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サイクリスト

見て、聞いて、乗って…北のクラシックを体感“クラシックの王様”のすべてがわかる ロンド・ファン・フラーンデレン博物館へ

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 サイクルロードレースの強豪国として君臨するベルギー。おおよそ2つの文化に分かれ、日本の3分の1にも満たない小さな国土でありながら、これまで数多くのチャンピオンを輩出してきた。サイクルスポーツが国技のベルギーにあって、ひときわ威光を放つレースが、“クラシックの王様”ツール・デ・フランドル。現地では「ロンド・ファン・フラーンデレン」と呼ばれ、その勝者は自転車界全体の王者として認められるほど。そんな“ロンド”のすべてを収め、歴史を後世に伝えているのが「ロンド・ファン・フラーンデレン博物館」だ。このほど、筆者はベルギー・アウデナールデに建つ施設を訪問。同国における自転車競技の在り方を知ることとなった。

ロンド・ファン・フラーンデレン博物館の内部。歴代の大会ポスターや、有名選手が実際にレースで使用したバイクが展示される Photo: Syunsuke FUKUMITSU

街の玄関口で人々を迎える

 ロンド・ファン・フラーンデレン博物館が建つアウデナールデ市は、首都ブリュッセルから西に約65kmの街。同国北部フランドル地域に属し、国土全体で見ると北西部に位置する。オースト=フランデレン州の主要都市であり、冬には農業フェア、夏にはビール祭りや屋外音楽祭が催されるなど、季節のイベントも豊富だ。

セントラム・ロンド・ファン・フラーンデレン外観 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 ブリュッセルから高速道路を走ること約1時間。アウデナールデ市内に入るにはいくつかのルートが設定されているが、そのうち西側の玄関口から街に入るとすぐに見えてくるのが、ロンド・ファン・フラーンデレン博物館が設けられる「セントラム・ロンド・ファン・フラーンデレン」(ロンド・ファン・フラーンデレン交流センター)だ。

 レースを左右する重要な登坂区間「コッペンベルグ」が街の南部にあるなど、ロンドとは古いかかわりを持つアウデナールデ。2012年からはフィニッシュ地となり、数々のドラマを生んできた。少人数スプリントを制した2012年のトム・ボーネン、圧倒的な独走劇を演じた2013年のファビアン・カンチェラーラや2016年のペテル・サガン、そして約55kmに及ぶ伝説の独走勝利を挙げた今年のフィリップ・ジルベールなどは、すべて街の西側入口近くに設けられたフィニッシュへと飛び込んだのである。

西側からアウデナールデ市街地に入る際は、このロゴを目印にしよう Photo: Syunsuke FUKUMITSU
今年のレースで独走勝利を挙げたフィリップ・ジルベールは、アウデナールデ市街地西側入口近くのフィニッシュへと飛び込んだ Photo: Yuzuru SUNADA

大会の歴史や地層の解説も

 そんなロンドのフィニッシャーよろしく街の西側から訪れたセントラム・ロンド・ファン・フラーンデレン。施設の前に立ってみるも、さしてサイクリング感は感じられず…と思いきや、近くまで寄ってみると過去のロンド優勝者の名を記した石がずらり。入口付近には、ロンドのコースを実際に走行できるというサイクリングルートマップも貼られるほか、サイクルスタンドも設置されており、自転車で訪れる人にも優しいつくりとなっていた。

歴代優勝者の名が記された石が訪問客を迎えてくれる Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 いよいよ中へ。博物館は地下にあり、まずは受付で入館料を払う。一般料金であれば8ユーロ(約960円)。日本の博物館とそう違いはない値段だ。また、館内はすべてフラマン語による案内のため、海外からの訪問客への配慮として、各言語に翻訳された案内パンフレットが用意されている。日本語はなかったが、英語やフランス語、イタリア語などはそろっているので、必要があれば受付で申し出よう。

博物館の入口。この先の階段を下りれば、ロンド・ファン・フラーンデレンの世界が広がる Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 地下への階段を降りると、まず目にするのはロンド創成期について。大会創設までの経緯や、初期から今までに至るまでの歴史が展示とムービーで見られるようになっている。特に歴史ムービーはオールドファンにはたまらないよう。長い時間、それも繰り返しスクリーンと向き合っている数人のファンと遭遇した。

歴代のコース変遷 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 ムービーを見終えると、いよいよ数々の展示へ。スタート地点の変遷にはじまり、コース変遷、歴代のヒーローが使ったバイクや大会ポスターなどが置かれる。ロンドにおける過去と現在の使用アイテムの比較もでき、1936年の品々とグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)が2014年に使用したものとが見比べられるようになっていた。

 さらには、コース周辺の地層に関する解説も。マニアックだがとても興味深い。ロンドを筆頭に、ベルギーで行われる春のレースはパヴェ(石畳)が舞台であり、勝負どころとなるが、なぜ路面に石畳が用いられているのかの所以をこの展示から知ることができるはずだ。

過去と現在の使用アイテム比較 Photo: Syunsuke FUKUMITSU
興味深い視点として、コース周辺の地層解説も Photo: Syunsuke FUKUMITSU

チャレンジ推奨!パヴェ走行体験

 展示の半ばは、よりレースに直結した内容へ。北のクラシックとは切っても切り離せない、天気とレースとの関係性や、パヴェ区間で起こりやすいメカトラや落車、そしてロンドにおける展開を左右する急坂区間に関しての解説が続く。

北のクラシックでは見逃すことのできない、天気とレースとの関係性を過去のレース映像と合わせて解説 Photo: Syunsuke FUKUMITSU
メカトラブルのリスクはロンドにおいて避けては通れない Photo: Syunsuke FUKUMITSU
最大の勝負どころ「オウデ・クワレモント」の解説。脇にはファビアン・カンチェッラーラが寄贈したジャージが飾られていた Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 急坂区間の解説は、ここ数年の勝負どころであるコッペンベルグ(登坂距離600m、平均勾配11.6%、最大勾配22%)やオウデ・クワレモント(登坂距離2200m、平均勾配4%、最大勾配11.6%)、パテルベルグ(登坂距離360m、平均勾配12%、最大勾配20%)はもちろんのこと、今年のレースで復活したミュール・カペルミュール(登坂距離1075m、平均勾配9.3%、最大勾配19.8%)についても触れられている。勾配の変化についても細かく述べられているので、実際のレースではどこが仕掛けどころになるのかなど、自分なりに分析してみるとより見学が楽しくなりそうだ。

 さらに、この博物館見学でのハイライトともなるのが、パヴェ走行体験。それも、使用バイクのモチーフはエディ・メルクスが君臨した1970年前後のもの。当時使用されたバイクの重量感やギアの重さも感じつつ、パヴェ走行をイメージできるのだ。ぜひ足を運んだ際は、石畳の上を走る激しさを体感してみてほしい。ちなみに、バイクそのものは固定されているので落車の心配は無用。ただし、走行体験中の機械音がかなり大きいため、見学者間で目立ってしまう点は留意しておこう。たくさんの注目を集めつつ、パヴェにトライするのもよい記念になるはず。

勇んでパヴェ走行体験に臨んだ筆者。しかしあまりの激しさに悪戦苦闘 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

見学を終えて気づく博物館のコンセプト

 レースに直結する展示を見終えたら、いよいよ見学もクライマックスへ。ロンドにおけるライダーの必要カロリーにまで触れるあたりは、さすが自転車の国・ベルギーといったところ。並んで置かれる各チームのボトルを眺めているだけでも、この博物館へ赴いた価値がありそうだ。

 さらに展示は過去の名場面、大会を放映・報道するメディアにも触れる。レース中継には欠かせないカメラバイクの実物が置かれているので、リアリティも十分。世界中の注目が集まり、ロンドが愛される要素ともいえるメディア活動を知ることができるだろう。

ロンド・ファン・フラーンデレンに出場したトップチームのボトルがずらり Photo: Syunsuke FUKUMITSU
メディア関連の展示では、実際に使用されたカメラバイクが置かれていた Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 その隣には、女子レースに関するブースが立つ。こちらは2004年が第1回と、歴史は浅いが、開催までの経緯はもとより、今後発展することが必至である「女性版ロンド」の未来を感じることができる内容となっている。

歴代優勝者とレースレポート Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 そして、歴代優勝者とレースレポート、フィニッシュ地点の変遷で見学は終わりを迎える。筆者が訪れた4月下旬の時点では、同2日に行われた2017年大会を制したフィリップ・ジルベールについて、プリントアウトしたと思われる仮のレポートが貼られた状態だった。きっと、近いうちに晴れやかな“リアルレポート”がお目見えすることだろう。

 ここまで順路に沿って、大まかに述べてみたが、お気づきになった方はいるだろうか? そう、この博物館、「スタート地点の変遷」にはじまり、「フィニッシュ地点の変遷」で展示が終わるのである。

 スタートからフィニッシュまで。見学者もロンド・ファン・フラーンデレンを走るプロトンの一員、そう想起させることこそ、博物館のコンセプトなのだと筆者は実感した。

年齢・性別を問わずレースの価値を伝える

サイクルアイテムや自転車関連書籍などが販売されるミュージアムショップ Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 見学を終えたら、受付脇にあるミュージアムショップでお土産を買って帰ろう。販売されているアイテムは、ジャージやキャップ、ボトルといったサイクリングアイテムのほか、自転車関連書籍など幅広い。同館オリジナルアイテムはないものの、ロンド・ファン・フラーンデレンに関するグッズがそろうので、お気に入りのものをゲットしたい。

 セントラム・ロンド・ファン・フラーンデレンには博物館以外にも、会議室やイベントホール、レストランが併設される。小学校の社会見学に利用されることもあるなど、地域交流拠点にもなっている。いかにも自転車王国・ベルギーらしいが、同館で受付や案内を担当するシリヌ・エヴェラート(Céline Everaert)さんは、「旅行で訪れる方々をお迎えするとともに、地元の人々にもロンドの歴史を知ってもらいたいと思っています。年齢・性別を問わず、レースについて伝えていく役割が私たちにはあります」と説明する。

 さらに、同館のこれからについてビジョンをうかがうと、「例えば、フィニッシュ地点だけを見ても、かつてはアントウェルペンだったのが今ではアウデナールデになるなど、時代とともにレースは変化しています。ただロンド・ファン・フラーンデレンの存在を知らせるのではなく、この大会が築き上げてきた要素を1つ1つ伝えていく必要があると思っています」とシリヌさん。続けて、「カナダ、アメリカ、イギリス、マレーシア…さまざまな国から来館していただいています。日本からはあなた(筆者)が来てくださいました。多くの国の人たちに、ロンドの価値を実感してほしいです」とも答えてくれた。

 ちなみに、シリヌさんのお気に入りライダーはペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)とのこと。「今年のロンドは残念だったわ。一番盛り上がるオウデ・クワレモントで落車してしまったのだもの」と、追撃ムードが潰えた思わぬアクシデントを嘆いていた。

「大会が築き上げてきた要素を1つ1つ伝えていく必要があると思っています」と語ったシリヌ・エヴェラートさん Photo: Syunsuke FUKUMITSU

◇         ◇

博物館の出口では、次回大会までの日数と時間が刻まれていた Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 見学を終えた筆者を見送ってくれたのは、ボーネンやカンチェッラーラ、サガンの等身大パネルと、今年の男女の覇者であるジルベールとコリン・リベラ(アメリカ、チーム サンウェブ)のツーショット写真だった。そして、出口では来年開催される次回大会までの日数と時間が電子モニターにて掲示されていた。年々加わる歴史の1ページに忠実に、大会の意義を伝え続ける。きっと、行くたびに違った博物館の姿を見ることができるだろう。

 レース観戦や旅行などでベルギーを訪れる際は、観光ルートにセントラム・ロンド・ファン・フラーンデレンを加えてみてはいかがだろうか。

ロンド・ファン・フラーンデレン博物館(セントラム・ロンド・ファン・フラーンデレン内)

Markt 43 – 9700 Oudenaarde
開館時間:午前10時~午後6時(現地時間、最終入館午後5時)
入館料:一般8ユーロ、60歳以上・障がい者6ユーロ、グループ(15人以上)5.5ユーロ、ファミリー17.5ユーロ、7~18歳4ユーロ、6歳以下無料、ガイド付き(90分)75ユーロ

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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