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ツール・ド・フランス2017 レースサイドレポート華やかさと暗い過去が同居したツール開幕 栄光を取り戻す日々のはじまり

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 7月1日に開幕した第104回ツール・ド・フランス。サイクルロードレース界最高峰の舞台に臨む198選手が、開幕地ドイツ・デュッセルドルフのスタートラインから出発。3週間の長い旅路へと出た。これから日々、感動と驚きのドラマが繰り広げられる。日頃国内外のサイクルロードレース取材や執筆をライフワークとする筆者の眼に、「ツール・ド・フランス2017」がどう映っているのか、現地からレポートしていきたい。

地元出身の音楽グループ・クラフトワークの名曲「ツール・ド・フランス」のジャケットデザインの前を選手が走る。レース後、このステージでクラフトワークがライブを行った © ASO/Bruno BADE

雨で始まったツール2017

 明け方から降り続いた雨は、昼頃に一度止んだものの、第1走者の出発が控えた現地時間午後3時頃に再び強くなった。2017年のツールは雨の開幕となった。

降りしきる雨の中での個人タイムトライアルはゲラント・トーマスが勝利 Photo: Yuzuru SUNADA

 雨の個人タイムトライアルともなれば、濡れた路面にタイヤをとられての落車に注意しなければならない。また、有力選手たちは天気予報をもとに、出発時間を慎重に選ぶ必要にも迫られる。クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)だけは、前回覇者として最終走者となることが決まっていたが、それ以外の197選手はチーム内での出走順を自由に選択できた。

 それでも、多くの有力選手がチーム内最終、または後半出走を選択。前半出走を選んだ有力どころは、ラファウ・マイカ(ポーランド、ボーラ・ハンスグローエ)、ティボー・ピノ(フランス、エフデジ)、ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)くらい。

 降り続いた雨の中での14km個人タイムトライアルは、全体の154番目でスタートしたゲラント・トーマス(イギリス、チーム スカイ)が優勝。イギリスが誇るTTスペシャリストは、絶対エースのクリストファー・フルーム(イギリス)のアシストを前に、しばしマイヨジョーヌを着用する栄誉にあずかった。

人がまばらな沿道にツールらしさは見られず

デュッセルドルフ市内南部の光景。その雰囲気からツールらしさは感じられない Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 筆者がデュッセルドルフ入りして感じたのは、ツール開催の歓迎ムードは市内の一部に限られていることだった。6月29日のチームプレゼンテーション、第1ステージのコースに組み込まれた旧市街地・アルシュタットにそれが集約された印象で、ひとたびその場を離れてみると、“ツール感”というものが皆無に等しいのだ。

 アルシュタットはライン川沿いに位置し、さまざまなジャンルのブティックや飲食店、さらには市庁舎もあり、ツール開幕の熱気を「一点集中」させることは、経済面で効率的なのは容易に想像がつく。経済・工業ともにドイツ国内で群を抜いて発展している都市だけに、街全体で盛り上がりすぎて都市機能を麻痺させるわけにもいかない。

 また、同じ街の中で盛り上がりに差があるのは、メリハリをきっちりさせるドイツ人の国民性も関係しているのではないか、との話も耳にした。

 一方で、コース脇で選手たちの走りを見守る観客は、場所によってはまばらで、どこかツールらしさに欠けていたことは否めない。雨も関係していたのかもしれないが、どうやらそればかりではなかったようだ。

選手の走りを見届ける沿道の人々。場所によってはその数はまばらだった © ASO/Bruno BADE

国民感情に配慮しウルリッヒは招待されず

 かつて、ヤン・ウルリッヒが1997年にツールを制したのを機に、ドイツはサイクルロードレースフィーバーに沸いた。彼が所属したチーム テレコム(後のTモバイル、チーム HTC・ハイロードなど)には多くの実力者がそろい、プロトン屈指のビッグチームでもあった。

ドイツにロードレースフィーバーをもたらしたのはヤン・ウルリッヒの活躍だった。しかし、ドーピングスキャンダルによってその熱は急激に冷めていった Photo: Yuzuru SUNADA / Slide

 しかし、その栄華は長くは続かなかった。次々と明らかになるドーピングスキャンダルに、ウルリッヒ自身の薬物使用告白が追い討ちをかけた。ロードレース熱は冷め、チームスポンサーを務めたドイツ企業は次々と撤退、さらにはドイツ国内でのツール放映も打ち切られた。

 その後、アンドレ・グライペル(ロット・ソウダル)やマルセル・キッテル(クイックステップフロアーズ)、ジョン・デゲンコルブ(トレック・セガフレード)といったスプリンターや、個人TT世界王者に君臨するトニー・マルティン(チーム カチューシャ・アルペシン)らが台頭。再び国内でロードレースへの関心が高まりを見せ、彼らの強い働きかけもあり、ツール放映は再開された。

 そして、30年ぶりにドイツに“帰還”したツール。そのシナリオだけ見れば、同国自転車界は“復活”したようにも思える。

 だが、その場にウルリッヒの姿はない。キッテルは「彼は罪を償っている。もう一度チャンスを与えるべきだ」と訴え、自転車関係者やメディアもそれに賛同した。それでもウルリッヒはツールに戻ってくることはなかった。「国民感情」がその理由だという。

 ドイツ国民のドーピングへの怒りはいまだ収まっていないのだ。「もう一度チャンスを与えるべき」という現場の声と、それを許すべきではないとする国民の意識は、ここへきて乖離していることが浮き彫りとなった。

 そして、人がまばらなコース脇。ドイツ自転車界がドーピング禍によって失ったものを取り戻すには、もう少し時間を必要とするようだ。

ロードレース熱の高まりはこの後の活躍次第

 だからこそ、第1ステージはドイツ人ライダーが何としてでも勝利しなければならなかった…というのはいささか強引ではあるが、いまをときめく選手たちがドイツ自転車界の未来へのストーリーを急展開させる可能性は大いにあった。大会総合ディレクターのクリスティアン・プリュドム氏も、開幕前に名指しでマルティンへの期待を口にしていた。

期待されたトニー・マルティンは4位。それでも、マイヨアルカンシエルの疾走は人々に大きなインパクトを与えたはずだ © ASO/Alex BROADWAY

 そのマルティンは4位と、地元勝利とはならなかった。それでも、世界王者の証であるマイヨアルカンシエルでデュッセルドルフの市街地を疾走した姿はきっと、人々に強いインパクトを与えたに違いない。

 大会は始まったばかり。残るステージでの活躍次第で、ドイツのロードレース熱はきっとさらなる高まりへとつながっていくことだろう。

 レース後、劇的に回復した空模様。それはまるで、ツールの開幕がドイツ自転車界に漂っていたモヤモヤを断ち切ったことを意味していたかのようだった。栄光を取り戻す日々に、明るい光が射していることは確かだ。

たくさんのフラッグを髪に挿して応援する少女。ドイツに再びロードレース熱が戻ってくる日は近い © ASO/Pauline BALLET

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