦いは気温も上昇しツール・ド・フランスらしさが戻ってきた ©A.S.O
2015年には巡礼宿にお世話になった。夕食前にミサがあり、修道女の作った晩餐をみんなで食べた Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI
フランス中部の産業は青かビチーズのロックフォールなど第一次産業が主流 Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 中央山塊の一部にピュイドドーム県という自治体がある。ドーム型火山があることからその名がついたという。ツール・ド・フランスで初めて5回の総合優勝を達成したジャック・アンクティルが、その最大のライバルであるレイモン・プリドールとヒジをぶつけ合うようにして戦った伝説の地でもある。

ヒジをぶつけ合うような決戦

 プリドールほどマイヨジョーヌに縁遠かった選手はいない。ツール・ド・フランスには14回出場して12回完走。しかし1日たりともマイヨジョーヌにそでを通すことなく、引退してしまった。それでも屈託ない笑顔で、ファンからは絶大な支持を得た。現在もLCL銀行の客員としてツール・ド・フランスに帯同し、往年のファンからサイン攻めである。

近年もツールの会場では往年のファンから人気のレイモン・プリドール(右) =2013年7月7日 Photo: Yuzuru SUNADA

 自転車競技に限っていえば、エターナルセカンド(万年2位)は別にさげすんだ言葉ではない。こう呼ばれる選手ほど人気が高いからだ。頑張ったけれど優勝できなかった。その時代に怪物みたいな王者が君臨し、「もし時代が違えば何回も勝っていただろう」と、ファンは空想を広げる。「ププ」という愛称のプリドールこそファンに愛され続ける、そんな男だった。

 ピンク色のメルシェが愛車だったプリドールは、ジタンに乗っていたアンクティルの全盛時代に名乗りをあげた。恵まれた身体能力、奔放な天才レーサーの前にプリドールは敗北を続ける。1964年にアンクティルは5勝目に挑むのだが、ここで立ちはだかったのがプリドールだ。アンクティルはジロ・デ・イタリアを、プリドールはその当時は春に開催されていたブエルタ・ア・エスパーニャを制して7月のツール・ド・フランスに乗り込んできた。

中央山塊は標高1000mほどの丘陵地が波状的に出現する Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 戦いの舞台は中央山塊。溶岩で隆起したピュイドドームが雌雄を決するゴールだった。そこで50万人の大観衆は2人がヒジをぶつけ合うように上ってくるのを目撃した。デッドヒートはまったくどちらが勝つとも分からない壮絶なもので、プリドールが残り2kmからアタックしてアンクティルに42秒差をつけた。

 しかしマイヨジョーヌには14秒届かなかった。アンクティルは最終的に総合成績でプリドールに55秒差をつけて大会史上初の5勝目を挙げることになる。

「王者を相手に何回も2位になった」

 アンクティルが欠場した1965年は、優勝の最有力と言われながら、イタリアの新人フェリーチェ・ジモンディに敗北。ようやくアンクティル時代が終わると、間髪を入れずにエディ・メルクス時代が到来した。

7月14日のフランス革命記念日とともにフランスでは本格的なバカンスシーズンに突入 ©A.S.O

 それをマスコミが興味本位で報道し、現在残る文献では彼はどう見ても「負け犬」だった。ところがフランスに行ってみると、プリドールを取り囲むファンの雰囲気が違う。「ププ! ププ!」と呼ばれ、どこに行ってもサイン攻め。ここには日本的な「メダル取れなきゃダメ」とか、「積極的に出たけど負けちゃおしまい」みたいな論理はない。「王者を相手に果敢に攻めて、何回も2位になった」という評価なのである。

 これは自転車ロードレースそのものの見方と同じだ。目の肥えた現地ファンは「最後に捕まったけど、勇敢にアタックした。だからお前はエライ」みたいな評価をする。「オレはプリドールのマイヨジョーヌを見たかったんじゃない。ピンク色の自転車の上で戦いを挑むアイツのファイトが見たいのさ」

山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

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