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猪野学の“坂バカ”奮闘記<12>「軽量化」が全てじゃない! レンタルバイクで味わったヒルクライムの真骨頂

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乗鞍を制覇!しかもシティサイクルでだ!(自撮りですみません) Photo: Manabu INO

 ヒルクライマーにとって最も悩ましい問題は、何と言っても軽量化だ。登坂は軽けれぱ軽いほど速く上れる。これはもう周知の事実なのだ。とはいえ、たとえ1kg軽くしたところで何分もタイムが上がるわけではない。しかし、分かっちゃいるけど自転車を数グラムでも軽くするために大金を使ってしまう。軽量サドル、軽量ハンドル、軽量ブレーキ、軽量チェーン、軽量ホイールと、坂バカの経済事情を苦しめる。速い人は何に乗っても速いし、軽量化しても大した効果はないのだと、分かっちゃいるけど止められない。

寿司より120gの軽量化を選ぶ坂バカ

 さらに私の様な独身は止めてくれる伴侶がいないため、これまでかなりの金額を注ぎ込んでしまった。俳優なのだからその分、衣裳費などにまわすべきなのだが、軽量化への欲は止め処がないから恐ろしい。しかし数グラムでも軽くして、自転車を持った時の「あっ!少し軽くなった!」と思えた時のあの悦びは何物にも変え難かったりする。

坂バカ永遠のテーマ「軽量化」については「チャリダー★実験室」でも検証した!(2017年3月放送) ©NHK/テレコムスタッフ

 私の現在の愛車は7.2kgだ。最近、ハンドルとステムを変えれば120g稼げるなあ…と考えていたりする。しかしその120グラムのためには、数万円の出費を余儀なくされる。ちょっと良い寿司屋に5回くらい行ける金額だ。でも寿司より軽量化をとるのが坂バカなのだ。

「軽量化」という言葉が持つ魔力

 私は自己最高で5.9kgまで愛車を軽くした事があったが、いろんな問題に直面した。剛性不足で進まなかったり、カーボン製ブレーキのワイヤーをしめる部分にクラック(ひび)が入ってしまったり、フレームにもクラックが入った経験もある。そして結局タイムも伸びなかった。

 そしてやはり軽量パーツはデリケートだ。特にカーボンレールのサドルが最も危険だ。トルクスレンチを使って恐る恐る閉めるのだが、締め過ぎてピキっといったら数万円がおじゃん。だから締めきれず、ダンシングから座る時や、段差に乗り上げた時など。ちょっとした震動であらぬ方向を向いてしまう事がある。

 以前、富士あざみラインを試走中、激坂区間で思いっきり軽量サドルの後部に座ったところ、サドルの前がキュッと上がってしまった。走りながら頑張ってサドルの前に座って、サドルの角度を元に戻そうとしたが、無理だった。

あざみラインで軽量サドルの落とし穴にハマった…(※写真はイメージ ) ©NHK/テレコムスタッフ

 肛門にサドルが刺さったまま激坂を耐えるという地獄に陥り、いろんな意味で辛かったが、これは試走中の出来事で本当に良かった。肛門にサドルが刺ささり悶絶している中年が全国放送されたらそれこそ悲劇だ。番組に具志堅用高さんやレイザーラモン・HGさんが出演した時もサドルが刺さり悶絶していた。具志堅さんにチャンプの威厳はなかったし。HGさんはハードゲイ…ハマり過ぎて笑えなかった。

 とにかく「軽量化」という響きには甘〜い誘惑のようなものがある。「軽量○○」と聞くと、昆虫が街灯にふわふわと吸い寄せられていくように、ついつい近寄りたくなってしまう魔力を持っているし、こういう悲喜こもごもは、機材スポーツならではの楽しみでもある。

湧き上がる乗鞍への衝動

 そんな自転車の「機材スポーツぶり」をぶっ飛ばしてしまった経験がある。それは初めて乗鞍に挑戦した時だ。

共に戦ったレンタルサイクル「エコー乗鞍号」 Photo: Manabu INO

 今では2年連続で「マウンテンサイクリング・イン・乗鞍」に出場している私だが、実は初めて上ったのは大会ではなく、自転車も変速ギヤなしのレンタルサイクルだった。3年前、たまたま家族で紅葉狩りに行った先で、そこから乗鞍が近い事を知ってしまったのだ。憧れの乗鞍…服装はジーンズに革靴だったが、私は湧き上がる衝動を抑えられなかった。

スタート地点「ひこうき雲」 Photo: Manabu INO

 急いで乗鞍へ向かう。着いたときには15時を過ぎていた。三本滝のゲートが閉まるのが18時…しかし下山も含め3時間あれば行けるだろう!レンタル屋さんには頂上に行く事は告げず、ペットボトル1本をカゴに放り込みいざ出発!

 三本滝までは勾配が緩いため、漕ぐ速さもサイクリングペース。紅葉の美しさも感じられる。ここをトップ選手は30km/h近いスピードで駆け抜けるというのか!? 想像するだけでテンションが上がった。

 三本滝に着き、ゲートのおじさんに何処まで行くの?と声をかけられる。「頂上ですっ!」と言うと笑いながら「無理だべぇ〜」と言われた。

 無理なものか!坂バカを舐めてはいけない。

 スキー場辺りから勾配がキツくなり、立ちこぎを強いられる。革靴が滑り漕ぎづらい…がしかし、これが楽しくてしょうがない。私は今、テレビで観た憧れの乗鞍を走っているのだ!

1時間56分のエクスタシー

コーナーは紅葉が美しい Photo: Manabu INO

 旧コンクリート坂辺りは勾配が20%を越えるため、さすがに蛇行になる。でも何としても脚は付かない。それは坂バカにとって屈辱を意味するからだ。

 下山する路線バスの運転手がバカじゃないのか?という表情ですれ違う。ああバカですよ。しかしシティサイクルで乗鞍を上ってるバカさ加減が楽しくてしょうがない。

 誰も居ない道をひたすら上る。さすがに何の変化も起きないので、思いっきり声に出して笑ってみたが、自分の狂気ぶりにドン引きしてしまった。

 位ヶ原(くらいがはら)を過ぎいよいよ高所区間へ!ここで試練が待ち受ける。

憧れの4号カーブ Photo: Manabu INO

 季節は10月…そう寒さだ!バーカーにウィンドブレーカー、勿論グローブもしてない…猛烈に寒くなってきた。心拍を上げて温まりたいが、ギヤがないためペダルを回せず、心拍を上げられない。しかし引き返す気には全くなれない。頂上はすぐそこだ!これがエベレストなら私は完全に凍死していただろう。登山家なら失格だが、坂バカとしては合格だ。

 初めての4号カーブを曲がり勾配も緩くなる。大雪渓前で工事をしていた人達が「あんちゃんやるねぇ〜」と拍手で迎えてくれた。最高に楽しい!そしてついに私は、何度も雑誌やテレビで観てきた「岐阜県」の看板を目にすることができた。

 初めて乗鞍をやっつけた!しかもレンタルサイクルで。こんなに楽しいヒルクライムは初めてだ。1時間56分のエクスタシーだった。

乗鞍に登頂!こんなに楽しいヒルクライムは初めてだ! Photo: Manabu INO

坂バカ印の「乗鞍レンタルサイクルアタック」

 自転車は軽いに越した事が無いし、変速ギヤなどの機材によっても全く変わる。しかしそんな事どうでも良いくらい楽しかった。下山は指が千切れる程寒かったが登頂した満足感が勝る。

 ゲートのおじさんに登頂を告げると信じられないという表情。坂バカを舐めてはいけない。レンタルサイクルを返却し、改めて遥か彼方の乗鞍岳を見上げる。あそこまで行ったんだ…充足感に包まれる。宿に帰り温泉に入った時の幸せは忘れられない。これだから坂バカは止められないのだ。

激闘の後の至福の温泉 Photo: Manabu INO

 あれから私は、乗鞍レンタルサイクルアタックを周りに勧めているが、誰も挑戦していない。貴方も挑戦してみてはいかがだろうか? 楽しい事は保証します。

 因みに乗鞍ではマウンテンバイクのレンタルもあるが、楽しさ(=バカさ加減)が半減するのでシティサイクルでのアタックをお勧めする。

猪野 学猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00~18:25)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

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