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つれづれイタリア~ノ<96>イタリア人スプリンターが磨き上げたトレイン ツール2017では崩壊ぎみ?

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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 今年のツール・ド・フランスは例年にないほど、アクシデントが頻発しています。第1ステージでは、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)がいきなり単独落車でリタイヤ。第4ステージでは、ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)がマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)に対し妨害行為を行った疑いでレースから追放。第9ステージでは、ポイントジャージを獲得していたアルノー・デマール(フランス、エフデジ)とチームメイト3人がタイムアウトでリタイアとなりました。でも一番気になったのは、美しいスプリントトレインがすっかり減ってしまったことです。

スプリンターチームが先頭にアシストを送り込み、その後ろで総合系のチームがトレインを組むメイン集団 =ツール・ド・フランス第2ステージ、2017年7月2日 Photo: Yuzuru SUNADA

一列に並んでエースを運ぶ

 トレインとは、ステージレースの花形の一つです。平坦ステージで、スプリンターのいるチームが一列になってゴール前までエースを運び、最後の150~200mだけ仕事をさせるということです。時速60kmを超えるスピードで、マッチョな選手たちが最後に残ったエネルギーを爆発させるのです。一列に並んでいるチームの姿が列車の形に見えるので、treno(トレーノ、列車)という名前が付けられました。

 近年はゴールの20km~10kmくらい手前から、スプリンターチームと総合系のチームがトレインを組んでいる光景が見られます。総合系のチームはエースを終盤まで安全に運ぶのが目的で、スプリンターチームはゴール直前まで仕事が残されています。

トレインのなかでも、エースの前にはスプリンター級のスピードマンが並ぶ =ツール・ド・フランス第2ステージ、2016年7月3日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ゴール前のスプリントトレインは、だいたい4人ほどで構成されています。アシスト3人、エース1人。先頭の選手はたいてい牽引力のある選手で、疾走する集団の前にチームを運ぶ役割を担っています。距離はだいたいの目安ですが、ゴール900m手前くらいにその役割を終えます。次の選手は、じわじわ加速できる高速域が得意な選手で、ゴール500m手前で離脱します。

 最後のアシスト選手が、スプリンターと同等の力を持つ選手で、ゴールに向かって一気に加速する役割です。ゴール200m手前でスプリンターに道を渡します。

 スプリンターは最高のスピードまで加速し、ゴールに突入するのが役目です。ここで守らなくてはいけないルールが2つあります。一つ、ハンドルから手を離さないこと。一つ、急なコースの変更をしながらほかのスプリンターのコースを妨害しないこと。

 強いトレインを持たないチームのスプリンターたちは、イタリア語で「succhiaruote」(スッキャルオーテ「直訳:ホイールの吸血級」)と呼ばれています。スッキャルオーテは、強豪チームのスプリンターの真後ろに付き、ほかのトレインの仕事をうまく利用しながら優勝を狙う選手のことです。この呼び方は軽蔑的で、どちらかというと、あまり尊敬されないやり方です。

トレインという技術の誕生

 昔からスプリンターをアシストする選手たちが存在していましたが、技術として磨かれたのは90年代に入ってからです。イタリアの最強スプリンター、マリオ・チポッリーニがこの技を極限まで磨いた選手なのです。

 身長191cm、当時体重80kgの大柄なチポッリーニは、豪快でありながらディテールに細かく、とても礼儀正しいスプリンターでした。力で勝負を挑み、妨害行為はしませんでした。そのために尊敬を込めて“レ・レオーネ”(ライオン・キング)と呼ばれていました。

トレインをチームに導入し勝利を量産したマリオ・チポッリーニ =ジロ・デ・イタリア第6ステージ、2001年5月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 サエコというチームに入ったチポッリーニは、ほかのスプリンターが前に入る余地を与えないために、彼専用のトレインを作ると提案しました。もともと研究熱心なチポッリーニが、1980年代に生まれつつあったトレインの原型を開拓した、デル・トンゴのジュゼッペ・サロンニ(現UAE・チームエミレーツマネージャー)のやり方に気づき、それをサエコに導入させたのです。

 こうして「Treno rosso della Saeco」(サエコの赤い列車)が誕生したのです。彼の遺伝はアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア)に受け継がれ、2000年代にはファッサボルトロのブルーの列車が生まれました。ほかの強豪チームも次から次へと導入し、トレインが定着したのです。

列車を崩壊させた異端児たち

 美しく、突破できないトレインを崩し始めたのが、カヴェンディッシュです。カヴェンディッシュはトラック競技出身で、チームメイトのトレインの力を利用するだけでなく、隙があれば、どこにでも割り込んでしまえる技術を身につけている選手です。そのため、フェンスぎりぎりのコース取りや割り込み、急なコース変更も気にしません。そのぶん、接触の危険性は増します。

 サガンもトレインを崩壊させている選手の1人かもしれません。もともとマウンテンバイク出身で、強力な体幹が備わっているため、安定した直線的なスプリントだけでなく、細かい進路変更をしながらチャンスを狙うことも得意としています。

各チームのエーススプリンターが入り乱れたゴールスプリント =ツール・ド・フランス第4ステージ、2017年7月4日 Photo: Yuzuru SUNADA

 サガンが失格となった今年のツール第4ステージでは、ゴール前がいかに荒れたレース展開だったかがわかります。トレインはなく、各チームの強豪選手が自力でゴールを狙っていました。デマールが禁止とされている急なコース変更をし、カヴェンディッシュは人が通れないフェンスと集団の隙間を狙い、サガンと接触。サガンはバランスを失い、問題となった肘を上げる行為が生まれました。ナセル・ブアニ(フランス、コフィディス)は接触をさけるため失速し、デマールが違反をしながら優勝という不思議なステージになりました。

 このステージから見ると、どのチームもトレインがほとんど機能していませんでした。カチューシャ・アルペシンとクイックステップフロアーズは、ぎりぎりトレインが残っている程度で、カヴェンディッシュとサガンが去ったいま、やっと機能し始めたようにも見えます。

 自転車競技は常に変化するもので、次の美しいトレイン、またはそれを超える新しい技術はいつ生まれるかが楽しみです。しばらくツール・ド・フランスから目が離せません。

◇         ◇

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マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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