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サイクリスト

島々を渡り駆け巡るアドベンチャーライド「Rapha Women's prestige」 獲得標高2500mの“しまなみ”に挑んだ女性サイクリストたち

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 女性だけでチームを組み、サポートや立哨もいない未知なる地をロードバイクで駆け巡るアドベンチャーライド「Rapha Women’s prestige Shimanami」が6月17日、広島県と愛媛県を結ぶ「しまなみ海道」を舞台に開催された。総距離約140km、獲得標高2500mと、いわゆる‟快適なしまなみ”とはかけ離れたコース。島々を船や橋を使って渡り、生い茂る森を抜けて頂上を目指す‟裏しまなみ海道”とでもいうべき過酷なアドベンチャーに、総勢80人の女性サイクリストたちが挑んだ。

140km、2500mアップのしまなみを駆け抜けた「Rapha Women's prestige」 Photo: Atsushi Tanno

‟ラファ・マジック”がかかった魅惑のルート

 「しまなみ海道」といえば思い出すのは、道に引かれたブルーライン、瀬戸内の青い海、空を飛ぶような橋からの眺め。誰もが快適にサイクリングを楽しめる「サイクリストの聖地」だ。

道を示すブルーラインが特徴的なしまなみ海道 Photo: Atsushi Tanno

 そのしまなみ海道でラファがプレステージを開催すると知ったとき意外な印象を受けたが、すぐに察しはついた。尾道市から今治市の間にある「しまなみ海道」が通っているルートは西瀬戸自動車道。ひとたびそのルートを外れると、島ならではの急峻な坂や未舗装路が出現。一変して予想もつかない道が息を潜めるエリアなのだ。

 イベント開催の数日前、発表されたルートは案の定、走行距離140km、獲得標高2500m。3つのピークはいずれも300m弱とそれほど大きくはないが、こまかいアップダウンにじわじわと脚を削られるコースだ。

 ルートは橋が通っていない島へも続いていた。渡る手段はフェリー。しかも乗り継ぎは6回。さらに「ここって森じゃないの?」というエリアにもしっかりルートが張り巡らせていた。「イノシシの罠があったり、ダートが多かったりでだいぶルートを試行錯誤した」というのはルートを設定したラファ・ジャパンの衣本始司さんの話。幾度も試走を重ね、“うまく苦痛を引出す”ようにコースが練り上げられることから、参加者たちの間で「ラファ・マジック」と呼ばれている。

出走前から始まっている冒険

イベント当日、スタート地点となる「Onomichi U2」に約80人の参加者が集まった Photo: Kyoko GOTO

 イベント当日、会場となった「Onomichi U2」には18チーム約80人の女性が集まった。西日本エリアの参加者が多かったが、東京や埼玉、さらには韓国のチームも初参戦し、同イベント史上最多の参加者数となった。チームは個性もレベルもさまざまで、ビギナーチームからリピーターチーム、そして全員が「アイアンマン」という強者で構成されたチームも参加していた。

獣ポーズが一際目を引いた「Team Beast」は滋賀県からの参戦 Photo: Kyoko GOTO
三重県から参加した「チームどろんじょ」 Photo: Kyoko GOTO
大阪市から参戦した「Team via」 Photo: Kyoko GOTO
愛媛県から参戦した「Happy Girls Bleu」 Photo: Kyoko GOTO
東京から参戦した「Ritomo Latino Bicicletta Squadra」Photo: Kyoko GOTO
東京から参戦した「IRONMYN」は全員がアイアンマン Photo: Kyoko GOTO

 参加条件は1チーム4~5人で走ること。それ以外のルールは単純明快で、スタートからゴールまでチームで一緒に走行し、全てのチェックポイントを制限時間内に通過することだけ。制限時間内であればタイムに挑戦するも、サイクリングペースで走るも自由だ。

愛知県から参戦した「レーチラ」。サポート役の男性も一緒に Photo: Kyoko GOTO
福岡県から参戦した「MOZU COFFEE」 Photo: Kyoko GOTO
「RCC TOKYO」の皆さん Photo: Kyoko GOTO

 サポートカーや立哨は皆無。ルート確認からチーム単位での走行まで、自分たちで責任を持つことが求められる。トラブルも自分たちで対処しなければならず、そのためのアイテムに関する知識と使うスキルも必要となる。自由である分サイクリストとしての総合力が求められる点が、「アドベンチャーライド」と称される所以だ。

さまざまな注意点が書き込まれたキューシート Photo: Kyoko GOTO

 ビギナーチームの中には、このイベントのためにパンク修理などのトラブル対応を習得したメンバーがいたり、さらにはキューシートに色々書き込みすぎて2枚目をもらいにきたというチームも。1つ1つの課題をクリアしようとする懸命な眼差しに、すでに彼女たちの冒険は始まっているのだと感じた。

スタート直前の集合写真。80人全員ではないが、皆朝からハイテンション! Photo: Kyoko GOTO

国を越えてつながる「RCC」

朝日を浴びながらスタート Photo: Kyoko GOTO

 午前6時。各チーム、朝日の中を期待と緊張が入り混じる表情でスタートを切った。通常のしまなみ海道と同じようにフェリーで1つめの向島に渡る。が、渡った先はもうラファワールド。進む道からブルーラインは消え、GPSとキューシートだけが頼りとなる。

 筆者は1人欠員が出た韓国チームの3人とともに出発。ラファには「RCC」(ラファサイクリングクラブ)というサイクリングコミュニティーがあり、日本に「RCC東京」があるように韓国にも「RCCソウル」が存在する。そのRCCメンバー2人と店舗スタッフ1人で構成された韓国チーム「Team +82」は、日本で「Women’s Prestige」が開催されると知ってやってきた。

チームジャージがおそろいだった韓国チーム「Team +82」(キャップなし)と「Team Beast」の皆さん Photo: Kyoko GOTO

 女性サイクリストというつながりがあれば、国を越えてライドイベントを楽しめるというのも世界規模で展開する「RCC」ならではのネットワーク。日本人のサイクリストも「韓国の人?よろしくねー!」と日本語で声をかけ、難なく言葉の壁を乗り越えてくるのも頼もしい。

 彼女たちは普段、実業団で走っている実力派の面々。最後のスタートだったが、力強い走りで坂も平地もどんどん進んでゆく。とはいえ、ここはしまなみ。相次ぐ絶景に、彼女たちも足を止めずにはいられない。早朝の静かな道、目の前に広がる穏やかな瀬戸内の海、背中を押すような追い風はまたとない自転車日和。日本人の筆者にも感動が伝わるように、ため息まじりに「So beautiful」という言葉を繰り返していた。

「とても景色が美しい!」と喜ぶ「Team +82」のジェニー(写真左)とジェニファー  Photo: Kyoko GOTO
たびたび現れる景色に脚を止めて見入る Photo: Kyoko GOTO
休日の朝、車通りが少ない道を思い切り走る「Team +82」の3人 Photo: Kyoko GOTO

心を揺さぶるコースと絶景

 隣の岩子島を一瞬通過し、因島へと向かう。1つめの難所、島のほぼ中央に位置する奥山ダム周辺の上りだ。

プレステージの代名詞となったダート。長く、斜度もきつい坂を根気よく上り続ける Photo: Atsushi Tanno

 しかもただの上りではなく、いまやプレステージの代名詞となったダート(未舗装路)区間が女性たちを待ち受ける。早々に諦めるかと思いきや、皆なかなかしぶとい。この日のためにダートの練習をしてきたというチームもいるほどの気合の入りようで、「下りたくない!」と叫びながら上ってゆく女性もいた。しかし距離、斜度ともに想像を上回るダートぶりで、バイクを下りずに突破できた人はいなかった。

さすがの韓国チームも「腰が痛い!」と苦痛の表情 Photo: Kyoko GOTO
舗装路に出て安堵の表情を浮かべる「IRONMYN」のメンバー Photo: Kyoko GOTO

 そこから下った先で再びフェリーに乗る。ここからはしばらく渡島エリア。フェリーや橋を駆使し、弓削島、佐島、生名島、そして岩城島へと向かう。

 フェリーの往来は頻繁で、長くても20分程度の待ち時間。その間に再び各チームが勢揃いし、再スタートのようなにぎやかさを取り戻す。これまでに何度かプレステージに参加している女性は、「いつもはいったんスタートしたらバラバラになるけれど、今回はこうして何度も他チームと合流できるから楽しい」と話す。

上島町を有する弓削島界隈では、自転車の持ち込み料金がフリーになる「かみじまサイクルフリー券」を実施中 Photo: Kyoko GOTO
スタート地点のようににぎわうフェリー内 Photo: Kyoko GOTO
2つめのピークを目指して上る Photo: Atsushi Tanno

 と、和やかな雰囲気も束の間、岩城島では2つめのピークが女性たちを迎え撃つ。スタートからおよそ50km地点から斜度強めの坂が現れた。

 しかし、ここはしまなみ。上った先のピークからは、必ずといって良いほど疲れが吹っ飛ぶような絶景が現れる。

スタートから80km地点、2つめのピークから眺める景色。疲れが吹っ飛ぶ瞬間 Photo: Kyoko GOTO
景色に見入る「RCC TOKYO」 Photo: Atsushi Tanno

 チームで思い思いのポーズをとり記念撮影を楽しむ女性たち。「ここ、私のお気に入りスポットなの」と誇らしげにいう地元在住の女性。それに対して誰かが「いつものしまなみ海道も良いけれど、こういう景色が見れるんだったら道を外れて頑張るのもありだね~」と答えた。

ノンアルコールビールで一服。その手があった! Photo: Kyoko GOTO

 韓国チームから離れ、他のチームに合流してみるとまた違った走り方が見えてくる。さらなる絶景を求めて山を歩いて登り始めるチームや、道中に「ご自由にどうぞ」と置かれたはっさくに足を止め、嬉しそうに分け合うチーム。ノンアルコールビールで一服しているチームや、補給食ではなくしっかりと休んでランチを堪能するチームもいた。

 速さにこだわらず、制限時間いっぱい使ってどれだけ楽しめるかという好奇心や視点の置き方は、実は日本人女性特有の才能なのかもしれない。

ちょっとしたお店でもバイクラックが充実しているのがしまなみエリアならでは Photo: Kyoko GOTO
炊き込みごはんに味噌汁に酢の物。パワーチャージにはベストチョイス Photo: Kyoko GOTO

チームの絆が試される後半戦

 多々羅大橋を渡って大三島を半周し、ここから復路がスタート。生口島、因島、向島と、走ってきた島を別ルートで戻る。

橋を渡る気持ちよさはしまなみ海道の醍醐味 Photo: Kyoko GOTO

 ゆったりとしたペースながら、疲労が溜まり始めている脚。ときおり出現する激坂に「もうおなかいっぱい!」という怒り混じりの声が上がり始める。それでも容赦なく追い打ちをかけるアップダウン。ルート作成者が憎らしくなってくる、ここからがプレステージの真骨頂だ。

 チーム内でばらつきが出始めるスピード。自分も余裕がないのに弱ってきたチームメイトを気遣う。苦手な機材トラブルに皆で頭を寄せ合う。迫りくるチェックポイントの制限時間に、力を振り絞ってスプリントに出る。次々生まれるドラマチックな瞬間に、こちらも手に汗を握る。

疲れていてもお互いを助け合う Photo: Atsushi Tanno

 しかし、そんな状況に追い打ちをかけてくるのがプレステージの憎いところ。最後に設けられた3つめのピークは、精根尽きた心と体にとどめを刺す4kmの激坂の上にあった。上るほどに斜度を増す坂。最大14%の坂を前に、自転車を下りて押し歩く人もいれば、蛇行しながら漕ぎ続ける人もいる。そんなとき、いつもは控えめでおとなしいメンバーが静かな闘志を見せ、ぐいぐいと上っていく。その姿に皆が力をもらい、トルクを上げる。

 「なんでこんなつらいことしてるんだろう?」なんて考える余裕はもはやない。ただただ、上った先で応援してくれている人たちと感動を分かち合いたい。それだけだった。

Photo: Atsushi Tanno
Photo: Atsushi Tanno

 「これが本当に最後」─そう思いながら、力を振り絞ってピークに到達。達成感と努力を称えてくれる仲間がいることがうれしい。いまの激坂必要だった? いや、そんなことはいまはどうでもいい。空っぽになった体を海風が通り抜けていく。

 一日の終わりを告げようとしている太陽に向かい、満面の笑みを向ける女性たち。眼下に広がる景色に目を輝かせ、「最高ー!」という歓声があちこちから聞こえていた。

最後のピーク、高見山展望台からの眺め Photo: Kyoko GOTO
尾道に向かうフェリー。これが最後の乗船  Photo: Kyoko GOTO

 本当のゴール「Onomichi U2」まで残り13km。上ってきた道は激坂ダウンヒルとなる。握力が弱く、ブレーキ操作が苦手な女性にとっては下り坂も一苦労。慎重に下ってくるメンバーを待ちながら、尾道行のフェリー乗り場を目指す。

 余韻が残る帰路。遊び疲れ、家路についていた子どもの頃を思い出す心地よい疲れ。あれほどきつかったにも関わらず、「終わっちゃうね~」という誰かの言葉に少しさみしくなる気持ちは、皆同じだったのではないだろうか。

参加者全員に配られたプレステージのキャップとスタンプノート Photo: Kyoko GOTO

 ゴールでチームそろって最後のスタンプを押してもらう。これで本当におしまい。

 時間内完走を果たしたのは18チーム中13チーム。3チームは時間外完走、2チームは完走ならずと、結果がコースの難しさを物語る。実力の問題ではなく、トラブルに見舞われ、フェリーの乗船で遅れをとったチームもあった。無念さは残るが、それさえ楽しかった記憶が上回る。「悔しいからまたリベンジする!」と早くも次のプレステージへの参加を誓っていた。

 なお、「Rapha Women’s prestige Shimanami」の様子はラファ・ジャパンのインスタグラムでも見られる。また、インスタグラムで「#rpshimanami」「#raphaprestige」のハッシュタグで検索すると、参加者目線の楽しみ方や走り方を見ることができる。

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