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『Cyclist』編集部員が試走リポート「ツール・ド・東北」で新設 絶景ファンライドの「奥松島グループライド&ハイキング」

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 東日本大震災の復興支援を目的に9月16、17日に宮城県沿岸部で開催されるサイクリング大会「ツール・ド・東北2017」では、今年も新たなグループライドが設けられた。その名も「奥松島グループライド&ハイキング」。東松島市周辺70kmを走るサイクリングに、小高い丘を登るハイキングが組み合わさったビギナーでも楽しめるコースだ。松島といえば群島が織りなす絶景が日本三景に数えられる景勝地。その“奥”にはどんな景色が待っているのか。5月22日正午の参加者募集開始に先立って行われたヤフー自転車競技部の試走に『Cyclist』編集部員も同行した。

「奥松島グループライド&ハイキング」のハイキングコース、大高森の頂上からの眺望に歓声をあげるヤフー自転車競技部のメンバー Photo: Kyoko GOTO

ライドとハイクをセットで

 昨年の「牡鹿半島チャレンジグループライド」に次いで、今年も新たなグループライドのお目見えだ。舞台となる奥松島は、野蒜海岸と松島湾の入口に浮かぶ宮戸島からなるエリア。仙台側から見て「松島」のさらに先にあることからその呼び名がつけられた。コースは石巻市を出発し宮戸島で折り返す70kmで、ツール・ド・東北の他のコースよりも高低差が少ないのが特徴。参加者は10人ほどのグループに分かれて走行し、途中のポイントで自転車を降りて大高森にハイキングをしたり、震災遺構のJR旧野蒜(のびる)駅に立ち寄って震災復興伝承館を見学するという、ライドと観光の要素を織り交ぜた新しいプランだ。

市街地の6割以上の面積が浸水したこのエリアでは、いまなお沿岸部の防潮堤工事が進められている Photo: Kyoko GOTO

 グループライドの狙いは「ツール・ド・東北」をきっかけにサイクルツーリズムを根付かせることにある。イベント開催日だけでなく年間を通じて全国のライダーが訪れるエリアとして発展できるよう、宮城県と共同でコースを設定した。前回の牡鹿半島チャレンジグループライドが100kmの健脚向きであるのに対し、「奥松島」は平地70kmというビギナーでも気軽に参加できるコース。「女性や子供など脚力に自信のない人でもツール・ド・東北を走ってもらいたい」という思いが込められた。

松島よりもワイルドな奥松島

試走をともにしたヤフー自転車競技部のメンバー。写真左から黒原貴文さん、鈴置菜津女さん、部長の白石陽介さん、麻生裕一さん、浜吉勇馬さん Photo: Kyoko GOTO

 河北新報社と共に「ツール・ド・東北」を主催するヤフー社内には代表取締役社長の宮坂学氏をはじめ自転車好きが多く、社内で自転車競技部を結成している。社員同士で日々イベントやライドを楽しんでいるというが、その実力たるや企業対抗のレースで優勝を果たすほどだ。

 どんな‟ガチ”なチームかと思いきや、この日集結した5人はとても気さくなメンバー。レベル感も‟剛脚部長”の白石陽介さんや、自転車で世界旅をした経験をもつ浜吉勇馬さん、そして「普段はマネージャー」という鈴置菜津女さんまでバラエティーに富む。この紅一点の鈴置さんが楽しめるかどうかがポイントとなる試走が、大会の発着地点となる石巻専修大学からスタートした。

スタート地点の石巻専修大学から出発! Photo: Kyoko GOTO
スタートから20km地点。鳴瀬大橋を超えたあたりから視界が開ける Photo: Kyoko GOTO

 JR千石線に沿って国道45号線を走ること約20km、街を抜けて視界が開け始める。鳴瀬大橋を越え、野蒜海岸へと向かう道は幅が広くなるとともにクルマの交通量も減り、走りやすくなる。快晴に恵まれたこの日は、気温も風もサイクリング日和。どんどん視界に迫りくる海の景色と、どこまで走っても平地が続くという安心感がペダルを漕ぐ脚を軽くしてくれる。

休日だがクルマの交通量も多くなく、走りやすい道 Photo: Kyoko GOTO
「いつもはマネージャー」という鈴置菜津女さんも「アップダウンが少ないので楽しい!」とこの表情 Photo: Kyoko GOTO
鳴瀬川の向こうに広がるのは石巻湾 Photo: Kyoko GOTO

 野蒜海岸エリアに入ると大小の奇岩がところどころに現れ、“松島感”が漂い始める。一方で、震災発生から6年が経過してなお続く防潮堤工事の様子も目に入ってくる。太平洋にせり出した奥松島の被害の深刻さがどれほどのものだったのか。穏やかな海に目をやり、当時の状況に思いを馳せる。単なる観光サイクリングではないのだと思い出す瞬間だが、忘れずにいることの重要さを教えてくれるのも「ツール・ド・東北」なのだ。

野蒜(のびる)海岸沿いの道に入ると、松島の雰囲気を漂わせる独特な岩山が現れ始める Photo: Kyoko GOTO
今なお続く工事の様子が当時の被害の深刻さを物語る Photo: Kyoko GOTO
日本三景・松島の観光地区の1つ「奥松島」の主要部である宮戸島へ渡る。このあたりから名岩・奇岩が連なり始める Photo: Kyoko GOTO

 宮戸島に足を踏み入れるとさらに表情が一変。日本三大渓の1つで、名岩・奇岩が多数連なる「嵯峨渓」(さがけい)などがあり、長い時間をかけて太平洋の荒波に削り取られた切り立った崖や、鋭利な岩肌が荒々しい雰囲気を醸し出す。女性的でやさしい印象の松島とは対照的に、無骨で男性的な印象の造形美だ。

目の前に広がる光景に、思わず自転車をとめてしまうメンバーも Photo: Kyoko GOTO

 また、松島が大勢の観光客で賑わっているのに対して、少し離れている奥松島は静かでまた違った風情がある。スタートから宮戸島へはわずか30km足らずで、自転車でアクセスするにも程よい距離。宮戸島には嵯峨渓への観光船の発着港があるので、今回のイベントで下見し、次に自分でプランを立てて訪れる機会に利用してみるのも良いだろう。

まさに「壮観」の大高森

 宮戸島の南端で折り返した33km地点で休憩。ここでいったん自転車を下り、「松島四大」観に数えられる大高森を登る。この日は皆、ビンディングシューズをスニーカーに履き替えたが、イベント当日は底に突起があるタイプのビンディングシューズでは「参加できない」ことになっている。というより登ってみて感じたが、この道はSPD-SLでは無理だろう。

スタートから33kmにある大高森。自転車をいったん下りてハイキングへGO Photo: Kyoko GOTO
サイクリング時とは違う筋肉を使うので、気持ちがリセットされる Photo: Kyoko GOTO

 標高約105m、700mの登山道。「自転車とは違う筋肉を使うからリフレッシュできるね」などと話しながら木漏れ日の中を歩くこと約20分、たどり着いた先には見事な絶景が待っていた。

宮戸島にある松島「四大観」(しだいかん)の筆頭にあげられる景勝地「壮観」 Photo: Kyoko GOTO
景色に見入るヤフー自転車部のメンバーたち。疲れが吹っ飛ぶ瞬間 Photo: Kyoko GOTO

 ひときわ小高い山頂からは360度の大パノラマが広がり、松島湾に浮かぶ260余の島々と穏やかな松島湾を望む。松島の形状を箱庭のように見られるその景色は「壮観」と名付けられており、松島「四大観」(しだいかん)の筆頭にあげられる景勝地となっている。

 東にはもう一つのグループライドの舞台となる牡鹿半島、北には栗駒山が見え、まさに雄大にして壮観な眺め。少々きついハイクでも、この景色が余りあるご褒美となるのは間違いないだろう。

 下山したあとは、駐輪場所となる「セルコホーム あおみな」で休憩。アイスクリームなどのスイーツが楽しめるほか、足湯があるのもうれしい。

自転車を一時駐輪する「セルコホーム あおみな」 Photo: Kyoko GOTO
ご当地のアイスや足湯も楽しめる Photo: Kyoko GOTO

「あの日」を忘れないための伝承館

スタートから38km地点にある震災復興伝承館。壁には押し寄せた津波の高さが記されている Photo: Kyoko GOTO

 休憩後、一行が向かったのは「震災復興伝承館」。津波で被災したJR仙石線の旧野蒜(のびる)駅舎を利用して2016年10月に完成した。

 野蒜地区では市内最大の約500人が津波で犠牲となり、旧野蒜駅は高さ3.7mの津波に襲われた。現在は震災遺構としてプラットホームが保存されているほか、館内には津波によって破壊された券売機や地震発生とともに止まった時計などが展示されている。

館内には震災当時、押し寄せた津波の高さを表す赤い線 Photo: Kyoko GOTO
津波によって破壊された券売機が展示されている。当時の津波の威力を物語る Photo: Kyoko GOTO
震災前の住民の暮らしや震災当時の様子などを収めた写真を展示 Photo: Kyoko GOTO

 2階のスペースでは、震災前の住民の暮らしや震災当時の様子などを収めた約1000枚の写真をパネルやモニターで展示している。この日は伝承館のスタッフ、小峰香織さんが震災当時の様子を語ってくれた。小峰さん自身も津波に飲み込まれたが、目の前の漂流物にしがみつき、九死に一生を得たという。当時とても寒かったが皆で助け合ったこと、大けがをしていたのに痛みを感じなかったことなど当時の状況を詳しく説明してくれ、最後に「10人いたら10の被災話がある」と言い残した。

写真から伝わってくる当時の様子。何度も被災地を訪れているヤフー社員らも記憶を新たにする Photo: Kyoko GOTO
震災当時の様子を語ってくれた小峰香織さん(写真右) Photo: Kyoko GOTO

ツール・ド・東北が広げる地元の自転車文化

高台に移転した現在のJR野蒜駅 Photo: Kyoko GOTO

 その後、新たに高台へと移転したJR野蒜駅の駅舎をめぐってゴールへと向かう。その道すがら、一行は一軒の自転車店を案内してくれた。石巻エリアで唯一のスポーツバイク専門店という「クマガイサイクル」だ。店長の熊谷義弘さんはイベント当日、メカニックとして大会をサポートする。

 熊谷さんによると、最近では地元でもスポーツバイクを始める人が増えており、「ツール・ド・東北に出たい」といってロードバイクを買い求めるケースも少なくないという。オープンして1年、ショップのクラブメンバーはいまや70人を超える。同大会はこうした地元のスポーツバイク文化の広まりや、地域の活性化にも影響を及ぼしているということを感じた。

石巻市大街道東にあるスポーツ自転車専門店「クマガイサイクル」 Photo: Kyoko GOTO
店長の熊谷義弘さん。「ツール・ド・東北当日はメカニックとして会場に行きます。直前の不具合等もおまかせください」 Photo: Kyoko GOTO

 今回、新たに設けられた「奥松島グループライド&ハイキング」は前評通りアップダウンのない走りやすいコースで、イベントの敷居がまた1つ低くなった印象だ。これまで脚力を理由に躊躇していた初心者でも安心して参加できるだろう。最低でも10年間の開催を目標としている「ツール・ド・東北」は5回目を迎える今年が一つの節目となる。「私でも走れるかな」と関心をもった人は、まずはこのグループライドから参加してみてはいかがだろう。

 2コースのグループライドは初日の9月16日に実施し、2日目は石巻、気仙沼、女川、南三陸の5コースが開催される。エントリーは5月22日正午から公式サイトで受け付けを開始する。なお、今大会からエントリーは先着順で、2日連続でのエントリーも可能となっている。

※取材費用の一部をヤフー株式会社が負担しています。

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