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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<209>ジロ2017序盤戦を終えて 日替わりヒーローと“生き残った”総合優勝候補たち

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 第100回の記念大会であるジロ・デ・イタリアが5月5日に開幕し、地中海に浮かぶサルデーニャ島での3ステージを終えた。日替わりで現れたヒーローや予期せぬレース展開に、コースマップで見るだけでは把握しきれないジロならではの難しさがあった印象だ。今回は大会序盤の3日間を振り返り、新たなヒーローの動向や今後の展望に目を向けていきたい。

ジロ・デ・イタリア2017サルデーニャ島ステージのヒーローの1人、フェルナンド・ガビリア。第3ステージを勝利してのマリアローザの獲得に、喜びのあまりシャンパンを頭からかぶってしまった  Photo: Yuzuru SUNADA

ガビリアの目標はマリアローザからミラノへ

 おおむねスプリンター中心の戦いに終始したサルデーニャ島での3ステージ。有力スプリンターがひしめき、勝者予想が難しかったとはいえ、次々とヒーローが入れ替わる大会序盤だった。それは、個人総合首位の証であるマリアローザの持ち主が日々代わっていったことにも表れている。

ジロ2017第3ステージを勝って歓喜するフェルナンド・ガビリア。その勝利の裏には、自身の好判断があった Photo: Yuzuru SUNADA

 そんな中で、活躍が期待された気鋭のスプリンター、フェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)が第3ステージでついに本領発揮。それも、他チームの動きをチェックし、自ら無線を通じてチームメートに指示を出しながらステージ優勝までのシナリオを作ったというのだから恐れ入る。

 強い風が吹くと予想されたこの日のステージだったが、横風による分断が起こったのはフィニッシュまで残り10kmを切ってからのタイミング。ガビリアは、同国の先輩でもあるナイロ・キンタナ(モビスター チーム)がアシストとともに集団前方に上がってきていたのを見て、さらにペースアップを図って攻め続けるべきだと判断。ランドアバウトによってテクニカルになっているコースで、多くのチームが隊列を乱している状況も把握して、アシストに指示を出したとレース後に振り返っている。

 こうした動きによってメイン集団が割れ、前方に残った選手たちでチーム単位で動けたのはクイックステップフロアーズのみ。狙い通り、そしてガビリアの読み通り有利な情勢を作り出した。とはいっても、スピードのある他選手が追随し、プレッシャーのかかる状況でしっかり勝つのは力のある証拠。

ジロ2017第3ステージ終盤の集団分断を演出したボブ・ユンゲルス。総合でも上位候補だけに、今後の走りにも注目が集まる Photo: Yuzuru SUNADA

 また、クイックステップフロアーズの選手たち1人1人のコンディションがよいことも裏付ける快勝だったと見ることもできる。特に、横風分断を決定づけたのはボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)だったといい、個人総合でも上位入りが期待されるオールラウンダーの走りは、この先の戦いを楽しみにするものとなった。ユンゲルスは大会序盤からスプリントトレインの牽引を任される場面が多く、それによる疲労が心配されるが、どうセルフコントロールしていくのかも見ものだ。

 プロ2年目、グランツール初出場で初のリーダージャージ着用となったガビリアだが、同時に「コロンビアにはスプリンターも存在する」とのアピールに成功。近年はキンタナや、昨年総合2位のヨアンエステバン・チャベス(オリカ・スコット)など、コロンビアから次々とクライマーやオールラウンダーが台頭しているが、勝負強さを兼ね備えたスピードスターも控えていることも自身の走りをもって証明してみせた。

 休息日明けの第4ステージは今大会最初の上級山岳ステージ(後述)のため、脚質的にジャージを手放す可能性が高いが、次なる目標である「ミラノ到達」に向かって走ることとなる。今後のスプリントステージでの勝負はもとより、険しい山々を越えて完走する心積もりのようだ。

ジロ2017第3ステージを終えて個人総合首位に立ったフェルナンド・ガビリア。第4ステージでマリアローザを手放す可能性が高いが、次なる目標に完走を掲げて走り続けることとなる Photo: Yuzuru SUNADA

総合優勝候補たちは早くも「生き残り合戦」

 第3ステージの殊勲者であるユンゲルスで、トップのガビリアから総合タイム差13秒。この日は多くの選手がメイン集団でフィニッシュしたことにより、他の有力選手たちはガビリアとの差は23秒となっている。ユンゲルスにとっては、これから控える山岳ステージに向けて10秒のアドバンテージを得た格好となっているが、自身も、その他総合優勝候補たちも10秒はそう大きな差ではないと見ているようだ。

激しいポジション争いを繰り広げるメイン集団。集中力が試されるステージが続いた Photo: Yuzuru SUNADA

 それよりも、サルデーニャ島での3日間を無事「生き残った」との表現で安堵感を示す選手が多かった様子。ルーカス・ペストルベルガー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)が逃げ切った第1ステージも含め、大会序盤はスプリンターが主役だった一方で、集団内でのポジショニングや分断など、あらゆる要素が絡み合って、スプリンター以外の選手たちにとっても集中力が試されるステージが続いた。

 実際に、第1ステージではステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ロットNL・ユンボ)が残り3km手前で集団落車をかわした影響で13秒遅れ。第2ステージではイルヌール・ザカリン(ロシア、チーム カチューシャ・アルペシン)がメカトラブルにより20秒、第3ステージではBMCレーシングチームの“Bプラン”と見られていたローハン・デニス(オーストラリア)が落車により5分22秒遅れ。ほぼ脱落となったデニス以外の2人は挽回の余地があるとはいえ、多くのライバルに対しビハインドを背負う形となったのは、今後の戦いを難しくする。

 フィニッシュめがけてペースアップするメイン集団は、各チームがトレインを形成し激しいポジション争いを繰り広げる。それはもはや格闘技の趣きだ。近年はスプリンターチームだけの動きではなくなり、総合エースの危険回避など、その目的はチームによって異なっている。

総合優勝候補たちも平坦ステージでは気の抜けない戦いを強いられる。ヴィンチェンツォ・ニーバリ(左から2人目)は順調にステージを送っている Photo: Yuzuru SUNADA

 また、こうした動きから、総合優勝候補たちがしっかりとメイン集団前方でフィニッシュしている点も注目しておきたい。危険回避の一環として、脚を使ってでも前方で確実にフィニッシュし、翌日につなげる。総合タイムで並んだ際は、それまでのステージ順位の合算で総合順位が決定するが、第3ステージまでを終えてゲラント・トーマス(イギリス、チーム スカイ)が総合11位、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)が同12位、アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)が同13位、キンタナも同17位と、日々“安全圏”で走っていたことがうかがえる数字となっている。もちろん勝負はこれからだが、「勝負以前の問題」とならないためには、平坦ステージでも前方を押さえておくことが走りの“鉄則”といえる。

 第4ステージから事実上の“第1週”が始まるが、「生き残った」有力選手と、クライスヴァイクやザカリンら「取りこぼした」選手たちが、どのようにして争っていくのかに期待が膨らむ。

ジロ・デ・イタリア 第4~9ステージ展望

●5月9日(火) 第4ステージ チェファル~エトナ 181km 難易度★★★★

ジロ・デ・イタリア2017第4ステージ コースプロフィール ©RCS SPORT

 プロトンはシチリア島へと移動。今大会最初の上級山岳ステージは、同島のシンボルでもあるエトナ火山の1級山岳頂上フィニッシュへ。最大勾配12%、平均勾配約6%の上りが約18kmにわたって続く。総合争いの形勢が4ステージ目にして見えてきそうだ。


●5月10日(水) 第5ステージ ペダーラ~メッシーナ 159km 難易度★

ジロ・デ・イタリア2017第5ステージ コースプロフィール ©RCS SPORT

 中盤以降は平坦基調とあって、難易度が示す通りスプリンター中心の1日となりそうだ。メッシーナといえば、ニーバリの故郷。市街地を約1周半してのフィニッシュは、ニーバリの顔見せのためにあるようなもの。前日にマリアローザをゲットして里帰りできるか。


●5月11日(木) 第6ステージ レッジョ・カラブリア~テルメ・ルイジャネ 217km 難易度★★

ジロ・デ・イタリア2017第6ステージ コースプロフィール ©RCS SPORT

 舞台はイタリア本土へ。ラスト15kmを切って通過する4級山岳フスカルドは最大勾配11%。集団破壊を狙うチームは出るか。そして、残り2kmを切るとフィニッシュまで一気の上り。最大勾配10%の急坂で、有力選手間にタイム差が発生する可能性も。


●5月12日(金) 第7ステージ カストロヴィッラリ~アルベロベッロ 224km 難易度★

ジロ・デ・イタリア2017第7ステージ コースプロフィール ©RCS SPORT

 後半は上り基調となるが、コースレイアウトを見る限りはレース展開に大きな影響を及ぼすことはなさそうだ。スプリント勝負に向けてハイスピードとなるプロトンが注意したいのは、ラスト5kmで続くコーナー。ライン取りなど緻密なプランを立てて臨みたい。


●5月13日(土) 第8ステージ モルフェッタ~ペスキチ 189km 難易度★★★

ジロ・デ・イタリア2017第8ステージ コースプロフィール ©RCS SPORT

 中盤以降アップダウン続きだが、勝負はフィニッシュ前200mで決することになるだろう。勾配12%での激坂勝負は、総合を狙う選手たちにとってライバルから少しずつリードを奪うチャンス。ちなみに路面は石畳と、パワーも要求される最終局面となっている。


●5月14日(日) 第9ステージ モンテネーロ・ディ・ビザッチャ~ブロックハウス 149km 難易度★★★★

ジロ・デ・イタリア2017第9ステージ コースプロフィール ©RCS SPORT

 大会前半の山場、1級山岳ブロックハウスへの頂上フィニッシュ。登坂距離約13.6km、平均勾配9%、上り中盤で最大勾配14%と、勝負どころにふさわしいルート設定。この日を終えて、総合でどの位置につけているかで、大会後半の戦い方が決まってくる。


今週の爆走ライダー−今週の爆走ライダー-ルーカス・ペストルベルガー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 ジロ2017のサルデーニャ島ステージを振り返るうえで、ペストルベルガーの走りを無視することはできない。それくらい、鮮烈な印象を見る者に植え付けた走りだった。大会の開幕で盛り上がっているタイミングだったことも、センセーショナルさに拍車をかけているといえるだろう。

ジロ・デ・イタリア2017第1ステージを制した瞬間のルーカス・ペストルベルガー Photo: Yuzuru SUNADA

 プロ2年目の25歳。これまでは無名の存在だったが、自国のコンチネンタルチームで走っていた2015年までも「勝てる選手」として知られていたという。実際に毎年数勝は挙げており、有力選手も多数そろうツアー・オブ・オーストリアでステージ優勝の経験もある。現在のチームでの位置づけも、「好不調の波がなく、安定して走ることができる選手」なのだとか。

 そんな彼が、どうしても周りの見方を変えようと躍起になっていたことは案外知られていない。今年のクラシックシーズン。エースにペテル・サガン(スロバキア)を立てて戦ったチームは、必ずと言ってよいほど要所でサガンを単騎にしてしまっていた。「アシストに力がない」といった声は、サガンを盛り立てていたペストルベルガーにも届いていた。E3ハレルベークこそ5位と健闘したが、それだけでは見る者を感心させるまでには至っていなかった。

 それだけに、ジロ第1ステージの走りは周囲からの注目を集めるには最高の結果になったと喜ぶ。レースが違うだけに、クラシックシーズンの評価を覆すことは難しいが、十分なアピールにはなった。

 「勝利を実感するのに数週間は必要になりそうだ」とレース後に語ったが、これから何度となくこの勝利が意味するものを理解することになるだろう。きっと、「力がない」なんて評価とも決別することができるはず。ひとまずは、ジロ期間中の「本職」であるスプリントトレインの牽引に戻って、3週間仕事をまっとうすることになる。

晴れやかなマリアローザを身にまとって第2ステージを走ったルーカス・ペストルベルガー。グランツールで勝利した意味を、この先幾度となく実感することになるはずだ Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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