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つれづれイタリア~ノ<94>老舗タイヤメーカー、ピレッリ社が自転車界に復活 熾烈な競争に勝ち目あるのか?

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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 自転車によく乗るレーサーは、様々なこだわりがあります。フレームやホイールの素材、サドルの形状、チェーンオイルの使いやすさなどなど。そのなかで、最も関心を集める要素の一つに、タイヤ選びがあります。パンクをしてしまうと、楽しいサイクリングが台無しになるし、パンク修理が好きな人はいないでしょう。

50年ぶりの自転車タイヤ

 自転車ショップへ行くと、タイヤは豊富に並んでいます。国内のブリヂストン、パナレーサー、IRCなどから、ミシュラン、コンチネンタル、ハッチンソン、シュヴァルベといった海外メーカーも目に付きます。面白いことに、イタリアのメーカーが少ない。優れたフレームメーカーとウエアーメーカーがあるにも関わらず、自転車タイヤを作る会社はヴィットリアぐらいです。とても不思議。

ジロ・ディタリアU23のホワイトジャージ ©Manifattura Valcismon S.p.A

 しかし、昨年のことですが、とあるイタリア老舗タイヤメーカーが自転車競技に復活するのではないかという噂を耳にしました。昨年10月25日に行われた第100回ジロ・ディタリアの記者会見で、オフィシャルパトナーの欄にはなんと!あの「ピレッリ」の名前がありました。また2月に行われたジロ・ディタリアU23の記者会見の場でも、メインスポンサーの一つがピレッリ社だと発表され、噂が確信に変わりました。

 そして今年、5月11日にやっと真相が明らかになりました。ピレッリ社が50年ぶりとなる自転車用タイヤ「PZero Velo」(ピーゼロ・ヴェロ)シリーズを公式発表したのです。ラリー、スーパーバイクとF1のイメージしかなかったピレッリ社が自転車の世界に飛び込むのです。

ピレッリと自転車との古い関係

ピレッリの1910年代ポスター ©Fondazione Pirelli

 ピレッリ社は以前、自転車用タイヤを作っていました。ガゼッタ・デッロ・スポルト紙の記録によれば、1909年に開催された第1回ジロ・ディタリアに参加した選手の3分の1が、ピレッリ製タイヤを使っていたそうです。

 一方、ピレッリ社の成り立ちはとても面白い。1872年にミラノで創立され、新素材であるゴムに目を付けた若社長、ジョヴァンニ・バッティスタ・ピレッリ氏(当時24歳)が海底ケーブル、おもちゃ、レインコートなどの製造を始めました。ゴム製品の何でも屋でした。やがて、ダンロップが開発したタイヤを見て、1890年に初めてタイヤの製造に成功しました。共同開発の相手は、同じくミラノに本社を構えていたビアンキ社でした。自転車用タイヤ開発に成功を収めたピレッリ社は、オートバイとクルマのタイヤにも開発の幅を広げました。

ピレッリの1954年自転車・オートバイ国際展示会 ©Fondazione Pirelli

 1950年代までビアンキとの関係が深く、ファウスト・コッピ選手が乗っていたビアンキにはずっとピレッリ社のタイヤが使われていました。自転車離れが始まったのは、ちょうど戦後でした。

 戦後の復興工事として進んでいた高速道路建設の影響で、クルマ社会に転換しはじめたイタリアでは、クルマ用とバイク用タイヤの製造が急成長を遂げました。ピレッリ社がアルファロメオ、フェッラーリやヴェスパにタイヤを提供することにより、利益の少ない自転車用タイヤから手をひいてしまい、ブラジルの子会社を除けば、60年代に完全に撤退しました。

イタリア独自の企業のイメージ戦略

 ピレッリ社のタイヤは166を超える国で販売されていますが、本国イタリアでは密かな楽しみ方がありました。それがピレッリ社のカレンダー「Calendario Pirelli」の発表です。1963年になると、自社ブランドのタイヤを扱う修理工場、代理店やVIPに対し、カレンダーのプレゼントを始めたのです。

 その内容は、お色気たっぷりの美女たちが各ページを飾り、イタリアの男たちの目の保養になっていました。特に70年代はかなり刺激的で、多くの男の子たちにとって、修理工場のお兄さんのところへ遊びに行く動機の一つになっていました。現在では過激度が減ったものの、ピレッリ社のカレンダーは愛され続け、多くのフォトグラファーとモデルがこれをきっかけに有名になったのです。

1973年のピレッリの刺激的なカレンダー ©Fondazione Pirelli
1986年のピレッリカレンダー ©Fondazione Pirelli

自転車タイヤの復活の裏には

 現在、世界5位のタイヤメーカーのピレッリ社が、F1のノウハウを自転車に注ぎ始めた背景には、二つの要因があると思われます。一つは、2015年に中国国営企業、中国化工集団公司の傘下に入ったことです。現在、中国は空前の自転車ブームで、高級タイヤの市場が広がっています。

 もう一つは、UCIの規則改定による期待です。自転車の重さの6.8kgの撤廃が間近だとされ、ディスクブレーキも本格的に導入され始めました。スピードアップの影響で、ウエットな環境と下りでの性能が試され、各メーカーがより安全なタイヤの開発に挑んでいます。

 ピレッリ社に期待されているのが、F1やスーパーバイクなどで蓄積した技術を23~25mmの細いタイヤに応用すること。ただしネックとなるのが値段です。F1タイヤ並みの値段だったら、ユーザーは手が出にくいでしょう。イタリア国内の発売開始は9月からだそうで、どんなものかとても気になります。

 ちなみに、ピレッリ社が2018年にUCIワールドツアーチームのメインスポンサーになるという噂が、イタリア国営テレビのニュース番組で報じられました。10月に公式発表されるまで真相がわかりませんが、大きな動きがあるはずです。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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